313話:黒い怪物と氷の少女
2日も投稿しなかった息子(※クズ)です。なんなりとお使いください。
「何…あの怪物…っ」
目を背けたくなるような惨劇が行われた事で、ミル達は表情を強張らせて硬直していた。
その視線の先には聖道協会の者達の死体が山積みとなっており、その上でゲラゲラと笑い続ける黒い怪物がいた。
「ミル…!しっかりしなさい!逃げるわよっ…!あの怪物は関わってはダメ…!」
未だ腰が抜けたままのミルの肩を支えながらそう叫ぶローザ。当然だ。この場にいる生物全員が本能的に逃げろと叫んでいたからだ。
「でも……アキラが…!」
「現実を見なさいミル!アキラは…もうっ……この世には…!」
「そんな事、あるわけ無い…!だってアキラはっ──────」
ギシャシャ…!
ミルがそう言い掛けた瞬間だった。
すぐ目の前から聴こえてきた不気味な笑い声に、ゆっくりと視線を向けるミル。
「───────」
────死んだ。
その言葉がミルの脳裏に過る。
ミルの目の前にはもう既にあの黒い怪物が立っていた。まるでこちらを嘲笑い、楽しむように…誰から殺すか悩んでいるかのように、黒い怪物は笑いながら……
そしてその怪物は最後にミルを見て、深い笑みを浮かべた。
「ギィィィエエエエエエッッ!!」
ミルの頭部目掛けて振り下ろされる腕。人間を容易く解体したあの手がもう目と鼻の先まで迫っていた。
ダンッッ!!!!
鼓膜に響く音が背後からした。すると怪物の腕がミルまで届く事は無かった。怪物は頭部から煙を立てながら上を向いている。
「どういう…事…?」
「間一髪…っ…!だけどこの近距離でも頭部を吹き飛ばせないのかよっ…!」
ミルの窮地を救ったのはソルであった。彼は自身が開発したレールガン型超遠距離狙撃銃、通称ペネトレイトでの近距離射撃で化物の頭部を狙ったが、怪物の頭部を吹き飛ばすどころかその場から動かす事さえも出来なかった事に冷や汗が止まらない。
「ギィエエエエエエガァッッ!!!」
「っ![氷壁]…!」「[黒繭]!」「[四重障壁っ!]」
攻撃をされた事で激情した怪物は、先程聖道協会の者を虐殺した時と同じように、背中から異様な黒い棘を出現させて全員を串刺しにしようとする。
咄嗟にミル、ローザ、ルナが守る為の魔法と剣術を放つが、ルナの[四重障壁]はまるでガラスのように呆気なく砕け散り、ローザのあらゆるモノの威力を吸収する[黒繭]を容易く貫き、そして最後にミルが放った[氷壁]まで達した黒い棘。
「っ…!止まった…!」
進み続ける黒い棘を氷の壁で守りつつ、それと同時に凍結する事で威力を殺しきった事に安堵の言葉を漏らすミル。
だがその瞬間怪物は嫌な笑みを浮かべると、止まった黒い棘はまるで食虫植物かのように開くと、そこから紅い矢が放たれた。その矢は高速でミルの横を通り過ぎ、背後にいるソル目掛けて一直線に向かっていく。
『最初からソルを狙っていたんだ…!さっきの報復の為に…っ!』
矢へと手を伸ばすミルだったが、もはやそのスピードに届く訳がなく、紅い矢はソルの心臓へと突き刺さる……
「あぶないっ!」
そう思った瞬間、ソルを突き飛ばしたルナ。だがソルの代わりにルナの背中へと突き刺さる紅い矢に、ミルとローザは青ざめる。それは先程矢を受けた者達がどうなったか、その目で見ていたからだ。
「姉さん…!?しっかりしてくれよ姉さん!!」
「ソ…ル……怪我は…無いっ…?」
「無いよ…っ。無いけど姉さんが…!」
「そっかぁ…なら……よかったっ」
目や鼻から流血が始まったルナは途切れ途切れの言葉で弟のソルの無事を確認すると、安堵の笑みを浮かべる。涙が止まる事の無いソルはルナの体を揺らして叫ぶが、意識が少しずつ消えていくルナ。それを見て爆笑するかのように掠れた声でゲラゲラと笑う怪物は、追撃をする事無くただただ笑い続ける。
「っ……許さない…!」
ルナが倒れると同時に回復の為に動いたローザと、体を震わせて細剣を向けたミル。そして状況を理解しきれないのか、ただ怪物を見つめて佇むシアン。
ミルはこの場から少しでも目の前の怪物を離すために、細剣を振るって猛吹雪を生み出し、その勢いで怪物を凍結しながら吹き飛ばす。
「………」
「………」
先程まで不快に笑い続けていた怪物はミルを凝視すると黙り、そして体の形状を変化させていく。背中から生える蝙蝠のような翼と、触手のように自由に動く6本の黒い棘。その姿はまるで物語に登場する悪魔のように歪であった。
「来ないなら、ボクから行く…!![暴風雪]っ…!」
両者睨み合いが暫く続くと、先手を打ったのはミルであった。彼女は小手調べなどは一切せず、高火力を誇る[暴風雪]を仕掛けた。
だが怪物は地面を殴ると、まるで城の壁のようなモノを出現させてミルの攻撃を防ぐ。
「っ…!!ぐっ…!?これは…っ!」
城壁の隙間から飛来する紅い矢を[氷冠]で全て打ち落としていると、心に広がる悪感情。それは猛烈な殺意と興奮、そして怒りであった。これらの足が止まってしまいそうな精神攻撃は間違いなく目の前の怪物によるモノだと判断したミルは、意識を強く保ったまま怪物へと急接近して近接を仕掛ける。
「っ![砕氷]…!」
「ギィィィイイ…!」
相手を砕くかのように放ったクロス状の2連撃は、怪物の背中から生える黒い棘によって防がれる。どうやらあの棘は攻撃だけでなく、護りにも使えるようだ。まるで分厚い鋼でも斬っているかのように反動が手を響く。
「一気に決める…![霧ゆ────」
人形である以上、人間の同じ場所に心臓があるのではないかと考えたミルは、危険を冒して怪物に近付き、胸部へと連続突きを放つ[霧雪]を放とうとした瞬間だった。
ギィチュ…!という耳障りな音と共に割れる怪物の胸。そしてそこから無数の紅い矢が全てミルへと放たれた。
「っ……まだこんな事を隠してたんだね」
紅い矢の危険度を2度もこの目で見たミルは、その矢の攻撃方法に驚きを覚えつつも、氷のように冷静さを保ったまま後方へと飛び、回転しながら矢を回避していく。
「流石に全部は避けきれない…よね。[氷蝕]…!」
ミルは空中で体を回転させながら、持ち前の眼で矢を視認しながら氷の剣でそれらを切断していく。氷の刃となった細剣から削り落ちた氷の粒からは、日の光を浴びて美しく輝く。
「この矢は危ない。だから…返すね」
地に足が着く前に、1本の紅い矢をまるでアキラのように脚で蹴り返す。[天賦]のスキルを持つミルは、何度も見てきたアキラの脚撃を習得し、それを実戦で初めて放つ。そしてその脚撃は当然かのように成功し、怪物へと矢は返される。
「効かない、か。…当然だよね」
恐らくあの紅い矢には猛毒が施されているんだろうが、その矢を放つ本人が解毒出来ない訳がない。毒物を扱う者は必ず解毒する方法を持っているのが普通だ。
『どうしよう……[暴風雪]も簡単に防がれちゃうんじゃ勝てない……』
ルナは毒によって動けず、パニック状態のソルも同様に動けない。ローザも治癒の為にあの場から動けない。シアンも未だに放心状態かのように固まってこちらを見ている。
動けるのはボクだけだ。
『唯一倒せるであろう[[天牢雪獄]もすぐには放てない……発動するまでの間、隙だらけになる。そんな隙、あの怪物がボクにくれる訳もない……』
どうすればこの怪物を抑え込めるのか、それだけに思考を回していると、突然怪物に接近した水色の髪をした子供がいた。
それは他ならないシアンであった。
「パパ…?パパだよね…?」
「え…?」
シアンはあろうことか怪物に抱き付き、そしてあの怪物の事をパパだと言った。シアンがパパと呼ぶ人物はただ1人。それはアキラであった。
ドクンッ……
嫌な心拍音が耳にまで届く。
「まさか…あの怪物は……アキラ…なの…っ……?」
シアンが抱き付き、物語の悪魔のような姿をした怪物。そして先程から心に仕掛けられている精神攻撃から、ほんの僅かに感じ取れた怪物の心……それらが今、1本の道となって繋がってしまった。
書き貯めって大事だなと、昨日の夜に再度感じました。まさかログインすら出来ないとは…たまげたなぁ。




