363話:負荷稽古
異世界モノは内容を繰り返す……
つまりはいつもの
「さてさて、今回はどんな力とデメリットがあるんだ?」
人気の無い自然公園へとやって来た俺は、大きな噴水がある中央広場へとやって来て、悪魔の力を解放する準備に入る。
もう既に何度もやってきた事だが、主人公特有のあらゆる場面で活躍できるように、能力管理はかなり大事な事だ。
「ウァサゴの能力は……[過去視]か。へぇ、視認した場所の過去が見れるのか。ラプの[世界関数]とは逆みたいだな」
能力を発動しながら辺りを見渡すと、リスが木に登ってはドングリを蓄えている映像が見える。時と場合にもよるだろうが、中々強い能力だ。探偵になれるね。
「んで、ウァレフォルが[盗人心]…なんだこの悪そうな名前は…」
ウォレフォルの能力である[盗人心]を簡単に言えば、前方にある物を強制的に奪う事が出来る能力。実際に試してみた所、前方5mがいい所だ。鍛えれば範囲も広がるのかも知れないが、かなり近付かないと厳しい為、今の所使い道は無い能力だ。
…拗ねないでくれよ…ウォレフォルが使えないとかそういう意味でじゃないからね…?
「そして3人目のシトリーが[夜之王]…………」
「夜之王」……名前はカッコいいが、その能力は中々最低なモノだ。まず男女問わずに相手の情欲を好きに掻き乱せるのと、まぁ……夜戦(意味深)がとても強くなる…らしい。
よし次!!
「4人目がアミーで[獄炎化]。俺に相性の良さそうな悪魔だな」
赤黒い炎を身に纏う悪魔であるアミーが俺に授けてくれた力は[獄炎化]であり、その能力は体を地獄の炎に変える事が出来るという、シンプル故に強い力だ。
──でも気を付けてね?私の炎は凄く危険だから。
「ッ!!熱ッ……!!」
俺はアミーの忠告に聞いたにも拘わらず、能力の炎によって自身が焼かれてしまった。久し振りにここまての炎に焼かれた……やっぱり焼かれるっていう痛みは慣れないな。
『しかも体の一部を炎に変えるってのが予想を遥かに越えて難しい…!まさか炎になった部分の感覚が無くなるとはな…』
これはかなりの練習と忍耐力がいるようだ。今は時間が無い為、取り敢えず後回しだ。強いけどね。
「そしてブネの能力が[死霊操作]か、興味深いな」
言わずと知れた死者を操る事が出来る能力であり、実質兵力を無限に出来る力だ。無論術者の力量にもよるんだろうが、それでも数人でも操れれば強い筈だ。
「6人目のロノウェが…[友好度]?なんだこれは」
なんだか嫌な予感がしたが、詳しい事をロノウェへと聞いてみると、、
──なぁ~に、能力は単純さ☆相手が自身に抱く友好度を自由自在に操れちゃうんだ☆友達から親友へ!敵から仲間に!なぁ~んて事をあり得ちゃう面白い力なんだぁ~☆
「やっぱ[夜之王]と同格のサイテー能力かよ…っ」
俺がそう言って小さく溜め息を吐くと、シトリーとロノウェから『ブーブーっ!』とブーイングが入るが、当然無視です。
因みにロノウェの口調には触れない。多分アイツのキャラなんだろう。イタいね。
「そしてマルコシアスか」
俺に対して1番に忠誠の言葉を誓った悪魔であり、実に堅実そうな男性悪魔だ。
そんなマルコシアスの能力が[偽装看破]。なんでもありとあらゆる嘘偽りを看破出来る能力らしく、隠蔽魔法や潜伏スキル等々、欺くようなモノは全て否定する能力だ。多分これ透明化されてても分かるんだろうな。
「8人目のヴィネが[千里眼]、か。【Re:ゼロ】のラムの能力が来た…!」
1人興奮しながらも、早速[千里眼]を使用してみる。
暫くして、、
「おぅええええ!!気“持“ち“悪“い“…ッ!!」
術者と波長の合う者の視界を共有できる────のでなく、何と空を自由自在に動ける最強の眼だった。千里どころの話ではない。
だが何故ここまで俺が嘔吐しかけているのか……それは操作が難しく、思うように空の眼が動いてくれずに激しく動き回る。その上視界は完全に[千里眼]の方にリンクしている為、能力発動中は自分の目に戻れないと来たもんだ。
酔う。滅茶苦茶酔う。
「体が浮いてないのに浮遊感が凄くて気持ち悪っ……脳が錯覚してやがる…!このポンコツが…!!」
悔しいがこれは当分ダメだ……使い物に俺が出来ない。悔しい思いと共に、次の能力確認へと入った。
「そしてムルムル……ムルムル?可愛い名前だな…」
──おいお前!!僕の主様だからってそこに触れたら許さないからな!!
何やらムルムル君が怒っている。コンプレックスなのだろうか。
そんなムルムル君が俺に与えた能力が[降霊術]。ブネの能力に似ているが、こっちは死体を操るのではなく魂を召喚し、別の物に宿せるというモノだ。
「これは…ブネとムルムルの能力を合わせたら、実質死者蘇生じゃないか?」
ゾンビか知らんけど[死霊操作]で死体を起こして、[降霊術]で魂を宿らせれば完成やん。しかももう死んでるから死なないし……なんだか越えてはいけないラインの気がする…。極めてなにか生命に対する侮辱を感じた。
「そして最後がフラウロスか」
彼の能力は[炎滅]
その物騒な名前通り、1度燃えた相手を燃え尽きるまで消えない炎へと変えてしまうヤバい能力。
だがそれは俺も同じであり、操作をミスれば逆に俺が永続する炎に焼かれてしまうという危険を孕んでいる。
「火に対する適性がある俺には、アミーもフラウロスも相性いい筈なのに癖が強すぎて使いにくそうだ………やっぱり地道な練習と稽古が必要だな」
新たな能力を把握した俺は、その癖の強い力に翻弄されながらも何とか時間が許す限りの稽古を開始した。
『今回は多分1番ヤバい戦いになる…!少しでも強くならないと……っ。俺が倒して、俺が皆を守るんだ!』
俺は能力を23人もの悪魔の力を全て使いながら、折れてしまった細剣の代わりである有り合わせの細剣で稽古を開始した。
傲慢でいて無謀とも取れる思考と共に、一心不乱に体に無理矢理覚えさせては負荷を掛ける。
「っ……!ぅ………ぐ…っ」
だが23人もの悪魔の力を全て使うには、それなにの代償がある。
今までは吐血や皮膚が裂けるといった症状だったが、今回は吐血は勿論、目や鼻からの出血、平衡感覚の乱れ、激しい吐き気、霞む視界。もはやそれは立っている事も不可能なレベルまでアキラの体を蝕んでいた。
「血が……ヤバいな…」
止まらない血を手で受け止めた俺は、バッグから増血剤と止血薬を投与して、再度稽古を開始した。この場にミル達がいなくて本当に良かった、ただそれだけを思いながら。
アキラには不憫で辛い思いをしていて欲しい願望を最近自覚しました。




