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37話:師を越えろ

白い閃光──それは一瞬にして距離を詰める光。前回の様に強力な力が木剣に伝わる。


「ッ…!!まだだ!!」


木剣を絶対に離さない。

伝わる衝撃と威力を、全身を使って耐える。


たった一撃だけで、俺は10mも飛ばされる。だが木剣が飛ばされる事はなく、俺はすぐに体制を立て直す。


「……初めて耐えたね」


「当然…!いつまでも敗けっぱなしじゃ──主人公にはなれないんでね!!」


脚に力を込め、思いっきり地面を蹴る。木剣を強く握り、俺はミルへと攻撃を仕掛けた。


『ッ!攻撃が当たらない…!』


俺が放つ攻撃は、木剣を盾にして防ぎ、また弾くなどして攻撃を防ぐミル。


「アキラ、まだ出してない力があるでしょ。それを出して。じゃないと…このまま負けるよ」


まだ出してない力なんて……いや、まさかミルは気付いてるのか?なら俺の力を出しきる…!


「まだだ…──終わらねぇ!!」


「ッ!」


斜め切りの後に続いて、俺は全宙の要領でかかと落としを放つ。

だが、ミルはその攻撃は木剣により防ぎ、受け流した後バックステップで後ろへと飛んだ。


「かかと落とし…ビックリした」


「俺の出せる全部を出してミルに勝つ!手は抜かない」


「フフッ……いいね。アキラの全てを出して…──掛かってこい」


全身が痺れるような威圧感を出し、再度構えだすミル。その視線から俺は眼が離せない。


あぁ…楽しい。ミルと打ち合っている時がとても楽しい。こんな気持ちはいつぶりだろう


「こんな戦い……やめられない!!」


──────────


『なに…?急にアキラのスピードが上がった…?』


まるで食らいつくかのような剣と脚を使った激しい攻撃の連続。その攻撃は段々と早くなっていき、ボクでも少し対応するのが難しくなったきた。


「はぁ…!はぁ…!ミル、俺は今最高に楽しいよ…!」


息を切らし、額から数滴の汗を流すアキラは、楽しそうに笑っている。ただただ純粋にこの時間を楽しんでいる。


「ボクも…こんな感情久し振りだよ…!」


ボクもこの時間を楽しんでいる。

アキラはボクを負かす程強くはない。だが、彼には不思議なモノを感じる。


昨日は別れる時、アキラは悔しそうな眼をして歯を食いしばっていた。

だが今日はそんな暗い雰囲気は消え、覚悟が決まった顔をしていた。


「ッ!![氷冠]──っ!しま…!」


激しい連撃を続けるアキラから距離を取るために、いつもの癖で【終雪】の一部を使ってしまった。


【終雪】の事をアキラには自分が放つ剣撃の全てが【終雪】になる、型は無いと説明した。だがそれは嘘だ。

【終雪】という剣術の中には複数の技があり、その総称を【終雪】と呼ぶ。

今放った[氷冠(ひょうかん)]もその一つ。


とてもこの短期間に【終雪】を習得するのは不可能だと思った。だがボクに剣を習いたいと言った彼には、お詫びも兼ねて、基礎だけでも教えようと考えていた。


「負けてたまるか…!……負けてたまるかぁぁぁぁぁあ!!」


「まさか…そんな…」


ボクが放った[氷冠]はアキラが腰に差す細剣で真っ二つに切断した。

まさかアキラがここまでの力を持っているとはボクは思いもしかった。


「やっぱりアキラ、君は不思議な人だよ」


自然と口角が上がるの感じた。


─────────


激しい連撃をものともしないミルに内心焦りながらも、一瞬の間に出来た隙を突こうとした瞬間だった。


ミルが振るった剣から氷の塊が飛んできた。



『えっ…?なにあれ、聞いてないんだけど?あれ当たったら死なないか?俺』


反則になるかもしれないが、流石に命までは譲れない俺は腰に差した細剣を抜き、体重を乗せて真っ二つに切断した。


『お…おぉぉぉ!!成功した!』


火事場のクソ力というやつだろうか。ピンチにこういう事が出来るのは、俺的【なろう】ポイント高い。

っと思ったけど、多分スキルの【背水の陣】の効果だろう。


後気になっていたが、ミルが俺のことを驚きとと何かを期待するような目で見てくる。

フッフッフッ…!俺に惚れか?惚れたな?惚れたのか。


「やっぱりアキラ、君は不思議な人だよ」


そう言い口角を上げて笑うミル。

なにやら不穏だ…俺の危機的センサーが警鐘をカンカン鳴らす。


「アキラと戦うのが心より楽しい…───だからこれはお礼」


ミルの体から冷気が出ているのを俺は見た。周りの植物は凍結し、まだ暖かい山に雪が降り始める。


『あり得ない…だろ……こんなの…』


「ここからは……本気だよ」


「なッ!!?クッ…!!」


極寒の冷気と共に真っ白の光が俺に迫る。本来なら防げないであろうその一撃を、俺は受け止める事に成功した。


「ぼ、木剣が…!オラァッ!!」


防いだミルの木刀から伝って、俺の木剣が凍りついていく。不味いと判断した俺は前蹴り、と見せかけた変則の上段蹴りをミルの首へと放つ。


しかし俺の攻撃をいち早く察知したミルは、凍りついた木剣から手を離し、連続のバク転をしながら距離を取った。


「いいの?剣が無くなったぞ?」


「…別に。問題は無いよ」


俺はミルの木剣についた氷を砕きながらそう言うと、ミルは小さくフッと笑いそう言った。

俺がミルの木剣を左手に持つと同時に、ミルも行動を起こした。


「んなのありかよ…」


「なんでもアリ。でも木剣レベルにしてるから安心して。ボクは言ったよ、本気だと。全力で君を負かす」


ミルは眼を閉じ、手を翳すと、空中に氷の細剣が生成される。それを握ると、ミルは俺に剣を向けた。


「次で…決まりそうだね」


「あぁ……俺の全力を次の攻撃に乗せる」


俺もミルと同じく、右に持つ木剣をミルに向けて言い放った。

ミルはそれを聞くと、どこか嬉しそうに微笑んだ後…雰囲気が変わった。


来る…ッ!


氷涙牙(ひょうるいが)!」


「星光連流撃ッ!!」


木刀を2本持ち、俺は【なろう】組合に入れられている黒の剣士の技を使った。

前世で何度も練習してきた二刀流とこの技。

今の俺なら、この熱い想いを宿した体なら、、


──────────


「ん………ッ………あれ…ここは…」


ぼんやりとする視界。

段々と見えてくるが…ここは森だろうか。


「…起きた?アキラ」


「…あ、れ…?なんでミルが……っ!け、決着はどうなっ──痛ッ…」


にゅっと俺の視界に現れたミル。その顔を見て思い出した。俺は最後の一撃を…全身全霊の攻撃を繰り出そうとして…


「どっちが勝ったと思う?」


「えっ…?あ、いや…うーん……」


気絶していた俺と、既に起きていたミル。

全身に感じる痛みと、汚れてはいるが無傷のミル。

横たわる俺と、膝枕をするミル。


「負けたのか、俺。ふぅー………でも、なんだろう……スッキリはしたよ」


「そう…良かった」


全力を出して負けた。だが心はスッキリとしている。やっぱり強い奴と戦うのは楽しいや。


「んでさ、ミル……気になってたんだが…」


「ん?何?アキラ」


「なんで俺膝枕されてるの?ちょ、ちょ、ちょぉぉお~っとばかし恥ずかしいんだが!?」


「え?」


「いや不思議そうな顔で『え?』じゃねぇよ!!童て……経験だらけの俺でもちょびっと恥ずかしいよ!?」


「そう、なの…?ボクのせいで気絶してたから……地面に寝かせるのは悪いと思って」


なんだこの可愛い生物は!子供のふりして抱きつけないか!?未成年にやったら捕まるはボケっ!

って違う!!そこじゃねぇだろ!!


こ、こここここれは…!ヒロインムーブってやつなんじゃねぇのか!?

遂に…!遂に俺に惚れてくれる子が出来た…!


落ち着け、明星。ここはcoolにいってみよう。俺は鈍感系や難聴系主人公にはならない。そこだけは【なろう】を尊重できない!

ここは男らしくアタックしてみよう!



「ミル…もしかして俺の事が好き?」


「それは無い」


「………」







その後、ミルから回復ポーションを貰い、傷を治した後に今日は別れる事となった。


「じゃ…帰るわ」


「うん、また明日」


何語も無かったかのような振る舞いをするミル。俺結構恥ずかしい思い上がりをしていたのだが……流してくれたようだ。


『クッ…!ミルってヒロインじゃないのか?こんな熱いやり取りしたら惚れるだろ!普通の【なろう】なら!』


よく分からない理由で惚れられるような世界だと思っていたのだが…様々な作品に手を伸ばしすぎて、良作の事を忘れていたよ。

良作の主人公達ってヒロインにどんな振る舞いしてたっけ…


「あ…アキラっ…!」


「ん?どうした?」


何か急に呼ばれた。珍しいな…いつも控えめの声のミルが大きな声を出すなんて。


「明日から…ちゃんと教えるから…!」


「えっ?……あぁー…………はい…?」


何を言っているんだ?彼女は。剣術なら教えて貰ってるじゃないか。え?ちゃんと教えてくれてなかったのか…?


「だから覚悟、しておいてね」


「…!おう!任せてとけ!」


クソっ!可愛く微笑みやがって…!あんな顔でお願い事されたら何でもしちゃいそうで怖いよ。


ミルは可愛く微笑んだ後に下山して行ったので、俺も軽く伸びをした後に下山した。


『俺の全部を出しきって勝てなかったんだ、もう完全燃焼だ』


無論ここで俺は止まらない、止まれない。勝てないならもっと体を鍛えて再チャレンジする。何度だって挑んでやる。


そんな事を考えながら俺は山を下りきった。向かうはプーちゃんママの店横にある小庭へと向かう。


「ただいま~っ!元気にしてたか~?」


布にくるまれた卵を撫でながら、帰還報告をする。早く産まれないかな。


「っとと、そろそろ店の準備しないとな」


服も着替えなきゃいけないしな。てか、なんで俺が持ってる服が農民服とドレスなんだよ。


「あ~あ……うしっ!頑張ろっ」


頬を軽く叩いた後、俺は卵を撫でて店へと向かった。












ビキッ………ビキビキッ……



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