33話:俺、滅多打ち!
昨日今までで一番閲覧数が多かったです。それでも増えないブックマーク。クッ…!不甲斐ない。
「いらっしゃあ~い♡」
「い、いらっしゃいませ!」
【ニューカマー・ヘブン】に今日も様々な人がやって来る。人族は勿論、獣耳がついた人、逆に獣人だったりと様々だ。
キャバクラやホストみたいなお店ではあるものの、基本は飲み屋だ。No.1のか狙う必要も無いから気楽でいい。
「でさぁ~ホンットそいつが嫌な奴でさぁ」
「そうなんですか…大変なんですね」
「そうなんだよぉ~」
お客さんのお話を聞いて相づちをする。
この店でガチのあっちな人はプーちゃんママだけであり、他の店員は意外とソッチの人じゃない。
故に客もソッチの人が少ない。来るお客さんは、男同士の方が話しやすかったり、単純に友達とか、一緒に呑める人がいない人が来たりする。後は面白がって来てくれる人。
悲しいね。
その後は、皿洗いや清掃などをしてこの日は終了した。
朝から冒険者の仕事してきて、夜はバー。中々キツい。大学生の頃を思い出すな。
─────────
「ねっみ……」
「あら眠そうねぇ。大丈夫?顔面白いわよ?」
次の日の朝、朝食を作ってくれているプーちゃんママに心配される。
因みにプーちゃんママは料理が意外と上手い。
「平気ですっ!体が若いので。あっ…そうだこれ…」
俺は思いだし、ショルダーバッグに入ってる巾着から銀貨1枚を取り出す。
「これ、お世話になってるので…少ないですけど…で、でも冒険者頑張って──」
「いらないわよ、お金なんて。私は好きでこういう事してんだからっ!」
ゾクッ…!
す、好きとはどういった意味だろうか…場合によっては、全力逃走が選択されるのだが…
「頑張ってる若い子を近くで見るのが大好きなのよ、私は。ンフフッ!冒険者だった頃を思い出すわぁ~」
やっぱりな。プーちゃんママは元冒険者だったか。いまだに恐れられてるって事はよっぽどの武勇伝があるんだろうな。怖いから聞かないけど。
「でも──」
「いいから、ねっ?そのお金は冒険者の経費として使いなさい。これ、先輩からのアドバイスっ!」
「……分かりました。でもいつか絶対に、お世話になった分以上に渡しに来ますからね」
「あらっ!楽しみ♡」
「さて、今日はどうすっかなー」
Fランクのクエストが貼ってあるボードを見ながら呟く。別に俺がFランク冒険者だからと言って、上のランクが受けられない訳じゃない。でも【なろう】を読んできた俺なら分かる。
「高ランククエストは下とはだんちだぜ」
ま、パーティーでも組めばいくらか上のを受けても止められないんだけどな。
「ただなぁ…」
チラッとギルド内にいる冒険者を見る。
俺と同じくらいの奴は装備や顔付きで分かる。でも皆パーティー組んでるし、なんかあの輪に入りにくい。なんせ俺の中身は30の男なんだから。あんなキラキラした若い子の中に入るのは…ねぇ?
「1人なら声掛けるんだけど……はぁ」
俺は前と同じように、アドバイザーのミックさんにお勧めを聞いてみる。
「ソロで出来るお勧めクエストってありますか?」
「そう、ですね……あっこれなんてどうでしょう…?」
薪割り代行
適正ランク:F
目的:代わりに薪を割る
報酬:銀貨1枚 小銀貨1枚
「その…アキラさんは[斧熟練]がありますし、効率よく出来るのでは、と……どうでしょう?」
「いいですね、やりま──やらせて貰いますね」
「で、ではここにお名前をお願いします…!」
昨日よりは500円安い仕事だが、スキルがあるから速く終わるだろうし、なによりこういう地味なのをやるのが、ギルドの信用を得られる。後丁寧口調。
って【なろう】に書いてあった。受付嬢の心理描写で。
さてさて、書いてある場所へと薪割りにやって来た俺。【なろう】展開なら、お屋敷とかに到着してお嬢様に気に入られるってのがありがちだが…
「普通の家、だな」
リコティ王国の端にある住宅街。この辺は小さくても庭がある家が多い。到着した家も普通の平屋の家だ。
コンコンコンコンと4回ドアを叩く。
あれ?ノックって2回だっけ、3回だっけ…4回であってるよな…?
「どちら様で?」
「えっと薪割りを…」
出てきたのは普通のご老人。薪を割るのも大変そうな程腰が曲がって杖をついている。
「おお、そうかいそうかい。わざわざこんな所までご苦労だったね」
特に嫌なジジイ!って感じが全くしない人だ。
なんか俺が出会う人は気の良い人が多いな。
「最近どうも腰が痛くてねぇ…もう自分の力じゃ薪も割れんのだよ、はっはっは」
「任せてください!このアキラ、ご期待には答えて見せますよ!」
スキル頼みだが、あれは俺の頑張りで取得したスキルなんだから、これくらい言ってもいいよね。
これはイキりに入るのだろうか…
「では頼んだよ。終わったら教えとくれ、今日は1日家おるから」
「分かりました!」
そう言ってご老人は家の中へと入っていった。
さぁここからが俺のステージだ!
「割って割って割りまくるぞー!おー!」
いつも通りの1人鼓舞。俺を愛し続けるヒロインはいないし、頼れる友達もいない。強いペットもいない。
そろそろ…どれか一枠は来てほしいのだが…
「これじゃキリト君だよ…キリッ!」
──は?
カンッ!っと気持ちのいい音と共に木が真っ二つになる。スキルの影響かどうかわからないが、気持ち効率は上がった気がする。
「それっぽいのが特に無いんだよなぁ……んしょっ!!折角の異世界だってのに……おいしょっ!!」
異世界に来てもう1週間が過ぎたというのに、それらしい魔物はおろか、敵組織もいない。
ヒロインの出逢いもそうだ。街を歩いてても、プラプラ護衛も無しに歩く王族や貴族様はいない。
もうリコティ王国に入ったから、伝説の生き物とかもいない。
「ふぅ……そもそもチートがあって初めて成立するような世界なのになぁ……ハッ!!」
いったい何時になったら目的が出来るのだろうか…。俺のお話が小説になったら、いったい今は何話だろうか…15話くらい?
「15話も行って展開ゼロとかw………ゼロか…」
額の汗を拭って、項垂れる。
薄々勘づいてはいたが、俺…主人公補正は無いのだろうか…
「後…少しか。約束の時間までには間に合うな」
『展開が無いなら起こす!イベントは自分で起こせるんだよぉ!!』
────────
「お疲れ様、茶でも飲んでくかい?」
「いえ、約束がありますので。ご厚意、感謝します」
その後30分程で薪割り終了。
ご老人から1500円頂戴し、この事をギルドに伝えればクエスト完了となる。
玄関まで見送ってくれたご老人に手を振って、俺はギルドへと向かう。
ここからギルドまでそこそこあるから、山へと向かう時間を考えれば丁度いい時間になると思う。
「これにてクエスト完了です!お疲れ様でした!」
何事も無く、無事にギルドに到着。手続きをしてもらったら終了。
すぐにリコティ王国の裏門へ向かい、ミルさんと会った場所へと向かう。
「ん…来たね」
「あれ?時間より早い?」
到着すると、既にミルさんは先にいた。時間に余裕を持って行動してたのだが、待たせてしまったようだ。
「すいません、結構待ちました?」
「ううん、平気。特にすることも無いから」
「そうですか。では今日はよろしくお願いします、先生っ!」
90度の頭下げ。俺の誠意よ、伝われっ!
「先生……気になってたんだけど、何で敬語なの?歳、そんなに変わらないよね?」
「えっ?だって教えて貰うんですし…敬語かなって…」
外見は18歳だけど、中身は30歳の男だよ。先生ってのが気に入らないのか?なら師匠とか?
「敬語…あんまり好きじゃない。ボクと話す時は普通でいいよ、アキラ」
「割と敬語使う時が多いけど…うん、了解した」
満足そうに頷いたミルは、俺に木剣を渡してきた。日本で使ってるような細いのじゃなくて、60㎝程の両刃タイプの木剣だ。これもよく【なろう】とかで見るね。
「まずは打ち合ってみようか。アキラが好きなように打ってきていいよ」
「では──行きますッ!」
右手を上に、左手を下にして木剣を握る。右足を前に出して先制を仕掛ける。
手始めに手の甲を狙ってみるが、即座に反応されて弾かれる。
『ッ……なら…!』
木剣を横にして、ミルの体を狙う。所謂胴打ち。
が、それも反応され木剣を盾にしてガード。そこから反撃が来る。
「ッッ!?」
「…!へぇ…これを反応するんだ」
ミルは手をクルっと回転させ、俺の胴を斜め斬りをしてくる。
それをなんとか、紙一重で防いで弾く。
「はぁ…!はぁ…!──クッ…!」
「いいね、予想以上に楽しいよ」
段々と速くなっていくミルの剣撃。俺はそれ木剣でガードすることしか出来ない。防戦一方だ。
『隙を…隙を突ければ…!』
ガードする中で、ミルの癖とまではいかないが、隙が出来るタイミングを探る。
『ッ!──今ッ!!』
ミルが突きをした後、その後の動作にほんの僅かに時間が出来る。そのタイミングを狙って、ミルの木剣を下へと叩き付ける。
「ダアァァァァ!!」
右足で地面を思いっきり蹴り、前へと進む。狙うはミルの胴体。
反応はされているが、木刀を下に叩き付けられたせいでガードするまでの時間が無い。
その刹那を突いた。
「ッ…!」
俺の木剣はミルのお腹部分へと当たる。
見事ミルから一本を取る事が───
「痛っっっったぁぁぁぁぁ!!?」
「…………」
通り過ぎるように打った俺の一撃。
背を向けた俺の背中に中々強烈な一発を放つ。
「ちょっ!?ちょっと待っ──」
「一撃入れたからと言って……──闘いが終わる訳じゃない…!」
「ちょっと待って──痛っっっ!!?」
確かに真剣勝負ならそうだけど!!俺は剣道しか──いや間違ってるのは俺だけどちょっと待って欲しい!
「待っ!!タイムッ!!タイム!」
「……トドメ」
「痛ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一撃入れられたのがよっぽど悔しかったのか、俺がどんなに言ってもミルは剣撃を止める事はなかった。
この世界に剣道ルールは無いので、一本取っても攻撃が来る。当たり前だよね。




