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326話:作戦決行

アキラ達が姿を消した事で、静かになった街中。遠くからしていた爆音も既にしなくなった事から、オズロは向こうでも戦いが終わったのだと理解する。


「どの道、この結界からは逃れられない。私を中心とした魔方陣を消すまでは…ね」


オズロは静かに微笑むと、直立している魔導人形へと視線を向けた。

魔導人形は動く気配は無いが、どこから奇襲されても対応できるように気を張っている。我ながら完璧な魔導人形を造れたと笑みを溢すオズロ。



「っ!」


だがその時、突然魔導人形が動き出した。そして1本となった剣を素早く動かすと、魔導人形は紅い矢を剣で弾いた。

この矢の色に見覚えがあったオズロは、すぐに状況を把握して微笑む。


「逃げたと思いましたが……随分復帰が早いのですね。かくれんぼはもう終わりですか?」


「ほんとお前のその口調と笑みが大嫌いだよ…!」


「おや?それは奇遇ですね、私も同じ事を考えておりました」


屋根の上にその姿を現したアキラに、オズロは冷たい嫌悪の視線を浮かべたまま微笑む。

だがその笑みとは裏腹に、内心ではアキラの腕が再生してい事に焦りを感じていた。


『やはり情報通り再生するようですね。そして気配をまるで感じなかった事も……やはり危険ですね』


この結界がある限り、結界内部で聖道協会に所属する者は魔力切れが起こらない上に、傷もある程度即座に修復されていく。

だがオズロは何か嫌な予感を感じていた。


『戦いの最中で成長していく……ふふっ、まるで英雄譚に出てくる英雄ですね。目の前のアレはそんな高貴なモノではありませんが…』


戦いの最中で段々と力が上がっていくアキラに、オズロは警戒していた。状況も戦況も此方が有利な筈なのに、オズロはその嫌な予感に苛まれる。

だから、オズロはこの場でアキラを殺しきる事を決めた。それは聖道協会としてではなく、魔族を狩る一族としての勘が彼を騒ぎ立てた。


「殺しなさい!その怪物をこの世に放ってはダメだ!!」


その焦りに背中を押されたオズロは、今までにない剣幕で魔導人形へと指示を出すと、その言葉に答えた魔導人形は残された1本のクレイモアを上から下へと振り下ろす。


「初手からそれか…![城壁建築(キャッスル・テクチャ)]!!」


次元を切り裂く斬撃を放った魔導人形に、アキラは焦りの表情と共に地面を操作して、城壁のような頑丈な壁を造り出す。

だがその壁をまるで豆腐のように一瞬で砕いた斬撃は、その周囲の次元を切り取り、砕けた城壁の欠片を吸い込んでいく。


「消えた…?また逃げた、という訳では無さそうですね」


崩れた瓦礫の煙が晴れると、そこにアキラの姿は無かった。死んだにしては潔すぎるし、逃げたにしては腰抜け過ぎる。ならば隠れたのかと考え付いたオズロであったが、やはり気配がまるで感じられない。


『彼の戦闘スタイルを考えるに、完全に前衛の戦士タイプ……暗殺者のような知能も無ければ技術も無い。ならばどうやって隠れたのでしょう?隠密魔法でしょうか…』


そう考えていると、路地裏から猛烈な殺意を感じ取ったオズロは、魔法で障壁を張る。

するとその路地からまたしても紅い矢がオズロに向けて放たれた。


「また奇襲ですか、届きもしないのによくもまぁ……。いい加減出てきたらどうですか?貴方の矢では私を殺せない。先程のように、近接攻撃を仕掛けた方がいいのでは?まあ私は構いませんがね。辛いのは貴方の方でしょうからね」


オズロは隠れているアキラに向かってそう叫ぶが、出てくる様子は無い。それどころか、アキラはまたしても別の方向からオズロに向けて矢を放ったのだ。


「何のつもりですか?時間稼ぎのつもりですか?まあそれもいいでしょう。貴方が辛い思いをするだけなのですから」


オズロが苛立ちを覚えながらそう言うと、別方向の路地裏からアキラが姿を現した。彼は必死の形相で走って来るが、遅い。

アキラの姿を捉えた魔導人形は、そこに一切の感情無く剣を振り下ろす。


「っ!?これは一体…」


だが切り裂かれたアキラは、とても嬉しそうな表情を浮かべると、まるで煙のように消えた。


「今のは…幻影…?────まさか“色欲“が彼に力を貸していると言うのか…!?」


“色欲“それは今回聖道協会が総力を上げて討伐する予定であった対象であり、オズロの脳内では最悪の事態を想像した。

あの危険指定の“悪魔宿し“であるテンドウ・アキラと、“色欲“のアスモデウスが手を取ったという最悪の事態を、、


「っ…!また矢ですか…!貴方も懲りない人だ!────っ…!?」


その瞬間、またしても殺意を感じたオズロは障壁を張ろうとしたが、目の前の光景を見て、オズロは絶句した。


その視線の先にはアキラが無数に存在し、全員がオズロと魔導人形に向けて弓を構えていた。

この内の殆どが幻影である、そんな事を瞬時に把握出来る程の余裕はアキラによる奇襲の苛立ちもあって、無かった。オズロは障壁では防ぎきれない事を考慮して、風の魔法を使用して、下から上へと突風を起こして矢の軌道を反らそうとした。



「っ!!────ぐぁっ…!!?」


風を発生させた瞬間、背後から矢が放たれる。そこには先程までの殺気はまるで嘘のように感じられず、魔法を発動中という事もあって反応が遅れたオズロは、その緑色の矢を背中に受けてしまった。


「成る程…っ…!こっちが本命でしたか…!ですがたった1発の矢で倒れる程私は弱く────ゴホッ…!…!?こ、これは…?」


矢を引き抜いたオズロはその矢を捨ててそう叫ぶと、突然咳が出た。手で抑えると、そこには赤い血がベッタリと付着している。


「これはまさか…毒…?────っ…!さっきの毒性の粘液…っ………ふっ…私とした事が、抜かりましたね」


膝を付いたオズロは、自分の失態に笑い出す。現状この結界による修復機能と、自身の魔法で治癒は可能だ。毒の解毒するくらい訳無い。


だが、アキラはそれを許しはしない。


「ッッ!!」


声を圧し殺し、遥か上空からまるで落雷のような速度で落下してきたアキラは、強化された細剣と共にオズロの止めを狙う。

ここに戻るまでの間に考えた作戦。それはオズロが嫌がる攻撃を仕掛け、判断力を僅かでもいいから鈍らせたその瞬間に、レライエの[罠師(トラッパー)]の能力で仕掛けた矢を放った。殺意をわざわざ出して矢を放ち続けたのも全てブラフ。そして今この瞬間、アキラの作戦が成功した。



「ガハッ…………」


「ふ、ふふふ…!惜しかったですね。ですが私の魔導人形の力を侮ってもらっては困ります…!」


細剣とオズロまでの距離は僅か数cm。だがその数cmに届く前に、魔導人形がアキラの腹部に剣を突き刺したのであった。


「なん……でだよ…っ…………絶対に……成功する流れるだったじゃん…………チクショウ…!ちくしょう……!!」


腹部を大きく刺された事で、喋る度にアキラの口から赤い血が流れ出る。

その目には涙が浮かんでおり、アキラは悔しそうに何度も地面を足で蹴る。それはまるで地団駄のように何度も何度も、傷を広げるのも気にせずに、、


「ッッ………」


アキラは足掻くように腹部に刺さったクレイモアへと触れると、そのまま[崩壊(ディケイ)]を使用して剣を崩壊させた。

だが今更それが何になるのか。


「無駄な足掻きを。……ですがやはり恐ろしい存在でした。私の魔導人形を5体破壊し、その上私をここまで追い詰めるとは……ここで貴方を殺せて本当に良かった」


「あはは……あはははは!!」


「…?何がおかしいんです?気でも狂いましたか?」


「いや…?ただ俺を倒したつもりなのが笑えてな……!」


アキラそう言うと、不気味な笑みを浮かべた。その笑い方はオズロには見覚えがあった。それはランカスター家に婿入りしたとある人間の男と同じだった。

その眼は覚悟が決まっている眼……自爆をも厭わない瞳だった。



「黒より黒く…闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき…来たれり……無謬の境界に落ちし…理……」


「っ!!まさか…!」


アキラは吐血しながらも、必死に詠唱していく。するとアキラの体内から魔力が込み上げてくるのを感じたオズロは、玉の汗を浮かべて後退りした。



「万象等しく灰塵に帰し…深淵より来たれ…!これが人類最大の威力の攻撃手段…これこそが究極の攻撃魔法…!!───[擬似エクスプロージョン]ッッ!!!!」


アキラが詠唱を終え、その体内で荒れ狂う魔力を爆発させようとしたその瞬間であった。




「バカ…!絶対に生きて帰ってくるって約束したじゃないの…!まだ傷のお礼…出来てないんだから…っ……勝手に死なないでよ…!」


激しい黒い衝撃波と共に、魔導人形とオズロを吹き飛ばした1人の黒髪の少女は、涙を流しながらアキラへと叫ぶ。

その黒髪の少女は、ローザであった。

久し振りにこの一言を……


怒られろ!!

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