319話:色欲との協力
これ何話まで続くんだろう。
─ご名答♪久し振りに共闘しようぜぇ、アキラくんよぉ…!
そう言って喉を鳴らしたアスモデウス。それと同時に撫でられた気がした俺の尻……いや今は尻の事はどうでもいい。気になりはするが…
「お前を契約無しで体に入れ続けるのは危険過ぎる。ましてやお前の能力は洗脳や魅了、精神に干渉してくるような力だ。そう簡単に協力出来る訳がないだろう」
──くくっ、これはお互いにとってメリットのある話だ。俺だけの力じゃここから脱せない。それはアキラも同じだ、そうだろう?お前の仲間の事は心配じゃないのか?今もこうして悩んでいる内に危険な目にあってるかもなぁ。
俺の心を揺さぶるように、不安を煽るように笑いながらそう言ったアスモデウス。皆の強さは誰よりも俺が1番知っている。だけど心配が消える訳じゃない。
だが……アスモデウスは今体に宿している悪魔とは階級が違う“王“だ。最上位悪魔のその非常識な強さは俺も知っている。だからこそ信じられない…ましてやアスモデウスの言葉なら尚更。
『アスモデウスを外に出すのは[悪魔放出]を使えば簡単に出来る。だが…本当にそれでいいのか…?」
やはり契約無しでも、アスモデウスの力を借りて戦いに行くべきなのか…?だがコイツはさっき、俺に微弱ながらも洗脳を掛けた。やはり信用ならない。
──おい、早く決めろ。俺の本体はこのドームの外にあるんだ、早く回収しねぇと余計なダメージを食らうだろうが。
「っ………分かったよ…。もう1度、俺の体に来い…!アスモデウス!!」
──くくっ、その言葉を待っていた…!
俺がそう決断した瞬間、ドームの外から内側へと侵入してきたピンク色の光。それは俺の周りを1周すると、そのまま胸へと飛び込んできた。
「ぐッ…!!があ“あ“あ“あ“…!!あ、がっ……!!」
その瞬間、体に広がる激痛。全身を引き裂かれるかのような痛みと、内臓から破裂するような激痛が永遠と続くかのように感じる。
あの日、初めてアスモデウスを宿した時と同じ痛みが俺を襲った。だが以前とは違い、痛みのあまり気絶するという事は無かった。僅かだが、成長を感じる。
──くくっ…!これだよこれ!!アキラと1つになるこの感覚ッ!!堪んねぇ…!思わず勃っちまうよ…!
今だ痛みに身を震わせる俺とは違い、アスモデウスは俺の中に入った事への快感を覚えている。表現の仕方が気持ち悪くてしょうがない。同じ同性の男だから本当に気持ち悪い。
「はぁ…!はぁ…!はぁ……はぁ…。おい、アスモデウス。気持ちの悪い事言ってないで、さっさとやるぞ」
──そう焦るなよ。こっちの方も色々面倒な事があってな。くくっ…お前の中にいた奴ら、どうやら俺を歓迎していないらしい。嫌われたものだな。
「日頃の行いだろ」
アスモデウスは“72柱“の悪魔でもあると前に聞いた。だから今中にいるマルバスとかは面識があるとは思うのだが、それでも歓迎してないって相当だな。皆クセは強いがいい奴ばかりだってのに。
──まあいいさ。コイツらに見せてやればいいだけだ。お前ら何かよりも、俺の方がアキラの役に立てるってなァ…!
アスモデウスがそう言うと、俺の中で何やらざわざわとした気配を感じ取った。どうやら皆が中で騒いでいるようだ。
──アキラ!なんでこんな奴に体を許した!!契約無しでも危険だと私は君に言った筈だぞ!?
「マルバス…ごめんね。俺は弱いから、出来るだけ沢山の力がいるんだ。じゃないと俺は…この世界で生きていけない」
──平穏に暮らせばいいだけだろ…?全く、君という奴は…!今は大人しいが、ハルパス達も契約をしていないと言うのに、更に厄介な奴を招き入れて…!君には後で説教だ!
「はは…お手の柔らかに…」
苦笑いでそう呟いた俺は、手を閉じたり開いたりして体の変化を確かめる。今日はなんだか体の調子と思考力に違和感があるが、戦えない程じゃない。
「ふぅ…久し振りに使うが……[黒雷]」
バチバチと音を立てて出現したピンク色をした電流。それを懐かしく感じながらも、全身に纏うようにして電流を飛ばす。
「…っ……これ結構難しい…!」
以前電流を体に流して、筋肉に電気信号を送って加速した事はあったが、今回はそれと違い、表皮に纏うようにする必要がある。だが魔法の才能がからっきしの俺にはかなり難しい。
──相変わらず魔法はからっきしなんだな、お前は。俺にやらせろ。
アスモデウスはやや呆れ気味にそう呟くと、電流が俺を守るように広がっていく。
使い慣れた[黒水]なら、上手く制御出来るのだが、今回の[黒雷]は少々難しかった。そして俺は電流操作をアスモデウスに任せて、その間に背中に黒い翼を生やす。
──準備はいいな?行くぞ
「ああ…!」
アスモデウスの合図に、俺は翼に力を込めて飛翔して、[黒繭]を突き破る。
「ウグっ…!!」
今だ鳴り響き続ける鐘の音を全身に受けると、先程よりは弱くなったものの、体を焼かれるような痛みが俺を襲った。だが今までに数多の痛みや苦痛を体験した俺だから、意識を失わずに飛翔を続けられる。
『メルムの姿が無い……死んだにしても死体はそこに残る筈…やっぱり生きてるのか』
ラディウスは逃走したが、面倒な枢機卿が3人も残っている事に顔をしかめる。
やはり危険を承知でアスモデウスの力を借りてよかった。あれだけのダメージを受けて尚、動けるような奴らだ。ミル達には手に余るだろう。
「と言っても、ミル達の攻撃方法も強力で、中々エグいんだがな」
そう呟いた俺は、静かに上を見たげた。そこには巨大な金色の鐘があり、今も尚その音を鳴らし続けている。
『あれはオーラか?て事はあれ自体は破壊出来ないか』
俺は電気で出来たピンク色の槍を鐘目掛けて投げるが、その槍は鐘を透過して分散した。実体が無いという事だ。
「展開予想で言えば、あの鐘はただの飾りって所か。ならやっぱりこの結界自体を破壊しないとダメみたいだな」
考察を終えた俺は、貧民街から国の中央へと視線を向ける。その視線の先には2ヵ所から黒い煙が上がっており、そこで戦いが起こっている事を示していた。
1ヶ所は凍り浸け状態で、もう1ヵ所は色鮮やかな光が点っては爆発している。どっちに誰がいるか、とても分かりやすい。
「ミルとシアンの方は後でも大丈夫だろうけど、ローザ達の方は少し心配だな…!」
そう小さく呟いた俺は、体から電流を漏らしながらローザ達がいる方角へと急いだ。




