344話:イベントだらけの1日
良い意味でも、悪い意味でも。
俺はホテルから歩いて崩壊している街の一部までやって来た。そしてその光景を眺めながら、俺は自分の手を見る。
「怖いな……力ってのは」
あっちこっちに出来たクレーター。半壊した建物。まるで最初から何も無かったかのように、広範囲で荒地が続く風景。賑わっていたであろう街並みはもはや見る影もない。
改めて考えると、こんな風景は日本じゃ震災や津波が起こった時にしか見た事がない。
この荒地を作ってしまった原因は俺だ。
「………」
俺はせめてもの償いの為、[城壁建築]の力を使って荒れていた地面やクレーターを平らな地面へと戻していく。そして同時に[病治癒]を使い、俺が辺りに撒き散らした毒物を中和して消していく。これで疫病が起こる事も無いし、建物だってすぐに再建出来るだろう。
「っ……」
広範囲且つ強力な技を出し合った為、直さなければいけない範囲もまた広い。それだけ力を酷使しなければいけない為、少しだが辛い。
だがそれでも俺は直す手を止めなかった。
「うし……後少しで─────イッ…!」
広かった荒地も漸く平らになり、後少しという所で後頭部に痛みが走った。どうやら後ろから何か硬い物を投げられたようだ。
「君は……」
頭を擦りながら、後ろへと振り返るとそこには小学生程の少年が立っていた。
その瞳には、とても強い憎悪と悲しみを感じる。そんな瞳で少年は俺を睨み付けていた。
「このっ…化け物が!!」
「っ…、ま、待ってくれよ、俺は…!」
少年は目尻に涙を溜めて、そう言いながら力強く石を俺に投げてくる。俺は慌ててそれを止めようとしたのだが、、
「よくも…!よくも俺ん家を…!お前がこんな事しなかったらルーチェは……妹はあんな怪我をしないですんだんだ…!!」
「…!っ……」
投げつけられた石が体に当たる事とはまた違った痛みが心に響く。どうやら俺は戦いの途中で少年の家を破壊し、そのせいで彼の妹が怪我をしてしまったようだ。
『そう…だよな。街中であんな戦いをすれば民間人じゃ皆怪我をするに決まってる……もしかしたら死人だって…』
ここは異世界。ファンタジーだがリアルだ。死ねば復活なんか出来ないし、この先俺が関わらない人にだってその人の人生がある。
この世界の人はNPCなんかじゃない。ちゃんと生きてるんだ。それなのに俺は……
「出てけよ…っ出ていってくれよ……っ」
「………」
先程まで力一杯に投げていた少年は、とうとう涙を堪える事が出来ずに泣き出してしまう。その声が俺の心を苦しめていく。
そんな少年に掛ける言葉などある筈も無く、俺は整地を終えるとそこから逃げるようにして少年の前から立ち去るのであった。
□
「………」
足早に立ち去った俺は、その後何事も無かったかのようにホテルへと戻っていた。
脳内で繰り返されるのはあの少年の言葉。あの表情が俺の心を強く締め上げていく。
「どうしたのよ。顔が真っ青よ?」
「ローザ……いや、何でもないよ。自業自得だしな」
「…?」
重苦しくソファーに腰掛けながら考えていると、いつの間にか部屋にはローザがおり、彼女は壁を軽くノックして存在を知らせる。
ローザは俺の言葉の意味が分からずに少し困惑しているが、何かを察したように俺の肩に手を置いた。
「よく分からないけど、悩んでいるなら相談に乗るわよ?」
「ありがとう、ローザ……いつも親身になってくれて」
「別に……貴方は私の部下で、かっ…!家族みたいなものだもの。それに…アキラが笑顔じゃないと私も嫌だわ」
そう言ったのはいいが、言った後に恥ずかしく感じたのかローザは目線を反らして僅かに頬を赤らめている。
てかまだ家族って表現するのかよ……吸血鬼族だとそういう表現をするのかも…?知らんけど。
「笑顔…か。こんな感じでどう?」
俺は人差し指2本を口に当てて、ニッと口角を上げて笑う。するとローザはどこか引いたような顔付きで俺を見る。
「何よ急に…そういうのはアキラがやっても可愛くないわよ?」
「うるっせ!そんなの俺が1番分かってるわ!」
俺がそう言うと、ローザはおしとやかに口に手を当ててクスクスと笑う。それに釣られる形で俺も笑いだしてしまう。
もしやローザはそれを狙っていたのか…?うーむ、策士だな。
「本当にありがと、ローザ。ローザにはいつも頼ってばかりで男として情けないよ…あはは…。あ、そうだ!ここで───って言うのにはあまり良い所じゃないからあれだけど、お礼をさせてくれ!」
俺は南の枢機卿であるオズロと戦う前に約束した事を思い出した。この国は3分の1が俺のせいで崩壊しているというのもあるが、夜の歓楽街の為、あまりお礼をするには向いていない。
「どこかローザが楽しめる場所がいいんだが……あ、なんだかこれってデートみたいだな…」
「っ…!?」
腕を組んでそう考えながらポツリと呟いた何気ない言葉。その言葉が届いたのか、さっき自分で言った事がまだ恥ずかしいのか、ローザはまた顔を赤く染める。
「俺女の子と一緒に遊ぶのって1度しか無いから、あんまり期待はしないでくれると助かる…」
「はぁ……まぁ、そんな事だろうと思ったわ。アキラって妙に女性慣れしてないしね」
「男慣れしてないローザに言われたくないな」
「なっ…!!」
プルプルと体を震わせながら怒るローザは、あざとい程に俺を強く睨み付けてくる。なんだか今日のローザは一段と可愛らしく見える……まあ元から可愛らしい整った顔付きなんだがな。ヒロインの風格ってヤツだ。
因みに俺が1度だけ女の子と遊んだというのは、ミルとお祭りに行った時の事だ。あれが初めてって情けねぇ…おいアスモデウス!笑ってんじゃねぇよ!!
□
今後の方針を皆で話し合ったその日の夜。俺は早々に風呂に入り、シアンの背中を擦りながら寝かし終えた時だった。
「アキラ…起きてる…?」
「え、ミル?どうしたんだ?こんな夜に…」
部屋の扉がノックされ、出向くとそこにはパジャマ姿のミルがいたのだった。
ミルはしおらしく、どこか落ち着きの無いようにモジモジとしている。
「えっと…その……一緒に寝たい」
「…………え“っ!?」
「ダメ…かな…?」
うわ上目遣いしてくるミル可愛いっ…!てか今俺スッゲェ変な声出しちゃったんだけど!?
いやいやいや待て待て!そんな事より今なんて言った?この人…!
「1人で寝るの…怖くて…」
「そっ…!……そうか。まぁ…ミルがいいなら俺は別に構わないが」
あまり興奮しては俺に変な気があると思われてしまう。だから俺は一瞬上がってしまった声をまるで無かったかのようにして、深呼吸の後に部屋へと招く。
『おいおいおいこれは一体どういう状況だ!?いつもとミルの雰囲気が違うじゃねぇか…!』
時折ミルは俺とこうして寝る事はある。勿論俺は手を出さないが、今日のミルはなんというか色気?がある。風呂上がりのせいだろうか。
「シアンがいるけどいいか?」
「ん、勿論。シアンは真ん中にしよう」
「そうだな」
てな訳で俺が左、シアンが真ん中、そしてミルが右となって1つのベッドに横になる。お高いホテルだからか、ベッドが大きくて助かったな。
「な、何?」
「ううん、別に何でも無いよ。照れてるアキラが可愛いなって」
「~~っ!!?」
横を向くミルは俺の顔を微笑みながら見つめてくる。その瞳はどこか熱いモノを感じる…気がする。そんなミルは俺をからかうようにそう言うと、白い指で俺の頬を撫でる。
初めての感覚。鳥肌とはまた違った感覚が全身を包む。なんだこれは…!?初めての事でわからないぞ!!や、やばい…!脳が追い付かないぞ…!
そんな煩悩に近い思考を巡らせていると、ミルはゆっくりと口を開いた。
「ボクね、少し遠慮してたんだ。片腕が無いから……そんなボクがアキラの横にいたら、変な目で見られるんじゃないかって…」
「そんな事…!」
「ん…アキラは優しいから、そんなの気にしないって言うよね。でもボクが許せなかった…」
ミルは瞳を1度閉じ、そう言い終えると同時に瞳をまた開く。そしてミルは笑顔を浮かべてこう言った。
「でも今は、アキラのお陰でこうしてまたアキラに触れられる。ボクはそれがとっても嬉しいんだ。だからアキラ…今後はもっともっと積極的に攻めるから、覚悟しててね?」
ミルはそう言うと、イタズラっぽい笑みを浮かべてその顔を近付ける。
ミルの柔らかい唇が俺の唇に触れる。
「っっ!?!?」
「ふふっ…!おやすみ、アキラ」
ミルは成功したと言わんばかりの笑みを最後に、そう言って1人寝てしまう。突然の攻撃に、俺は大パニックになるものの、2人が眠るベッドで暴れる訳にもいかずに悶絶する。
『くっ…!シアンの奴、気持ち良さそうにスヤスヤ眠りやがって…!ミルもミルだよ…!突然過ぎるって…!』
可愛いらしい仕草。イタズラな笑み。突然の告白と突然過ぎるキス……
俺の師匠が恋愛強者過ぎる件について。(699円)
その後俺は、ミルの可愛さに悶絶しながら、やがて限界を迎えて気絶するように眠るのであった。
筆が折れないようにガンバラナイト!(防御1800)




