38話:まさかの相棒誕生
前回アキラはスターバーストストリームを使いましたが、決してふざけていた訳ではありません。
「今日はどうするか…全身筋肉痛だからあんまり激しい事は出来ないけど」
バッキバキになった体を解しながら朝日を浴びる。朝起きたら何故か体が悲鳴を上げていた。
それでも体作りはやめない。まぁ筋トレは止めて、走り込みだけにしておく。
数分後、、
「痛っ!!……ダメだ、これ無理だわ」
100m程走っただけでこれだ。もう痛くて痛くてしかたない。泣きそうだ、いやもう泣く。泣いてやる。
「今日は剣術習う時の為に筋肉を酷使するのは止めておこうか…」
ギルドのクエストはまぁ…やるか。お金が必要だしな。魔物退治とかできっかな…
そんな事を考えながら、俺は卵を隠している小庭へと向かった。鳥の卵ってどれくらいで孵化するんだろうか。
「えっ…!ひ、ヒビが入ってる…!」
ボウリングサイズの卵に1ヵ所ヒビが入っている。どうやら予想以上に早い孵化のようだ。
「このまま孵化するまで待ってみるか。鳥ってたしか刷り込みすれば、親って認知してくれるんだよな」
なら親として認知してもらわねば困る。主人公の相棒になる魔物は伝説系のドデカイ魔物と相場が決まっている。
いやぁ~!遂に俺も【なろう】系主人公への道が開けてきたな。
後はヒロインだよな!
「…………ヒロインか…」
無理かもな…どういうわけかこの世界は俺に厳しい。特に不幸と女の子には。
まぁ…一様俺には切り札が残っている。文字通り強い切り札カードであると同時に、ゲームオーバーになるジョーカーでもあるけど。
「よくよく考えたら前代未聞だろ、ヒロイン不在の異世界なんて。誰が見るんだよ、そんな物語…」
これが男臭い物語とかなら話は別なのだが…。超王道ストーリーを考えている俺としては大変困る話だ。
ビキッ……
座り込んで空を見上げながら悩んでいると、卵からヒビが入る音がしてくる。
どうやら後少しで孵化するようだ。
「鳥の飼育ってどうするだろう」
雛には親鳥がミミズとかあげてるから…やっぱ虫かな?虫か……どうしよう、俺虫は事務所に共演NG出してるんだが…
「肉……でもいいよな。うん、平気だよな。………いやでも栄養がな…」
ビキビキッ…
そろそろ本格的に孵化するようだ。
ま、まぁ餌については後程考えよう。別に現実逃避してる訳じゃないからな。
「うおっ…卵が動いた…。中でもがいてるのか」
ゆっくりと左右に揺れる卵に、生命の神秘を感じながら眺める。
観察日記とかつけたいなぁ、なんて思ってみたり。
ビキッ……ビキッ…ビキビキッ…!
「うぉぉぉ!!…………お?」
待ちに待った卵の孵化。割れた卵から俺の相棒が姿を表す。ゆっくりと、ゆっくりと、その青い体を揺らして出てきた。
出てきたのは、、
「あ…ああぁ…!あぅぅぅ…!」
ターコイズカラーの毛虫。
体長は……15cmくらい、だろうか…中々デカイ…
「く、来るなっ…!来ないでよぉ…!」
ジリジリと接近するターコイズ色の毛虫。
ま、不味い…腰が抜けてしまって立てない…
「ちょっ…!ホントにムリッ!毛虫は嫌だぁ!!」
当然言葉なんて通じる訳もなく…
俺の足からどんどん登ってくる。あぁ…毛が気持ち悪い…
「あ、あぁぁあ…!」
ど、どうするよ!?夢にも思わなかった、まさかの毛虫が卵から孵化したよ。
なんでいつもこうなんだよ!異世界なんだからテンプレでいいんだよ!変な変化球とか入れてくんな!
遂に胸まで登りきった毛虫。俺の胸の上でモゾモゾ動きやがる…!
これ、結構ヤバイんじゃね?鳥ほど頭も良くないだろうし…当然刷り込みも出来てないだろう。つまり普通の魔物だ。俺が襲われる可能性がありますよぉ…!
「………特に噛んでくるとかは…無いのか…」
ただ胸の上でモゾモゾするだけで、今のところ害は無いようだが…どうだろうか。
まさかこれが甘えてる訳じゃあるましい…
「虫だもんな…甘えるとか無いわな……どうしよう」
逃がす…訳にはいかないよな…育てるって宣言しちゃったし。
しかし…この子が成虫になったら何になるんだよ…
「飯…食うか?」
虫ってなに食うんだろう。しかも生まれたての虫だし……葉っぱとか?それは安直か?
「でも思い付かないし…よし」
取り敢えず、この毛虫を持って木に近付いて、枝に乗せてみる。すると毛虫は葉っぱへと向かい、葉を食べ始めた。
「スッゲェ食欲…いや、この毛虫がデカイだけか」
バックバク葉を食べ始める毛虫……いや毛虫じゃ可哀想だな…名前、つけなきゃな。
「うーん…将来的に美少女モン娘になるだろうし……」
ターコイズ色、まぁ平たく言えば水色なんですがね。名前ねぇ…
「シアン…とかどうかな?」
三原色の水色なんだが…どうだろう?色がちょうどそれだし、カッコいい&可愛い名前ってイメージしたのだが…
こちらにモゾモゾと戻ってきて、それを両手で持つと、シアンはゴロゴロ転がる。
これは…気に入っているのか…?そもそも虫のいう生き物に感情はあるのだろうか…
「ま、まぁ?虫モン娘っているし…?異世界なら何でもありっしょ!てかそうじゃないと困るし」
さて、ここからどうするか…
家や店じゃ飼えないし…ギルドに連れていったら最悪殺処分。折角生まれた命なのに、こちらの都合でそれは可哀想だ。
…もっとも、こちらの都合で親元から引き離したのだがね。全て私の責任だ。だが私は謝らない。
「はぁ……よろしくな、シアン」
軽く撫でてやると、シアンはウネウネと動き出す。……やっぱ気持ち悪いや。
──────────
「……アキラ、どうしたの?ソワソワしてる」
「へっ!?そ、そうかな?」
ジトーっという効果音が出てるレベルで不審に見られている。
こうなってしまうのは仕方無いのだ。だってミルとの稽古の間、シアンをほおっておく訳にはいかないから…
『この近くにいるんだよな…平気か──』
「よそ見、禁止…!」
「ヘブハッ!?」
白い閃光が俺に強烈な一撃をお見舞いする。考え事をしていたせいで反応に遅れてしまった。
「はぁ……アキラ、ちゃんとして」
「は、はい…」
シアンなら大丈夫と考えを止めて、俺は今に専念する。今日からミルが〝ちゃんと〟教えてくれるとの事だ。
「ボクは嘘が下手だからハッキリ言う。【終雪】はボクが放つ剣全てが【終雪】になる…そう言ったけど、あれ嘘」
「え“っ…!?」
なら今までの稽古はなんだったんだ…
でも今日からちゃんとやってくれるんだよね…?
「ホントにごめん。……でも今日からはちゃんとやる。…死ぬ気でやってね」
「お、おう!任せろっ!」
そこからミルとの激しい稽古が始まった。それは今までの打ち合いとはまた違った辛さのある稽古で、思うようにいかない事が辛くて仕方ない。
「違う、[霧雪]はその動きじゃない。それじゃ動きが大きすぎる。もっとこう…」
「はぁ…はぁ…はぁ……」
今習っている[霧雪]は、霧のように細かく小さな雪をイメージした剣術で、細かい連撃が特徴の技だ。ミル曰く、これも【終雪】の一部なんだとか。
「もっと速く、鋭く、それでいて細かく」
「クッ……ソ!」
高速の連撃攻撃は、速くすればするほど動きが雑に、大きくなっていってしまう。
頭では分かっている。それでも体が上手くいかない。
「アキラは頭で考え過ぎ。もっと柔らかく、柔軟に…」
「柔らかく、柔軟に……」
「うん。それが出来た時、放たれる剣撃は白に変わる」
白…たしかにミルが放つ剣撃は白かったし、光っていた。あれが出来て【終雪】なのか。
言われてみればミルの剣術って速くて柔らかい動きだ。どっから来るかわからないし。
「絶対習得してみせるからな…!見てろよミル!」
「うん、ちゃんと見てるよ」
その後も、日が暮れるまで【終雪】の稽古と、打ち合いを続けた。
習得するまでまだまだ時間が掛かりそうだ。
───────────
「それで、調査結果はどうだった?」
「はい…調査の結果、やはりここリコティ王国付近でミラージュ・バタフライの母体の姿が確認されました」
ここはリコティ王国内にある冒険者ギルドの一室。渋い雰囲気の男性と、眼鏡を掛けた女性が密かに話し合っていた。
「うむ…やはりか。ヘルキング・ホーネットの活動が活発になるわけだ」
最近ギルドに寄せられたとある情報。それはヘルキング・ホーネットの活動が活発になったとの情報だった。
調査の結果、ヘルキング・ホーネットの大敵と言えるミラージュ・バタフライがリコティ王国付近に出現したからだった。
「しかし何故ミラージュ・バタフライが…本来ならプロキオン大森林に生息している筈なのに…」
「プロキオン大森林にて何かがあったとみて間違いはないだろう…」
「まさか…!厄災である【十二使徒】の出現でしょうか」
「その前兆の可能性がある…」
顔に手を乗せて上を見る男。眼鏡を掛けた女性も暗い表情と共に1滴の汗が流れる。
「兎も角、今はミラージュ・バタフライだ。ルミナス聖国の六剣の一角、クリークス家の長女が来ている現状は安全だろうが…」
「はい…クリークスさんは現在も巣を捜索中だとの事ですが…」
「そうか。早く見つかるといいのだが…」
そう呟くと、男性は仕事を再開する。それを見た女性は、頭を下げて部屋から退出した。
【終雪】には7つの剣撃があり、全てが氷系統の技
【氷冠】剣を特殊に動かす事で、周りの水分を氷結させて氷塊を生み出す。攻撃、防御に使える。
【霧雪】細かな雪のような素早い連撃が特徴の剣撃。打つ度に速さは上がり、周りの温度を下げていく。




