321話:南の枢機卿
南のってつくと、何か愉快な…みたいになる。
ローザの窮地に現れたのは、本来ならばここにいる筈の無いアキラだった。
アキラは苦しい表情を浮かべながらも、必死にローザへと笑いかける。そしてそのまま5体の魔導人形を押し返すと、息を切らしながら術者である男へと視線を向けた。
「ローザは俺の、俺達の大切な仲間だ。殺される訳にはいかないんだよ」
「ほう…また新手ですか。私の魔導人形の攻撃を全て受け止めるとは、中々の怪力のようですね」
「筋力には自信があってな」
俺は劣化版の物理さんではあるが、そこそこ体には自信を持っている。と言っても、ローザがピンチだったから出せた火事場の馬鹿力ではあるが。
「おや?成る程、貴方でしたか。道理で私の魔導人形を弾き返せた訳だ。“嫉妬“のテンドウ・アキラ」
男は顎を手を当ててそう1人で納得すると、俺の目を真っ直ぐと見て小さく微笑む。大柄な体にスキンヘッドだからか、威圧感を凄く感じる。
「その呼び名は嫌いなんだけどな。……それに今は嫉妬でもなんでもないし」
悪魔を宿しているのは事実だが、俺の中にはもうレヴィはいない。アスモデウスならいるから、この場合は“色欲“のテンドウ・アキラって事になるのか?…童貞なのに?
そんな事を考えながらも、独特の威圧感を放つ男と銀の騎士を警戒していると、背後にいたローザが言った。
「なんで……なんでアキラがここにいるの…?」
「やっぱり皆が心配でさ。別に信じてない訳じゃないんだが、やっぱりどうも気掛かりでな。……なんで泣いてるんだよ。どうした?」
「…っ、別に泣いてなんか無いわよ…っ」
そう言いながら振り返り、ローザへと視線を向けると、彼女は目尻に貯まった涙を流していた。ローザは何でもないと誤魔化すが、ローザが泣いている所なんて滅多に見ない。何か理由があるのは明白だった。
「余所見ですか。随分と私も舐められたものだ。やりなさい」
だがローザが泣いている理由を知る前に、男は銀の騎士を操作して魔法のレーザーを放つ。こういう場面では待つのがお約束だろうに……相変わらず補正が無いってのは辛いと感じる。
「っ…!!」
[氷冠]を使用して、氷の壁を造ろうとした時だった。突然俺の左腕は動きだし、あろうことかそのまま地面を殴り付ける。
すると地面のタイルは盛り上がり、僅かな時間で壁を造り上げた。この能力は…確か俺が暴走している時に使っていた技だ。
──危なっかしくて見てられねェ。だが勘違いするな。お前を殺されちまったら、オレまで共倒れ……これは一時的な協力だ。
そう脳内で言ったのは、つい先程精神世界で激闘を繰り広げたマルパスであった。
先程とは違い、いくらか落ち着いているのが彼女の言葉使いから分かる。協力してくれると言うのなら、ありがたくその力を借りるとしよう。
「成る程、複数の悪魔を宿しているのですね。ですが本来人間に宿せるのはせいぜい1体のみ……中々興味深いですね」
レーザーから俺を守り終えると、壁も同時に倒壊する。そしてその先で男は何かを考えるようにしてそう小さく呟く。
「アキラっ!その男が操っているのは魔導人形と言う代物だ!術者の魔力が続く限り倒れる事は無い…!人形のどこかにある核を破壊するか、術者を倒すまで動き続ける…!」
「サンキュー、ソル!…成る程な、人形なのか。なら今ソルが言った事は正しいな」
いつの間にか建物の屋根へと移動していたソルは、狙撃銃であるペネトレイトを構えながらそう叫ぶ。
そして俺は自身が唯一誇れる“なろう“知識を生かして、この手のタイプ敵の弱点を思い出す。そしてソルの言葉通りなのを確認して、俺は小さく笑みを浮かべた。
「壊すか倒すかか、分かりやすくていい。……お前ら!いい加減起きろよな。俺の体にも時間制限がある……こっからは全力を出すぞ」
俺がそう叫ぶと、胸の内で3つの存在が動き出す。どうやら寝坊助な奴らが目を覚ましたらしい。
「ほう?まだ本気ではなかったのですね。ですがそれは私も同じ事……そう言えばまだ自己紹介を済ませていませんでしたね、失礼。私の名はオズロ・セルケルズ。こう見えても南の聖道協会にて、枢機卿を担っております」
「……天道明星。“嫉妬“ではなく、ただのテンドウ・アキラだ」
両者は睨み合いながら、自身の名を掲げた。
そして暫くの間お互いに動きを探り合い、持ち前の機動力を生かしてアキラが先攻を仕掛けた。
□
アキラがオズロとの戦いを開始した頃と同時刻。もう1つの爆心地では、背中に美しい羽を生やしたミルの姿があった。
「はぁ…はぁ…!」
だがミルは大きく息を切らし、細剣を地面に突き刺して杖のようにして体重を預けていた。
「いかがしましたか?まだまだ戦いは始まったばかりですよ?」
辺り一帯が凍り付く中で、美しい少女の声が響く。彼女は氷塊の上から雪のように純白な髪を風に靡かせながら、従魔である白銀の狼を撫でる。
その目はどこかミルを見下すかのような冷たい感情が籠っており、ギリギリの状態で戦っているミルを見て、小さく微笑む。
「やはりその腕では厳しいのではないですか?」
「っ……」
彼女は小さく溜め息を吐くと、ミルへとそう言葉を投げ掛ける。期待外れだと言わんばかりの表情を浮かべ、心底つまらなそうに、、
「ボクは…まだ戦える…っ…!アキラが……待ってるんだ…!」
ボロボロの状態にも拘わらず、ミルは細剣を素早く動かして[暴風雪]を放つ体制へと入る。
「またそれですか……貴女の攻撃にはいい加減飽きました」
だが彼女がそう言うと、彼女の従魔である狼が吠える。するとミルの体は痺れたかのように痙攣して動かなくなってしまう。
「ルミナス聖国の天才剣士と聞いていましたが……とんだ期待外れでしたね。やはり私の心を昂らせてくれるのはテンドウ・アキラくんだけですね」
「っ…!?」
「何故ここでアキラくんの名前が出るの?…と言った顔ですね。ふふっ、彼は本当に面白い方ですよ。まだお会いした事はございませんが、彼が今までに起こしてきた事件や討伐してきた魔物の事は立場上知っております。どれもこれも普通の人間には不可能な事ばかりを成し遂げる……どうしても気になってしまいます」
先程のつまらなそうな表情から一転。彼女は頬を赤らめ、まるで初恋の乙女のような表情を浮かべていた。
『な、なに…?好意とはまた違った感情……あの瞳に映る感情は…なに…?』
嫌な予感をしたミルだったが、それが何なのかまでは分からなかった。
そしてミルと従魔の狼がお互いに睨み合いあっていると、突然彼女は呟き始めた。
「…!オズロの方にアキラくんが現れたのね。ふふっ、それは嬉しい報告ですね」
そう呟くと、彼女は嬉しそうに微笑む。
ミルは何故アキラが現れたという言葉に驚いていた。アキラは[黒繭]の中で待っている筈……そう考えていたミルに、彼女は突然笑みを浮かべた。
「このまま待っていれば、直にアキラくんが来てくれますよね。それまで貴女は…そうですね……人質となって頂きましょうか」
冷たい声色で告げた白髪の少女は、静かに微笑んだ。
白髪ロリ系ショートヘアー!+人をゴミのように見てくる目!そしてガーターベルト装備!
…はい、性癖です。




