323話:黒雷鳴
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アスモデウスとの“融合“とやらを終えた俺は、オズロと5体の魔導人形から目線を外さぬまま、その場で数回軽く跳び跳ねる。
さっきまでのグチャグチャとしか感覚は全て無くなり、どこか頭の中がスッキリとしていて心地いい。気のせいか少しだけ結界による痛みを少なくなった気がする。兎に角今の俺はすこぶる調子がいい。
「人間としての誇りを捨てて、あろうことか悪魔の力借りるとは……もはや君は人間ではない。野蛮な獣だな」
「何とでも言え。俺はこの世界に来た瞬間から憧れていた正道を歩けないんだ。その結果がどうであろうと、俺は夢を捨てない。そして俺はお前を倒す」
「言ってくれますね。ですが悪魔の力を使う貴方では、この魔導人形を破壊出来ません」
自信があるのかオズロはそう言うと、再度5体の魔導人形を操作して、俺を狙う。
それぞれが人間の速度を遥かに上回り、魔法は全て反射される。そして一振りで体を真っ二つに切り裂けそうな大剣を軽々と持ち、5体の魔導人形はそれぞれ違う属性の魔法を大剣に宿している+聖魔法付きだ。
ハッキリ言って面倒な事この上ない相手だ。
「体力切れも痛覚も無い。相手を殺すか、自分が壊れるまで戦い続ける人形……さてさて、主人公達はどうやって倒してたかねぇ…?」
俺はかつて読んできた小説の記憶を辿りながら、5体の魔導人形の攻撃を回避していく。回避途中に反撃の拳を放ってみたが、これが堅いのなんの。手の骨が砕けかねない硬度だ。
「時間は限られているが…試してみるか」
俺は高速で腕から[部位変化]を使用した刃を生成し、そして[人操糸]で弦を張ると、すかさず[矢生成]で矢を作り出して射る。
だが、その放った矢をあっさりと銀の鎧によって弾かれる。弓術共に、筋力もかなり上がっていると思っていたのだが、まさかここまで堅いとは……[一撃必射]で貫けるかどうか分からないな。
「チッ…!本当に面倒な相手だな。だけど術者がいる場合は、その本人を狙えばいいだけだ!!」
上へと高く飛び上がった俺は、そのまま空中でオズロを狙って矢を射る。
完全に捉えた。
筈だった、、
「術者を狙うなど基本中の基本。対策をしていない訳がないでしょう。甘いですね」
その言葉と共に、オズロの影から出現した左半分が白、もう半分が黒という特殊な色をした重厚な鎧を纏う騎士であった。
その異様な存在感を放ち現れた事に眉を顰めたその瞬間、白黒の騎士は上から下へとクレイモアのような巨大な漆黒の剣を振り下ろそうとする。
「ッッ!!」
その瞬間、脳内に映し出された[世界関数]による映像では、俺が縦に斬られ絶命する姿が映っていた。
つまりあの剣が振り下ろされた瞬間、俺は死ぬという事だ。
「[引力操作]っ!!」
「おわぁっ!?」
どうやって未来を変えるか、全身に冷や汗まみれになりながら思考していると、空中で突然横に体を引っ張られる。そして引っ張られた先には、ルナがいた。
そして俺が先程空中に居た場所に向けて放たれた、白黒の騎士による斬撃はなんと空中の次元を切り裂いていた。
空間に出来ている歪みを見つめながら、俺はその威力に震える。あの威力はチート並にヤバイと即座に理解したからだ。
「ふぅ…!危ない危ないっ…!危機一髪、だったねっ!」
絵に書いたかのように、ルナは汗を浮かべて安堵の表情をする。どう考えてもヤバい奴の登場だってのに、ルナは変わらない。だけど今はそれが凄い安心する。
「すまない、助かった…!」
「何言ってるのっ、仲間のピンチを救うのは同じ仲間の役目でしょっ?それに、今回は私とあの魔導人形じゃ相性が悪いみたいだしねっ……でもでも、サポートぐらいするよっ!」
「…!仲間…っ」
ニコッと笑ってそう言ったルナ。俺は彼女からは仲間だと言ってもらえた事が嬉しく、噛み締めながらも6体となった騎士を見つめる。
オズロを守護するかのようにして、白と黒のクレイモアを2本持ちながら俺を見てはいるが、それ以降は攻撃を仕掛けてこない。それが却って不気味だ。
「鬼畜だな、おい…!」
俺はジリジリと距離を詰めてくる魔導人形にそう吐き捨てる。中々勝てるビジョンが浮かばない。
タダでさえ結界で弱体化された上に、ソルのペネトレイトは傷1つ与えられず、ルナの魔法は全て反射され、ローザはバランスタイプなだけに、魔法でも剣術でも勝てない。
『アルバナ戦の時みたいに出力を上げて、俺が撃てばもしかしたら通用するかもしれないが……あの銃は狙撃銃であって、近距離はとことん向いていない…っ。それにあの白黒の魔導人形は、ペネトレイトの発砲をオズロには許さないだろうし…』
改めて新キャラのインフレ度をその身で体験しつつ、俺は心で舌打ちをした。
すると、俺の内々に声が響く。それはベリトやマルバスのような聞き慣れた声では無かった。
──おい、人間。俺の力を使え。俺の[崩壊]はあらゆるモノを崩壊させられる。結界の力と、聖魔法を鎧に宿してはいるが、この力なら傷を付ける事が出来る。
グラシャラボラスはそう言うと、俺は精神世界で細剣を破壊された事を思い出す。どうやらあの時も使っていたようだ。
──あの…私の力もどうそ御使いください。既に把握済みだとは思いますが、使うチャンスがあればどうぞ。
それに続いてレライエもそう言った。その間も俺は、魔導人形の攻撃を回避しつつカウンターの攻撃を入れ続ける。
全く…こっちは脳内で会話をしていると言うのに、相手は問答無用の攻撃だ。異世界でお約束の、主人公勢が喋ってる時は攻撃しちゃダメなルールを知らないのか?普通ターン制だろうよ…
そう考えつつも戦いに意識を回しつつ、俺は[霧雪]を1体の魔導人形の胸へと何度も放つ。よく主人公達が行っている、一点を集中して狙う戦法だ。だがそんな風に上手く行く事は無く、鎧が硬すぎて逆に俺の細剣が砕けてしまいそうだ。
「一番リーチのある細剣がダメか…!クソ、やっぱりキツいな…!」
俺は素早く距離を取り、迫る魔導人形の攻撃を回避する。だがこのまま逃げてばかりでは体力的消耗と、この結界内での活動限界を向かえてしまう。
「無駄です。もはや貴方の攻撃では私の魔導人形の硬度は越えられない」
「それはどうかな…!?ルナ!!雨を降らせろ!!」
「えっ!?ええっ!?わ、分かったっ!」
俺はルナへとそう叫ぶと、弓に細剣を矢の代わりにセットして、それを空中へ飛翔しながら1体の魔導人形へと放つ。そして更に素早く4本の投げナイフを再度弓へとセットして、[一撃必射]で同じように4体の魔導人形の鎖骨部分にある隙間へと投げナイフを射る。
それ同じタイミングで、小規模ながらも雨が降り始める。読み通り、直接干渉してこない魔法は反射しないようだ。
だが間接部分の隙間に突き刺さっただけで、当然魔導人形にダメージは無いし、鎧に傷も作れていない。オズロも怪訝な表情を浮かべている。だが今度のはただ細剣と投げナイフを矢の代わりにして射った訳じゃない。
「ナイスタイミングだルナ!!堕ちろッ![黒雷之轟鳴]ッッ!!」
俺は指先に[黒雷]の力を貯め、それを鎧と鎧を繋ぐ間接部分に突き刺さった細剣へと向けたその瞬間、ドス黒いピンク色をした豪雷が降り注ぐ。
天候を雨に変えた事で、[黒雷]以上の電力を持つ雷鳴が爆音と共に落ちた。
眼にも追えぬ速度で光った一閃は、思惑通り細剣が突き刺さった魔導人形を中心に広がり、投げナイフが突き刺さっていた魔導人形にも枝分かれのように雷が届く。
が、少しだけ予想外なのは枝分かれした雷が全て魔導人形に行かなかった事だ。やはり専用の避雷針でもないと、ダメのようだ。
「だけど、これでアンタご自慢のお人形は真っ黒焦げ。残るはその白黒の魔導人形とアンタだけだぜ、オズロ!」
「これは……ふふ。驚きました。よもや天候を変え、雷を誘導して私の魔導人形を機能停止させるとは」
雨が上がり、黒焦げとなった魔導人形を見たオズロは、少し驚いた表情をしてそう言った。
まだまだ余裕があるといった表情が読み取れ、俺は少しだけ眉を顰めて睨みを利かせて威圧する。
「ですが、これで勝ったつもりなら甘いですよ。私にはまだ彼が残っていますから」
そう言って笑みを浮かべたオズロ。そしてそのオズロを守護するように2本のクレイモアを構えた白黒の魔導人形に、俺は構えを取った。




