表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/392

318話:見送り

「“色欲“と“嫉妬“を相手に、我々枢機卿が2名だけだと思いましたか!?甘いですよ…!この国には今、東西南北全ての枢機卿が終結している…!貴方達はここで終わりなんですよ!!」


血だらけの重傷を負いながらも高笑いを続けるメルム。どうやらメルムに付いている天使の加護ってのは余程凄いらしい。


「この鐘の音が原因なら…![黒繭(ノワール・カテーン)]!」


ローザがそう叫ぶと、光を通さない小さな黒いドームが作り出され、その中へと俺を含めた全員が入れられる。

ドーム内は真っ暗なものの、鐘の音は遮断しているようだ。相変わらずローザのチートっぷりが凄いや…光だけじゃなく、音まで吸収してしまうとは…


「立てる?アキラ。[治癒(ヒール)]は必要そうかしら?」


「いや…問題無い…」


確かに内臓を焼かれるような痛みは一旦止まった。だがまだ体には異変を感じていた。恐らくこれはローザやマルバスの治癒でも治せない特殊なモノだ。


「でもどうしたものかしらね。あの鐘の音は恐らくこの国全体で鳴り響いている筈よ。私の[黒繭]は小規模での展開しか出来ないわ」


「私の魔法で地下に逃げても…多分ダメだよね…っ?」


魔法を得意とするローザとルナはそう言って頭を悩ます。


「皆は何か体に異常は無いのか?」


「特には無い。むしろ綺麗な音だと感じる」


「そっか……俺だけ───いや、悪魔関連の者にだけ反応するのか」


ミルの言葉に、俺はそう小さく呟いて思考する。魔を浄化するとメルムが言っていた通り、悪魔や魔物に対して有効な結界だという事か。なんだか【転スラ】であったな…こういう魔物特効の結界が。あれに近いのか?


「アキラはこの状況をどう見る」


「そう…だな。この鐘の根を鳴らす結界は長時間聞いていなければ恐らく死にはしない。だけど問題はその後だ。この鐘の音が俺とアスモデウスの動きを制限する枷として使用しているのなら、その後にこれ以上の強い魔法や結界が放たれる可能性がある…」


ソルの言葉に、俺は今まで現代で身に付けたお約束展開や相手が取りそうな行動を予測して考える。その結果が今の言葉だ。

メルムはこの国に東西南北全ての枢機卿が揃っていると言っていた。ラディウスもメルムも単体で俺と同格レベルの強さを持っている。そんな未登場の奴が2人もいる…しかもインフレが進んだ後だから、自ずと後から登場するキャラは皆強いというのが絶対ルール……これは死んだかもしれないぞ…っ。


「ローザ。この魔法はどれくらいで解けるの?」


「いつもは任意で消してるからちゃんと図った事は無いけど……そうね、大体1刻以上は持つ筈よ」


1刻…?………あぁ、1時間の事かな?


「ん……そっか。分かった」


それはさておき、何やらミルは顎に手を置いて考えている。そして暫くミルは沈黙すると、顔を上げて口を開く。


「ならボク達でこの結界を発動している魔方陣、または術者を倒そう」


「は?」「正気?」「えぇ…」「マジか…」


ミルの言葉に、その他4人はそんな言葉を溢し、そんな中でも静かに話が終わるのを待つシアン。


「ボクとシアン。ローザとルナ、ソルの2つに別れてこの結界を壊そう」


「…?ちょ、ちょっと待ってくれよミル…!俺は…?俺はどっちについていけばいいんだ?」


「アキラはここで待機。この黒繭から出たら、アキラはまともに立つ事も出来ない。そんな状況で狙われたら今度こそ死んじゃう…」


「だ、大丈夫だよ…!ほらっ!俺ってあんまり強くはないけど頑丈じゃん?ちょっとやそっと痛みなら全然我慢出来るし…!」


俺がそう慌てて言うと、ミルは珍しく目を細めて冷たい表情を浮かべた。


「それがいけない。アキラは無茶をし過ぎる……ボクから言わせれば自殺願望があるとしか思えない」


「そんな事無いって…!ローザもそう思うよな!?」


「そうね。確かにミルの言う通りだわ。改めて考えると、この状況でアキラをこの繭の外に出すのは危険過ぎる」


あ…助太刀頼む人間違えた…

完全に空気感は俺をここで待機させるという雰囲気になってしまっているな…


「でもまぁ……幸い私達にはこの鐘の音は無害だしっ?このまま何もしなければアキラ君が辛いだけだもんねっ……よしっ!私頑張るよっ!」


「まっ、しょうがないよな。場合が場合だ。だけどミルの方はシアンだけで大丈夫なのか?」


あ、完全に皆さん戦いに行く感じになっとるやん。俺、完全に置いていかれる雰囲気になっとるやん。


「ん、その辺は平気。むしろシアンとの連携は暴走したアキラにも通用するくらい強いよ」


そうだね。しかもビジュアルが凄い綺麗なんだよなぁ……やっぱ元って大事なんだな。俺と全然違ったし…蝶と蛾くらいの差だわ。それは流石にシアン失礼か。


「そういう事だから、アキラはここから動いちゃダメだよ。いい?」


「うん……分かったよ…」


本当なら追い掛けたい。皆が心配で仕方ないからだ。だけど仲間を信じないのは主人公が1番しちゃダメな事だ。そうなったらもう全部アイツ1人でいいんじゃないかな、っとなってしまうから。まあ俺はそこまで強くはないが。


「皆…!絶対に帰ってきてくれよ…!?誰か1人欠けるのとか無しだからな!?」


「1番危険地帯に飛び込んで重症を負っている貴方に言われたくはないわね。………はぁ、そんな顔するんじゃないわよ。皆無事に帰ってくるわ。約束よ」


そう言いながら微笑みを浮かべたローザは、小指を差し出した。これは指切りという意味か。


「約束、したからな…!」


「待ってて。ボク達がこの結界を壊してくるから」


俺は皆の無事を柄にもなく祈りながら、皆の後ろ姿を見送った。





「さて…1人でどうするか…」


ミル達を見送った後、俺は1人黒繭の中で胡座を欠いていた。この小さなドーム内はちょっとしたテントの中のようで、真っ暗だ。段々目は慣れてきたけど、少し怖いから時折後ろを振り返ってみたりしていた。


メルムはどうなったんだろうか。あの出血量だからかなり生命的に危険な筈だが……そう簡単に死んでくれないのがネームドキャラの面倒な所だ。死にキャラはある程度活躍させないと死なないからな…


『アスモデウスはまだ外にいるのか?いくらこの黒繭が防御魔法だからと言って、アイツがこの外にいると思うと不安なんだが…』


──そう言ってくれるなよ、俺とお前の仲だろぉ?


ゾクッ……


「あ、あり得ないだろ……っ…………だってアイツは血を吐いて倒れてたじゃないか…!」


脳内に聞こえたアスモデウスの声。それはベリトやマルバスなど、俺の中にいる者にしか出来ない芸当の筈……それなのにアスモデウスの声が脳に直接聞こえているという事は、テレパス系の能力、或いは俺の中にアスモデウスがいるという事だ。


──くくっ、そう驚くなよ。俺は昔よりも用心するようになってな?念の為に、お前に触れた際に俺の因子を少し入れた。結果こうしてお前と一時的に会話が出来るって訳だ。


「勝手に変なの入れんなよ…!」


それに何が用心するようになっただ。お前ルナとソルの匂いを感じてこの変な空間に飛び込んできたくせに…!


──……懐かしい匂いだと思って近付いたら出れなくなってな。しかもお前の匂いもしたから来てやったって訳だ。


「…お前バカだろ」


──うるせぇな。お前の気配が消えかかってるから気になって来てやったってのに…結界内に入ったらお前はいねぇーし、お前を昔嬲った信徒達もいるし…その上俺の体はボロボロ。はぁ…ったく、今日はツイてないな。


俺を気にかけている事に、悪い意味で鳥肌を立てながらアスモデウスの話を聞いていると、彼は『さて』と、話に区切りをつける。


──どうやらあの人間が言っていた通り、この国には聖道協会の連中が集結してるみてぇだな。どうするよ、アキラ。


「どうするも何も無い。俺は皆の無事を祈って待つだけだ」


──ハッ、どうだかな。お前もさっき見ただろ?相手は俺レベルの悪魔でも殺しきれない枢機卿だぞ。果たしてお前のお仲間は勝てるのかねぇ?


「……だがどのみちここから出ればまともに動けない。皆の足手まといになるのは御免だ。絶対に…」


──そこで俺から素敵なご提案。俺がお前の体を電磁波で守ってやる。それでもあの鐘の音はかなりキツいだろうが……お前ならその程度の痛みなら我慢出来んだろ?


「出来るには出来る……だけどお前、まさか…」


─ご名答♪久し振りに共闘しようぜぇ、アキラくんよぉ…!


アスモデウスは嬉しそうに喉を鳴らしてそう言うと、俺の尻を撫でた気がした。

気のせいか…?気のせいだよな?

アスモデウスまで宿したら、アキラの中には8人の悪魔を宿す事になりますね。

常に自分以外の思考が8人分あるとか精神狂いそう…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ