320話:父の仇
閲覧30万達成!ありがとうございます!
「…地獄絵図だな」
飛翔しながら地上を見つめた俺は、ふとそう呟いた。地上では逃げ惑う人々に溢れており、我先にと人が人の背中を押している。
「人はまだいるのに……俺とアスモデウスの為だけにここまでやってのけるとは…」
以前メルムが俺を襲撃した際も、住民がいるのにも拘わらず攻撃を開始していた。いくらこの結界が通常の人には無害だからと言って、突然上空にあんな大きな音を出す鐘を出されてはパニックになるだろうに……
──正義を掲げている人間が1番怖ぇからなぁ。自分が正しいと信じているから、何をするにも躊躇しなくなっちまう。怖いねぇ~
「全くだな」
俺達はそう会話をしながら爆発が起こっている場所へと急ぐ。その間でも全身が炙られるような痛みが続き、長い間は俺も難しいの自覚している。もって1時間だろう。
「急ごう…!俺の体が持つ間に…!」
──ああ、そうだな。
□
爆発が続く歓楽街。そこにはローザ、ルナ、ソルがおり、大柄である1人の男と対峙していた。
「ふむ……そちらから仕掛けて来た割には手応えがありませんね。よもやそれが本気とは言いますまい?」
男は後ろで手を組ながら、表情を一切変えずにそうローザ達へと語る。男の前には、彼を護るようにして並ぶ銀の鎧を身に付けた魔導人形5体おり、それぞれがローザ達を上回る力を持つ。その圧倒的な力の前に、ローザ達は苦戦していた。
「何なの…っ!?あの魔導人形の強さは普通じゃない…っ!」
「気を付けろ!通常の魔導人形と造りが違う…!コイツ…!魔法反射の付与魔法が施されてる…!あの人形には魔法はむしろ悪手だ!」
ルナが放った魔法を反射し、逆にルナへの突き進む火炎魔法。それをソルがシールドを張れる魔道具で防ぐと、2人に聞こえるようにそう叫ぶ。
「魔法を反射する上に、ミルやアキラ程じゃないにしろ強烈な剣撃…!ツイてないわね…私達には特に相性が悪い…っ」
銀の鎧を身に纏う魔導人形によって弾き飛ばされたローザは、空中で回転する事で体制を正し、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。
「貴女は確かローザ・ランカスターさんでしたね?」
「っ…!何故私の名前を……それも家名まで…!」
防戦一方であったローザ達に、魔導人形を操る男は突然そう声を掛ける。ローザはアキラと共に旅を始めて以来、家名を名乗った事は無い。だが目の前の男はランカスター家の事を知っている。その事を懐疑に思ったローザは、警戒を一層高めて男を睨み付けた。
「存じておりますとも。私の家系は代々魔族を狩る仕事をしておりましてね、俗に言う魔族狩猟者というヤツです。当然ながら、吸血鬼族の王族であるランカスター家の事は大変よく知っております」
「…!魔族狩猟者ですって!?まだ実在したと言うの…!?」
「ええ、勿論ですよ。私の前も、その後も……この世に魔族がいる限り、私達が廃れる事はありません」
男はそう言うと同時に、魔導人形が持つ両手剣が振りかざされる。それぞれが持つ両手剣には魔法が付与されており、火、水、風、雷、土の各種魔法を放つ。その威力は中級魔術師と同等かそれ以上であり、攻防だけでなく魔法まで使える事に皆驚愕する。
「どうです?私の人形達は素晴らしいでしょう」
「なんて威力…っ…!これじゃあ攻めるに攻められない…っ!」
「ふぅ…やはり吸血鬼族の王族とはいえ、時が流れればここまで弱くなりますか。それとも…人間の血が混じっている事が原因ですかね?」
「っ…!!」
その瞬間、ローザの心臓が大きく音を鳴らした。誰も知らない、知ってる筈が無い。自身の体に人間の血が流れている事は、あの屋敷の者ぐらいだ…
「何故知っている、という顔ですね。先程も言ったでしょう、私の家系は魔族狩猟者だと。子供だった貴女では知らないでしょうが、貴女の父親と母親とは私達の家系は何度も衝突しているんですよ」
『そんな………いえ、思い返してみればお父様が生きていた頃、お父様もお母様も暗い表情をしている事が多かった……そしてその数日後にお父様は亡くなった…』
まさか……いやでもお父様は王族の血を体に宿したせいで亡くなった筈……少なくとも私はお母様からそう聞いた。
「あの人は強かった。吸血鬼族でもないただの人間だというのに、王族の血を完全に我が物として扱っていた。正真正銘の化物ですよ、彼は」
嫌な予感がした。
この先は聞いてはいけない。私の本能がそう語り掛けている。だけど聞かなくてはいけない気がした。この後に何を言われたとしても、私は聞かなければならない気がした。
「ですが……彼はもうこの世にいない。私が殺してしまったのですから」
実に残念そうにそう言った男は額に手を当てて溜め息を吐く。
「っっ……!!ああああああぁぁぁあ!!!」
知りたくなかった。聞きたくなかったその言葉に、ローザは自身を抑え込む事が出来ずに走り出す。
だがその時を待っていたかのように、男は小さく笑みを溢した。
「この程度の言葉に心を乱されるとは……貴女はまだまだ子供のようだ。…やりさない」
男は魔導人形に向けて手を翳すと、その指示に答えるように5体の魔導人形はその大きな大剣を掲げた。
だがローザは止まらない。いや、止まれないと言った方が正しかった。大好きだった父を殺された。ましてやその父を殺した男が目の前にいる。その事だけがローザの脳内を支配し、止まる事が出来なかった。
「死になさい。貴女の父親と同じように」
魔法を宿した5つの大剣がローザへと振り下ろされる。それに対してローザは目尻に涙を貯めながら、魔導人形の後ろにいる男へと剣を振るう。
だが、、
『ダメ……届かない………お父様の仇が目の前にいるのに…っ……届かない…!』
ゆっくりと、まるでスローモーションのように映る世界に、ローザは走馬灯の如く過去を思い返す。
屋敷での日々、家族と過ごした時間、偶然拾ったアキラ、皆との旅……どれもこれもローザにとって、大事な記憶だった。
そして自身の死を覚悟し、ゆっくりと瞳を閉じるローザ。
「少しは頭を冷やせ、ローザ。らしくないよ。匙を投げるにはまだ早いぜ…!」
「え…?」
そこにいたのは本来ここにいる筈の無いアキラであった。
アキラは無理に笑っているのか、表情を引きずりながらもローザへと笑い掛けながら5体の魔導人形の剣を受け止めていた。
読者:魔導人形ってなんだよ。
作者:魔導人形とは、魔石を核にして動く人間サイズの人形である。
術者は自身の魔力を使って操作する事も出来るが、魔力を大きく取られ、非効率である為に実践での使用率は極めて低い。




