368話:全員の力を合わせて
風邪悪化中…
「アキラ、まだ行ける…!?」
「ああ…!この程度…ッ……問題無い!!」
ミルと共に、前線で魔人の相手をしてからどれ程時間が経過しただろうか。切っても切っても限度無く再生していく傷と、切断しきっても代わりに形の無い4属性の腕を代わり生える。
間無く降り注ぐ落雷や追尾する台風、鉄をも溶かす温度の炎に、障壁を軽々と貫通する高圧の水…それらが魔力を必要としないかのように無限に放たれる。
直撃は即死、掠れば重症。そして技範囲が広すぎる為、必要以上に大きく回避しなければならない。ハッキリ言って冗談じゃないスペックを待ち、嫌気が差してくる。
『クソッ…!“なろう“系主人公の必殺技はもっとバンバン撃てるんじゃないのか…!?いい加減こっちの身が持たないぞ…ッ』
俺やミルの攻撃は即座に再生され、ローザとルナの魔法は全く通らず、ソルのペネトレイト銃は硬い外皮を突破出来るものの、相手が大きすぎる為にマトモにダメージが入っていない。
今まではそれぞれが得意不得意をカバーしあって、なんとかボスを撃破してきた。だが今回は違う。本当に主人公達のチートでなければ撃破できない相手。このままではこちらが疲労により回避も攻撃も出来なくなる。
「はぁ…はぁ…はぁ…!─────ッッ、チィ…!!」
俺も体力、能力酷使でマトモに動けていない。攻撃を仕掛けるにも隙が無い、手を考える時間も無い。空に逃げれば落雷地獄。地上から攻めても魔人が足を振り下ろした衝撃で巨大な瓦礫や岩が降り注ぐ。逃げ場も攻撃路も無い。
それでも、自身の再生能力を活かしてダメージ覚悟の上で特攻、そして攻撃を仕掛ける。
「いい加減血管内に流し込んだ毒が効いてくれてもいいんじゃないか…!?致死量ってレベルじゃないんだぞ…!」
数千という麻痺性の神経毒を主に魔人へと流し込んだ。激しい痛みと筋肉の痙攣を起こすもので、当然致死量の速効性。
にも拘わらず毒が効いている気配を見せない。あれだけの能力デパートのクセして、更に毒耐性なんかあったら暁には、いよいよ俺が出来る事が無くなる。
──アキ…ラっ!遅れてごめん…!今皆の準備が終わったよ…!
「っ…!やっとか…!」
いよいよ手立てが無くなった所で、漸くコウキからテレパシーが届いた。その声は疲労が強く見える。だが流石は主人公達だ、見越したようにピンチにやってくる。
いや…?“なろう“系主人公は女の子しか助けないから(偏見)、ミル達女性陣のおかげ…?
──四方からの同時攻撃を仕掛ける。絶対に外せない…!一瞬でいい…ッ、一瞬だけ隙を作って欲しい…!
「なっ…!?冗談だろ!?ただでさえマトモに傷を与えられないってのに……隙だなんてもっと作れる訳……」
──お願いだ…!アキラ!君達にしか頼めない…っ!
「───っ……。わ、分かったよ…、やりゃあいんだろやりゃあ…!やってやるさ、このくらい…!」
本気で俺を頼りにしているかのようなその声に押され、俺は既にボロボロとなった体に鞭を打って立ち上がりそう吠えた。
「皆!もうすぐ他の奴らが大技であの魔人を倒してくれる!だけどその大技を当てるには、アイツから隙を作らなくちゃいけない…ッ」
俺は1度[気配遮断]で存在を消した後に、俺そっくりの分身を[色欲罪]の効果で魔人のヘイトを向けさせた所で仲間達へとそう言った。
「うえぇ……もう魔力が残ってないよぉ…」
「僕はまだ肩は持つけど、ペネトレイトの弾薬ももうすぐ底をつく。どのみちここで倒せなければ僕達全員死ぬな」
ガクッと項垂れた後に伸び~っとするルナと、そう言って黙々と弾を詰めるソル。
それに続くようにローザとミルも疲労困憊の体を動かす。
「ふぅ……もうクタクタなのに、あの人達は人使いが荒いわね。倒せなかったらタダじゃおかないわ」
「ボクも残り少ないけど、全部をぶつける」
皆俺の言葉の意図を理解してくれたようで、やれやれと言った表情を浮かべている。今の皆は凄い絵になるな……まるで歴戦の戦士のようだ。
「皆っ……!よしッ!最後の最後まで全力で行こう!!」
□
そして俺達の最後の大仕事が始まった。先ず始めに動いたのはローザだ。彼女は闇魔法と影魔法を合わせた二重魔法で、大規模なブラックホールのようなモノを作り出した。
「っっ…!!今よルナ!アイツが魔法を発動している内に…!!」
俺達に向けて放たれた4属性の大規模魔法を、ローザがそのブラックホールで全て受け止める。どうやらアレを維持するのは困難なようで、ローザは玉の汗と共に瞳から紅い血を流している。
「ありがとローザちゃんっ!!今までの恨み、全部返すからっ!![四重奏曲・魔人]っ!!」
重力を感じさせない軽やかなジャンプで空へと上がったルナは、半ば苛つきながらステッキから魔法を放つ。それは先程魔人が放った4つの大魔法を重ね合わせた光線であり、何とルナはそれをこの短時間且つ魔力の残りが少ない中放った。圧倒的な魔法と鬼才だ。
「ッッ!!!!ヌゥゥゥゥウウウウッッ…!!!!」
魔法使用中奴は魔法アンチの力が消失する。その間を突いたルナの強烈な魔法は、魔人が持つ6本全ての腕を使って受け止めている。
手を大きく開いて防ぐ魔人だが、ルナの魔法の威力を前に破壊されていく。その度に瞬時に修復されていく。まるで俺のような戦法を使う。
「ルナばかりに気を取られ過ぎだよ」
だが俺達の攻撃はルナだけに一存している訳じゃない。
ルナが魔人のヘイトを大きく買うと同時に、全ての腕をガードに向けさせる事に成功した今、ミルが地上から光のような速さで駆ける。
だがそれに気が付いた魔人は、ミルを踏み潰そうと脚を上げる。だがそう来る事も既に読んでいた。
ダンッ!!ダンッ!!
銃声が辺りに2回響き渡る。すると魔人が両目を押さえながら絶叫を上げた。
「硬い外皮だが……流石に目玉までは硬くないみたいだな」
銃口から煙を出すペネトレイトを肩に担ぎ、ソルは小さく『ふぅ…』と息を漏らす。残る弾薬はたった2発だけであった。自分が1発でも外せば、奴から視界を奪えない。だがはそんな重いプレッシャーから耐えて見せた。
「後は頼むぞ。アキラ、ルナ」
未だ緊張が抜けないソルは、震える手を抑えながら残る2人に小さく声援を送った。
「[凍土裂傷]…!!」
吹雪のような速度のまま、ミルは魔人の脚から上へ向かって駆け上がる。その間に俺でも目に追えない速度で斬り付け、血が出る前にその部分を凍結していく。
やがて凍結された場所は全身となり、首から下全てが凍り付いた。これだけでも奴の隙を作る事に関しては花丸モノだろうが、コイツはボスだ。念のために駄目押しするのは間違ってはいないだろう。
「喰らいやがれッ!!」
俺は素早く持っていた剣を魔人の頭部へと投げ飛ばすと、悪魔達の力を高めて超高圧電流に耐えられる体へと変化させる。
悪天候、そして魔人が操る雷雲さえも手玉に取り、俺はあの技を叫ぶ。
「[黒雷之轟鳴]ッッ!!」
空全てが一瞬明るくなったと勘違いする光量の後、鼓膜が破れる程の轟音と共に降り注ぐドス黒い雷鳴。その落雷はまるで龍のように空をうねりながら、確実に投げ飛ばした剣へと向かっていく。
事前にソルに付与魔法して貰っておいて良かった。鉄素材を銅素材へと変えておいて正解だったな。
「願わくは死んでくれ…!それがダメならせめてじっとしてろ!!」
俺は魔人へと堕ちた落雷を見ながら、心の底からそう思い願う。
願っていると、一瞬クラっと来た。どうやら流石に力を使いすぎたようだ。いつものように気絶なんて事は無いが、今はもうマトモに動けない。疲れた。
──ナイスだアキラ!!君達が作ってくれたこの状況、無駄にはしないよ!!
ボーッとする思考の中で、ふとコウキの声がした。
その刹那、4方向から身の毛もよだつような魔力や神力を宿したナニカが放たれた。上空にいる俺でも死ぬと思ってしまう程の威力。
主人公達が放った4つの必殺技。それを回避する事も察知する事も無く、魔人は光に呑み込まれた。あの圧倒的な絶望感を漂わせていた怪物を、一瞬にして葬った。
もうどちらが怪物か、分からないな。
どんなに絶望的な力を持ってても、それを軽々とノンストレスで撃破してくれる主人公。




