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354話:2体目の異業種

異業種は気持ち悪いビジュアルの生物だと思っててください。

「クソッ…!狙い済ましたかのようにやってくれたな…!!」


ルナの強力な火炎魔法によって、目玉の怪物を消滅させたのも束の間。今度はベリタスが“魔災“の穴を潰した事で、またしても穴から異形なる怪物が姿を表した。


その姿を簡単に言うならば筋肉質な人間のようだ。だがその体は鱗のような物に覆われ、目や鼻は無く、唯一口だけが鋭い歯を見せて怪しく笑う。不気味以外の言葉が出ないビジュアルに、俺は自然と奴に剣を向けて構えていた。


『なんだアイツ…!?さっきの目玉よりもずっと強い気配がする…っ!』


目玉の怪物と比べれば、その姿は対して禍々しさは感じず、それらしい武器も持っているようには見えない。もっと言ってしまえば、嗅覚や視力も無い。耳と思わしき物も無い為、口だけで相手を探し出さなければいけない。

だからあの怪物は恐らく弱──────



「…………は…?」


俺は相手の姿を見て、弱点や攻撃手段などを考察していた。勿論油断なんかしていない。ましてや油断をしていても、今の俺には[反応速度Ⅴ]と[反射神経Ⅹ]がある。即座に反応し、動ける筈だった。


「冗談じゃないぞ…!こんなの相手にしろってのかよ…!?」


だが気が付いた時には奴は既にそこに居らず、離れていた筈の冒険者の頭を鷲掴みにし、潰していた。瞬間移動なんかじゃない。それは奴の下半身が異常なまでに筋肉が膨張しているのが何よりの証拠だった。

この場にいる誰も反応出来なかった。それはミルは勿論、13人の悪魔達でさえ反応が遅れていた。


「強さのインフレが急に来るじゃねぇか…!クソ……ッ」


先程まで優勢だったと言うのにここまで露骨なパワーバランスを崩壊させる怪物を作られては、補正の無いこっちは対応しきれない。

それでも戦わなければいけない。どんなに困難な相手でも、俺の夢を叶える為には越えなければいけない相手だ。


「っ……気合いを入れろ…!俺!!」


完全にこの場を異常な強さによって掌握した怪物へと、俺は地面を強く蹴って走る。

奴の攻撃を喰らえば間違いなく即死。だが今は体内に悪魔がいないからこそ特攻に近い行動が取れる。無論死ぬつもりは毛頭無いが。


「シアン!アスモデウス!俺の分身を作れ!!」


俺は奴の攻撃範囲に入る前に、シアンの特性である麟粉による分身と、アスモデウスの幻影で俺の分身を無数に作り出して相手の撹乱する。

目の無い奴がどういった方法で俺達を発見しているかは分からないが、攻撃を分身にするか俺にするかで奴の攻撃判断がある程度掴める。


奴との距離が3mと縮まる。だが依然として奴は動かず、まるで分身に反応していないかのようだ。


「──────ッッ!!!」


そう思考した瞬間、奴は動いた。その拳は目には終えない速度であり、反応すらさせてくれない速度。気が付いたら時にはもう目の前まで迫るような拳。

だが奇跡的にシアンが羽を僅かに動かした事で俺の体は空中でうねり、左肩一帯を丸々吹き飛ばされる形に致命傷を避けられた。


「ガァッ…!?───ああああああッッ!!!」


意識が飛びそうな程の激痛に脳を揺さぶられながらも、俺は右手に握る剣を奴の体に斬りつけた。

グラシャラボラスの力もあり、奴の体を容易く切り裂く事は出来たものの、左肩を吹き飛ばされた弾みで軌道がずれてしまい、奴に与えられたダメージはほんの僅かだった。


「っ…!」


奴を切り裂く為だけに動いた為、受け身など取れる筈も無い。俺は地面に数回転がった後に、回復を任せているマルバスとブエルが近付いてくる。


「ベリト、アスモデウス!!俺の脳を洗脳してくれ…!俺から“痛み“という感情を消すんだ…っ!」


俺はブエル達の治療を受けつつ、相手の脳や精神へと干渉できる2人にそう叫ぶ。

アスモデウスはすぐに理解したかのよう不敵に笑い、逆にベリトは苦行のような顔を浮かべる。


「まぁ…アイボウ君の事だ、今に始まった事じゃ無いからね。別に今更とやかくは言わないさ。アイボウ君もその行いがどういう意味かは分かっているだろうから。でもね…オススメはしないとだけ言っておくよ」


ベリトは少し悲しそうな表情を浮かべてそう言うと、俺の心へと侵入してきた。同時にアスモデウスの気配も体に感じ取り、脳の思考を一部ブロックしたのをその身に感じた。


「アキラ。奴が先程の目よりも強いのは明白だ。私達を1度お前の体に集めるのが得策じゃないか?」


「…いや、駄目だ。このままお前達に魔物の相手をしてもらわなければ、国を守る壁が崩壊する」


俺の視線の先には手薄となった壁を叩く魔物達がいた。今でこそ相手に出来ないと判断したのか、俺に完全に匙を投げたエリオットさん達が魔物の相手をしているが、穴から生まれる魔物達の強さも異常に上がっている。それこそ対応出来るのはミル達のような主人公勢と、圧倒的な力を持つ悪魔達にしか出来ない。


「俺がやらなくちゃいけないんだ」


「っ……有象無象の人間など放っておけばいいものの…!この国の人間はアキラに感謝などしないぞ!?」


「はは…まぁそうだろうね。でも俺は、感謝を求めてこういう事をやってる訳じゃない。俺は自分に挑戦したいんだ。偉業を達成できる主人公になる為に」


俺はマルバスにそう言うと、再生した腕の確認をした後に走り出す。真っ向からの戦いで勝てる相手じゃないのは、アイツが穴から生まれた瞬間から理解した。

だけど、異世界の敵は必ず弱点のような物が存在する。今回のアイツだってきっとそうだ。


あれだけの速度と筋力を誇りながらも、何故俺の攻撃を避ける事も守る事もしなかった?

何故アイツは50近い俺の分身を前に、一切の躊躇無く俺本体に向かって攻撃を仕掛けて来た?

知能が低い訳でもないだろう。ミルやローザの剣撃や、ルナの魔法、そしてアスモデウスやラプ、マルパスなどの戦闘向きの悪魔を避けながらも的確に此方の戦力を潰している。


あれだけの圧倒的な速度と力を持ちながら……何故だ?


「落ち着け、俺…っ」


焦るな。焦らずに正解を導き出せ。

目と鼻が無いアイツが、俺本体を攻撃出来たのはシャチのような音波を出しているからじゃないだろうか。

それなら実体の無い幻覚や麟粉で出来た分身を見抜けたのも説明がつく。


「っ…!!」


だがその仮説通りだったとしても、現状奴に近付ける奴は少ない。精鋭を集め、一篇に攻撃を仕掛けようものなら反撃を誰かが食らう。


「やっぱり一筋縄では行かないか…!」


俺は仲間へと情報の共有と共に、今思い付いた作戦が実行出来そうなルナとリライエの元へと急いだ。

アキラだけの力で倒したいが、能力上そういかせる訳にもいかないというジレンマ。

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