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383話:解放

「お久し振りです、アキラくん。助けに来ましたよ」


あざとくスカートの端を摘まみながら、ユアは人形のように美しい笑みでそう言う。

怪しいし、何より怖い。この女はマジでヤバいからとても怖いんだが。そもそも何故よりにもよってユアが助けに来るんだ?


「何故、と言った表情ですね。ふふっ、可愛いです」


「…最後のは言わなくていい」


「そうですか?事実なのですが……。失礼、話がずれてしまいましたね。私が助けに来た理由はとても簡単です。私がアキラくんの事を好きだからですよ?」


さも当然だと言わんばかりの表情でそう言ったユア。いよいよヤバい。新手の怪異だろこれ。

まだ彼女は俺を英雄だかなんだかと思ってるのか?


俺は絞り出すように『はぁ…そうか』と言うと、出口に向かって歩き出す。とても付き合っていられない。

完全に置いていくつもりだったのだが、トテトテと小走りで俺の後を追う。怖い。


「むぅ…逃げる事ないじゃないですか。私はアキラくんに害を与えるつもりはありませんよ?むしろ本当の意味で私を救ってくださった方と、敵対する意思はありません。もう既に聖道協会も抜けましたしね」


「え?」


少々不機嫌にそんな事を言うもんだから、思わず聞き返してしまった。すると彼女は実に嬉しそうな笑みを俺との距離を詰める。


「そう驚く事ではないですよ?“色欲“並び、アキラくんを討伐する作戦は見事に打ち破られましたからね。お陰様で枢機卿の内1人が殉職、もう1人は行方不明。私も抜けましたから残ったのは1人だけです。下も者達も大分亡くなりましたからね、聖道協会はもう崩壊寸前です。ふふっ」


どこか嬉しそうにそう話すユアに引きつつ、俺は再度歩きだした。

歩きながら確認も兼ねて再度悪魔達へ呼び掛けながら能力を使おうとするが、やはり使えない。ローザからの贈り物である服はあるものの、武器となる剣も無いし、中級レベルの魔法だけで抜け出せるだろうか。


「そう心配そうな顔をしないで下さい。大丈夫です。先程も言いましたが、アキラくんを助けに私はここに来たんです。しっかり守りますよ」


ニコッと微笑む彼女だが、大丈夫なんだろうか。一応此方の味方のようだが、コイツはかなりヤベー女だ。元々敵対してたし。

それにユアが扱える最大の力である神の力は、俺と俺の中にいる爽やかボイスのアイツと共に倒してしまった。だから恐らくだが、神の力は使えないと思うんだが…


「でもお前、もう神の力は────」


ユアへそう言葉を掛けながら、転移門通った瞬間に走る閃光。自力習得した[反射神経Ⅹ]と[反応速度Ⅴ]のお陰で目で追う事が出来たが、避けるまでの動作が間に合わない。予知や、身体能力を悪魔達のお陰で向上していた弊害が俺を襲った。


「───大丈夫です。絶対にアキラくんを死なせませんから。あの方とも、そう約束しましたから」


いつの間にか俺よりも1歩前に出ていたユアは、その背中から大きな純白の翼を生やし、俺を囲うようにその翼で壁を張る。

その姿はまるで天使……いやこの翼は見たことがある。間違いなく天使達が生やしていた翼だ。


「なんで…」


「アキラくんと同じく、私も契約したんです。──大天使・純潔のウリエルさんと」


ユアからのまさかな言葉に驚いたもの束の間。先程と同じく、一瞬の閃光が視界に入った。


「ですが…思っていた以上に速いですね。まさか全員集合してしまうとは」


焦りとも取れる声色でそう呟いたユアの視線の先には、12人の男女が此方を見ている。

真っ白だったであろう軍服は、返り血を浴びたのか所々赤く、何より彼等の瞳に光が灯っていない事に軽くゾッとする。

彼等はまるで…死人のように、感情というモノが一切感じられなかった。


「ユア・エレジーナ。投降しなさい。既に逃げ場は無い。」


そんな死人のような彼等の内、中分けの青年がそう声を上げる。やはり声を聞いても感情が無いかのような無機質な声だ。


「ふふっ、する筈が無いでしょう?」


「そうですか。残念です。ならばその者諸とも消すだけです。」


残念だとは微塵も思っていない声色で男がそう言うと、様子を窺っていた後ろの11人全員で攻撃を仕掛けて来た。


「っっ…!!こういうのって順序があんだろうが…!」


俺が反応できる本当にギリギリの速度で動き出した彼等は、4人をユアに。そして残る8人は俺へと差し向けられた。


俺は[獄炎化(ごくえんか)]で1度攻撃を無力感し、そこから[部位変化(ぶいへんか)]で作り上げた両腕の剣で戦おうとした。


だが、、


「ッツ…!!?な、なんで─────クソッ…!」


炎に変化する処か、両腕も剣へとならない事に焦りを浮かべたのもほんの僅か。

咄嗟の判断で腕をクロスして体を守るが、代償に俺の右腕が切り落とされる。


「あ“あ“あ“あ“ぁ“あ“…ッ!!」


いつもは痛覚を鈍らせている。だからこうして腕を切り落とされる痛みは久し振りであり、みっともなくも絶叫を上げてしまう。


「ここではお前の力は使えない。」


「ッ……成る程、なァッ!!」


「うッ…!」


腕を切り落とされた仕返しに、俺は相手の腹へと蹴りを放った。即反撃に出るとは思わなかったのか、僅かな隙をついた蹴りで膝を着かせる。


「さて…どうしたもんか」


欠損した腕を火で止血しながら、この場の打開策を考える。いつものように回復頼りのゴリ押しも出来ないし、俺の[反射神経Ⅹ]と[反応速度Ⅴ]を越えるような攻撃の予知も出来ない。


「アキラくん!これを使ってください!」


戦闘が激化する中、ユアから投げ渡されたのは光の剣。質量を持たない筈の光が、剣の形状となって俺の手へと渡る。


「左手か。まぁ、これくらい何とも無いな」


この世界は俺に厳しい。だからもしも、最悪の事態、そんな事を想像して左腕で剣を振る事は容易い。

が、そんな俺の陰の努力は生かされない。

何故ならこの光の剣は…重さを一切感じさせないからだ。…やはりこの世界は厳しい。


「武器を持っても無駄デス。お前はここデ死ぬのデス。」


「そうは行かない。まだまだ俺は、死ねないんでな!!」


中分けの青年とは別のショートの少女。ソイツもまた自動読み上げのような気味の悪い声で、小さい円月刀のような物を2本振るう。


「そこ、デス!」


「ッ…!!?」


突如円月刀を投げた少女。そして次の瞬間、円月刀の中心から水が出現し、そのままその水はレーザーのような威力で俺の肩を貫く。

その水圧の威力を肩に受けながら、吹き飛ばされた俺の後ろに人の気配を感じた。


「待ってたゼぇえ!!」


俺の後方には、こうなると分かっていたかのように既に待機している大柄の男が拳を構えていた。

あの拳はヤバい。本能的に男の拳に危機感を抱いた俺は、水のレーザーで肉を切られながらも身を捩る。


「ウ…ッ“……ッ!」


「…!死に損なイがぁあ!!」


避ける際に拳から見えた爪のようなオーラ。それが俺の上半身へと放たれた。

だが咄嗟の判断で体を反らした為、致命傷にはならなかったものの、横腹を大きく持っていかれた。


「ゴフッ……やべぇな」


傷付いた箇所を燃やしながら受け身を取った俺は、改めてインフレの進む世界にゾッとする。

もはやこの身だけでは、勝てる相手はもう路地裏のチンピラしかいないだろう。


「油断しましたね、アキラくん」


「…チッ、うるせぇ」


「手助けはいりますか?」


ユアはこちらをニヤニヤとからかうように見ながらそう言う。とても4人を同時に相手にしているとは思えない余裕だ。


「いらねぇよ」


「ふふっ、アキラくんなら必ずそう言うと思いました」


期待通り、そんな言葉が今の彼女にはよく似合う。


「まぁ…今ので大体分かった。んじゃ、久し振りに無茶しますか!」


「何をした所で無────」


準備運動のように軽く跳ねるアキラ。たったそれだけの動作にも拘わらず、次の瞬間には青年の腹へとアキラ蹴りは沈んでいた。

そこから更に反対の脚で青年の顎を蹴り上げる。


『脳が揺れている…。何故…』


既にテンドウ・アキラは満身創痍。だから油断は確かにあっただろう。だが生半可な攻撃速度に対応出来ない程、気を緩めていた訳じゃない。

それにあの体制からこの威力の蹴り上げが出来るとは、思ってもみなかった。あの男は確かに悪魔の力は封じられている筈だと言うのに。


「うわアッチ…!!けど、いいね!最高だッ」


『炎…?』


未だ立てぬ中、青年はアキラをしっかりと捉える。視線の先にいるアキラは、両足から炎が漏れ出ていた。


「まさか…。自分の足を犠牲に炎の威力で加速を…?」


馬鹿げている。事前調査によれば、テンドウ・アキラは炎への耐性は取得していない。現にテンドウ・アキラは炎を熱がり、足が黒くなっていき、吐き気を催す煙が出ている。


「治癒は…不可能の筈…。このままでは燃え尽きますよ。」


「だからどうした。どうせこのまま大人しくしてたってお前らに殺されちまう。だったら最後まで足掻きに足掻いて生き抜く。それが俺だ」


「……………はっ。」


強がりでもなんでもない、本気でそう思っている眼。思わず青年も鉄仮面を崩して笑ってしまう。

そうだった。この男は頭のネジが飛んでいる。

今までに数百と越える異常犯罪者を駆除し、その心理学をデータとして取り込んだ彼でも難解な思考。


「忘れていました。貴方は…追い詰められた時程厄介になる。」


「よく分かってるじゃねぇか」


「だからここからは。僕達も手を一切抜かない。覚悟を。」


青年の言葉と共に、その他11人の顔色が僅かに変化した。最初から無表情だった彼らの瞳には、一切の感情は感じられなかったが、ここからは本気だと肌でピリピリと感じる。


この感覚…最高だ…ッ!


「ああいいぜ…!全員まとめてぶっ潰してやるよッ!!」


満身創痍で片腕欠損。ハッキリ言って絶望的状況。

だからこそ心が踊る。全身の筋肉が高鳴る。今俺は、この瞬間を全力で生きている。

久しく感じられなかった感覚に、俺は全身で堪能していた。



うちの主人公、死ぬかもしれねぇ……

……いや、もう何回か死んでるわ。

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