356話:見抜いた弱点
「お前は…赦さない…!」
今までに見たことが無い速度で連続突きを怪物へと放つミル。その瞳は激しい怒りを帯びながらも、冷徹な瞳であった。
「なぁ姉さん、ミルのあの目って…」
「うん…アキラ君が行方不明になった時と同じくらい暗いね…」
だがミルはまだ冷静をなんとか保っている。それは重傷ながらも、まだアキラが生きている可能性があったからだ。だがもしアキラが既に死んでいたのなら……間違いないなくミルはあの怪物諸共この場一帯を凍結させてしまうだろう。
「凄い…!あの化物の速度に負けてねぇ!」
「それどころか速くなってるわ…!」
残酷なまでにアキラを潰した怪物を相手に、1歩も引かないミルの姿に周りから声が上がる。
ミルが細剣を振るう度に、異常な冷気によって地面は凍結し、空気中の水分は冷やされ雪が降り始める。戦いが長引く程に、ミルが有利な条件へと変わっていく。だがそれでも怪物に決定的なダメージは与えられずにいた。
「…?なんだかあの怪物、動きが遅くなってると言うか、ミルの攻撃に反応出来てなくないか?」
「確かに……変だね…?」
ソルの言葉に、ルナは頷いて思考する。何故アキラが自分の前に常に壁を出して欲しがっていたのかを。
その答えが解れば、あの怪物を倒せる算段が立つかもしれない。
『目の見えない魔物はいっぱいいる……その中でも肉食の魔物は音波だったり、熱を感知したり、臭いで獲物を特定してる…。でもあの怪物には口以外の器官は無いよね……』
完全未確認の魔物の為、魔物についての知識があるルナでさえ全くの情報が無い。だからこそ、1番にアキラがその身を持って探っていたが、今は見るのも辛い程に肉片へとなってしまった。
『……!アキラ君が壁を常に出してくれって言ってたのは、音波で特定されてると考えたから…?だけど結果は壁を貫いて、完全にアキラ君を特定してたって事は違ったって事だよねっ』
なら音で反応しているのではなく、他の何かの筈……。
魔法や人、銃弾には反応するけど、近距離でのアキラ君の剣には反応せずに受けた。
ミルの攻撃は何故か全般通っている。
「────っ…!もしかして……熱…?」
「…?どうしたんだ?姉さん」
「ソル、あの怪物目掛けて撃ってみてっ!」
「え?あ、ああ…分かったよ」
ずっと壁上から戦場を見ていたルナは、1つの仮説を立てると、すぐさまその説が合っているかどうかを確認する為に、ソルに発砲するように言った。
「やっぱり回避するよね…!」
放たれた弾丸は落雷の如き速度で怪物へと向かうが、まるで来るのが分かっていたかのように怪物は回避。そして攻撃元を確認せずに、ミルを筆頭にした悪魔達からの攻撃を異常な速度で回避しながら拳を振るう。
「それならっ![氷冷弾]っ!!」
ルナはソルの弾丸が回避されたのを確認すると、すかさず氷魔法の弾丸を怪物へと放った。
「っ!ビンゴっ!」
パチンっ!と指を鳴らしたルナは、怪物への攻撃に成功した。氷の弾丸は、怪物には見えていなかったかのように見事命中したのであった。
「やっぱり熱だったんだねっ!だからミルちゃんは対等に戦えてるんだっ!」
熱を感知して動いている筈なのに、それでもミルちゃんの攻撃に対応出来ている事に恐怖を抱く。ミルちゃんの元々の体温で対応しているんろうか…
「でも…!仕組みさえ分かっちゃえばこっちのものだよねっ![氷塊]っ!」
弱点さえ分かれば、後は皆が力を会わせればきっと勝てる。今までのように…!
だけど次々と私が放つ大きな氷の塊も、あの怪物は紙一重で回避している。生物特有の危険察知能力だろうか。だけど怪物には見えない氷の塊が壁として動きを制限出来ているから、このままいけば必ず勝てる。
「ソルっ!あっちにいる魔法使いさん達の中に、氷系統の魔法が使える人がいたら協力して貰うように言ってきてくれないっ?」
「分かった。それがアイツの弱点なんだよな?了解!」
ソルはそう言うと、銃を背中に背負って私と同じく壁上にいる魔法使い達の元へと駆け足で向かった。その少し後に、無事に強力を得られたようで、次々と氷魔法が放たれていく。
魔法には産まれ持った適性があり、その上氷魔法は水系統の上位魔法である為に使用者は少ないものの、それでも確実に怪物の邪魔とダメージを負わせられている。
後少し、このまま粘れば勝てるっ!
そう思った矢先に、怪物はアキラ君に重傷を負わせた時と同じく体を赤く染めていき、全身の筋肉を異常に発達させていく。その大きさは成人男性5人程。
そして怪物は1度うずくまるように体を縮ませると、体に突き刺さっていた氷の槍や刃などが全て反射される。全方位への無差別攻撃であり、それは例外無く私の元にまでやって来た。
「おおっと~危なかったなぁ、紙一重ってヤツだ」
「っ…!?なんでここに…っ!」
飛んできた氷の刃から私を守ったのは、最も嫌悪し、この世から消し去りたいと思っている悪魔……“七つの大罪“色欲のアスモデウスであった。
「お前ッ…!!どうやってここに…!いやそれよりも何のつもりだ!!」
私はすぐにアスモデウスから距離を取り、杖を構える。それ同時にソルもこちらに向かってきて、銃口をアスモデウスへと向けて叫ぶ。
アスモデウスはケラケラと笑いながら、手をヒラヒラとまるで抵抗しないと言わんばかりの仕草をわざとらしくする。
「おいおい、折角ルナちゃんを守ってあげたってのにそれはないんじゃねぇーのぉ?仮にも俺、ルナちゃんの恩人なんだぜ?ハハハッ」
「ふざけるのも大概にしろ!!どの口が恩人と語るんだ!!僕達と両親を殺しておきながらッ…!!」
「昔の事じゃないか、いい加減に忘れろよ。なんだっかな……そうそう、過去ばかり見てないで、今を見ろって言うだろ?」
「ふざけるなッッ!!」
悪びれもなく、むしろこちらを挑発するように笑いながらそう言ったアスモデウス。
その言葉に我慢の限界を迎えたソルは、引き金を引いて発砲した。だが弾丸はアスモデウスの体を通り抜け、その後ろにいた魔物の頭に命中した。
「ナイスショット!いい腕してるな」
その言葉と共に背後から出現したアスモデウスは、パチパチと拍手をする。どうやら目の前にいたアスモデウスは幻影だったようだ。
「くっ…!どこにいようが必ず殺してやるッ!」
「待ってソル…!なんだか様子が変だよ…っ!」
素早く背後のアスモデウスへと銃を向けるソル。だが何やら様子がおかしい事に気が付いたルナは、それを1度制止させて周りを見るように言う。
「ルナちゃん正解。どういう訳か、あの化物が巨大化してから魔物達の様子が変わった。何故か今まで以上に荒々しい……てな訳で俺が助けに来たって事。ほら、2人共近接は苦手だろ?」
「誰がお前の手を借りるか…!!」
ソルはそう言うと、懐から2丁の新しい銃を取り出して構える。確かにアスモデウスなんかの手は借りたくはないけど、壁上に続々と魔物達が登って来ている。魔法使いや弓使いばかりの壁上部隊では、とても対処しきれない。
「随分とまあ嫌われたもんだねぇ~…ま、当然と言えば当然か?んじゃ勝手に手助けさせてもらおうか。君達はこんな所で死なれちゃ困るからな」
夢にも思わない援軍に多少思う所はあるが、両親の仇を取る為にも、この場を生き抜かなけれならない。
私とソルは、アスモデウスを警戒しながら迫る魔物達へと応戦した。




