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330話:狂気

投稿せずに本当すいませんでした…

ブックマーク減ってないか、ヒヤヒヤしました。

「……はい、ローザ」


「…ありがとう」


オズロを偉大なる先輩の技で葬った俺は、数回息を整えた後に帝月(みかづき)・リベリパトスを引き抜いてローザへと手渡す。

何か言いたげな彼女から顔を背けた俺は、ミルとシアンがいるであろう場所へと向かおうとした時だった。


「っ………」


まるで脳が揺れたかのように、一瞬意識が飛び掛けた。だがすぐに踏ん張りを効かせた俺は、もう1度深い深呼吸をして歩き出す。


「本当に平気なのよね…?今のアキラ…凄い怖い顔してるわよ…」


「平気……とは言えないかな。あはは…でも平気!自分で言うのもなんだけど、結構死線をくぐってきたつもりだしね。まだまだ死なないさ」


「今はそんな事を聞いてるんじゃないわよ…っ」


「え?」


ローザの言葉の意味を理解できなかった俺は、間抜けな声と共にローザの顔を見ると、彼女は悲しい顔をしていた。


「貴方の性格上、自分で自分を止められないのは分かってる…。だからこそ私が貴方のストッパーになるつもり。……本当にお願いだから、もう少しだけ自分を大切にして…」


そう言ってローザは俺の胸に手を当てると、赤黒い光が放たれる。すると俺の傷などが全て高速で癒える。


「ルナ達と合流して、早くミルの所に向かいましょう。なんだか嫌な予感がするわ…」


「大丈夫だろ、ミルとシアンだし。…って呑気に言える程甘い相手じゃないからな……うん、急ごう」


俺はそう言うと、手から電気の球体を飛ばして結界を生成する魔方陣の一部を破壊し、2人と合流する為に走り出した。





そして暫くミルがいる方向へと走っていると、ルナとソルの姿が見えてきた。元気にピョンピョン跳ねているルナと、辛そうな表情で立っているソルが目に入る。


「ごめん、遅れた」


「ううんっ!全然!2人とも無事で良かったよっ!」


そう言ってニコニコと笑みを浮かべるルナとは反対に、ソルは肩を擦っている。


「ソル、やっぱりお前が威力を上げて撃つにはキツかったんじゃないか?肩痛むんだろ」


「別にこれくらいなんともないさ。あの男に1発攻撃出来ただけでも上々さ」


あの時、ルナからの脳内に直接声を掛けていた。その内容とは、10秒後に体を反らして欲しいとの事だった。

まさかとは思ったが、意味はすぐに理解出来た為体を反らしたが…やはりソルがペネトレイトの最高威力で発砲したようだ。


「全くもうっ!ソルは無茶するんだから!」


「ア、アキラ程じゃ無いだろ!」


「そこに俺を出すなよ」


全くもってその通りだから何も言えないじゃないか。


そんなやり取りをしつつ、ルナは再度ソルへと治癒魔法を施して上げると、少し良くなったのかソルは肩を数回回す。


「うん、取り敢えず平気だ」


「よし、じゃあ急ごう」


そしてソルの状態も良くなった事で、計4人で巨大な氷の柱が出来ている場所へと急ぐ。

そんな中、先程ローザが言っていた嫌な予感がすると言う言葉が頭を過る。


『まさかそんな……ミルとシアンがいて負けるだなんてあり得ないだろ…』


世界のインフレは進み続けている。そんな中でもミル、ローザ、ソル、シアンはそれぞれ1度以上の“成長“が起こっている。

ミルなら聖剣、ローザは吸血鬼の女王に、ソルはSランクの魔物にダメージを与えられる銃、シアンは擬人化と共に2つの強力な力等々……

その中でもミルは特に強い。現在聖剣と利き腕である右腕を失っても尚、最前線で戦える上に俺よりも強い。そんな彼女が負けるだろうか……俺に想像が出来ない。


『だけど…あの氷の柱がある場所から戦闘音が聴こえなくなって暫く立つ……』


ツゥ…と嫌な汗が頬を伝う。

そんな中でも、心拍音が鳴らないこの体では、耳にまで聞こえてくる焦りは無い。

だが体に再度ピンク色の電気が走る。心臓は鳴らなくても、焦っているのは確かなようだ。


「ごめん、皆…!嫌な予感がするから先に行く!」


一部結界を生成する魔方陣を破壊したとは言え、この結界内での活動時間は残り厳しい。

焦る気持ちに煽られた俺は、翼を大きく広げてピンクのプラズマを纏うと、皆よりも先にミルの元へと急いだ。





「寒いな…」


巨大な氷の柱に近付くにつれ、温度が下がっていくのを感じる。そして空中から辺りの様子を窺うが、やはり戦っているようには見えない。


「本当に嫌な予感が的中したとかやめてくれよ…!」


俺は小さく溢すと、ミルとシアンの無事を祈る。だが祈っていても、俺には神様は答えてくれない。だから自力で探す必要がある。


「落ち着け……要は魔法の応用だ。皆やってる事だ、難しい事じゃない…っ」


俺は自分に言い聞かせるようにそう言うと、全身に纏っているプラズマを小さく、そして広大に広げる為に思考を練っていく。

簡単に言ってしまえば電磁波による空間把握……だがその言葉のように、簡単に出来るかと言われれば否だ。


──チッ、まどろっこしい奴だ。一旦体を貸せ、お前のやりたい事は分かったから俺が代わりにやってやるよ。


中々成功しない俺に、アスモデウスは舌打ちと共に体の所有権を求める。時間も限られている為、俺は黙って彼に体を明け渡す。


「────ふぅ~…表に出てくんのは久々だなぁ。さてと、微弱な電磁波による空間把握ねぇ~…よくもまぁ色々と思い付くやつだ。まあそこがアキラの面白い所なんだがなぁ」


漫画や小説で見た事がある為、別に自分で考えた訳じゃないのだが、別に言う必要も無いから黙っていると、アスモデウスは体から漏電するプラズマを一切無駄なく広げていく。


「建物に何人かいるがぁ…こりゃあ違げぇよな?となると……あっちの方角─────ッ!!?」


突然表情を変えたアスモデウスは、雷のような速度で何かを回避した。俺の[世界関数(ラプラス)]にも反応が無かった事を考えるに、予知を越える速度の攻撃を受けたようだ。


「あのクソアマがぁ…!くくくっ…!面白いじゃねぇか、おい!!」


一瞬怒りの表情を浮かべたアスモデウスだったが、すぐに好戦的な笑みと共に猛スピードで攻撃元へと飛行する。

そして目的の場所に到着したアスモデウスは、砂埃と共に着地する。


「よぉ…!いい腕してるじゃねぇか、お嬢さんよぉ…!俺と遊ぼうぜぇ?」


「軽く撃墜されるだけのつもりでしたが……成る程。今の精神はアキラくんでは無いのですね…残念です…」


攻撃を放ったと思わしき白髪ショートのロリとも取れる少女に、アスモデウスは実に嬉しそうな笑みを浮かべている。

それに対して白髪の少女は残念そうにそう呟くと、アスモデウスをまるでゴミでも見るかのような冷たい視線を送る。


「気持ちの悪い笑みですね、死んでください」


冷たい視線のまま、ニコッと可愛らしく笑った少女。その次の瞬間眩い光が俺の体の全てを包み込んだ。


「ふふっ、初めましてですね、アキラくん」


「ッッ……!……あれ…生きてる…?」


完全に死んだと思った。

だが俺の体には一切の傷は無く、ただの目眩ましだったのかと思考する─────前に体の異変に気が付いた。


「皆…?おい皆!!?」


体内から悪魔全員の反応が消えた。

繋がりはとても僅かではあるものの、感じてはいる。だがそれも乏しい。まるで瀕死状態だ。


「……何をした…!?」


「ふふっ、そんなに怖い顔をなさらないで下さい。アキラくんとお話をする為に、邪魔な存在を消しただけです。でもどうぞご安心を。ギリギリ殺さないようにはしましたから」


そう言ってクスクスと笑う彼女に、俺はとてつもない恐怖を感じた。一瞬にしてアスモデウスを始めとした強力な悪魔達を瀕死へと追いやった彼女。その気配はどこかで感じた事がある…!


「───…!お前…っまさか神か…!?」


シルフィールにて、“憤怒“の因子を宿したあの時に出会した神ヤハウェと同じような気配を僅かに感じた。


「ふふふっ!本当にアキラくんは私を楽しませてくれますね」


何がそんなに面白いのかも分からない笑いに、俺はまた一層恐怖する。


『なんなんだよコイツ…!人間なのか…!?』


その圧倒的なオーラを前にしているからか、はたまた信頼できる悪魔達を失った事が原因か、それとも両方か……俺は体が震えてしまう程に、目の前の少女に恐怖心を抱いていた。


「悪魔の力を一時的とは言え消しましたから、これで結界の中でもお話出来ますね。沢山お話しましょう?例えば…ふふっ、()()()()()()()()()()()()()()()()


無い筈の心臓を鷲掴みされたかのような感覚が体を襲う。全身から嫌な汗が止まらない。

そんな状態の俺を前、彼女はまたしても嬉しそうに笑う。まるでイタズラに成功した子供のように、無邪気に笑い続けた。

悪魔の力を抑えられたら、心臓が無いアキラ死ぬんじゃないか…?

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