375話:異常体質
本当にお待たせしてしまいました……まだ見ている人がいる事を願うばかりです。
「……は?俺について?」
思わず変な声でそう言ってしまった。コウキ達がシリアス顔なだけに、変なボケをカマせられないのが痛いが……何故にそんな顔出来る?
「俺についてって……この前話しただろ?俺にチートは無いし、特殊な境遇でも無いって」
「うん、確かにアキラはそう答えたね。それは僕の眼で本当の事を言っているって分かっているし、神様の力を感じられないから本当に能力を持っていない事も分かってる」
「ならなんで…」
俺がそういい掛けた時、遮るようにしてドラゴン少女が話し出した。
「神の恩恵を受けた訳じゃない。そう、お前はただの人間、人族だ。だからこそおかしいんだ。お前が意識を保ったまま、悪魔を宿せている事がな」
その瞬間、ピリッとした空気が俺を襲う。今のは間違いなく彼女の出したモノだ。思わず反射的に構えてしまったが、それをすぐに解いて話を詳しく聞く。
「そんなの…俺だって分からないよ。普通じゃないってのは調べれば調べる程分かったが……何でなんだろうな?」
これまでに悪魔を知る為に様々な書物を読み漁った。だが俺と同じように複数の悪魔を体に宿し、同時に能力を引き出せている者の例がいない。だからこそ分かる自身の異常性。正直自分でも不気味と感じてしまう時もある。
「我が全盛期の頃から悪魔を使役する人族は腐る程いた。が、やはりお前のような奴は見た事が無い」
「この前アキラが言ってたリコスって神様なんだけど、やっぱり聞き覚えが無い神様だったよ。あっ!もしかしてチート代わりに悪魔を宿せるんじゃないかな?その神様の恩権で!」
何か過去にあったのか知らないが、俺へと怪奇な眼を向けていたドラゴン娘。そんな険悪なオーラを打ち破ってくれたコウキだったが、、
「バカを言うな。我の眼を持ってしても加護を看破出来ないのだぞ?この男にそんな力を宿した相手が神ならば、神聖龍様の末裔である我が分からぬ筈がない」
何か俺を置いて盛り上がっている。俺の話の筈なのに…。というか、神聖龍ってどこかで聞いたな…どこだったか。思い出せないって事は、[完全記憶]を得る前の記憶だな。
てなると……あ、ルカ君リオ君がいた村近くの草原にいるって言う神様だったな、確か。
「チッ…たくよぉ~、黙って聞いてりゃ随分言いたい放題じゃねぇーか、トカゲのお姫様よぉ────っ!?バッ…!!」
「…何だと?」
話が終わるまで綺麗な星空でも眺めていようと気が緩んだ矢先、突然俺の口が勝手に動き出して喋り出した。今の口調的にアスモデウスだな…!?折角空気が戻ってきたってのにコイツは…っ
「いい度胸だな。もう1度言ってみろ、宿主諸とも消し炭にしてやる」
ほら見ろ!竜眼ガン開きで怒ってるじゃないか…!どうしてくれるんだよ、言いたい事だけ言って出てこないし……自分で対応しろよ…っ
「い、いや!今のは俺じゃ───」
「見くびるな、それくらい分かっている。だからこそ怒りを覚えるな。引き籠りの臆病者が」
「────あ、なら良かった…。っ!やめろ…っ……お前ら悪魔のクセに煽り耐性無さすぎだろ…!先に吹っ掛けたのこっちなんだぞ…!?」
何故かドラゴン娘も俺の中にいる悪魔達も険悪だ。普段は俺の体を動かすような事は無いと言うのに……
「ちょっと2人共やめてくれよ…!ほらセレナ、落ち着いてっ!」
見かねてコウキも止めに入る。
でも険悪なのは俺だけど俺じゃないからな。
「お前らマジでいい加減やめろって…!はぁ……何だってんだよ、悪魔と龍は仲が悪いのか?」
外に出ようとする悪魔、攻撃を開始しようとする悪魔などを何とか抑え込んだ俺は、なんでこうなってしまうのか考える。
このセレナと呼ばれた少女(多分歳ヤバい)もそうだが、龍人型主人公のアルとも険悪だ。理由は違うけど、何かと劣悪になりやすい。
「大昔、龍と人はそれは大きな争いをしていた。だがそんな中、互いの代表者達は争いを終わらせようと手を取り合おうとしていた。しかしそんな大事な時に、コイツら悪魔は人間の心に忍び込み、人間の弱さを更に刺激した。その結果関係は更に最悪なモノとなり、どちらも目を伏せたくなるような犠牲を出した。…よもや忘れていないだろうな」
俺の呟きにそう答えたセレナは、今日1番の眼光で俺の眼よりも更に奥へと睨みを効かせた。ヤバい…震えるような覇気で気絶してしまいそうだ。
しかし…彼女が特に俺を警戒している理由が何となく分かった。それにこの手のタイプは人間も信用してないな。まぁそれもコウキに絆されて今に至るんだろうが。
「ホントすいません……どうか許してください」
「……ふん、相変わらず悪魔は表立って現れぬ腰抜けどもだな。アキラ、お前もよく言い聞かせておけ。我は兎も角、あのアルと言う青年には間違っても言わぬようにな」
「それは…うん、そうだな。それに関しては俺も同じ考えかな…」
ぶっ倒れそうな覇気を静めてくれたセレナは、そう一言警告してくれる。優しい。やっぱ主人公と共にいる奴って基本聖人だよな。
「……ん?誰だ?」
話が一段落した所で、通信機に信号が入った。コウキ達に断りを入れた後、俺はボタンを押すとその相手はミルであった。
「アキラ、どこにいるの?部屋来たらいなかった。危ない事…してないよね?」
「あぅっ…!?み、ミルさん…!まさかそんな事しないですよ…!」
「怪しい……けど信じて待ってる。早く戻って来てね。その、寂しいから…っ」
「…!お、おう…!」
通信機越しでも分かる可愛らしい声と、可愛らしいセリフに思わずノックアウト。安定の童貞を出してしまった。
「ミルさんからかい?」
「ああ、早く戻って来いってさ」
「そっか。なら今日は……うん、大丈夫だよ。わざわざこんな時間に呼び出してごめんね」
コウキは一瞬セレナへと視線を向けた後、にこやかに微笑んでそう言った。
なんだ?意味深じゃないか。呼び出しイベントだから戦闘も覚悟してたんだが、中途半端だな。まぁ戦っても勝てるかどうか、今の所怪しいから良かったけども。
「んじゃ帰るわ。また何か聞きたい事、分かった事があったら遠慮なく言ってくれ。俺も自分の事はちゃんと知っておきたいからな。それじゃあな」
俺はそう言うと、星空輝く空へと舞い上がった。ミル達が居るホテルまでは飛んでも少し掛かるし、軽く星空でも楽しむとしよう。
□
飛び立ったアキラを見送ったコウキは、彼の姿が見えなくなった所で溜め息を吐いた。
「はぁ~……勘弁してよセレナぁ…あそこまで威圧するなんて予定は無かっただろう?」
「それは……すまんな。悪魔が相手となるとどうもな…」
ばつが悪そうに軽く頬を掻くセレナはそう言って軽く謝る。
今回アキラを呼び出した理由は、アキラが本当に人類側の者なのかどうかを知る為。そしてアキラの異常性を警戒したセレナの提案で、こうして呼び出したのであった。
「それで、どうだった?やっぱりアキラは悪い人じゃないだろう?何度も会ってるんだからセレナもいい加減分かってるだろうに…」
「……ああ、そうだな。だが…あの男は会う度に人格や性格まるで違う。今回もそうだ。“魔災“が発生する前までは驚く程に凡人と化していた。だが“魔災“の大元であるあの怪物が出現するまでの僅かな時間で奴は…人としての感情を大きく欠落させていた」
神妙な顔付きでそう言ったセレナ。だが僕が見た時は普通だったけど…。確かにアキラは何と言うか少し変わってる人だけど、感情を欠落させているとまでは感じなかった。
「まだまだお前の眼は甘いな」
「まだまだなのか……。それはそうと、アキラと戦闘にならなくて本当に良かったよ」
アキラの本性。彼は自分の意思で動いているのか、はたまた悪魔に支配されて動いているのか。それを知る為にセレナがああして威圧していた。だからかなりの確率で戦闘になるかもしれないと考えてたんだけど、ちょっと意外だった。
「あの男は体内の悪魔を完全に抑えていた。殺意と何ら変わらないモノを向けたにも拘わらず、完全にだ。これがどういう事か分かるか?」
僕は悪魔に関しての知識が乏しい為、セレナの言っている意味が分からず首に横に振った。
「あの男は自分の意思を持ちながら、10…いや20近くの悪魔を体内で束ね、支配下に置いている。分からなくて当然だ。今までの歴史上、そんな者は現れなかったのだからな」
以前アキラについて知ろうと、悪魔について少しだけ触れてみたが、確か悪魔を体内に宿すのは禁止されている。何故ならその者の人格は消失し、肉体を持つ悪魔を世に放つ事になるからだった筈。極々稀に悪魔と適合して使役出来る“魔人化“と呼ばれる異形者もいるらしいが……
「その上あの男は“嫉妬“を目覚めさせた張本人であり、現在“色欲“を宿している。コウキも知っているだろうが、“怠惰““憤怒“との関わりもあると言われている。異常所の話じゃない。個人的な考えで言うのなら、敵味方関係無く、あのあの人間は早急に消す事を進めるな」
「な…!?そんな事────」
「ああ、コウキがそれを望まないのは分かっている。数少ない同胞なのだろう?だから強制はしない。…だが、決断を下さねばならない時が来るやもしれん。その時はコウキ、判断を誤るなよ」
「っ…!」
冗談…では無い本気の表情でセレナは僕の顔をジッと見つめる。正直冗談であってほしい。アキラは僕がこの世界で初めて出会った日本人なのだから…
だけど…アキラは世界から嫌われてしまっている。今は“悪魔王“と言う“王“を冠しているが、世間はそれを認めてはいない。それはリベルホープの城内でも同じだ。だからアキラは城に来ないんだろう。
『アキラがそこに気なれば国なんか1日で堕とせる……それだけの力をもう既に彼は握っている…っ』
もし“王“の称号を無視して、アキラの武力を危険視した国が戦いを仕掛けてしまったら……間違いなくアキラの性格上受けてしまうだろう。
そうなってしまったら僕は……彼と戦わなければならない。
重苦しい感覚が、ドッと覆い被さったような気がした。
就職したらこんなにも書けなくなるなんて…他の作者さんは凄いっすね。




