387話:龍滅の閃光
3か月…やっと仕事に慣れ、趣味の時間を作れました
「むぅ…邪魔しないでください。貴方に構っていられる程、私暇じゃないんです」
「あの馬鹿共のせいでテンドウ・アキラを逃がしたが、貴様は逃がさんぞ!上位魔物を使役する貴様は危険極まりない!!人族である我らが、下等な魔物と対等など虫酸が走る!!」
「まぁ、随分大きな発言ですね。各国の魔物使いを侮辱するような発言ですよ?」
ヴァルの能力によって国外へと飛ばされたアキラを追おうとしたユアであったが、テンドウ・アキラを逃がし憤怒に震えるセラフィルからは逃れられなかった。
「だからどうした!?汚らわしい魔物など、この世に不必要な存在だ!!それはお前が心酔しているあの怪物も同じ事ッ!!」
「…それが貴方の正義ですか」
吐き捨てるようにそう言ったユアは、誰にも聞こえぬ声で『下らない』と呟くと背中の翼を力強く広げて舞い上がる。
「逃がさぬと言っただろ!!」
「逃げませんよ。面倒ですけど、私の想い人を侮辱されては引き下がれませんから」
セラフィルから放たれた糸のような無数の光線。それを太陽の光を翼に受けたユアは、十字架模様の瞳を一際光らせて放つ。
「彼に死の裁きを─────[神聖なる裁き]」
太陽光を受け、眩い光を発生させた純白の翼から放たれた2本の光線。それは地上生物を駆除する為の死の光線であり、何かに光線に反射する度に数が倍になってセラフィル、そして彼等の戦闘を傍観していた“星読みの使徒“を襲った。
4、8、16、32、64、128、、
次々と数を倍に増やしていくその光線はまさしく光の速さで彼らを襲い、回避出来るスペースなど僅か1秒にも満たない内に無くなる。
それ程まで殺意を込められたこの技は、どこアキラが放った[擬似神之怒]と酷似していた。
「まぁ、まだ息をしているのですね。正直驚きました。虫のようにしぶといですね、ふふっ」
「っっ…………ふざ…けるな…!」
“星読みの使徒“達にも被害が出たが、セラフィルを狙って放たれた[神聖なる裁き]はセラフィルの手足を始めとした体の至る場所を貫き、赤い血溜まりの上で体を僅かに震わせながら掠れた声で叫ぶ。
「こんな事……ある筈がない…ッ!貴様のような“悪“に…!!この私がァァ…!!」
「残念でもありませんがもうおしまいです。次は必ず仕留めてあげますから、じっとしててくださいね?」
何の興味も感じられない、まるでゴミでも見るかのような冷酷な視線のまま、ユアは再度翼に太陽光を集めていく。
逃げる事は出来ない。この一方的な戦闘を黙って見守る星読みの使徒の助けも無い。完全に生命線を絶った状況で再度放たれた[神聖なる裁き]は、先程とは打って変わって一点に集中した一閃となってセラフィルの頭部を貫く─────寸前で光の壁によって防がれる。
「……また新手ですか?面倒ですね…」
「彼は私の仲間ですからね。見す見す死なせるような事はあり得ませんよ」
忌々しそうに視線を向けたユア。その先には白いローブを羽織った女性がおり、神々しい杖とオーラを放っている。
「その姿から察するに、大聖女のようですね」
「セイレーナよ。貴女がユアね?神の慈愛を受けるという」
「過去の話です」
そう言葉を交わしながらお互い1歩も動かせない雰囲気を醸し出し、セイレーナと名乗った大聖女はセラフィルへと治癒魔法を施していく。
その速度は凄まじく、アキラの再生速度と同等以上。あのセラフィルと違って、伊達にこの国のNo.2である大聖女と呼ばれていないようだ。
「大聖女様も戦うつもりなのでしょうか?」
このまま黙って止まっていられる程今のユアに余裕は無い。速く彼の元へ駆け付けなければ、あの突如出現した龍が何をするか分からない。
「……いいえ。正直な所貴女だけに相手をしていられないの。怪我人が…多いから」
ユアから当てられた威圧を強い視線で跳ね返したセイレーナだったが、彼女はユアから視線を切って後方に広がる瓦礫を見てそう小さく言った。
「この国に魔物を放つだけに留まらず、“悪魔宿し“まで解放してしまった貴女よりも今は何よりも国民が優先…っ。だから今は貴女を見逃します…!でも…!いつか必ず貴女を、そして“悪魔宿し“を捕まえます…!!」
思わず後退りしてしまいそうな程強い意志が籠った声でそう叫んだセイレーナは、私へと杖を向けた。
「[強制転移]」
上級魔法を詠唱も無く放ったセイレーナ。相手を強制的に別の場所へと飛ばしてしまうこの魔法を食らえば、今この国の外で戦っているであろうアキラ君から離れてしまう。
少々力を使うが、どこか辺境の地へと送られるよりはマシだ。
「そんな事をしなくても、此方から出ていきます。その方が都合がいいですからね」
「っ…!貴女も大概化物と言う事ですか…!」
「まぁ、酷い」
放たれた魔法を背中の翼で打ち消しただけだというのに酷い言いぐさだ。こんな美しいウリエルさんの翼を生やしていると言うのに…失礼しちゃいます。
「……でもいいですよ、許します。今日はアキラ君の戦いが見れるんですからっ」
凍るような目線を送り、大天使の力を溜めていくユアだったが、国の外から聞こえてきた大きな爆発音で我に帰り、微笑みを浮かべてそう言った。その美しい姿とは裏腹に、歪んだ瞳を浮かべながら注へと舞い上がるとそのまま国の外へと飛び去った。
□
「随分と激しい戦闘をしているようですね」
美しかったであろう小川の流れる草原は、至る場所にクレーターや土が盛り上がった影響で酷い有り様だった。
やはりアキラ君は凄い。見たことも無いような驚異の兵器を搭載した龍を相手にここまで激しい戦闘が出来るのだから。
「…!あれは……」
遠方にあの龍の姿が見えた。ここからでも眩しい程に輝くモノを口に溜めながら。
眼をよく凝らせばその先にはアキラ君の姿が見えた。額から血を流し、引きつった笑み浮かべながら座り込むアキラ君の姿が、、
───あ……ダメ…!!
アキラ君は負けない。どんな壁だった打ち破る凄い人。それは心の底から信じている。
だけどこの瞬間、本能的に彼の“死“が脳裏を強く過った。
───死なせない…!!
気が付けば手が彼へと伸びていた。
この距離で届く筈もないのに。
光魔法や、神聖魔法でもあそこに届く頃にはもう既に彼はあの光をその身に浴びているだろう。それでも手に力を籠めた。
「絶対死なせない…!────私がアキラ君を護る!!」
瞳の十字架模様が力強く輝く。すると背中が熱くなり、不思議と力が溢れるような気がした。
根拠は無い。だけど今ならアキラ君を護れる。そんな気がした。
「うっ……!」
全身の力が一気に抜けていく感覚に襲われながらも、視線だけはアキラへと向け続けるユアは、その光景に驚愕する。
温かな光を帯びた巨大な4枚の翼。それがアキラを護るように包み込んで、龍が放った光線を上空へと弾き飛ばす。ここにまで光線の衝撃波がユアを襲う程に強烈だったであろう一撃を、あの4枚の翼は傷1つ付く事無くアキラを護り通した。
だが、、
「そん…な…っ」
龍の攻撃を防ぎきったと思った矢先、今度は翼を大きく広げると、その翼膜がゴロゴロと落雷のような轟音と共に光輝き始めたのだった。
『あり得ません…っ、あれだけの一撃を放ってもなお、魔力切れか起こらないなんて……!』
見た事も無い容姿も踏まえ、生物とは思えない。
だがそんな事を考えている時間は無い。また規格外の攻撃が放たれようとしている。アキラ君は私の恩人で英雄で想い人。私の大切なモノ。誰にも奪わせたりなんかしない。だから私がアキラ君を護らなければ。
「っ……、体が…!」
だが動かない。どれだけ心がやる気に満ちていても、体が言うことを聞いてくれない。
気付けはウリエルさんの力も出せなくなっていた。完全に魔力切れだ。
体が動かぬまま、目線だけが彼に向いている。何も出来ぬまま轟音が一際強く響き渡った。その瞬間、龍の翼膜が閃光を上げる。
「哀れな龍よ…眠れ…ッ[龍滅]!!」
微かに聞こえた青年の声。
その刹那、龍の攻撃よりも速く天空から降り注いだ光線が龍を呑み込む。
地が割れ、天空が裂ける威力はまるで神が落とせし神罰。その光に呑み込まれた龍の体は半分以上が吹き飛び強制的に停止させた。
『何なんですか…!?あの威力…っ。あれは最早人の為せる威力じゃない…!』
認めたくはないが、私やアキラ君以上の実力者。“怪物“…その言葉では収まりきらない程の力を持つ、それこそ神に等しい力。
その力を持つ者は、今までに様々な龍を見た私でさえ見た事もない巨大で美しい龍。その背に立つ黒髪の青年であった。
今後は昔のようにとはいかないでしょうが、1か月以上開く事は無いと思いますので……応援してやってください…




