332話:護る者がいないのなら
俺の窮地に突如として現れたのは、なんと七大天使の1人、“人徳“を冠する大天使・ラミエルであった。
「なんで…ラミエルが…!」
「…?まさか知らない訳じゃないでしょ?アキラには私の加護を授けたんですから。アキラの状況は随時私に知らされます」
「そうだったのか…」
なんか重い恋人が相手にGPS付けてるのを連想してしまったが、彼女なりに心配しての事だったんだろう。現に今俺はそのお陰で助かっているし。
「悪魔と度重なる契約をした時はヒヤヒヤしましたよ。また悪の道に堕ちたのではないかと心配しました。ですが…どうやらその表情を見るに、心配は無さそうですね」
ふっ…と小さく微笑んだラミエルは、ユアへと黄色い電撃を弾かせた槍を向ける。
ラミエルの背中からは重苦しい雰囲気を感じ取る。もしやラミエルでも苦戦を強いられる相手なんだろうか。
「私は偉大なる天使さんと争うつもりはありません。どうかその槍を下げてはくれませんか?」
「争うつもりは無い?貴方の従魔から放たれる殺気からはとても思えない言葉ですね」
武器を下ろすように言ったユアだが、彼女の目の奥からは確かな敵意と殺意を感じる。当然俺が気が付くレベルの事など、ラミエルの眼にはお見通しだろう。
「ふふっ、そう警戒なさらないでください。そちらが戦う意思を見せなければ、私達も手を出す事はしません。約束しましょう」
「嘘ね。私の“眼“は特別なの。そんな嘘が通じる訳がないでしょ…!」
「眼……成る程、私の威圧を受けても堂々と立っているからもしやと思っていましたが、貴女は最上位の天使なのですね。そして嘘が通じないとなると、“人徳“のラミエルでしょうか?」
「っ…噂通り私達の事は詳しいんですね、神格者ユア・エレジーナ…!」
ラミエルは険しい表情を浮かべながらそう言うと、ユアから微笑みが消える。それと同時に周りを包囲していた推定Aランクの魔物達からの殺気が強くなっていくのを感じた。
「そう、ですね。最上位天使ですものね、私の事も知っていて当然です。ですが私は…────その呼び名が大嫌いです!!」
今までにない声量を上げたユアは、無数の純白の光線を一斉に放つ。先程よりも大きく速い速度の光線を見るに、どうやらユアは本気であの光線を放ったようだ。
「流石は“神に愛された子“と言った所でしょうか…!掴まってください!」
「ぇ……?あ、ちょっ!!?」
ラミエルは俺をお姫様抱っこという体制で軽々と持ち上げると、その背中に生やした大きな翼で舞い上がる。その姿は俺の黒い翼と違って美しい。
「何を赤くなっているんですか。そんなに恥ずかしいですか?」
「は、恥ずかしいだろうよ!兎に角ありがとうな」
俺はラミエルに感謝の言葉を述べると、地上を見下ろす。そこではユアが放った光線が地面を大きく削り取り、複数の建物を貫通していた。
「警告はしてあげます。アキラくんを此方に渡してください」
「それは出来ない相談ですね。貴女からはとても危険なオーラを感じる。アキラに対して歪んだ愛を向けている……あまり人間同士の愛に口を出すつもりは無いけれど、とても貴女に渡せる気配じゃないわ」
地上へと降り立ったラミエルは、俺を下ろすと素早い速度でユアへと攻撃を仕掛ける。
だが俺の攻撃を防いだ時と同じく、ラミエルの槍は通らない。
「神器が通用しない…っ」
「当然です。私は残念な事に神に愛されてしまった身ですからね、同じ神の力を宿したその槍では私には攻撃出来ませんよ」
「っ…!」
ラミエルはあれから更に稽古を積んだのか、アスモデウスの力を引き出していた時の俺と同じような速度で猛攻を仕掛ける。
だがユアは涼しい顔のまま、ラミエルへと微笑みを浮かべている。
「つまらないですね。最上位天使と言っても所詮はその程度ですか」
溜め息混じりにそう言ったユアは、瞳を閉じる。すると俺達を囲っていた魔物の1体がラミエルへと攻撃した。
「ガルルルルッッ…!!」
「シルバール・ウルフですか。それも群れのリーダーである個体ですね。このレベルの魔物まで従魔にしてしまうとは…!末恐ろしいですね」
俺と人質であったミルはもはや蚊帳の外であり、ましてや力を失った俺では戦う事は出来ない。悪魔の力に依存していた事を改めて自覚した俺は、下唇を強く噛み締めながらラミエルが勝つ事を祈る。
だが多勢に無勢。いくらラミエルが強いと言っても、ユアに攻撃は通じず、彼女に仕えている魔物達は皆Aランクに近い化物だ。徐々にラミエルの傷は増えていく一方であった。
「何か……何か俺に出来る事は無いのか…!?」
このままでは大切なミルと、恩人であるラミエルまで失ってしまう。だが無力の俺では“死に戻り“のようなリセットも出来ない、ぶっつけ本番の日々。後戻りは絶対に出来ない。失ったら……最後だ。
「っ…!!そうだ…!アレを使えばもしかしたら勝てるかもしれない…!」
俺はラミエルに1度視線を向けてから、俺が戻ってくるまで彼女が生きている事を願いながら全速力で走り出した。
□
「あっ……アキラくんが行っちゃう…!」
背を向けてどこかへと走り出したアキラに気が付いたユアは彼を止めようと従魔である魔物達に追わせようと指示を出そうとするが、、
「させません!!」
「……鬱陶しい。諦めて下さい、貴女では私に傷1つ付ける事は出来ない。私にはアキラくんに私の想いを分からせる必要があるんです。ですからそこを退いて下さい」
「そういう訳には…はぁ…!はぁ…!いきませんよ…っ![神聖なる雷槍]っ!!」
神器・雷霆ケラウノスから漏れ出てている電撃を槍へと変化させたラミエルは、複数の魔物を対処しながらユアへと電撃の槍を飛ばす。
だがそれさえもユアには届かず、ラミエルは眉を顰める。
「想像以上です…っ。神の加護を持つ者に対して、私はここまで無力とは…」
「…別に私は望んでこの加護を得た訳ではありませんけどね。まぁその話はよしとしましょう。貴女を殺し、早くアキラくんを追わなければなりませんから」
ユアの蒼い眼が僅かに光ると、彼女の回りを飛び交っていた小さな光の球体から再度純白の光線が放たれる。
「っ…![神聖なる盾]っ!!」
複数の光の十字架が重なり合い、それは巨大な盾へと変化する。だがその光の盾に走る亀裂。やがてそれは盾の全体へと回り、盾は粉々に砕け散る。
「カハっ…!!」
威力を僅かに殺せたとはいえ、光線に直撃したラミエルは吹き飛ばされ、額からは赤い血が流れる。
重症。だがそれでも彼女はケラウノスを杖にしてゆっくりと立ち上がった。
「何故そこまでしてアキラくんを守るんです?貴女は天使です。あまり私が言えた事ではありませんが、悪魔を宿している彼を抹消するのが貴女方の役目ではないのですか?」
「確かに…本当ならそう……でも、彼は違う…!他の人間とは違うのよ…!彼は自分の犯した罪を悔やみ、変わった!だから私は…彼が幸せになるまで見届けると決めたのよ…!!」
ラミエルが手に持つケラウノスから漏れ出る電撃が強くなっていく。それを感じ取ったユアは、僅かに警戒心を高める。
「彼は自己犠牲で誰かを守ろうとしてばかりで自分の事は二の次……だから私が護る…!絶対に…!!」
強い意思の宿った瞳でそう叫んだラミエルの神器からは、金色の電撃が弾け出した。
□
「はぁ……はぁ……はぁ…着いた」
全速力で走り続けたアキラが向かったのは貧困街であった。そして彼は路地裏へと入ると、広大な土地がある場所へと到着した。
「これだけ生け贄があれば、きっとアイツに勝てる奴が来てくれる…っ」
アキラの視線の先には、無慈悲に殺戮が行われた聖道協会の聖職者達の死体があった。
アキラはその死体を1つに集めると、素早く魔方陣を描いていく。
「頼む…!俺の出せるモノなら何でもくれてやる…!だからどうか…!俺の声に答えてくれ!!」
すると魔方陣は眩い光を放つと、そこには、、
生け贄召喚




