361話:魔災の核
「…っ!4つ目の穴が閉じられた…?流石はアキラだ…!2体目の異形種まで倒してしまうだなんて…!」
残す所2つとなった“魔災“の穴。アキラの方へはベリタスを向かわせたけど、その必要は無かったみたいだ。
やっぱりアキラは凄いや…!なんだかんだ文句を言ってても期待以上の成果を出してくれる!
「チッ……アイツ、生きてやがるのか」
「あはは…そう言わないでやって欲しいな…。アキラはアルカが怨んでいるような人物じゃないよ」
「フン」
アルカは穴を閉じると、そう吐き捨ててさっさとリベルホープへと向かっていく。そんな様子を溜め息を吐きながら、駆け足で追い掛ける。
こうして世界の十二の厄災の1つ、“魔災“は幕を閉じた。
「っ…!!な、なんだ!?」
と……思われた時だった。
突然大地を激しく揺らす地震に、思わず僕は倒れそうになる。突然の地震。活火山などこの辺には無い。だからこそこの揺れは異常なまでの揺れだった。
「コウキ…!何なのこの揺れ───キャっ…!」
「危ないっ!」
この揺れで倒れそうになったシアリーを受け止めた僕は、原因が分からず首を横に振った。
「セレナ!一体何が起こったんだ!?“魔災“は終わったんだよね…?」
「終わった筈だ……だが、上を見ろコウキ…ッ!どうやら“魔災“はまだ終わっていないようだ…ッ!」
セレナは鋭い目付きで上空を見上げている。そこにつられるように目線を向けると、分厚い雲の裏に僅かな影が見える。
「まさか…!嘘だろ…!?」
その影は魔物が生まれ落ちる“魔災“の穴であり、その大きさは今回発生した5つよりも遥かに大きく、軽く10個分の穴のサイズだ。
そして何よりも問題なのがその場所だ。
「よりにもよってリベルホープの上空だなんて…!!くそ…っ!」
僕がそう呟く間も、刻一刻と雲の中から真っ黒の穴が落ちるように姿を現していく。
僕の[危機関知]が激しい警鐘を鳴らす。あの穴の中には、今までに現れた異形種など赤子のようにさえ感じてしまう気配が漂っている。
「間違いなく、この世界に来てから1番の敵…ッ!」
僕達のパーティは、アルカのパーティと共にリベルホープへと急いだ。
□
激しい地震が起こってから数分後。ベリタス達はアキラ達との合流を急いでいた。
『何なんだ!?あの穴は…!“魔災“は終わったんじゃないのか…!?』
ベリタスは上空に出現した穴を警戒しつつ、アキラ達の元へと急ぐ。援軍無しで異形種との戦いをするハメになったアキラ達だ、間違いなく劣勢の筈。そこに上空の穴から追加で魔物が出現すれば、アキラ達の持ち場は崩壊するだろう。
「これは一体……」
だがいざ到着すると、アキラ達は劣勢どころか逆に魔物達を殲滅している。ここは“悪魔宿し“と呼び、嫌悪しているエリオット騎士団長が指揮を取る場所であり、間違いなくリベルホープ騎士団とアキラ達の仲間は協力しないと思っていたんだが…
「ん…?君は確か……ベリタス君、だったよね?」
「あ、ああ……それよりもこれは一体どういう状況だ?見た事ない奴らがいるが…冒険者じゃないよな?」
空中を飛来してやって来た俺は、困惑しながらも着陸すると、アキラが俺の存在に気が付き近付いてきた。若干雰囲気が違っている気がするアキラへと、違和感を持ちつつ声を掛けた。
「ああ、彼らはアキラ君の仲間であり、忠実な部下だよ。皆悪魔なんだけどね」
「悪魔…そうなのか」
アキラは“悪魔宿し“として悪い意味でも有名であり、最近では“悪魔王“などと呼ばれている。人によっては影の英雄だとか言ってる奴もいるらしい。なので特段驚く事は無かったが、確か人間が契約できる悪魔は1体だけじゃなかったか…?
「アキラ、こっちは終わった」
「そうかい。お疲れ様、ミル君」
「ん…?ん」
トテトテとアキラの元へと駆け寄って来たミルさん。アキラの言葉使いが気になったのか、可愛らしく首を傾けたミルさんだったが、コクりと頷いた。
「ミ、ミルさんも無事だったんですね…!良かった…っ」
「ん。皆で協力してなんとか勝てた」
「そうだったんですね…!あっ!そうだ、ミルさんに渡したい物があったんです」
憧れのミルさんに会えた事でテンションが上がった俺は、少し照れながらもとある物を渡す為に[剣神の宝物庫]へと手を入れた。
「おっ、あった!これです!どうぞ!」
「…これは?」
[剣神の宝物庫]から取り出したのは氷のように透き通った薄水色をした細剣であった。
その剣からは強烈な冷気が出ており、その冷気だけでも凍り付いてしまいそうだ。
「これは銀零氷グレイシャヘイル・レプリカ。ミルさんが扱っていた聖剣、銀零氷の模造品ですが、本物に近い力を秘めてます。ミルさんの力にきっとなりますよ。…あの穴を閉じる為の…ッ」
「そうだね。ん、これはありがたく貰っておく。でもいつか、必ず返しに行くね」
ミルさんは1度上空に出来た穴を見ると、そう言い残して言ってしまう。もう少しだけ話したかったなと1人思っていると、ミルさんは足を止めて振り返る。
「ありがとう、大切にする」
「っ……ぁ、はい…!!」
ニコッと微笑んだミルさん。
その瞬間に心臓がドキンとはね上がるのを感じた俺は、顔を赤くしながら何度も頷いた。
「スッッッゲェ可愛い…!」
「ちょっとっ!何鼻の下伸ばしてんのよ!!」
ドスっ!と鈍い音と共にクリンの拳が俺の腹に沈む。なんで怒ってるんだよ…。でもあざとく頬をプクッと膨らませてる。こっちも可愛いなオイ。
「えっと…惚気るのはいいけど、戦いの最中でもそれはやめてくれよ?」
「あ、いやこれは…!」
その様子をずっと見ていたアキラは、やれやれと言った表情でそれだけ言うと、魔物を殲滅し終えた悪魔達の元へと戻って行った。
「なんか…今日のアキラ変じゃないか?」
「そう?でも確かに変よね、いつの間にか白髪に変わってるし」
「いやそこじゃなくてさ…」
「え?」
相変わらずちょっと抜けてるクリンに『いや…もういいや』と言って、俺達もアキラ達の所へと向かうのであった。




