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335話:勝てないのなら

「ッッ…!!ガ、……ぁあああ!!」


脳が焼き切れるように熱い。身体中からの発汗が止まらない。視界も歪み、ろくに色さえも分からない。それなのにユアだけは鮮明に見える。まるでそれ以外を見るなと指示されているかのように。


「素晴らしいですよアキラくん…!神の力を前に、ここまで対抗してくるなんて…!アキラくんは私の英雄です!」


「ふざけた事を…!抜かすな…!!」


脳内では、悪魔達とは違う謎の感情によって突き動かされる。ただただ目の前の存在を絶命させよと。

直感ではあるが、この感情に身を委ねたら最後、俺はもう元には戻れない気がした。恐らくアスモデウスが危惧していたのはこの事だろう。


『っ…体がぶっ壊れそうだ…!』


体が引き裂かれているのではと錯覚してしまう程の激痛が全身に走る。だがそれでも俺は攻撃の手を緩めない。いや、緩められないと言った方が正しいだろう。


「ふふっ、凄く…凄くいい表情ですよ、アキラくん。ですが…あの人の事が気になるんですか?私の事をあまり見てくれませんね」


「っ……」


人質に取られているミルの存在だけは、この謎の殺意に呑まれつつも俺の頭の中から抜け落ちてはいなかった。

勿論ミルを助け出す算段は既についている。だがそれを現状実行できる程、ユアは弱くはなかった。


『クソッ……![短距離転移(テレポート)]が使えない…!!』


俺に対して1番爽やかな対応を取ってくれたバティンのスキル、[短距離転移を]は視界の届く範囲で瞬間移動が可能となるスキルだが、その場所に転移するにはある程度の演算が必要だった。

ユアは俺の猛攻を物ともせず、逆に笑顔で真っ白い光線の塊を無数に展開して対応している。少しでもユアから視線を反らそうものなら、次の瞬間には俺の体は重傷を負っているだろう。


『距離を……取らなければ…!』


俺はユアからバックステップで離れるどと同時にハルパスの[城壁建築(キャッスル・テクチャ)]を使用して地面を盛り上がらせ、彼女の視界からコンマ数秒の間消える。

それに続いて俺はアスモデウスの[情欲(ラスト)]の幻影のスキルを使い、俺の分身体を出現&本体をバルバトスの[気配遮断(けはいしゃだん)]で姿を消す。


『バティン…!ミルを頼む…!』


──任せてくれ、アキラ!


俺は更に能力を酷使して、[悪魔放出リリース・ディアボルス]の効果でバティンを体から排出。事前に準備を頼んでいたバティンは、俺の体から出るタイミングとほぼ同時に[短距離転移]でミルを手に乗せるゴーレムへと転移する。


俺の分身が囮となっている間に、バティンの転移が完了した事に嬉しさを覚えるよりも前に、ユアの口からあり得ない言葉が飛び出た。

本当に小さな……キチンと聞いていなければ聞こえないその声量でも、俺の耳にはハッキリと届いた。


「[神之怒(メギド)]」


彼女はまるで俺の位置が分かっているかのように、俺の眼を真っ直ぐに見つめて微笑む。

───その次の瞬間、ユアの回りを飛んでいた白い光の球体から光線を小さくしたレーザーがそこら中に広がった。

次々と俺の分身の脳天をピンポイントで貫いていくその精度と威力に、俺は悪寒と共に体を僅かに捻る。


「────ッ!!」


世界関数(ラプラス)]の予知速度を遥かに上回るその白いレーザーは、俺のこめかみを大きく掠めて通り過ぎる。

紙一重であった。あの瞬間、体を僅かでも捻らなければ、間違いなく俺の脳天はあのレーザーにって貫かれていた。


「どうですか?アキラくん。あの日、旧リンガス王国で初めて使用したこの技を、私なりにアレンジしてみました。これでお揃いですねっ」


頬を赤らめて、本当に恥ずかしそうに、嬉しそうに微笑んだユア。もしこうした場所で出会わなければ惚れてしまうくらいに美しく微笑む。

だが、今は惚気てなんかいられる程優しい状況じゃない。俺は弱い。だからこそ今を生きる事で精一杯だ。


『【転スラ】の[神之怒]とは多少違うが、その威力と精度は本家に引けを取らない火力…っ。そして完全に我が物と出来る才能……チッ…妬ましい限りだな』


悔しいが、本当に天才って存在は実在する。それは異世界だろうと、現実だろうと変わらない。

だからこそ、何の才能も無かった俺は挑もうと思った。天才や力を持つ者に、一泡吹かせてやりたかったから。


「本当に素晴らしい力でした。私を追い込む…とまでは行きませんでしたが、ここまで戦える者はこの世界にはいません。恐らくこの先もずっと現れないでしょうね。だからもう1度言います。アキラくん、私の物になっていただけませんか?」


優しい微笑みを浮かべてそう言ったユアに、俺は小さく鼻で笑う。それはユアに対してじゃない。俺に対して自嘲したのだった。

瀕死状態という訳じゃない。だが目の前のユアの存在に、どうにもやる気が起きなかった。


──絶対に勝てない。


その言葉が脳裏に過ってしまったから。


「………あークソ…やっぱ神を倒すってのは簡単じゃねえんだな。チッ……【魔王学院】でアノスが簡単にやってるから届くと思ったのによ……やっぱ俺じゃ…ダメなんだな」


「そんな事はありません。アキラくんは特別なんです。悪魔を複数宿せる人間などこの世界のどのを探してもアキラくんだけでしょう。アキラくんは特別なんです。世界的に見ても、私としてもね。ですからどうか私を選んでください」


「はは…そうだなぁ……可愛い子に愛されて生きるってのも割りとアリだよな。スローライフってヤツ?美少女とのさ……」


笑いながらそう呟いたアキラは、ゆっくりと立ち上がると、ユアの元へと歩いていく。

そのアキラを見て、喜びを隠せない表情を浮かべるユア。もうすぐ彼が自分だけの物になる。その思考で包まれるユアの手をアキラは掴むと、、




「ならもう1度言おう。────答えはNOだ…![擬似エクスプロージョン]!!」


どこか諦めの表情を浮かべて笑うアキラだが、その眼から光が残っていた。

アキラの体は瞬く間に加熱された鉄のように赤く染まり出し、漏れ出た炎が彼の全身を包み込む。


『離れないと…!!────っ…!?手が…!』


離脱しようにもユアの手を強く握るアキラの手から逃れられない。ユアな脊髄反射のようにアキラの腕を切断する為にレーザーで焼き切るが、切断された面から瞬時に新たな腕が生えてくる。もはや人間のレベルを大きく越えた再生速度に、自身を死を悟る。


そしてアキラを中心にして空の雲をも貫く火柱と共に、半径1キロ以上にも及ぶ大爆発が起こった。





甚大な被害をもたらした大爆発は、街の3割を壊滅へと追いやる。その光景はまさに地獄であり、そこに街の一部があったと知らぬ者が見ても信じはしないだろう。


「…っ……」


そんな大きく空いたクレーター内で、黒い灰から姿を現したのはユアであった。

全身傷と呼ぶには大き過ぎる傷を作り、立っている事もままならない。


「皆が守ってくれたんですね……今までありがとうございました」


ユアの爆発から守ったのは、他でもない彼女の従魔であった。彼らは身を呈してユアを守り抜き、こうして自身と引き換えに彼女の命を繋いだのであった。


「まさか自爆を選ぶなんて……」


完全に予想外だった。

ユアはアキラの事を誰よりも生に執着する人だと思っていたからこそ、反応が遅れた。


「もう……会えないんですね」


今の大爆発によって結界も完全に消滅してしまい、ユアは爆発から守る際に殆どの魔力を使ってしまった為に、自身に傷を僅かしか治癒出来ない。

そんな中、誰に言うでもない悲しい声がポツリと呟く。

すると、、


「っ…!!嘘……ですよね…?」


クレーターの中心地で、黒いナニカが僅かに動いた。そしてその黒いナニカは空中へゆっくりと浮かび上がると、ユアは衝撃の光景を目にした。


その黒いナニカから、それぞれ2本ずつ真っ黒な手足が生えてきたのだった。

その様子を呆然と見ていると、やがてそのナニカは人の形に変化していく。

それが何なのか理解したユアは、嬉しさと同等に畏怖の念を抱く。


「ア……アアァ…………ァァァ…」


そのナニカの正体はアキラであった。

だがその黒い生物は最早アキラでは無い別の生物であった。


異常に発達した脚部に、両腕は獣の爪のような物へと変化し、背中からは軽く数えるだけでも13本の触手……いや、背骨のような物が生えていた。

顔は見えない。塗り潰されたかのように真っ黒なその顔からは、赤黒い光が2つだけ輝いている。


「これが“嫉妬“のアキラ……別名────“悪魔王“ですか…!」

背骨みたいな触手っていいよね…よくない…?


闇落ち紛い、精神不安定、嫉妬、ヘタレ、優柔不断、目ぼしい勝ち星無し、そのくせバトル物、

嘘みたいだろ?これで“なろう“主人公なんだぜ…?

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