350話:“魔災“攻撃開始
「現在この国全てを囲むようにして、魔物が集結している。僕が偵察した時点で凡そ10万以上…。更に現在も空間に開いた穴から、上位種や危険指定されている魔物も出現している」
コウキが真剣な顔付きでそう言うと、主人公勢達を除いた仲間達が驚いた表情と声を上げる。
『さてさて始まりましたよ、異世界定番の作戦会議な。果たしてこの作戦会議はちゃんとするパターンなのか、ガバガバな作戦会議なのか、ある意味楽しみだな』
何度も読んできた場面に、実態こうして体験出来ている事が嬉しくて、俺は完全に場違いな笑みを浮かべてしまう。
が、それもすぐの消える。何故なら向かい側でアルカが物凄い形相で睨んでいるからだ。すいませんでした…
『それにしても、魔物が生まれてる穴って“次元の裂け目“と違うのか?』
──いい所に気が付く。現在も時折起こる“次元の裂け目“は、遥か昔に起こった“魔災“の名残だと言われている。“魔災“と“次元の裂け目“の規模の違いは、赤子と大人程違う訳だ。
はえ~そうなんだ。知らなかった。相変わらずグシオンの[知能の本]は凄いな。物知りな悪魔の知識が共有とかこう…!凄いよな!
「それで、その穴は全部でいくつあるんだ?」
「穴の数は合計5つ……だけどこの穴へと直接攻撃をすると、まるで穴を守るかのように5つの穴から上位種、或いは危険指定…最悪Sランクを以上の魔物が出現するんだ…!」
ん?今の言い方だと、穴に攻撃を仕掛けたヤツがいるな……。よし、そいつは戦犯と呼ぼう。
「でも破壊出来ない訳じゃない。1つだけだけど、僕の魔法で穴を消す事に成功してる」
「なら何で俺達を呼んだんだ?それだけならコウキだけでも対応できたんじゃないか?」
穴に攻撃を仕掛けたのお前かよ、っと内心突っ込んでいると、ハジメがもっともな事を言う。確かに消せるなら、こんなド派手なメンツを揃える必要は無かっただろう。
まぁ何かしらの理由で無理だったから呼んだんだろうけどさ。
「うん、確かにそれだけなら僕の方で何とか出来たんだけど…問題はその後だよ。穴を1つでも消されると、他の穴から未確認の魔物が出現するんだ。その時は僕達全員でなんとか倒したんだけど、こっちが受けた被害がとても大きくてね…。とても2つ目の穴を消せるだけの魔力は残っていなかったよ」
成る程……絶対的なチートを持つコウキでも、突破できないのか。その未確認の魔物とやらが気になるな。コウキ達全員で挑んで、やっと勝てる化物……それが全部で4回出てくるのか…。道理でチート集団が呼ばれる訳だ。
「そっか、それで俺にまで救援を求めたって訳か」
「うん。ここのリベル騎士団に任せる事も出来たんだけど、穴を1つ任せるには荷が重すぎると思ってね。わざわざ呼び出して本当にすまない…」
納得のいった俺はそう言葉にして言うと、コウキは申し訳なさそうな顔をして軽く頭を下げる。むしろ俺はありがたいけど、強いて言うならミル達が心配である。まぁ俺より彼女達の方が色んな意味で強いんだけどね。
「いいよいいよ、そんな事で謝んなく─────」
「こんなヤツに頭を下げるんじゃねぇよ。コウキが頭を下げるだけの価値なんか、コイツには無い」
「………」
まぁ…アルカの言い分も分かる。俺と全く同じ姿の奴に国を襲撃され、友達まで殺されたんだ。当然と言えば当然の反応。そもそも俺自体があまり受け入れられてないしな。皆顔には出さないけど、今もこの部屋で好意的なのはコウキとベリタスぐらいだしな。
「……えっと、話を続けるよ。それで穴の場所はそれぞれ北、北西、北東、南西、南東にある。それぞれのパーティーは1ヶ所を受け持ってもらう。それでいいかな?」
僅かな間静まり返ったが、コウキは苦笑いを浮かべた後に、再度真剣な顔に戻ってそう言うと、全員がそれぞれ返事をする。
果たしてこの作戦会議は必要なのか。
何か終わった雰囲気出してるけど、やっぱりガバガバじゃねぇかと感じていると、部屋が大きく揺れて窓ガラスが割れる。どうやら本当に始まるらしい。
にしても話が終わるのを待ってるように揺れたな…。
「どうやら結界が崩壊寸前みたいだね。まだ話したい事はあったんだけど……でも皆ならその場その場での対応ぐらい、余裕だよね」
…は?
「んじゃ俺達は北東に向かおうか」
「俺は南西に向かう」
「なら俺は北西だね」
おい待てぃ(江戸っ子)、同じ髪型のクセに皆一人称俺じゃわかんねぇーよ。こっちはまだコウキの言葉を咀嚼しきれてないんだぞ。
「なら僕は北に。アキラ達は南東を頼むよ」
コウキはそう言うと、他の皆と同じように窓から空を飛んで向かう。
「えぇ……」
全員が当たり前のように空を飛んでいる事に若干引いていると、ミル……は無表情だが、ローザやソルはちゃんと驚いていた。特に魔法に精通してるルナは1番驚いている。
良かった、皆アイツらの非常識さに気が付いてくれて。
□
いち早く魔物を産み出す厄災、“魔災“の本体である穴へと到着したのはコウキだった。彼は昨夜よりも数が増えている魔物を見て、焦りを覚える。
「たった1ヶ所でこの数…!10万、20万じゃ収まらないぞ…!」
昨夜の偵察時ではトータルで10万そこらだった。それだけでも異常と言わざるを得ない数だったが、コウキ達一行が受け持った北エリアだけでも10万を軽く越えていた。
「セレナ!予想を遥かに越える数だ…!だから最初から全力で叩く!」
「分かった。行くぞ────[龍帝同化]!!」
黄緑色の光へと変化したセレナは、コウキの体内へと入り込むと、コウキの体が大きく変化していく。
「ふぅ……一先ず成功だね」
所々に薄黄緑色をした鱗を輝かせ、コウキの右こめかみからは鋭い角が生え、その眼は龍帝であるセレナと同じ瞳に変わった。
「出し惜しみはしない![龍滅波動]!!」
両手を合わせたコウキは、その手を龍の口のようにすると、巨大な龍帝であるセレナのオーラが纏われる。そしてそのオーラを乗せた一撃は、大気を揺らして“魔災“の穴へと放たれた。
「おいおい…こんなにいるなんて聞いてないぞ…!」
[浮遊]を使って空中に浮かぶベリタスは、魔物の数を見て眉間を寄せる。だがぼやいた所でしょうがない。
「こんだけの数に剣は多少相性が悪いが、やるだけやってやるさ。───[剣神の宝物庫]」
ベリタスがそう呟くと、空中に亀裂が入る。その出来た空間には黄金に輝く宝物庫があり、歴史上のみ存在されたとされる王剣、宝剣、神剣、刀が保管されている。
ベリタスが宝物庫から剣を取ったその時、地上にいる何万と越える魔物達が一斉に様々な属性のブレスを放つ。
「まるで統率者でもいるみたいな一斉攻撃だな。だが無駄だ」
ベリタスの持つ能力は[剣神の宝物庫]だけではない。彼が持つもう1つの能力は……
「受けた分をそのまま返すぜ![大反撃]!!」
受けた物理攻撃、魔法等々…ベリタスは受けたダメージを一切受けずに、その威力を何倍にもはね上がって反撃する。
その威力はベリタスから数㎞先まで地面が深く抉れる程の威力である。
「数が多い。が、大した問題でも無いな」
南西に到着したアルカ達は、その数に一瞬驚いたものの、すぐに冷静を取り戻す。
そしてアルカは深く息を吐くと、その体は徐々に大きく変化していく。そして最終的には、50mを越える巨大な龍へと変化した。
「ルーニャ、頼んだ」
「はいっ!神聖なる大防御壁」
龍へと変化したアルカの背中に乗っていた水色髪の少女、ルーニャは、アルカの合図と共に十字架模様に瞳を輝かせ、巨大な防御壁を展開する。その防御壁の中には魔物達もいるが、それは全てアルカが今まさに放とうとしている熱弾からリベルホープを守る為だ。
「消えろ。───[黒龍覇炎]!!」
アルカから放たれた黒い熱弾は、魔物達がいる地上と落ちると、周囲を蒸発させ、魔物達は骨さえも残らない熱量で地面に奈落を作り出した。
「うっわ…」
コウキ、ベリタス、アルカよりも後に到着したハジメは、魔物達の数を見てまずそう呟いた。
そして次に気付いたのは、“魔災“によって生まれた魔物達をテイム出来ない事だ。
「うーん…不味いな。あんまりこれは使いたく無いんだけどなぁ…」
ハジメの持つテイム能力も旅の最中で進化を遂げた。それは洗脳や契約した魔物でさえこちら側に引き入れられる事だ。だがハジメはこの力をあまりいいようには考えていない。
「っ…!だけどそうも言ってられないか…!」
鷲型魔物の背に乗って地上の魔物達を見るのも命懸けだ。向こうからしたらいい的なのだから。
大切なミザリーや、友達のアーニャ達を傷付けさせる訳にはいかない。
「[強制契約]っ!!」
洗脳や支配に近い能力の為嫌っていたが、ハジメは久し振りにこの力を使う。
結果は成功であり、Aランクの魔物を始めとした、危険指定までもがハジメの仲間へと変わる。
「よし行くぞ、皆っ!!」
空からのハジメの合図と共に、仲間となった魔物達は一斉に敵対魔物と“魔災“の穴へと攻撃を開始するのであった。
コウキは絶対的な魔法の威力と無限魔力に加え、全ての魔法知識がある。
ベリタスは空想上の剣限定で召喚する事が出来る。持ち主を選ぶ剣でさえ扱えてしまう。
2つ目の反撃能力は、ベリタスにおよぶ危害に反応して全て相手に返せる。毒も精神攻撃などの見えないモノでさえ反射可能。
どんなに忠誠を誓った相棒でさえ、仲間に引き込める絶対的なテイム。能力の進化によって、魔物だけでなく、生き物ならば全て可能となった。




