340話:偉業を続ける主人公
眠るアキラの体を拭く為に、水の入った桶を持って廊下を歩くローザ。そんな彼女はアキラの眠る部屋の扉を開けると、そこには窓からの景色を眺めているアキラの姿があった。
「…!目覚めていたのね」
「ローザ……うん、ついさっきね。相変わらずの戦闘後の気絶はどうにかしたいけど…はは」
「いつもの事だけど、いい加減やめて欲しいわね。こっちは気が気じゃないわ」
「はは、でも俺が死ぬだなんて思ってないだろ?」
「ふふっ、そうね」
少しお説教を言ってやるつもりだったが、無事に目が覚め、こうして立って話を出来るだけでローザは嬉しかった。
ローザはアキラにベッドへ座るように言うと、桶に入ったタオルを絞る。
「え!?い、いいよ自分で出来るし…!」
「ダメよ。アキラの事だから、怪我をしててもそれを隠すんだから。ほら、つべこべ言わずに背中を向けなさい」
急かすようにそう言うと、アキラは少し恥ずかしそうにしながら服のボタンを外していく。
男のくせに何を恥ずかしがっているのか、そんな言葉を言ってやろうとしたローザであったが、、
『あ、改めて考えると、男性の半裸を見るのはお父様以来ね…っ』
3日間眠ったままだったアキラの体を拭く役目を買って出たローザであったが、こうして目の前にするととても恥ずかしく思う。その手は少しだけ震えている。
『すっごい筋肉……さ、触っても怒られないかしら…?』
「ローザ?どうした?」
「なっ!なんでもないわ!」
「お、おう…?そうか」
背筋へとゆっくり手を伸ばしたローザであったが、突然振り返ったアキラに驚きその手を引っ込める。布越しにアキラの筋肉を感じながら、お互い沈黙のまま体拭きを終えた。
『なんか…えっちぃな、この展開……』
何とも言えない恥ずかしさを感じながらも、アキラは黙ってそんな煩悩な事を考えていた事をローザは知らない。
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「それでローザ、ミルは無事なんだよな…?」
「ええ、一応ね。まだ眠ったままだけど……随分手酷くやられたみたいで、シアンが気絶したミルの体を動かさなければ死んでいてもおかしくなかったわ」
服を着替えた俺は、ミルの安否が気になりローザにそう聞いた。彼女は少し重苦しい表情をしていたが、何とか無事のようだ。
「そうか…シアンもミルも無事で良かった…本当に良かった…」
誰1人欠けるが無かった事に安堵した俺は、胸を撫で下ろす。そしてそのまま部屋の窓から街を静かに眺める。その風景は最悪であり、向こうに見える街並みはもはや廃墟だ。
「戦闘中の事はあまり記憶に無いが、これって俺がやったんだよな?」
「恐らくそうでしょうね。聖道協会との戦闘の跡だけど、向こうはアキラ1人で行った悪事として世間に知らせるでしょうね」
「だよな。はぁ…俺のせいですまない」
俺はローザへ謝罪の言葉を述べながら、追っ手となりそうな存在を考える。まず思い浮かぶのは聖道協会であるが、ここは南の枢機卿を殺され、聖道協会の精鋭も殆ど倒した為準備が整うまでは仕掛けては来ないだろう。
『後考えられるのは悪魔と敵対する存在が手を取る場合だろうか。国同士で手を取り、討伐隊なんか組まれたや数的に厄介だな』
国が総力を上げて討伐しに来るんだ、その連中はミルのような超強い剣士やルナみたいな規格外の魔法使いなんかもいるだろう。
もしかしたら、以前戦った事のある日本からクラスで転移してきた奴とかともまた対峙するかもしれない。
『今後はどんな奴と戦う事になるんだろうか……倒せば倒すほど相手は強くなっていく環境だからな、異世界ってヤツは…』
Sランクの魔物や厄災の十二使徒、そして聖道協会の幹部連中……基本的に異世界はバトル、日常或いは恋愛、そんでもってバトルのループで構成されている。ならば次はもう1度厄災の十二使徒だろうか。時期的に考えてもそろそろ出現してもおかしくないと思うんだが。
そんな事を考えつつ、俺はローザが淹れてくれたハーブティーを啜りながら、この世界の新聞を目に通す。
「はえ~……皆凄いな」
新聞を数枚捲ると、初めて出会った“なろう“系主人公、通称コウキが海上都市・ハルパナという国で危険指定である深海帝・クラーケンを単騎で撃破したそうだ。凄いね。
そして次に3人目に出会った“なろう“系主人公、ハジメは、獣魔帝国・ビストと天翼族の戦争を、神獣・朱雀と共に止めたそうだ。白虎さん、元気かな…
そして最後にミルの祖国で出会ったベリタスは、東の果てにあるニホンという島国で、禍津神を聖剣と邪剣の模造品で倒したらしい。東の島国…やっぱりあったか。なら西には銃と自由の国があるのかな?
その他にも会った事は無いが、コイツ日本人=異世界人だろ、と思えるような凄まじい活躍をしている連中がいた。どんだけこの世界には異世界人が送り込まれてるのやら……そんなにこの世界のボスって強いのか?
「また王の枠が埋まったのね」
「え?王の枠?何それ」
読み終えた新聞をテーブルに置くと、それを見ながらローザはそう呟く。知らない用語が出た為、俺は反射的にローザへと聞き返した。
「あら、アキラならこういう事には詳しいと思ったのだけれど」
「いや、全く知らんな…何なんだ?それ」
「王の枠って言うのは、国を救う程の偉業を達成した英雄に贈られる別名よ。有名なのだと、“龍人王“や“魔術王“とかね。ほら、このベリタスって言う新しい英雄も、“剣神王“の別名が贈られてるわ」
なんだその別名。俺も欲しいじゃないか…!俺なら……“一般王“とか?なんだそれ、いらねぇ…。てかそもそもそこまでの偉業をまだ達成してねぇーし!
『でもまぁ今の話で大体察したな。多分そのなんちゃら王って呼ばれてるのは、きっと異世界人』
「次いでに聞きたいんだけどさ、この世界には勇者とか魔王っていないのか?」
「いる……と言うよりも、いたと言った方が正しいわね。ずっと昔に魔王と勇者が、それぞれ魔族と人族を背負って戦争していたそうよ。でもそれは私のお母様が子供の頃だったらしいけどね」
そう言ってローザは紅茶を優雅に啜る。美しいな…俺と違って品がある飲み方だ。流石吸血鬼族の王族の末裔だな。
俺はなれもしない王の事を捨てて、将来の為にもそういう礼儀作法を習おうかなと考えながら、ローザを真似して優雅に紅茶を啜った。
そしたら気管に入ってむせてしまい、ローザにクスクスと笑われてしまった。チェッ…
名前:天道明星
種族:人族
魔法:[火][小火][火球]
スキル:[剣技Ⅸ][体術Ⅷ][反射神経Ⅹ][投手Ⅵ][脚技Ⅹ][弓術Ⅸ][反応速度Ⅴ][精神耐性Ⅱ][悪魔放出][悪魔同化][部位変化][精神干渉][人操糸][変則射撃][矢生成][気配遮断][一撃必射][完全記憶][世界関数][疫病発生][毒操作][病治癒][城壁建築][罠師][崩壊][闘争心][知能の本][短距離転移][勇気力][再生][精神治療][色欲罪]
加護[治癒の女神・リコスの祝福][大天使・ラミエルの愛]
[闘争心]
アモンとの契約によって手に入れた力。
自身、或いは相手の闘争心を上げる。
自身に使えばある程度の痛みや思考を鈍らせ、相手に使えばヘイトを完全に自身に集める事が出来る。
[知能の本]
グシオンとの契約によって手に入れた力。
グシオンが知る知識を勝手に共有すると同時に、弱点や急所、相性などを瞬時に考えられる力。戦闘途中の演算処理能力が大幅に上がる。
[短距離転移]
バティンとの契約によって手に入れた力。
自分の目が届く範囲限定で、瞬時に転移する事が出来る。連続使用は可能だが、逃走にはあまり向いていない。
[勇気力]
イポスとの契約によって手に入れた力。
自身に大きな勇気と決断力、精神力、気力を与える悪魔にしては珍しいバフスキル。
[再生]
ブエルとの契約によって手に入れた力。
あらゆる傷を癒す事が可能であり、一切の代償無しで必ず再生させる。その再生力は異常であり、他の治癒魔法、治癒スキルを使えば他人の失った体の一部でさえ再生可能。
[精神治療]
同じくブエルとの契約によって手に入れた力。
疲労、ストレス、怒り、恐怖、精神汚染、洗脳等々……精神に関するあらゆる異常を取り除くスキル。ただし、この力はブエル自身が気に入った男にしか与えないし、使わない。




