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355話:玩具

まだ仮説ではあるが、奴が敵を特定している方法が音波を出しているのではないかと考えた俺は、奴を倒せる可能性があるルナとリライエの協力を得る為に急ぐ。


『リライエ、俺がアイツの気を引いている内に、出来るだけ沢山の罠を張ってくれ。前にやったトラバサミと同じ物を…!』


──分かりました。何かあるんですよね?ご期待に答えて見せましょう。


俺はルナの元へと急ぐ中、契約した事で繋がっているリライエへとテレパシーを送る。

異常な速度で動く奴の動きを少しでも邪魔する為だ。突然現れ突然噛み付くトラバサミの竜は、恐らくではあるが奴の音波に引っ掛からない筈だ。


「わわわっ!?ビックリしたぁ…どうしたのっ?アキラ君」


「驚かせてごめん。それで早速で悪いんだが、俺を追尾するように俺の目の前に常に壁を出して欲しい」


「えっ?でもそれじゃあアキラ君の邪魔にならない?」


確かに普通に考えればそうだ。まだ奴が音波で感知しているかも、音による反響で動いているかも分からない。何故なら奴に耳が無いから。

だが例えそれが失敗に終わろうが、その結果によって新たな仮説が出来る。


「まだ色々と分からない事が多すぎる……だからこそ試したいんだ」


「よく分からないけど…うんっ!任せてっ!」


ルナが笑顔でそう言ったのを聞くと、俺は壁上から飛び降りて、引力による加速と共に奴へと接近する。

続々と惨殺されていく冒険者や騎士団を横目に、俺は剣を奴の脳天へと突き刺そうとする。


「っ……やっぱりダメか…!」


だか奴は突然上を向き、俺を捕捉した。目が無いと言うのに、嫌な気配をヒシヒシと感じながら防御態勢へと入る。

だが地面が盛り上がり、土の壁が俺と奴を遮った。ルナの魔法が間一髪の所で発動されたようだ。


「[火球(ファイアボール)]!!」


俺は土の壁に向けて火球を飛ばして爆発させる。視界外からの攻撃の検証と共に、奴から距離を取る為にだ。


「喰らった…?だけど今のは反応出来なかったのか、俺の威力がただ弱かったからか避ける必要が無かったのか分からない…っ」


奴に顔が無い為、焦っているかどうかも分からない。そして奴は俺へと視線を1度向けると、またしても冒険者達を狙って殺害を開始した。


「逃がすか!!」


俺は素早く懐から纏雷(ドンナーシュラーク)を取り出し、発砲する。だがレールガンの仕組みで発砲された弾丸は、奴はノールックで回避した。まるで見えていたかのように……


「っ…!分からない…やはり音なのか…!?それとも熱…?空気の揺れ…?クソッ…!!」


俺が特攻のつもりで戦っても、奴は最小限の反撃のみで逃げる。このままじゃ埒が明かない。

俺は体に大きな反動が来るのを承知で、悪魔達の力を強めていく。こうする事で、体から出した悪魔達の能力を使える反面、俺の体は確実に蝕まれていく。いつものような吐血で済めばいいが、これは使えば使う程弊害が大きくなっていく。


「ッ…………」


意識を高め、俺はピンク色の電気で出来た弓を作り出すと、矢にシアンの麟粉と[気配遮断(けはいしゃだん)]で矢を不可視にし、[黒雷(こくらい)][疫病発生(パンデミック)][崩壊(ディケイ)]と攻撃系統の力を全て乗せる。


だがその変わりに、目からは赤い血が流れる始め、内臓が焼かれような激痛が襲う。

体がまるで破壊されていくかのような感覚に襲われながらも、俺は狙いを定める。


「くたばれ化物…!────[一撃必射(いちげきひっしゃ)]ッ!!」


放たれた赤黒い矢は、更に[変則射撃(へんそくしゃげき)]の効果を受けて、周りの魔物や人を避けながらただ真っ直ぐに奴へと向かう。その速度は雷のような速度であり、この1撃で確実に殺す為に俺はこの後に来るであろう反動を全て無視して全力で射た。








「そんな……ッ」


俺の……いや俺達の全てを乗せたまさに必殺技と言える最終兵器。この攻撃で何度も危機的状況を打破してきた。

それなのに……奴はその矢を掴むと、軽々と握り潰した。歴戦の戦士にだって掴めるよう矢じゃなかった。例えどんな魔物だろうが化物だろうが、これで終わらせられるだけの自信はあった。


「あの速度の矢に反応するだと…!?────っ!!」


絶望的な状況でも、気を抜く事は許されない。何故なら奴は俺の方を向くと、体を赤く染めながら全身の筋肉が膨張を開始したからだ。


その次の瞬間、奴は消えた。俺の所に向かってくるのは明白だった為、奴が動く前に空へと飛翔したが、俺の考えは浅すぎた。


「なっ──────」


ルナが放ってくれた何重もの土の壁を、奴は次々と貫きながら走ると、下半身の筋肉を何倍にも膨張させ、飛び上がった。


そして奴は飛翔していたアキラの両足を右手で握り潰すかのように掴むと、そのまま力任せに地上へと投げ飛ばした。


「カッ……ッァ………!ッッ……」


自身に何が起こったのかも理解させないまま、地上へと投げ飛ばされたアキラは、手足を曲げてはいけない方向へと曲げ、内臓が潰れたのか不規則な呼吸をしながら、空気を吸う度に赤黒い血を吐き出す。


もう既に瀕死であった。

それでもアキラに訪れた地獄は終わらなかった。


「……っ……!!っ…!!」


大きな土埃と共にアキラの目の前へと落ちてきた怪物は、歯茎を見せながら大きく笑みを浮かべた。

全身に走る鳥肌と悪寒。逃げようにも手も足も動いてくれない。無い筈の心臓が大きく脈を打っているような気がした。


「ぁ………っ……ぁぁ…」


動けないアキラの両足を掴み、軽々と持ち上げた怪物は、逆さに宙吊りとなったアキラをゲラゲラと不快な声で大きく嗤う。


「貴様ぁぁッ!!我が王を放せッッ!!!」


この場にいる誰もが最悪の事態を予想した中、動いたのはアキラと契約していたラプラスを筆頭にした悪魔達であった。

各々が自身の武器と共に怪物へと掛かるが、それを怪物はアキラを振り回す事で牽制と攻撃をし、アキラはますます血だらけの肉へと変わっていく。


軽はずみに奴に近付けば、守る筈のアキラをますます傷を増やしてしまう。そう悟った悪魔達は、苦虫を噛み潰したような表情と共に攻撃の手を緩めた。

だがそれが不味かった。


「クソ…ッ!クソッ!!」


怪物は悪魔達が攻撃して来ない事をいいことに、まるで玩具を与えられた幼子のようにアキラを地面に叩き付けては持ち上げるという行為を何度も繰り返した。


黙って見ていられるような光景でも、見捨てられるような人物でもない。だが此方が動けば奴は異常な反応速度で動き、アキラを盾にする。

悪魔達は怒りの余り狂ってしまいそうな光景に、拳を血が出る程に握り締めた。



「ゲラゲラゲラ!!!!────ゲ…?」


もはやアキラと分からぬ程に、グチャグチャになっても尚遊び続けながら嗤う怪物は、周りの空気が変わった事に気が付き、その正体へと顔を向ける。


その先には1人の少女がいた。

なんて事無い人間。だが何かを感じ取った怪物は、本能的にゆっくりと一歩後ろへと下がる。

その少女はミルであり、前髪に隠れてその瞳はよく見えない。だがミルの異様な気配に、怪物は自然と戦闘態勢へと入っていた。


そしてミルは冷気が漏れ出る細剣を怪物へと向けると、ただ一言。


「…殺す」


そう小さく呟いたミルの瞳は、見た事も無い程に怒りと憎悪、殺意に取りつかれていた。

ブンブン振り回されるアキラはシュールだな…w

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