357話:拘束の鎖
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感謝感謝!!(呪詛)
「っ…!急に動きが…っ」
ルナとソルがアスモデウスと一時的な共闘をしている一方、地上のミルは巨大化した怪物を前に苦戦していた。
先程までは何とか動きに付いていけていた。だが巨大化した今、単純ながらも力とスピードが飛躍的に上昇した。とても対峙して倒せるレベルではなくなってしまった。
「っ…!!────うぐっっ…!!」
巨大な怪物の足から繰り出される強烈な蹴りに回避したミルであったが、即座に放たれた拳に対応が僅かに遅れ、受け流しをミスしてしまう。
結果細剣は砕け散り、ミル自身は胸部の骨を数本折るという致命傷を受ける。
「ミル…!しっかりしなさい!」
「ごめ…ん……ローザ…」
「今治すから…![超回復]!」
倒れたミルを、影を移動して来たローザによって、回復と共に怪物から距離を取る。
ローザの[超回復]は折れたあばらさえも容易く治療し、すぐさま立てるレベルにまで回復させた。
「ありがとうローザ。でもあれには…」
「見てたから分かってるわ。赤くなってから押され始めてたものね」
「気付いてたの?」
「当然でしょ?皆が傷を受けてもすぐに治せるように見ていたんだもの」
ローザは少し照れたように、ミルから目線を外してそう言った。そしてすぐさま真剣な目付きに変わり、ミルへと帝月・リベリパトスを差し出した。
「その剣じゃ戦えないでしょ?私の剣を使いなさい」
「え…?でもこれはローザにしか使えない…」
「分かってる。だからこうするの」
そう言うとローザは自身の親指を噛み、少量の血をミルの手の甲へと塗り込む。すると紋章が浮き出る。
「これは…?」
「私の力をほんの少しだけ譲渡したのよ。あんまり渡しすぎると貴女が死んでしまうから、本当に少しだけどね」
「ありがとう。でもローザはどうするの?」
「私はこれがあるもの。問題無いわ」
ローザは周辺に転がる魔物の死骸から流れ出た血を操作して、リベリパトスと同じ形をした血の剣を作り出した。
そしてローザは暴れ狂う怪物を見ながら、小さく溜め息を吐く。
「アキラでも勝てなかったのに勝てるかしら…」
「勝てる。多分、アイツは氷…と言うよりも冷気が苦手みたいだから」
ルナが怪物の弱点を見抜いたように、対峙していたミルもまた怪物の弱点を大体掴んでいた。
だからこそ、辺りに冷気を強くだす剣技ばかり使っていたミルであったが、段々と対応されてる事で与えられるダメージも少なくなってしまった。
「なら私が時間を稼ぐわ。だからミルの大技をお願い」
ミルの大技とは[天牢雪獄]であり、出せば場面をひっくり返せるだけの威力も持つ。その反面出すまでに時間が掛かり、それは大きな隙を生み出す事になる。
それを理解していたローザは、自身に敵意を向けさせる事で時間稼ぎを買って出た。
「分かった…と言いたいけど、とても1人で相手に出来る怪物じゃない…」
「そんなの…分かってるわよ。でもこれ以上被害を広げる訳にはいかないわ。魔物達の様子もおかしいし、早急に倒さなければ此方が全滅してもおかしくないわ」
そう言ってローザは怪物に向けて駆け出した。
その背中を見送ったミルは、静かに精神統一をして剣を構える。空気中の水分は瞬時に凍り、空気を吸えば肺が痛くなる程の冷却が付近の魔物達の苦しめ、次々と倒れていく。
『速く…トドメを刺さないと…!』
ミルは遂に壁を登り始めた魔物達を横目に、[天牢雪獄]を速く放つ為に剣を凍結させていく。
いつも使っている剣とは違うが、それでも準備時間が伸びるどころか、逆に短縮されていくのはミルの才能によるものだろう。
□
「はぁ…!はぁ…っ…!」
ミルの大技が放てるようになるまで、時間稼ぎを買って出たローザは、付近の魔物の影を何度も移動し、怪物の背後を取りながら奇襲を仕掛ける。
『冷気に弱いと言っていたから、熱に反応すると思ったけど予想通りね…!』
ローザには氷魔法が使えないが、闇魔法の上位である影魔法が使えるローザは、熱量を持たず、音さえも出さない斬撃を繰り出して確実に怪物へと傷を増やしていく。
「でも…っ!堅すぎる…!!」
巨大化したせいかは分からないが、ローザの攻撃は奴にとっては切り傷程度のダメージしか与えられていなかった。
戦いが長引くにつれて、付近に大量にいた魔物達も怪物の手によって殺されてしまい、移動できる影も無くなっていく。
「──────!!きゃああああ!!」
とうとう逃げる影先を失ったローザは[黒繭]を素早く展開したものの、その壁はすぐさま砕け、ローザは衝撃波を受けて吹き飛ぶ。
「────────」
吹き飛ばされたローザは、体を起こす前に怪物はもう目の前まで迫っていた。
その瞬間、完全に死を悟ったローザであったが、いつになっても怪物の攻撃は繰り出されない。
懐疑に思ったローザが目を凝らすと、怪物の手足と首に鎖のような物が巻き付けられているのが見えた。
「させねぇーよ…ッ」
その声がしたのは怪物の背後であった。その先には回復したものの、未だボロボロの姿をしたアキラの姿があった。
そしてアキラの足元から生えている無数の鎖が、捻り重なりあって怪物の動きを拘束していた。
「なんで……だってまだ動けるような状態じゃ…っ」
「バカ。仲間が死にそうになってんのに、治療に専念してられっかよ。それに…その役は俺の役だろ?」
そう言ってアキラはニィ…と笑みを浮かべ、鎖を引く動作をする。するとそれに連携するように、地中から生えた鎖が引かれていく。
だが怪物も黙って引かれる筈もなく、太い鎖を腕力だけで握り潰していく。
「なんて馬鹿力だ…!ならこれでどうだ!?」
すると今度は少し離れた四方から、蛇のように鎖をうねらせて、トラバサミが怪物の体に噛み付く。そのトラバサミはまるで生きているかのように、怪物の体を這いながら鋭い刃で肉を噛み切っていく。
「ローザ!ローザも協力してくれ!」
「わ、分かったわ!」
これだけでは倒せないとアキラ自身も分かっているのか、焦りを浮かべた表情で私にそう叫ぶ。
そして私もアキラに続き、付近の魔物や人間から流れ出た血を収束させて、紅の鎖で怪物を縛り上げる。
「これで一先ず抑え込めたわよ…ね?───って…!ちょっと!!しっかりしてよ!ねぇ!」
間違いなく奴はこの拘束を突破してくるだろうが、それでも僅かな安心と束の間。
アキラは塞がった筈の傷後から、再度出血して倒れたのだった。
『体が異常に熱い…!それに傷だって完全に塞がってた筈なのになんで…!?』
ミルが怪物の注意を引いている内に、回復が出来る2匹の悪魔と共にアキラの治癒をした。その際にはなんとか命を繋げられる所まで持っていった。その後は悪魔達に任せたけど、完全に治癒出来る言っていた。同じ回復魔法が使える者として、あの目は悪魔ながらも信用できるモノだった。
それなのになんで…
「ごめん、ローザ……なんでも無いんだ、問題ない」
「なんでないって…!」
「本当に平気だから…!これは一時的なモノだし、少しすればホラな?」
そう言ってアキラは立ち上がるが、足取りはフラフラで、今にも倒れてしまいそうだ。それにこの表情をしている時のアキラは嘘を付いている時であり、それを知らなくても嘘だとバレバレだった。
本当は文句の1つでも言ってやりたい。
だけど、アキラがこうして無理にでも笑っているのは心配掛けさせない為だと分かっている。
だから私は、静かにアキラの袖を掴む事しか出来ない。
しかしその時間もほんの僅かで終わってしまう。
「あんだけグルグル巻きにされたってのに…もう解かれるとかやってられねぇよ…ッ」
凄まじい鉄の擦れる音と共に、縛っていた鎖が激しく弾け飛ぶ。
そして拘束から解かれた怪物は、私達の方へ向くと、その大きな口を限界まで開いて嗤うのであった。




