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381話:責任は取る

後二人で300……ちゅげぇな

「今日も自主練したの?」


「ん?まぁな。自分でも嫌になるくらい才能が無いからな、俺は。かなり追い込まないと皆に置いてかれちゃうし」


「そんな事ない……アキラは十分強いよ?その、悪魔の力が無くたって」


ボクがそう言うと、アキラは少し照れたように笑う。そして一言『ありがとう、ミル』とまるで子供のような無邪気な笑みで。可愛い…


「あっ!そうだミル!明日どこか出掛けないか?そのー…さ?なんつーか……二人っきりで。……どうかな?」


「行く…!」


余程恥ずかしかったのか、最後になるにつれて声が小さくなっていくアキラ。可愛い…抱き締めたい。

そんな感情を抑えつつ、ボクは二つ返事で頷いた。


「良かった。なら明日、一緒に行こう。デ、デートってやつだ」


「ん…!」


ボクと大概だけど、アキラはもっとウブで実に可愛らしい。遂に我慢出来ず、アキラに抱き付きながらベッドへ押し倒す。するとアキラは決まって赤面してくれる。


「近いって…!」


「アキラの体、冷たいからボクが暖めるの」


アキラが照れれば照れる程ボクの中で何かが目覚める。意地悪したくなってくる。何でだろ?

そんな悪い事を考えていると、シアンもボク達にくっついてくる。


『ふふっ…本当の家族みたい』


3人一緒に寝る。アキラはボクとシアンにくっつかれて暑そうにしてるが、その表情はどこか嬉しそうだ。


「また明日ね」


「ああ、また明日。おやすみ」


いつも通りの時間。

部屋の明かりを消した所でボク達は唇を重ねる。そんないつもの明日。だけどそれを向かえる事は出来なかった。





アキラが謎の者に連れていかれた。

通常なら誰も起きている時間ではない遅い深夜に、“魔術王“と呼ばれるアマクサ・コウキからそう聞かされた。


「そんな…」


「本当にすまない…っ。こうなってしまったのは僕の責任だ…!」


深刻な表情で深く頭を下げたコウキ。ボクは声が出ない。物音1つも起こさず、あのアキラを拘束出来た驚きもある。だけど何よりも、ぽっかりとボクの心に穴が開いたような喪失感が胸を強く締め付けた。


「貴方が頭を下げても現状は変わらないわ。今はそれよりも、アキラを連れていった者達の所在と目的ね。大丈夫よ、ミル。アキラが簡単に死ぬとは思えないわ」


そんな中ローザが冷静にそう言って、放心状態だったボクの背中を優しく擦る。


「コウキ君はこうなったのは自分のせいだって言ってたけど、もしかして検討がついてるのっ?」


「ああ。アキラを連れていったのは恐らく、ここリベルホープと長い付き合いがある“神聖帝都・リュートベルティア“……人族(ヒューマン)を遵守白の国だよ」


影のある表情でそう言った国の名前を聞いたミルは、少し驚いた表情をする。それは祖国である“ルミナス聖国“とも昔から深い関わりがある国だったからだ。

だからこそ知っている。リュートベルティアは人族が絶対であり、精霊を除いた他種族を魔族と差別する悪しき風潮の強い国だと。


『嫌な事…思い出しちゃったな…』


かつて“六剣“に就任したばかりの頃、1度リュートベルティアに向かった事があった。

そこで受けた精霊の成り損ないと言われた亜人差別を、ふと思い出してしまう。国自体が人族が1番であり、他を認めない教育をしている為、正直言って好きではない。


「確かあの国は異種族を認めなかったな。成る程、悪魔を宿すアキラは特に狙われそうだ」


そう言ってソルは小さく溜め息を吐く。どうやらリュートベルティアの差別はボクの思った以上に有名らしい。


「そう、“悪魔王“と呼ばれるアキラだから狙われてしまったんだ…。実は以前からアキラを引き渡すように交渉されててね。勿論その要求を飲むつもりは無かったけど、まさか強硬手段に出るなんて思っても見なかった…。本当にすまない」


そう言って再度頭を下げたコウキ。そして少しして頭を上げた彼はこう言った。


「だからその責任はちゃんと持つ。アキラの救出、僕にも手伝わせてくれ」


コウキの言葉にボク達は頷く。

ボク達の意思は決まっていた。





「…………」


何にもない、凡そ5m四方の真っ白な部屋。

ベッドを始めとした家具は何も無く、灯り1つ無いにも拘わらず明るい部屋。


気が付いたら俺はこの部屋にいた。

声は出せる。けど悪魔と会話が出来ない。むしろ悪魔がいないのではないかと思ってしまう程存在を感じない。

……どれくらいの時間が経過しただろうか。

食欲も眠気もロクに無いこの体では、時間がまるでわからない。それでも体感1週間は経過した気がする。


「…!今日もか」


そんな退屈な日々を過ごす中、唯一起こるイベントがある。

それは壁に穴が開き、その穴から先端に鋭い針がついたチューブが出てくるというもの。

その針は俺の背中に突き刺すと、容赦なく俺の血液を吸い取っていく。まるで内臓が引っ張られるかのような不快な感覚だ。


「痛っ……」


ズルッ……と引き抜かれた針に、表情を歪めながらその場に寝そべる。


『ヤバイな、この状況は…。何としてもここから脱出しないと、先に精神が狂いそうだ』


もう既にこの部屋から何度も逃げ出そうとした。だが拳や脚でどうこうなる硬さではなく、魔法もスキルも一切使えない。完全に俺を無効化した部屋だ。

だけどここに居続けたら、本当に心が折れてしまう気がした。



「折れて堪るか…っ」


勢いよく起き上がったアキラは、何度も何度も壁を殴り続けた。同じ場所への攻撃を続ければ、この壁も壊せるかもしれないとテンプレ知識を頼りながら。



だがアキラは知らない。

アキラにとっての1週間は、部屋の外では1時間も経過していない事を。

そして吸い取られたアキラの血が今後どのような使い方をされるか……まだ何も知るよしもない。


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