338話:金色の瞳
今回は短めです。すいません…
「眠る…と言うよりは気絶ですね…」
神・パズズを生き埋めにしたアキラは、まるで糸が切れた人形のように力無く倒れる。その表情は死人そのものであるが、微弱に生命力があるのがラミエルの神眼には見えていた。
「心臓が無いのにどうやって……」
そして同時に今のアキラに心臓が無くなっている事に気が付いていた。人間は通常心臓が無ければ生きてはいけない生物であったと記憶しているラミエルは、神妙な顔付きで倒れたアキラへと近付いていく。
「っ…!これは…」
倒れたアキラの胸に手を当てると、その体はとても冷たかった。本当に死んでいるとでも言うかのように、今のアキラの体は異常なまでに冷たかった。
なら何故アキラが生きているのか。それが分からなかったラミエルだったが、古い記憶の糸を辿って思い返す。
「古文にあった人間と悪魔の同化…?まさかそんな事をある筈が…」
古の本に記されていた“人間と悪魔の同化“
それを行えば最後、人間の精神と肉体は崩壊する……その筈だ。だが今のアキラはどうか。崩壊するどころかこれはもはや順応に近い。早い話がアキラの肉体が悪魔と同じになっている。それなのに精神は天界に来た時と何も変わらない。
『複数の悪魔と契約し、その身に宿す事自体が前例の無い異例だと言うのに……本当に君は何者なの?アキラ…』
現在も進行形で裂けた肉体が自動的に修復されていくその姿を見ながら、ラミエルはそう心で呟く。
それと同時に悲しくも思う。精神が汚されなくても、肉体は刻一刻と悪魔へと変化しているから……
『いずれアキラが心を失くした悪魔と成り果ててしまったら……その時は私が─────』
その時だった。
「この程度で私を殺せたと思ったのですか!?甘い!甘いんですよっ!!」
閉じた地面から神々しい光と共に出現した人間の形をした光。それは先程アキラが倒した筈のパズズであった。
「貴女もです、ラミエル…!従うべき存在である私の言葉を無視し、あろうことか殲滅するのが指名である筈の悪魔に加担した罪は重いぞ…っ!」
「っ…!まさかまだ生きていたなんて…!」
パズズから放たれる圧倒的な神の気をその身に受けたラミエルは、思わず後退りしてしまう。
そしてパズズの光は強くなると共に、その体の面積を大きくしていく。それは大きさはまるで“厄災の十二使徒“であった。
「ここは地上世界ですよ!?そこまでの神力を出すのは規則違反に───」
「規則規則煩いんですよ…!この者は悪魔にすがる事しか出来ない人間の分際で、神である私に歯向かった。神の天敵と言われる“七つの大罪“、“72柱“を引き連れて…!この人間を駆除出来れば、この程度の違反は許される!!」
そう言ってパズズは岩山のような巨大な拳をアキラに向けて放つ。空気が揺れ、大地が悲鳴を上げるようなその拳に、ラミエルは出せる最大威力のシールドを展開するが、それは威力を殺せずに一瞬にして崩壊した。
「今度こそ死になさいっ!!テンドウ・アキラぁぁぁぁ!!!!」
迫るパズズの攻撃から、せめてアキラを守ろうとしたラミエル。だが彼女の動きはまるで時間が止まったかのように停止した。
否。本能が動く事を禁じたのだった。
「………」
ラミエルの目の前には怪物がいた。その怪物は何も発っさずに沈黙のまま、まるで鬱陶しい蝿を払うかのようにパズズの拳を腕丸ごと爆散させた。その化物は大天使であるラミエルでさえ体の震えが止まらず、その化物を視認できない。見た瞬間、自分が死んでしまうという映像が脳内で何度も映し出されていく。
「っ…!遂に正体を表しましたね…!それが貴方の心の奥底にいた存在ですか…!!」
腕を一瞬にして再生不可能な状態にまで追いやられたパズズは忌々しそうにアキラに向けて叫ぶ。だがその言葉はまるでアキラに向けてでは無い。
「いいでしょう…!少々予想外の状況ですが、この程度で私を──────」
パズズはこの区域一帯を全て破壊するつもりで、残る左腕を天高く掲げた瞬間だ。アキラは一瞬にして消え去り、次の瞬間にはパズズの目と鼻の先にまで急接近していた。
───金色の眼光を漏らしながら、、
「金色の眼だと…!?お前…まさか─────」
「アキラ君はもう疲れているんだ。だからこういう茶茶は辞めて欲しいかな」
パズズはアキラの眼の色を見て、とある悪魔の名を言おうとする。だがその前に、アキラは冷たい視線のままパズズの顔に手の平を向けると、凄まじい威力の黒い光線が放たれる。
その光線はパズズに断末魔を上げさせる事無く、首から胸辺りまでを吹き飛ばした。
「神力を使ったパズズ様を1撃で…っ…!」
眩い光を放っていたパズズの体は、灰のように少しずつ崩壊していく。灰が舞う中、空中で天使のような4枚の黒い翼を生やしたアキラは、雲の間から漏れ出た太陽の光を浴びる。その姿はまるで神のようだとラミエルは一瞬ではあるが思ってしまう程に美しかった。
「こんな所で死なれちゃ困るからね。なけなしの力だったけど、アキラ君を守れて良かったよ」
そう言ってアキラはにこやかに微笑むと、その瞳は金色から紅い眼へと変化する。するとアキラから4枚の翼が消え去り、ゆっくりと地上に向けて落ちてくる。
「一体何がどうなっているんでしょう……全く理解が追い付きません…っ」
そんな事を呟きながら、ラミエルは落ちてきたアキラを両腕で受け止める。
突然異様な気配を放ったと思った矢先に、神の力を出したパズズ様を瞬殺した。あれが何だったのかは分からないが、あの瞬間のアキラは本当に美しく、まるで天使のようだった。
「さて、どうしたものですかね…」
ぐったりと眠るアキラと、その近くでは同じように気絶しているユア。そして少し前にバティンと名乗る悪魔から託された薄灰色をした髪色の少女。その3人の対応に困っていると、向こうから不思議な色をした蝶を先頭に、人間…と吸血鬼族のハーフ?らしき人達が走って向かってくる。
『あの子達は確か……アキラのお仲間だったよね?ならアキラとあの子はお仲間に任せるとしょう』
そしてラミエルはアキラの頬に付いた汚れを拭き取ると、倒れているユアを抱き抱えて何処かへと飛び去っていった。
やっと戦いが終わった……戦いの最中は物語が進まないから困ってしまう…話数ばかり増えていくし…(笑)




