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331話:狂気的な告白

「どういう…意味だよ…っ」


「ふふっ、やっと私のお話を聞く気になってくれましたね。嬉しいです、アキラくん」


無邪気な子供のように、実に楽しそうに笑う白髪の彼女を前に、俺は体の震えが止まらない。

それでも聞かなければならない。


「説明するよりも見せた方が早いですね。おいで、コンコン」


「……」


彼女は何かを呼ぶと、激しい地響きと共に巨大なゴーレムが落ちてきた。その可愛らしい名前とは裏腹に、殺意を全面に出したかのような禍々しい重装備で施されている。


だがその装備よりも、俺はゴーレムの手に乗る少女に視線を奪われる。その少女は見慣れた軽装のドレスを身に纏っている。

それは紛れもない俺の大切な人である、ミルであった。


「ふふっ…!いい顔をしてくれますね、アキラくん。その悲観と絶望の顔……それだけで彼女を生かしておいた甲斐がありました…!」


「お前…ッ!!」


頬を赤らめながら嬉しそうにそう言った少女に、俺は激昂と共に細剣を抜剣した。

悪魔の力が無いだとか、絶対に勝てない相手だの関係無い。必ずミルを取り返す。そう決意した俺は、自分が出せる最高の速度で動こうとした。


「止まってください、アキラくん。分かっているのですか?彼女の生殺与奪の権利は私が握っている……あまり安易な考えで行動を起こさない方がいいですよ」


「ッ……」


だが動こうとした瞬間、彼女からは有無を言わせぬ殺意を向けられ、俺の体は意思とは裏腹に萎縮してしまい動かない。まるで蛇に睨まれた蛙のように、俺はその場から動けなかった。


「いい子です。たまにこうして威圧しても、動いてしまうおバカさんがいるので心配しました。アキラくんが賢い人で私は嬉しいですよ」


そう言った彼女は、殺意を剥き出しにした目線から一転して慈悲に溢れた表情で俺を褒める。だがその言葉は、俺を小馬鹿にして煽っているようにしか聞こえなかった。

だがここで動く事は許されない。動いたら最後、彼女は忠告無しでミルをゴーレムの手によって、圧死させる事が目に見えていたからだ。


「お…お前は何なんだよ…っ」


恐怖に震えながらも、俺はそれを振り払うようにしてそう言った。すると彼女はハッとした表情を浮かべると、ニコッの微笑んでスカートの先を軽く摘まみ、優雅にお辞儀をする。


「ごめんなさい、アキラくん。貴方に会えた事が嬉しい余り、自己紹介を忘れてしまいました……こほん、私の名前はユア・エレジーナ。こう見てましても北の聖道協会にて、枢機卿に担っています。今後ともお見知り置きを、アキラくん」


彼女ことユアはそう優雅に名を名乗ると、あざとく微笑んだ。





「何が今後ともお見知り置きをだ…!要するにお前は俺を殺しに来たんだろ…!?ならミルは関係無い!頼むから解放してくれ…!」


自身をユアと名乗った少女は聖道協会の者だった。ならば用があるのは俺であり、ミルは単なるエサだと分かった俺は、すぐにミルの解放を願う。


「うふふっ、そんな泣きそうな顔をして私を興奮させないでください。うっかり彼女を殺してしまいそうです」


「っ…!」


だが彼女は解放する気が無いのか、俺の顔から一切目線を反らさずに凝視を続けてそう言った。そして段々とその表情は歪んだモノへと変わり、目の奥に僅かな狂気を感じた。


『不味いぞ…このままじゃミルを人質にされて俺は戦う事も、ミルを助ける事も出来なくなる…っ。そもそも話が通じているかさえ怪しい…』


「お前は俺を殺しに来たんだろ!?だったらミルを解放してくれ!その代わり、俺は一切お前に危害を加えるような事をしないと…約束する…」


自分を犠牲にしてミルを解放するように願う。もし解放されたのなら、俺は危害を加えない。だがミルと共に逃げる。

これが通ってくれれば……チャンスがあるかもしれない。


「アキラくん…貴方は少し誤解をしています。いいですか?まず私は貴方を殺したいだなんて思っていませんよ?だってアキラくんが好きなんですもの」


「………………は…?」


突然の脈略の無い告白に、俺は数秒脳内が真っ白になった後に全身に鳥肌が立つ。それに対して彼女は『きゃっ、言ってしまいました…!』と小さく呟いて、恥ずかしそうに身をよじっている。


『……なんなんだコイツは…。話が全く通じないじない…』


彼女に対しての恐怖心が段々と肥大化していく。俺が彼女に好かれる理由が無ければ、勿論異世界人である俺とは面識などある筈が無い。

それだと言うのに、彼女は俺を好きだと言った。恋愛物で稀に見るモノではあるが、実際に対峙すると恐怖で震えが止まらない。


「ふ……ふざけるなよ…!!気味の悪い女が…!」


本能が俺に告げている。あの女と関わってはいけないと。

俺は彼女の威圧感と、狂気を感じられる笑みから逃げるように、今の俺に唯一勇気をくれる細剣を彼女に向けた。


「…私の一世一代の告白なのに剣を向けるなんて酷いです…。でもそんな所も好きですよ、アキラくん」


「っ…!!お前に君付けで呼ばれる筋合いは無い!!戯れ言を言ってないで俺と戦え!!」


コイツの話を───いや、()()()()()()()()()頭がクラクラしてくる。彼女の言葉が正しいと、間違っていないと感じてくる。これは恐らく俺の精神状態がおかしくなった事が原因……ならば剣に全てを乗せて、俺は戦うだけだ。


「本当に…私と戦うつもりですか?」


残念そうに彼女がそう小さくと、先程の殺意に近いモノが全身に突き刺さる。それだけじゃない。多方面からも貫くような殺意が全身に向けられている。何者かに俺は包囲されている……


『ダメだ…勝てるビジョンが浮かばない…。どうすればいい…?彼女の好意を受け入れればいいのか…?そうすれば俺もミルも助かる……?そうだ、最初からそうすれば──────』





「────ああああああああッッ!!!!」


俺は絶叫と共に地面へと額をぶつける。

頭が地面に埋る勢いでぶつけた事で、額が割れて赤い血が額から垂れてくる。

───だがそのお陰で()()()()()()


「魅了…に近い何かを使ったな?」


「…………ふふっ、うふふふっ!流石ですね、アキラくん。流石は様々な偉業を成し遂げた影の英雄なだけあります。本当に面白い御方ですね」


いつの間にか俺は彼女に魅了されていたようだ。僅かに残った自意識と培った記憶が無ければ、今頃俺は彼女の手中に堕ちていただろう。


「上っ面な言葉はもういい。……俺の全力をぶつける…!」


「本心なのですがね…。ですがアキラくん、貴方も分かっている筈です。貴方では私に、()()に勝てないと」


「それはどうかな…?窮鼠猫を噛むって言葉もあるくらいだ。人間っての窮地になると、予想だにしない力を出せるもんなんだよ。…俺はお前に勝つぞ…っ。この身に…代えてもなッ!!」


「勇気と蛮勇は違うんですよ?アキラくん」


俺が動き出すと同時に彼女の指先から放たれる純白の光線。その光線をこの異世界で培ってきた力で、紙一重の所で回避する。


「っ…。流石はアキラくん、主力である悪魔がいなくてもこの程度では倒せませんか」


驚いた表情を浮かべたユアだったが、それも一瞬であった。光線を回避したアキラの剣が彼女に届く寸前で、ユアは小さな笑みを浮かべた。


「なッ…!!」


「ですが……それでは届きませんよ」


アキラの渾身の一撃は、見えない壁によってユアに届く事は無かった。

だがこの程度で諦める事は無いアキラは、剣先から出せる最大火力の魔法を放とうとする。


「ふふっ、可愛らしい魔法ですね。ですが少し発動が遅いですよ」


ユアは魔法を放とうとしたアキラに向けて、そう助言すると同時にアキラを斥力魔法を放つ。

ダメージは無いが、アキラは無防備な空中へと放り出されてしまう。


『しまった…!』


「チェックメイト、ですね。アキラくん」


最後まで微笑みを浮かべたまま、ユアは両手をアキラへと向けて純白の光線を放った。悪魔の力を抑えられた今、翼の無いアキラは空中では回避は不可能であった。

直撃する。脳裏に過るその言葉に、アキラは強く歯を噛み締める。













「全く…貴方と言う人は本当に目が話せないですね」


その言葉と同時に、アキラと光線の間に割って入った人物はユアの光線を上へと反らすと、そこに純白の光の柱が上がる。


「どちら様…と言うのは無粋ですね。お初お目に掛かります、天使さん」


「…私は貴女を知っていますがね、ユアさん」


アキラを守ったの大天使であるウリエルであった。彼女はユアへと複雑な表情を浮かべながら、背後のアキラを守るようにして雷霆ケラウノスをユアへと向けると、黄色の電撃を発動させた。

こんな美少女に告白されちゃうなんて…やったねアキラ!まるで“なろう“主人公だよ!



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