328話:紅の鎖
体ヘトヘト侍(?)
雰囲気が大きく変わったローザと共に、俺はオズロと魔導人形を倒すべく走る。
先程の煽り……いや、イキりが効いたのか、オズロは怒りの表情を浮かべている。
「その顔が見たかった…!余裕が崩れたお前のその顔がなァ!!」
「っ…!相変わらずの突撃ですか。まるで猪ですね、何も学習していない」
[城壁建築]で自由自在に足場を生成した俺は、魔力の籠められたリングの力を借りながら、その火力に押される形でオズロを切り裂こうとする。
だがやはりオズロを守護するこの魔導人形の反応速度は桁違いであり、身を呈して防がれる。
オズロは俺の猪突猛進ながらも、迫力のある一撃に防がれると分かっていても一瞬表情を強張られせる。先程まで余裕の表情を浮かべていたあのオズロの変わりように、俺は内心微笑む。
「腹を貫かれた代わりにお前の剣を破壊しておいて良かった!どうする?拳で戦うか?その時はお前の敗けだぜ?」
白黒の魔導人形が持っていた2本の巨大な剣を破壊した今、この魔導人形に反撃の術はもはや手足しか無い。
魔導人形の強さは認めるが、武術と脚技で俺が負けるビジョンは全くと言っていい程見えない。
「仕方ありませんね。こうなった以上、私も前線に出るとしましょう」
魔導人形がアキラの細剣を受け止めている間に、少し距離を取っていたオズロはそう小さく呟くと、風魔法によって浮かび上がる。
そしてオズロは次元に小さな穴を開けると、そこから1本の黒剣を取り出した。
その剣は黒い鞘に黒い刀身。血のように紅いラインと、金色の装飾がされた高貴でなんとも厨二チックな長剣であった。
「そんな…!っ……あの男…!どこまで私を愚弄すれば気が済むと言うの!?」
オズロが取り出した長剣を見るや否や、ローザは練っていた魔力を解いて、怒りの表情と共に空中のオズロを睨み付ける。
「どうした、ローザ」
オズロへと視線が向いてしまったローザの隙を狙われる事を危惧した俺は、魔導人形から距離を取ってローザへと駆け寄りそう問う。
「あの剣は帝月・リベリパトス……ランカスター家の家宝であり、代々当主だけが持つ事を許される魔剣……っ」
怒りを何とか押し殺しながら、そう説明したローザの肩は震えていた。
オズロがその剣を持つ意味、それはローザの父を殺して奪ったという事だ。
大切だったであろう父親の形見と言ってもいい物を、殺した本人が持っている。そしてそれをこの戦いで使用する……どうやらオズロは中々性格が腐っているようだ。
「魔導人形も中々のクソだが……はぁ…成る程、犬は飼い主に似るとはよく言ったものだな。丁寧口調ではあるが、性格の悪さが見え隠れしてやがる」
長剣を見つめていたオズロを俺もローザ同様に睨み付けると、視線に気が付いたのかオズロは俺の目を真っ直ぐと見て微笑する。
「大丈夫だ、ローザ。今の俺達ならあんな奴に負けない!そうだろ?」
「ええ…勿論よ…!」
「んっ、ならそんな顔すんなって。大丈夫だ、俺が絶対に取り返して見せるからよ!」
怒りに支配されては、判断力が大きく落ちる。小賢しく、ナメた手を打ってくるアイツらにはその行動は思う壺だ。
だから俺はニカッと笑い、ローザに深呼吸をさせる。
「ごめんなさい…冷静になれたわ。ありがとう」
「ん、了解。ほんじゃローザ、援護頼むぜ!」
「任せなさい!」
そう言った俺は、雷鳴の如く一瞬にして魔導人形との距離を詰めると、そのまま回転回し蹴りを魔導人形の首への放つ。勿論[崩壊]の効果を付与させ、同時に[毒操作]の効果も追加し、酸性の毒を足に纏う。
「チィ…!こうも簡単にかわされるか…!」
その巨体からは考えもしないような速度で回避した魔導人形は、反撃とばかりに俺の顔面に向けて大きな拳を放つ。
だがアスモデウスの電圧を上げた今から、その拳も目で追える。
「~~ッッ…!!」
だが俺はその拳をあえて顔面で受け止めた。
俺の攻撃が避けられてしまうのなら、相手の攻撃を受けたその瞬間に破壊すればいい。そう目論んだ俺の作戦は見事成功し、魔導人形の右手甲に大きなヒビを入れる事に成功した。
『痛……鼻の骨がイったな…』
吹き飛ばされた俺は自身で鼻の骨を治し、態勢をすぐさま立て直す。
魔導人形は予想だにしない攻撃方法に驚いたのか、吹き飛ばされた俺を追撃せずに自身の右拳を見つめていた。
『痛い事ならいくらだって我慢できる…!この方法なら勝てるぞ…!─────!!?』
そう内心喜ぶ俺だったが、その瞬間に脳内に映し出された映像に身が凍った。
その映像、[世界関数]では俺の体が切断されていた。瞬時に体を反らしたが、、
「っ…!アキラ!!」
態勢を崩した俺は、ローザに背中を支えられた事で倒れずに済む。
だが今の攻撃で俺の右腕はまたしても切断されてしまった。
『さっきくっ付けたのが甘かったのか…?……いや、今の一撃はそんなやわなモノじゃなかったぞ…!』
脳内で映し出された映像では、俺は黒い斬撃によって即死していた。それだけの威力を放つのは、上空で微笑むあの男だけだ。
「流石は化物、今のをかわしますか。ですが次はどうでしょう?回避出来るでしょうか!?」
口角を大きく上げたオズロは、その言葉と同時に長剣を一振りする。するとその斬撃は無数に分裂し、まるで光を奪う影のように漆黒の刃が俺達を襲う。
「ッ…!!」
すぐさま俺は[城壁建築]によって分厚く堅牢城壁を造り上げたが、それは一瞬にして崩壊する。
回避の為に、俺は翼を利用して空へとローザと共に逃げようとしたその時だった。
「任せて。私も貴方に守られっぱなしは嫌だもの」
ローザは無謀にも俺の前に出ると、そう言って微笑む。すると彼女は俺の腕から溢れ落ちた血を操作して、紅の鎖を造り上げる。
そして血で生成された鎖を操作し、円形に俺達を囲む。
「マジかよ…!」
紅の鎖はなんと[城壁建築]を容易く突破した漆黒の斬撃を全て受け止め、中にいる俺達に一切の傷を作る事無く守りきった。
「バカな!いくら吸血鬼族の王族の娘とは言え、ランカスター家の宝剣だぞ…!?防げる筈が…!」
「貴方はバカなのかしら?私の家系の宝剣なのよ?王族の血が流れている私の力の前では、リベリパトスは無意味よ。それに…貴方如きの腕ではその剣は本当の意味では扱えない。その剣が認めた者でないとね」
「く、くぅ…!!」
悔しそうに歯を食い縛るオズロとは反対に、感情を抑えたローザはオズロをゴミでも見るかのような視線を向ける。
そしてその目付きのまま魔導人形へと視線を向けると、紅い鎖をまるで生きているかのように自由自在に操作すると、魔導人形を捕縛しようとする。それを察知した魔導人形は高速で移動し逃げるが、まるで相手の次の一手が分かっているかのように鎖を動かしたローザは、魔導人形の手足を拘束する事に成功した。
「さ、アキラ。早くこのうっとしい人形を破壊してしまいなさい」
「あ、ああ。ありがとう、ローザ」
女王としての威圧感を放つローザが、俺があんなに苦戦していた魔導人形を軽々と捕獲した事に少し呆気に取られながらも、『これもインフレの影響か』と納得して、魔導人形の胸をへと腕を突き刺した。
「そ、そんな……バカなぁああ…!!?わ、私の最高傑作が……おのれ…許さんぞ貴様ら!!」
「許さない…?許さないですって…?ふさけないで!許さないのは私の方よ!!お父様の剣が貴方なんかの手にあるだけでも不快だと言うのに…っ」
遂に激昂したローザはそう叫ぶと、その鎖をまるで手足のように操作する。その鎖からも伝わってくる程に、ローザの怒りを感じた。
「貴方を倒し、お父様の剣を取り返す。簡単に死ねるとは思わない事ね」
鎖っていいよね……よくない?
アキラは悪魔
ミルは聖剣と氷と無表情
ローザは吸血鬼と王族と血や影(厨二の盛り合わせ)
ソルはゴテゴテした銃
ルナは──???
全部私の趣味だ!いいだろう?




