345話:伝えたい事
最低ラインが2日だ。それ以上はダメだからな、未来の作者よ!
「おい、アキラ…?お前顔青くないか?」
「え…?あぁ……ちょっと寝不足でさ…はは……」
ミルから猛烈なアタックを受けた翌日、俺はフラフラとした足取りでホテル内にある、宿泊者が自由に使えるカフェのようなスペースに来ていた。勿論コーヒーを飲む為だ。
「何かあったのか?あっ…もしか悪魔の力の副作用とかか?」
「あー、違う違う。心配してくれてサンキュウな」
よく分からない部品をイジっていたソルは、周りの者に悪魔の事を知られぬ為に小声でそう言ってくる。
だが恐らくきっと多分俺と同じく童貞であろうソルには、昨夜の話は実に叡智過ぎる。聞いたら最後、鼻血を出して倒れるだろう。きっと。だから言わない。
「まぁ違うならいいが…。それで?話ってなんなんだ?こんな朝早くから2人で話がしたいだなんて」
「ああ…えっと、だな……その…」
「何だよ、まだ寝ぼけてるのか?舌が回ってないじゃないか」
俺がここにソルを呼び出した理由。それは“色欲“…アスモデウスの件についてだ。
アスモデウスはソルとルナの両親を殺害している。そんな2人は自分達と同じような被害者を出さない為に、“七つの大罪“を追って旅をしている。他の大罪悪魔ならまだしも、アスモデウスは2人の親の仇だ。俺は2人に隠して、アスモデウスと共にしているだなんてこの先旅を出来ない。
『だが…実際こうして話さなければならないのはキツい…』
決して見くびっている訳じゃないが、アスモデウスならば皆で共闘すれば勝てる。今度こそ消せるだろう。
だが今こうしてアスモデウスが生きて、ましてや契約しているのは完全に俺のエゴ。ならば俺が言うのが道理ではある……が、実際簡単には言い出せない。
「その…なんだ、ソルとルナは“七つの大罪“を倒し終えたらどうするんだ?」
「何だよ突然……まぁいいけどさ。そうだなぁー…魔道具についてもっと知りたいし、“科学“という魔法が発達した国、技術国家・セレクレェイションに行ってみようかなってザックリだけど考えてるよ」
技術国家・セレクレェイション…どこかで聞き覚えがある名前だな…はて、どこだったか……
いやそれよりも“科学“という魔法だと…!?このファンタジー世界にそんなモノ持ち込むなよ…本当に何でもアリだな、異世界ってやつは…。
「そんで姉さんは…どうだろ。多分グリモバースに戻って魔術学校の教師でもやるんじゃないか?姉さん昔っから優秀だったから、卒業した後もいまだに教師にならないかって言われてるくらいだし。なんでそんな事聞いたんだ?」
「いや、深い意味は無いよ。ただ…何となくな」
「…?ならアキラは何か無いのか?旅が終わった後の事とかさ」
「後……か」
俺がモタモタしてる内に話が反れ始めたが、改めて考えれば旅=物語が終えたらどうなるんだろうか。この世界は続いていくんだろうか。
俺は物語でしか異世界を知らない。物語には最終回があり、その先の事は語られない。その事に軽い恐怖心を抱くが、何だかんだ文句を言いながらも生きている俺の姿を何となく想像できた。
「まだ俺はそんなに想像つかないな」
「そうか。まあ焦る事は無いよな。ところで、話ってのは今の事だったのか?」
「ん?んー…違うけど、今日はやっぱりいいや。また今度話すよ」
「何だよそれ、気になるじゃないか」
とうとう言い出せなかった俺は、聞き出そうとしてくるソルを軽くあしらいながら、技術国家・セレクレェイションという国について俺は質問してみた。その結果、その国は光学迷彩魔法のいう物で国全体を隠している国らしい。何でも、圧倒的な火力を持つ兵器がゴロゴロあるらしい。かがくのちからってすげー!
……あれ?そう言えば前に俺を助けてくれたリドリーさんがそこ出身だったような…?あってたかな……思い出せないな。
□
「ふっ…!!」
「ッッ!!セリァッア!!」
キンキンキン!!
と、キン太郎で有名なあの擬音よりも鈍い鉄のぶつかる音が辺りに響き渡る。
結局ソル達にアスモデウスの事を告げる事はなく、今はこうしてミルと共に剣の稽古に励んでいる。
「シっ…!」
「うわぁっ!!?」
ミルは俺との距離を一気に詰めると、分身したと錯覚する程の速度で超高速の連続突き放つ。なんだ今の速度…とてもじゃないが捌ききれないぞ…
「ぜ、絶好調だな…」
「ん……でもまだダメ。片腕が無かった期間が長かったせいで、全盛期の5割も勘が戻ってない…」
「うっそだろ……」
数回取りこぼしてしまったが、何とかミルの超高速攻撃を凌いだ俺は、息を荒げながら苦笑いを浮かべる。
それに対してミルはいつも通り平常運転で無表情だが、その表情からは本当に僅かだが、納得していないのが分かる。
「もう少し…いいかな…?あ…勿論疲れたのなら休憩してもいいんだけど…」
「いや?俺は構わないよ。疲れてる時に鍛えれば体力も尽くし、疲労で意識が鈍らない為の訓練になるよ。特にミルの一撃は本当に鋭いからな…当たり所が悪るけりゃ死ぬぜ?」
「ご、ごめん…!」
ミルは戦いの最中って本当にハイになるからヤバい。ミルが細剣を手に持ってる時に睨まれたらまさしく蛇に睨まれた蛙のように動かないもんな……人によってはゾクゾクするんだろうけども。
「ふぅ……うしっ!んじゃ再開しよっか」
「ん、行くよ…!」
水筒の水をグビッと飲んだ俺は、地面に刺していた細剣を引き抜いて構える。それに続いてミルも構えにはいるが、何故こうもポーズが違うように見えるのか……同じ流派ってかミル本人に教えて貰ってる筈なんだが。
そんな疑問はすぐに投げ捨てて、俺とミルは同時に動き出した。今まさに、お互いの剣がぶつかり合う!その時であった。
「アッ、アー!!テンドウアキラ!アキラ!!アーーッ!」
「…!?……カラス…?いや見た目は鳩…だよな?いやこれはキュウカンチョウか…?なんだコイツ」
俺とミルのぶつかり合う瞬間、無謀にもそのヘンテコな鳥は俺達の間を通過したのだ。しかも片言ながらも、しっかりと人間の言葉を発しながら。
「珍しい……九官鳩だ」
知らん。
また知らん生き物が出てきた。なんか珍しそうに見てるけど、俺は全く分からんぞ。
「てか何でこの九官鳩…だったか?は俺の名前を知ってるんだ?」
「九官鳩は珍しい魔物でね?とっても頭が良くて、人の言葉を話せるんだけど、数が凄く少ないの。そんな九官鳩を使役してるのはとっても身分が高い人だと思うよ」
へぇー……まぁ俺は悪い意味で有名人だからな、そりゃ知ってるか。だけどそんなお偉いさんが何の用だろうか。誰かを暗殺してほしいとか?嫌だぜ?そんな汚れ仕事…
「ツタエル!ツタエル!─────やぁ、アキラ。久し振り…って言っても分からないよね。天草光輝って言えば伝わるかな?忘れていたらショックなんだけど…」
「うお!?急に声が変わった!ってコウキってあの魔法お化けのコウキか?」
「ごめんね、こっちは一方通行だからアキラの声は聞こえないんだ」
おっと…!まるで見透かされたように九官鳩に覚えさせた言葉を言われてしまった…恥ずかしいな。
「早速だけど本題に入るよ。今僕がいる国、人類都市・リベルホープが壊滅する予言が出たんだ。他にも頼りになる人はいるけど、それでも勝てるかどうか怪しいんだ…。だからどうか君の力を貸して欲しい…!」
「力を貸して欲しいって……なんで俺がそんな事をしなくちゃいけないんだよ」
いきなり九官鳩とやらを送り付けて、力を貸してくれって…失礼だろうよ。それとも来れないくらいの事情があるんだろうか。まあ何にしろ、“なろう“系主人公のコウキがいるんだし、俺が出てもどうせ役には立てない。
「どうするの?」
「俺なんかが力を貸す程コウキは弱くない。そもそもアイツとは単なる知り合いだしな、わざわざ指名手配されてる俺が出向く理由は無いだろ」
「ん、そうだね。人類都市は人族が総人口の7割を占めてる国だから、アキラが行くには危険」
悪魔という存在は、人間には特に嫌がられるからな。しかもミルの話を聞くに、ガンナード人大陸で最大の国らしい。そんな国を壊滅させるような正真正銘の化物なんか俺が相手になる訳がないだろ。戦うにしても時期尚早だろ、どう考えても。
「それと最後に…もしアキラが協力してくれるなら、お礼としてアキラに掛けられた罪を消せる。ガンナード人大陸限定ではあるけど、アキラが起こしてきたとされる罪を本当にしろ、嘘にしろ無かった事に出来る。どうだろう…返答はそこの九官鳩に頼む。いい答えを待っているよ。それじゃあ、また会えるのを楽しみにしているよ」
九官鳩は最後にそのメッセージを伝えると、奇声を上げる。
やれやれ…面倒だな(主人公)
「本当にズルいよな、主人公ってのはよ…」
俺は1度小さな溜め息吐くと、奇声を上げ続けていた九官鳩の目の前に立ち、コウキに向けてメッセージを覚えさせると、空高くへと羽ばたかせた。
ネタバレ・近々“なろう“系主人公が集結します。
あれ…?どこかで見た事があるような……うっ!頭が…!(スレイヤー)




