311話:最悪の知らせ
「ガッ……ああアああアアッッ!!!!」
別の場所でミル達が戦い始めた時と同時刻。ラディウス枢機卿の目の前では、赤い十字架に縛られもがくアキラの姿があった。
「内部で抵抗しますか。まあそれも当然ですね。今入れた3匹の悪魔は皆凶暴でしたからね。ホホッ」
全身にまるで高圧電流が流されているかのように、全身を激しく痙攣させて白目をするアキラ。もはや声さえもまともに出す事は出来ず、目や鼻からは体液を撒き散らす。
「ですが凄まじいですね。他の者ならば既に死んでいますよ。貴方が私に忠実ならば、素材として運用する事も無かったと言うのに。丁度いい手駒として使えたらどれ程我々聖道協会の力になったか……誠に残念な限りです」
少し残念そうな表情を浮かべたラディウス。それと同時にアキラの絶叫と痙攣が止まる。
僅かに体が動いている事から、必死に呼吸しようと足掻いているようだ。
「死んでしまう前に回収しなければ使い物になりませんからね。では例の物を」
ラディウスは側に控えていた者に杖を渡すと、替わりに銀色のナイフを受け取る。そして静かに縛られるアキラの元へと近付く。
「では失礼しますよ」
「…………」
静かに息をするアキラに銀色のナイフを向けるラディウス。ゆっくりと彼の左胸へのナイフを突き刺す。
ズチュ……
左胸に突き刺したナイフはアキラの肉を抉り取り、そして遂にラディウスの目的であった部分へと到達した。
「なんと…!この短時間でここまで定着しますか…っ!ホホッ…!やはり殺すにはおしい人材でしたね。ですがそれ以上に素晴らしい素材だ…!」
手を真っ赤に染め、手の平に乗った心臓を恍惚とした表情で眺めるラディウス。
そして心臓が劣化しないよいに、ラディウスは控えていた者が持つ、液体が入った容器にアキラの心臓を入れた。
「ラディウス枢機卿様。あの“悪魔宿し“の亡骸は如何なさいますか?」
「あれは最早不要です。ですが我々の為に最後を全うしてくれた。その恩を返す為には火葬してあげなさい。きっと彼もそれを喜ぶ事でしょう」
「畏まりました。おい、始めるぞ」
ラディウスの指示に頷いた男は、他の者と共に十字架に縛られたまま死んでいるアキラに向けて火炎魔法を放つ。
すぐさま肉が焼け焦げる嫌な臭いが広がり、ラディウス達は撤収の準備を始める。
「ラディウス枢機卿様。別の場所にて待機していたメルム枢機卿様の元に、“色欲“が出現したそうです」
「そうですか。つくづく運がいいですねぇ。悪魔に対して強い耐性と適性を持っていますから。では私達も向かうとしましょう」
そしてラディウスは転移魔法を展開し、そのままメルム達の元へと瞬時に移動した。
黒焦げたアキラの亡骸を残して……
□
「っ…![砕氷]!」
激化する三つ巴の戦い。この中でミルは迫る火炎魔法を[氷蝕]で凍結切断し、そして聖道協会の術者を切り伏せる。
「ミルちゃんっ!1度下がってっ!」
「っ…!」
背後から聞こえたルナの声に反応し、すぐさまミルは背後へと後退する。それと同時に水の刃が今さっきミルがいた場所へと突き刺さる。
後退したミルを狙って聖道協会の追撃が続くが、ルナとシアンの風魔法によって逆に術者の元へと返される。
「焦るのは分かるけど、あまり先走っては危険よ」
「ん……分かってる」
分断されてしまったアキラの事で焦りを覚えるミルに、ローザは背中合わせでそう言う。
ミル自身分かっているつもりでも、1人で他の聖道協会を相手にしていると考えるだけで嫌な連想ばかりしてしまう。
「クソッ…!速すぎて弾が当たらない…!」
ソルは自身が造り出した狙撃銃でアスモデウスを狙い続けるが、ピンク色の電気を纏って高速移動するアスモデウスには被弾しない。
「“色欲“を倒すのはこの俺だ!!俺の邪魔をするなァ!!」
ソルの攻撃に過剰反応するメルムは、激情しながらソルに向けて水の弾丸を乱射する。すかさずローザが無防備のソルの援護に入り、守る事でカバーする。
アスモデウスを倒すという利害は聖道協会とミル達は一致している筈だというのに、メルム自身は自分の功績と名誉の為にアスモデウスを単機で狙い続ける。そしてそれを邪魔するミル達が邪魔の為、三勢力となってしまう。
「本当にあなた達は邪魔ですね…!“七つの大罪“を倒したという功績は俺の物だ…!」
アスモデウスとミル達に向けて、竜のように激しくうねる水流が暴れまわる。
ミルが一部を凍結させて仲間を守るが、その水流に押させて吹き飛ばされる。
「おや…随分と激しいですね。“色欲“だけと聞いていましたが、まさか六剣のミル・クリークスがいらっしゃるとは」
「っ…!ラディウス…枢機卿…!」
空間に突如開かれた穴から出現したラディウス枢機卿とその部下。数はメルム枢機卿と同じく150はいる。
「…これで聖道協会の者が一気に勢力が上がったわね」
「ん…!それと比べてボク達は5人…!これじゃ不味い……勢力が弱いボク達なのに…!早くアキラを探しに行かなくちゃいけないのに…っ!」
手に握る細剣に力が入るミル。5人全員で背中を合わせて対抗していると、ラディウスは今の会話に反応した。
「それなら心配はいりませんよ。“嫉妬“のテンドウ・アキラは既にこの世にいないのですから」
「え…?」
髭を撫でながらそうラディウスが言った事で、ミルの表情が変わる。一瞬脱力して細剣を落としそうになったが、ミルはすぐに力を入れ直す。
「嘘をつくな…!アキラがもうこの世にいない…!?そんな事…あるわけ無い…!」
「嘘ではありませんよ。これが証拠です」
ラディウスがそう言うと、後ろにいた者が透明の容器をミル達に見せる。その容器には赤黒い心臓が浮かんでいた。
「嘘…だ………信じない…!」
ミルは目尻に涙を溜めてそう叫ぶが、ラディウスはただただ静かに笑うだけ。
「チッ…あのサイコじじぃ、また殺りやがったのか」
そう呟いて一瞬嫌悪の表情を浮かべたメルムだったが、すぐにその意識はアスモデウスへと向いた。
「アキラが……しんだ…?そんな……そんな事…あるわけ……っ」
「っ……ミル!気をしっかり持ちなさい!」
膝から崩れ落ちたミルの肩を支えるローザだが、彼女もまた混乱と喪失感が心を締め付ける。今もミルのように崩れてしまいそうだが、僅かに残った意識で立ち続けていた。
「ね、姉さん…!アイツの言った事って…!」
「…嘘かどうかはまだわからない…。だけど嘘だとしても、本当だとしても……ミルちゃんにもう戦う気力が無くなってしまった今、戦い続けるのは無理よっ…!」
「っ……だよな…」
悲痛の表情を浮かべたソルとルナは、この戦いからの撤退を選ぶ。そしてソルは懐から負数の煙幕を取り出し、それを発動しようとした時だった。
「パパ……パパ!!」
「っ!?ダメよシアンちゃんっ!!あの人の所に行っちゃダメ…!今は……堪えて!」
アキラの心臓だと語る容器へと走って向かおうとするシアンを止めたルナ。涙をポロポロと溢しながら小さく抵抗するシアンに、ルナは苦しい表情をしたまま抱き締める。
「ソル…お願いっ…」
「……ああ」
今度こそ煙幕を展開しようしたソル。この結界内から逃げられるかどうかは分からない。だがこのまま戦いの中心で動く事も出来ないミルを守りながらでは戦えない。
そして煙幕がソルの手から離れる。まさにその瞬間だった、、
「な、なんだ!?」
突如激しい地響きと共に砂埃が上がる。空を見れば、僅かに見える結界が一部割れているのが見える。
この場にいる全員がその乱入してきた者へと視線が向き、戦いが一時止まる。
「………」
そして砂埃が晴れると、クレーターの中心に佇む黒い人形のナニカ。
全身が光を一切反射しない漆黒に包まれ、人間でいう目がある場所には、真っ赤な赤眼が2つ妖しく光る。
「ギイエ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エッッッ!!!」
そしてその漆黒の怪物は、この世のモノとは思えぬ絶叫を上げて空気を震わせた。
濁音多めの叫びはラノベではお約束だから多用してよしっ!
……けっして作者の語彙力が無いからじゃないからな…!ほ、ほんとだぞ。




