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342話:拳と拳の死合い

3日間休んだのは初めてかもしれない。

「ふん、逃げずに来たか。だがお前の性格を考えれば当然、か」


時刻は酉刻の裏。日本時間なら21時頃だが、この世界ではもう寝静まる頃合いだ。そんな時間でも、人に掛かる迷惑を減らす為に俺はハルパスとの戦いを広い草原を選んだ。


「これは俺自身の強さの証明みたいなもんだ…逃げる訳ないだろ」


俺はいつもの小道具や細剣を無くした軽装で静かに拳を構えながら、ハルパスから一切視線を切らずにそう言った。


「いい眼だ。貪欲なまでに強さを欲するその眼…オレは嫌いじゃない。だが、その心意気だけで勝てる程オレは弱くはない!!」


「ッッ!!」


その言葉と共に、地面を削る勢いで飛び出したハルパスは一切のフェイント無しで真っ直ぐに俺の胸目掛けて拳を放つ。

俺はそれを腕をクロスにし、盾にする事で防ぐと同時に後方へと身軽に飛び下がる。


『っ……たった一撃でこの威力…!魔法やスキル無しでもやっぱり化物だな…ッ』


防いだ両手が痺れてしまう程の威力。逆に折れなかった俺の腕を誉めたい程のハルパスの拳に、俺は冷や汗が止まらない。


「どうした、目に見える程に動揺してやがるな?」


「ハッ…!何、この程度でへばるようなら、はなっからお前みたいな奴を相手に戦ったりなんかしねぇよ!!」


今度は俺がハルパスに飛び込む番だった。

俺は痺れてまともに動かない腕を捨て、素早くハルパスの左側頭部へと回し蹴りを放つ。だがそれを察知したのか、力強く受け止めたハルパスはニヤリと笑う。このまま投げられてしまう前に、俺は脊髄反射の如く体を捻って右足で反対側の頭部を蹴り飛ばす。


「ぅッ…!!まさか瞬時に蹴りを撃ち込んでくるとはな…!」


「マジかよ…!全力で蹴ったってのに、立ってられるくらい意識あんのかよ…!」


フラついた足取りなものの、倒れる気配を全く見せないハルパスに俺は冷や汗と共に苦笑いを思わず浮かべてしまう。これが人間相手なら間違いなくワンキルだったと言うのに…!


「今度はオレがテメェにくれてやるよ!!」


「ッ────!!」


ハルパスは逆立った長い髪をかき上げると、彼女は口元から僅かに流れた血を舌で舐め取ると、狂喜的な笑みを浮かべてそう叫んだ。

その刹那、ハルパスは瞬間移動でもしたかのように俺の懐へと一瞬で入り込む。


「ハッ!!やるな!だが甘ぇ!!」


「ッグ…!!」


この異世界に来てから、鍛えられた俺の勘と視力、反射神経…それらを全て使い、ハルパスのアッパーを捌いた俺であったが、彼女の楽しそうなその声と共に上がるスピードに対応しきれず、俺は顔面にハルパスの重く強い拳がめり込む勢いで決まった。


「っ……まだ…終わってない…!」


だが俺は倒れない。

一瞬意識が飛んだ。と言うよりかは、死んだと思った。だが痛い事、辛い事なら何度も体験してきた。この程度で倒れる程、俺は身も心も弱くはない。


「人間がここまでやれるとはなぁ…!オレも長い間生きてきたが、ここまでタフな奴はそういないぞ!」


「そいつは……嬉しいな…!」


倒れる事も、意識を失う事も無く立ち続けた俺を見たハルパスは、実に嬉しそうな笑みを浮かべて舌舐めずりをする。

すぐにでもハルパスの追撃が来る事は分かっていても、俺はまだ脳が揺れている。依然として意識がハッキリとしていない。

それでも俺は、拳を握り締めて迎え撃つ態勢へと入る。


ハルパスはまだアキラの心が折れていないと分かり、久し振りの拳と拳がぶつかり合うこの死合に喜びを感じていた。

だがその時だった。



「ギィイイシャアアアアア!!!!」


「な、なんだ…!?────くっ…!」


地面から突然出現した、カマキリのような蟲の魔物。その魔物はアキラの背後から、その大きな鎌で切り殺そうと鎌を大きく振るった。


意識がハッキリしていなくても、咄嗟に回避をする事は出来たアキラは、突然現れた魔物に驚きつつも警戒を高めながら拳を構える。


「ハルパスが呼んだ……って訳じゃなさそうだな。お前、そういうの嫌いそうだし」


「当たり前だ。楽しいオレとコイツの死合いを邪魔しやがって……蟲風情が何のつもりだ!!ああッ!?」


怒りを全面に出したハルパスの怒号に、アキラは体を一瞬ビクつかせながらもカマキリ型の魔物から目線を切らない。


『なんだコイツ…急に地面から音もなく現れたぞ…?それに地面からまるでモグラみたいに体を出してる……そういう個体なのか?』


アキラは自身にしては珍しいイレギュラーが起こった事に驚きながらも、ハルパスとの戦いを邪魔された事に少しの怒りを覚える。

だがそれを一旦圧し殺して、アキラ魔物の姿形、武器を観察しては様子を探る。


──アキラ君、この魔物はグラス・マンティスと言う草原に巣くう魔物だ。ワームのように地中を自由に動く事が出来る体を持ち、マンティス特有の大きな鎌に警戒したまえ。


「っ…!ありがとう、グシオン」


彼のスキルである[知能の本インテリジェンスブック]の効果によって、俺はグシオンが所持する知識が勝手に共有される。元々ハルパスとの戦いの為に、悪魔全員の力を切っていたのだが非常時だと判断してか、グシオンが知識を共有された。


「ハルパス…!コイツは────」


「分かってる。気を付けろ、アキラ……どうやらコイツは2匹で1匹のようだ」


ハルパスとの戦いを一時中断し、俺は彼女にヤツの情報を共有しようとすると、ハルパスは俺に背中を合わせて俺も知らない情報を教えてくれた。


「何で………いや、地面を操れるお前だから分かるんだな」


「理解が早くて助かる。余計な茶々入れをしてきたこのクソ蟲を殺す。お前も協力しろ」


「…!ははっ…言われるまでも無いな!」


俺はハルパスに背中を預けながら笑うと、彼女の言った通り2匹目のグラス・マンティスが出現した。

いや、2匹ではなくあれで1匹なのか。


「足を引っ張ったらお前も殺す。いいな?」


「逆にお前が俺に遅れを取るかもよ?」


「ふん…傲慢な奴だ。行くぞ、アキラ」


「ああ!!」





そして数分後。俺は大きく息を切らしながら草原に倒れていた。その近くには撲殺されたグラス・マンティスの死骸があった。


「はぁ……はぁ…はぁ…………っぱ素手じゃキチィ…!」


俺は素手で戦うハルパスに触発され、能力を一切使わずにグラス・マンティスの片割れを倒した。だがやはりインフレが進む世界の魔物相手ではかなり所の話では無かった。

ハルパスのカバーが無ければ、間違いなく俺は大きな傷を負っていただろう。


「いつまでそうして倒れているつもりだ」


「あぁ……ごめん、ちょっとキツくて…あはは……」


「ふん、情けない奴だ。……だが、中々いい動きだった。そこは褒めてやってもいい」


「え!マジで!?」


ハルパスからの思わぬ言葉に、俺は起き上がって喜ぶと、彼女は忌々しそうに舌打ちをして『調子に乗るな雑魚』と俺を強く罵る。


「まだまだ拳の振りも遅い上に鋭さもまだ弱い。だが鍛え上げれば間違いなくお前ならば強くなれるだろう。だからその…なんだ……オレがお前に教えてやってもいい」


ハルパスは雑に自分の頭を掻きむしると、俺に目線を合わせずに手を伸ばしてきた。


「俺はまだまだ強くないたい。だからハルパス、お前の言葉に甘えてもいいか?」


「っ……やけに素直じゃないか。お前の性格だからからかうと思っていたんだが?」


「俺をなんだと思ってるんだ……。まぁなんにせよ、よろしく頼む!ハルパス」


「ふん、オレの方もよろしく頼む」


俺はハルパスの手を掴むと、体に変化を感じる。それは悪魔と契約した瞬間と同じ感覚であった。

色々と問題もあったが、こうして最後にハルパスとの契約を済ませた。

九月に入れば毎日投稿出来る…筈です。

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