372話:能力解放
「[炎上壁]!!」
体から漏れでる赤黒い炎を自在に操るアキラは、魔人から放たれた水の光線を炎の壁で防ぎ蒸発させる。
立ち上る煙を突き抜け、アキラは更に魔人との距離を詰めて炎の斬撃を両手から放つ。
「…!やっぱ再生が異常だな」
永続して燃え続ける炎の斬撃は魔人の腕を2本切り落とすが、それもすぐに再生されてしまい、[炎滅]があまり効いているように見えない。
かれこれ24時間もの間攻撃を仕掛けているが、未だに再生速度が落ちない事を考えるに再生限界が無いんだろう。
「───!!チィ…!攻撃速度も落ちてない…!」
上空からのレーザー光線。地上から追尾してくる土で出来た魔人の手。更に魔人本体から生える腕からの4属性魔法の連発。逃げ場を確実に潰されていく。
「逃げ場が無いなら作ればいいだけだッ!!」
出来る全ての能力を開放し、上空のレーザー光線を[短距離転移]で逆に魔人へと返し、そこから更に地上から迫る手へと新たな技を放つ。
「喰らい尽くせ![三頭猟戌]!!」
ナベリウスとの契約で得た力、その名は[三頭猟戌]。地獄の番犬と知られる三頭の黒犬は、放たれると同時に地上の手へと容赦無く噛みつき潰す。
「からの…![不死鳥之焔]!!」
不死鳥として知られるフェニックス。その正体は火を司る悪魔であり、この力のお陰で相手の火を操作出来、その身に受ければバフとなって俺が強くなる。[獄炎化][炎滅]も合わさり、俺は炎に関する事はほぼ全て適応可能となった。
今まさにその力を使い、わざと魔人の炎をその身に受ける事で俺は更に力を上げる。元々漏れ出ていた赤黒い炎は、更に火力を上げて燃え上がる。もう翼は炎によって占領されてしまっている始末だ。炎の翼のようでこれはこれで好きだが。
「[城壁建築][黒雷][疫病発生][毒操作]…!」
契約した悪魔が増えた事で、更に強化された
[城壁建築]で魔人の風魔法を受け止め、[黒雷]で雷魔法を相殺。
更に[疫病発生]で毒液を水魔法へ放ち、水の光線を毒物へと変換した瞬間に[毒操作]で水流を魔人の上へと向かわせる。
「[大錬金術]!!」
ハゲンティとの契約で得た力、[大錬金術]。その効果は物質の変換。水を酒に、木を鉄になど、概念を越えたまさに魔法のような力。
そしてこの力を最大限発揮し、魔人の上空へと送った毒の水を変換する。
「この世で1番重い物質……それは金だ!」
──それは違う!1番重い物質はオスミウムだ!!
ドヤ顔で水を純金へ錬金しようとした瞬間、博識のグシオンからそう言われ、俺は慌てて変化させる物質を金からオスミウムと呼ばれる物へと変換した。
直径25m程の巨大な球体の物質を、そのまま重力に従わせ落下させる。
攻撃手数や保有する能力は多いが、魔人自身はその場から動く時は遅い。その為俊敏に回避する事は出来ず、6本の手で受け止める事になる。
「錬金術の力はこんなもんじゃないぜ!」
落下するオスミウムへと指を弾くと、球体だったオスミウムは形状を液体金属へとその姿を変えた。あの液体金属にはマルバスの毒が数千と籠められている。まさに水銀のような危険物質が、魔人の体に張り付き固まる。
「もがき苦しめ」
動きを完全に停止させた俺は、背中から生える骨の触手を動かして、魔人の体に次々と傷を作っていく。
グラシャラボラスの[崩壊]により硬い外皮を越え、新たな悪魔アンドラスの[殺戮者]で相手の弱点を看破すると同時に、再生出来ない傷を作り出す。
その傷口から液体金属と化したオスミウスが入り込み、神経共に五感を魔人から奪い去る。
「念には念を、だ。[五感略奪]」
ボス戦は最後の最後まで何が起こるかわからない。だからこそ念のために、新たな悪魔、シャクスの能力を使用して、魔人の五感全てを奪い去る。これで魔人は視力、聴力、触覚、味覚、嗅覚は全て奪われ、俺が魔人の五感を手に入れる。
「これだけやっても倒せないんだから本当に化物だよ、コイツは」
“魔人を拘束する“、その役目は仲間達ではなく実は俺だ。悪魔の力を使える俺は正直強い。能力いっぱい持ってる奴が強者の異世界なのだから当然だが、悪魔の力は相手への嫌がらせが得意だったり、奇抜で奇妙なものが多い。その為火力不足となり、魔人が持つ異常な再生能力は俺では突破出来ない。
だから決め手は信頼できる仲間に託した。
──アキラ!姉さんの方は準備完了だ!ただあまり長く持たないらしいから、速くそこから逃げろ!!
その時、タイミングよくソルから渡された通信機からそう言われ、俺は慌ててその場からかなりの距離を取る。
俺の仲間の中で、1番火力を持つ者。それはミルやローザ、ソルではなくルナだ。その場その場で最適の魔法を出せる頭脳と魔力。彼女こそがこの中で1番火力を出せる。
『グシオンが予め言っていた退避距離はもう越えた。ここまでくれば大丈──────』
高速で空を駆けた俺は、一瞬視界が全て真っ白に染まる。その後に感じる沈痛が、左腕に走った。
見れば俺の左腕は真っ白に染まり、ジワジワと物凄い速度で肩まで侵食を続けていた。慌てて自身の左肩から腕を切断し、即座に再生する。
「痛っ………うわ、なんだよこれ…」
少し痛む腕を擦りながら、目線を後方へ向けると、そこは全てが白に染まっていた。まるで白のペンキで塗り潰されたかのように、何もかも全てが白に染まっている。
「これが禁じられた古代魔法……禁じられる訳だ」
この一帯全てを白へと染め上げた魔法は、太古にあったとされる今は無き禁忌の魔法。ルナのポテンシャルと才能に賭けて、俺は様々な知識を持つグシオンに頼んだのだ。
ルナに太古の最強魔法を教えてあげてほしいと、、
「異世界だから禁忌魔法だとか古代魔法があるんだろうって思っていたが…ここまで被害が出るのか…」
魔人を倒す事だけを考えて放った魔法だったが、どういう訳か四角形にバリア?らしきものが張られている。ルナの古代魔法も耐えられる程なのだから、恐らく主人公或いはその仲間が張ったものだろう。助かった。
──ふふふふ…!これぞ全てを白に還す古代魔法[終之白]!!久し振りに見たがやはり素晴らしいな…!これでも弱い部類に入るなんて本当に馬鹿げているよ!
グシオンが興奮状態でこの惨劇に近い光景を楽しんでいる。こういう所は悪魔なんだなと思いながら、皆がいる場所へと向かうと、、
「…!!ルナ!?」
ルナが死人のような顔をして倒れていた。
顔が青白く、綺麗な肌だった彼女の皮膚は、所々白いアザのような物が出来ている。何故なのか、そんなの考えなくても大体分かっていた。
あれだけの魔法を放っておいて、才能だけでどうにかなる訳じゃない。これは恐らく代償だ。
『マルバス、ブエル!治せるか…!?』
──これは…[終之白]を放った事で術者に起こる呪いのようなモノだ。残念だが病じゃない。つまり…私では治してやれない。
──なんでこの子は[終之白]なんか放っちゃったんだろう…?こうなるって事はグシオンもちゃんと伝えてたのに…
『…!?ルナは…こうなる事を知っていたのか…?』
──勿論だとも。事前に説明はキチンとした。使えば死ぬような苦痛を障害味わうとな。
俺の呟きにグシオンは淡々と答えると、またしても[終之白]についてを1人呟いている。
知っていたのに放った…?何故…?
「落ち着け、アキラ。お前がそこまで思い詰める事は無い。姉さんは自分の意思で決めた事だし、何より治らない訳じゃないんだ。じゃなきゃそんなデメリットしかない事を、僕が許すわけないだろ?」
確かに姉思いのソルが許す訳がない……
だけど今も死にそうな顔をして震えているルナに、俺は何もしてやれないのか?
何か……何でもいい。今この苦痛から俺が解放してやれないのか?
「…!アキラ、まだ終わってないみたい。あの化物、まだ動くよ。………?アキラ…?」
白い灰から姿を現した魔人。だがその姿は衰弱しており、虫の息。このまま畳み掛ければ勝てる。そう判断したミルは、すぐさまアキラへと声を掛けるが反応が無い。
「アキ────…っ」
アキラへと顔を向けると、彼の瞳が金色になっている事に気が付いた。“嫉妬“に支配されていた頃を知っているミルだから分かる。今のアキラは別人だと。
「俺に出来る事…………そうか、俺がルナの痛みを引き受ければいいんだ」
何かを悟ったようにアキラはそう呟くや否や、ルナの手を掴む。するとルナの全身にあった白いアザは皮膚を移動して、手を掴んでいるアキラの体へと移動していく。
「これでいい。これでルナは辛くない」
嬉しそうに、安心そうにそう呟き笑みを溢したアキラは、瞳を元の紅い瞳へと戻る。
「行こう。まだ終わってない」
「ん…!」
元に戻った事を確認したミルは、安堵の表情と共にアキラの言葉に頷いた。だがミルはすぐに表情を暗くする。それはアキラの体に吸い込まれていった白いアザが気に掛かっていたから。
「本当に貴方って人は……」
「…?何か言ったか?ローザ」
「…いいえ、何でも無いわ」
ミルと同様に悲しい瞳と声を送ったローザに、アキラは気が付かずに『そうか?』と言って頷く。そしてアキラ達は、最後のトドメを魔人に刺すべく動き出すのであった。
投稿頻度落ちててすいません…!




