352話:穴から産まれた異形種
「…!なんだよ、今更出てくるのかよ…!」
自分自身に出来る最大限の力で、次々と沸いて出る魔物達を討伐していると、遅れてリベルホープ騎士団と冒険者達が参戦した。
色々と思う所はあるが、今は何よりもこの数に抵抗する為の人手がいる。此方に危害を加えない限り、俺は奴らを無視する事に決めた。
「ッ!」
「ボサっとするな!アキラ!」
騎士団へと視線を向けている間に出来てしまった隙を魔物に突かれてしまうが、それを壁上からソルの狙撃によって助けられる。
俺は感謝の意味を込めてソルへと手を振ると、[部位変化]によって出来た刃で魔物達の喉を次々と切り裂いていく。
「これだけ倒し続けても一向に減らない…!やっぱりあの穴自体を叩かないとダメみたいだな!!」
俺は腕に生成した刃を利用して、そのまま大きな弓を作り上げる。悪魔の数が増えた影響か、或いは俺自身の成長かは分からないが、僅かに弓のサイズが大きくなっている。
そして生成した矢に、次々と[一撃必射][疫病発生][毒操作][崩壊]という攻撃系の力を付与させて全力で“魔災“の穴へと放つ。
「ッ!?」
一直線に突き進んだ矢は、道中の魔物の壁さえもものもとせずに目的の穴へと向かった。
だがその矢が穴の中央に命中すると思われた瞬間、矢はピタリと停止してしまう。
「一体何が……─────!!!!」
停止した矢を懐疑に凝視していると、全身にゾワリと嫌な鳥肌が立つ。その真っ黒い穴には何かがいた。
「あ……ぁぁ、、…!ああ…ぁ……」
蛇に睨まれた蛙……そんな言葉では足りない程の恐怖が俺の全てを支配した。
───死ぬ。間違いなく死んでしまう
脳裏に過るのはその言葉ばかりで、逃げるや戦うという思考は無かった。
──しっかりしなさいよ…![勇気力]…っ!
──呑まれちゃダメよ!アキラ君!![精神治療]!
まるでその穴へと招かれたように、ゆっくりと歩き出した俺の体を止めたのはイポスとブエルであった。
彼女らの助けにより、精神を真っ黒い恐怖で塗り潰された感情が元に戻る。
「何なんだよ…!アレは…!!」
だが強大な恐怖から解放されても、残された感情が全て消える訳じゃない。俺は“魔災“の核でもある真っ黒い穴へと恐怖心を抱いた。
いや少し違う。厳密にはあの穴の中にいる化物にだ、、
──皆お待たせ!予想以上に手こずったけど、北の穴は完全に潰したよ。恐らく残る4つの穴から強力な魔物が出現すると思うけど、何とか倒してほしい。僕達のパーティーは残る穴の援護に向かうよ。
俺の恐怖心を無視して、突然脳内にコウキの声が聞こえた。どうやら向こうは片付いたようだが、今このタイミングでそれは俺に対しての嫌がらせ以外の何物でもないだろう。
「っ…!心の準備も与えずに登場かよ…!!」
バキバキバキ…バキ!とガラスにヒビが入ったかのような音が草原に広がる。
俺の心の準備や体制を整える間を与えずに、穴はどんどん巨大化していく。
そしてその穴からは、全長15mにも及ぶ巨大な目玉が出現した。その目玉の怪物は真っ赤に充血しており、目玉から数を数えるのも困難な程に触手を生やして浮遊している。
「ギイィィユゥゥエエ!!」
「不味い!!」
目玉の怪物は辺りを探るように巨大な目玉を動かすと、1番近くにいた冒険者に向けて触手を高速で向かわせる。
異世界の予備知識もあり、当然嫌な予感を感じ取っていた俺は、冒険者を助けようとするが距離的に間に合わない。
「くっ…![城壁建築][短距離転移]!!」
俺は冒険者が立っている地面をへこませると、即席の掩壕を作って冒険者を落とす。
それと同時進行で付近に転がっている魔物の死骸を、[短距離転移]によって迫る触手の目の前に出現させた。それはあの触手がどういうタイプかを探る為だが……
『毒……いやあれは吸収か。成る程、生物の生命力を吸うタイプの魔物か』
触手が突き刺さった魔物の死骸は、見る見る内に萎んでいき、やがてミイラのように細い物へと変わった。
「栄養を吸った事で目の充血がほんの僅かに収まった……それが奴の行動理由か?」
周りの騎士団達や冒険者達の反応を見るに、あの目玉の怪物はコウキが言っていた未確認の魔物と見て間違い無いだろう。それもグシオンに確認済みだ。
──焦ってはダメだ。君の考察は大変興味深いが情報が無い以上、無闇矢鱈に攻撃を仕掛けるものじゃない。あの人間達のようにな、クゥフフフ…
ある程度の情報を得た俺は、早速攻撃を仕掛けようとした所でグシオンに止められた。だが止めてくれて正解だった。
俺と同じタイミングで動いたリベルホープ騎士団は、団長であるエリオットの合図で攻撃を仕掛けていく。
「ギギギギキキィィィイイ!!!」
だが目玉の怪物は、その体から無数に生える触手によって本体を守る。そしてすぐさま反撃とばかりに触手を高速で動かし、次々と騎士達の体を貫き吸収していく。
鉄などの硬い鉱石で作られている筈の剣でも切断されない程の硬度を持つ触手……まともに受ければ内臓破裂は避けられないだろう。まさに攻防一体の触手という訳か。
「ルナ!!火だ!強烈な火の魔法をアイツにぶつけてくれ!!」
「えっ!?う、うんっ!分かったよっ!」
俺の突然の言葉に動揺していたルナだったが、すぐに状況を理解して魔法の準備の体勢へと入った。
「どうするつもりなの?アキラ」
「目は水で作られてるようなモノだ。あの目玉に直撃させられれば、大ダメージを与えられる…筈だ」
俺にはG○ogle先生のような便利な辞書は無い。だから何故目に火が弱点なのかは明確には知らない。そもそも弱点なのかも知らない。だが、俺は自身が持つ知識に助けられてきている。今回も信じるだけだ。
「それにあんな弱点を表に出してるなんてバカな構造だよ。外的衝撃に弱いんだからな」
最も、あの目玉も触手のように堅くなければの話ではあるが。
「分かった。ならボク達はルナの魔法が直撃するように、触手の切断と注意を引けばいいよね?」
「ああ、それで頼む」
「ん、分かった…!」
お互いに剣を構えるが、この戦場の敵はあの目玉だけじゃない。何千何万といる魔物達も相手にしなければいけない。
「クソ仕様が…!」
魔物を切り裂き、目玉へと接近しようとするが、その度に魔物達が邪魔に入る。
更に追い討ちを掛けるように、魔物達の間を縫って触手までもが迫ってくる。
「魔物が多すぎる…!」
現在ローザ、ソル、シアンが魔物達の相手をしてくれているが、それでも追い付かない程に数が多い。それも全て兵力をあの目玉の怪物に向けているエリオットのせいでもあるが、あの人に何を言っても通じはしないだろう。
「多少危険でも、賭けないとダメだな…!」
魔物の数に押され気味であった為、俺は切りたくはなかったカードを切る事にした。
「頼む皆…!俺に協力してくれ!![悪魔放出]ッ!!」
俺は深い深呼吸の後に、体内に住む悪魔達へとそう叫ぶと、悪魔達全てを放出した。
異形種:コウキが言っていた未確認の魔物であり、それら全てが“魔災“や“次元の裂け目“から産まれる異形な怪物である。
産まれた異形種は何らかの目的の元行動し、その戦闘力は単騎で国が堕ちる程である。




