376話:リベルホープでの時間
ヤバい…1週間に1回の投稿頻度はヤバイぞ…。ただでさえ大御所小説じゃないってのに…
コウキ達からの問い詰めも終わり、その後ミルとイチャイチャ!……とまでは行かず、相変わらず慎ましい関係のまま一夜を明けた。
ミルは部屋に居るのは退屈だと鍛練に出て、ローザもリベルホープは初めてだからと今日も観光。ルナはこの国に務める“賢者“様とやらからの勧誘から逃げるべく、朝早くからどっか行ってしまい、弟のソルは巨大な魔道工房に入り浸っている。だから今ホテルにいるのは俺とシアンだけだ。
「暇だ……。なっ?シアン」
「僕はパパにブラッシングされてるだけで楽しいっ!」
「おっ、そう?ならもっとやっちゃうぞ~!」
シアンの綺麗な髪の毛を櫛で梳かしながら、嬉しくて抱き付く。シアンはキャッキャ喜んでいるが、間違いなくやっている事はウザがられる父親そのものだ。
シアンの言葉に嬉しいという感情僅かに抱きつつも、俺は本当に暇をモテ余していた。
と言うのも、俺達は現在このリベルホープ内から出る事が出来ない。十中八九俺が原因なんだろうが、王様は俺達に渡す屋敷の準備が終わるまで居てくれ。せめて一目見て行けと言う。
…そんな雑な事を言ってまで俺を停滞させたいのか、と内心笑っている。
「あ~あ、こんなに待たされるならあの時突っぱねれば良かったよ…」
“魔災“が終わった翌日の晩餐会。当事者である俺達が行かない訳にはいかず、渋々出向いた日に言われた王様の言葉。
そこまでなら俺は断っていたんだが、横から入ってきたコウキのペースに呑まれ、まんまと話を呑んでしまった。おのれ、あのわんこ系あざと主人公が…!何が『貰えるモノは貰っておいた方がお得だよっ!ねっ!』だ…!とても前世は引き篭りゲーム廃人とは思えない(本人談)。まあ異世界じゃよくある設定だけども…
「んー……うし、シアン!散歩行くか?」
「パパとお散歩!?行くっ!」
「よしよし、行くか!」
正直外に出てもあまり良い事は無いが、シアンは元より蝶。室内より外の方が良いだろう。てか俺が外に出たい。外で体力トレーニングしたい。
そんな訳で素早く着替えた俺とシアンは、適当に街へと繰り出す。
「パパ!どこ行くのっ?」
「んー…どうすっかねぇ~」
心地好い音で石畳を歩きながら、煉瓦…らしき洋風の建物をキョロキョロと田舎者のように見て回る。当然目的地なんか無く、ただ外の空気を吸って散歩しているだけだ。
『全く…チラチラ見られるのは嫌だな…』
王様がデカデカと“魔災“を討伐した英雄として俺を含めた5人の姿等を公開した為、リベルホープの住民や他国から来た亜人の方にも俺が“悪魔宿し“改めて、“悪魔王“だという事が知れ渡っている。まぁ…視線から察するに、あまり良い印象を抱かれてはいない。
『それにしても……ずっと着いて来てるのがいるな。2人…か?』
──我が主様…失礼ながら申し上げますが、2人ではなく5人でございます。
「えっ…マジ?」
そう助言してくれたのは実に誠実な悪魔、マルコシアス。
俺は慌てて振り返って確認しようとしたが、バレてはいけないと踏み止まる。
おかしいな…[偽装看破]で隠蔽魔法、スキルは効かない筈なんだが……まだまだ訓練が足らないみたいだ。俺も早くマルコシアス並みに索敵出来るようにならないと。
そんな事を考えながら、シアンが物欲しそうに眺めていたビック牛串なる物を購入。相変わらずこの子は肉食のようだ。うわぁ…スッゴい食い付き…
□
「静かでいいな、ここ」
「木もいっぱいあって落ち着く!」
後を着いてくる謎の5人組…まあ監視役なんだろうが、ソイツらを無視してやって来たのは一人っ子いない神秘的な森。
ここは以前コウキに勧められた場所で、特定の条件を通過しないと入れてもらえない所らしい。俺は“悪魔王“の権限で入ったが、その時警備員に嫌な顔された。理由は分かってるけど解せぬ。
「ふぅ~!空気がうまいな。だけどなんで国内にこんな森があるだ?」
ワイワイと喜びながら走って行くシアンの後を追い掛けながら、ふとそんな事を考える。
リベルホープはかなりの広さで、人口が100万人いるらしい。そんな大国に、立ち入り禁止の森とは不思議だ。
「パパー!あれなーに?」
「え?あーこれはね………これは…何だろう、御神木…かな?」
シアンの後に着いて行くと、シアンはとある方向を指差してそう聞いてきた。その先は開けた場所であり、その中央には意味ありげに巨木が佇んでいた。
「これ何て言ったけな…荒縄?注連縄だったけか……でもこの白い紙も含めて、このデッカイ木って完全に御神木だよn──────ッッ!」
日本の神社などで見掛ける巨大な御神木。それが何故この異世界にあるのかと思いつつ、恐る恐る触れると、ビリッ!っという痛みが手の平に広がる。慌てて手を確認すると、俺の手は真っ赤に染まっていた。
「痛っ…。あー…あれか、邪悪なモノは弾く系か。おぉー痛って…」
御神木っぽいし、どうやら中の神様は悪魔を宿している俺には触らせてくれないようだ。
敵の侵入を防ぐ時に出てくるやつだ。まあ大抵破られちゃうんだけども。わりとよくある設定だな。
「俺にとってはあんまり良いもんじゃねぇーな。どうすっかなぁ…」
綺麗で静かだし落ち着くんだが、やはりあの御神木のせいか落ち着かない。帰る事は容易いが、シアンが嬉しそうにしてるからなぁ…。もう少しいる事にしよう。
「フッ…!ハッ!セイッ!!」
シアンが楽しそうにパタパタ走り回っている中、俺は今日も剣を振って体を鍛える。
この剣で一体何代目だろうか…本来主人公ってこんなに剣を壊さないだがな。まぁこれまでの剣は主人公が持つような特別製じゃないしな、相手もヤバい連中ばかりだからしょうがないっちゃしょうがないが。
『にしても‥落ち着かないな、監視され続けるの…』
俺とシアン……恐らく両方を厳重で監視している謎の監視員。ここは一定の限られた者しか入れない事を考えるに、やはり城の者らしい。
勝手に入ってる可能性もあるけど。
『人も増えてる…やりにくいな』
はぁ…と溜め息を吐き、そんな雑念を消して一心不乱に剣術を鍛え上げていく。
その後2時間程シアンを遊ばせた後、特に監視員達が仕掛けてくるなんて事も無く、この場所を後にした。
□
御神木のある森から出た俺達は、後ろや屋根の上からの厳重な監視の元、街中を歩く。途中買い食いや、面白そうな物があれば物色。そんなごくごく普通の時間を過ごしていると、、
「あら?アキラじゃない。珍しいわね、外に出るなんて」
「よっ!ローザ、奇遇だな」
偶然にもローザとバッタリ出会った。彼女は手に複数の紙袋を手提げている事から、存分にショッピングを楽しんでいたようだ。
「もう帰り?それなら荷物持つぞ」
「あら…いいの?ならお言葉に甘える事にするわね」
「任せろ」
遊び疲れて寝てしまったシアンをおぶりながら、左手に荷物を持つ。中々重い…が、とても幸せな気分だ。それは何でなのか自分でも分からないけど。
「……」
「どうした?服装変だった?」
「い、いえ…!そういう訳じゃないんだけど…その…」
俺の姿をジッ…と見つめてくるローザ。お洒落なローザから見たら今の俺はダサいんだろうか、そんな不安に駆られてつい聞いてしまう。
だがそういう訳では無いらしく、ローザは慌てて否定する。そしてその後に少し頬を赤らめ、手をモジモジと動かしている。
どうしたんだろうか……最近こういう事が増えたローザに、俺は困惑気味だ。何を恥ずかしがっているのかが分からない。
「や、やっぱり貴方の服装は少し変よ…っ!」
「っ!?」
モジモジしていたローザは、意を決したかのような表情をすると、まさかの服装が変発言。俺でなきゃ気絶しちゃうね。
「だからそのっ…!今から服…買いに付き合ってあげるわよ…?」
少し俯きつつ、ローザはチラッと俺に視線を向ける。手は落ち着きなくモジモジと動かし、やっと落ち着いたと思ったら服を掴んでいる。
なんだこの可愛らしい生物は……本当に俺と同じ人間なのか?だってもう…作画が違うじゃん。
「ローザがそんなに言うくらいだし、付き合って貰おうかな?頼んでいいか?」
「…!も、勿論よ!私に任せなさいっ!」
パァ…!っと花が咲いたように、笑みを浮かべるローザは嬉しそうに微笑む。可愛い以外の言葉が出ない。ミルとはまた違った可愛さだ。
「さっ!早く行くわよ!」
「あ、おい待ってくれよ!?」
ニカッ!と笑みを浮かべながら、ローザは子供のように駆け出す。それを俺は慌てて追い掛けるが、ローザは慌てている俺が面白いのかクスクスと笑って先を行く。ここ最近で1番の笑顔だ。
そんな彼女に困りながらも、俺の口角は確かに上がっているのが自分でも分かった。
それはとても嬉しくて、楽しく……そんな感情だったような気がした。
確かに俺は笑みを浮かべているのに、何故だか心は幸福感を得られていないような気がしたかった。
『…?何か変だよな、最近…』
「アキラー、置いてっちゃうわよ?」
「あ、ああ…!今行く!」
違和感を覚えたのも束の間。ローザの俺を呼ぶ声を聞いて、すぐさまその思考をやめるとローザの元へと急ぐのであった。




