310話:三つ巴
時間ギリギリ…!
「アキラ…?」
アキラが赤い杭を打ち込まれると同時刻。先頭を歩いていたアキラが曲がり角を曲がった瞬間に姿を消した事で、全員が騒然とする。
「また忽然と消えちゃったねぇ…」
「ああ…だが今回のは何かおかしくないか?」
ルナとソルはそう言って、狭い路地裏を見渡す。確かにソルの言った通り、この路地裏の雰囲気がおかしい事はミルとローザも感じ取っていた。
「パパの気配が完全に消えちゃったよぉ…」
涙目になりながらも、我慢しているシアンの頭を優しく撫でながら、ローザは口をゆっくりと開いた。
「アキラの気配もそうだけど、人の気配がしなさ過ぎる……いくら貧困街方面の道の上、路地裏だからって人の気配がしないなんて変だわ」
「結界…?でもそんな気配は感じ取れなかった…」
精霊の血が半分流れるミルは、魔力の流れるを僅かに感じる事が出来る。だがそんなミルでも気が付かない程の高度な結界なのかと眉間にシワを寄せる。
「私も感じ取れなかったなぁー…不覚っ!」
同様にこの中で1番魔法に秀でているルナでさえ気が付く事が無かった。
だが解せないのが何故そんな高度な結界がなんで路地裏で、貧困街方面に張られているのかだった。
「まるでボク達がここに来る事が分かっていたかのように……まさかアキラが見えるって言っていた強い魔力反応が罠だった…?」
都合が良すぎる。それではまるでボク達が常に監視されていたかのようだ。
「理由は分からないけど……ボク達をここに誘い込み、アキラを1人にした時点で結界を張った者の目的はボク達の分断。そして今ボク達が襲撃を受けていない事を考えるに、狙いはアキラ…!」
「不味いわね…っ。私達には見えなかったけど、あのアキラが尻込みする程の魔力を持つ者と今対峙しているのなら…アキラの身が危ないわ…!」
焦りによって嫌な汗が流れるのを感じ、ボクはアキラを探す為に走り出そうとした瞬間、シアンが背中に羽を生やして空へと舞い上がる。
「うわあっ!」
だけどシアンはまるで見えない壁にぶつかったかのような音と共に落下してくる。それをボクが受け止めると、シアンは声を押し殺しながら泣き出した。
「パパ……パパぁ…っ」
「大丈夫…アキラは絶対に無事」
「うぅ…っ…」
余程アキラが好きらしい。シアンは腕で涙を拭うと、自分の足で立ち上がる。
「…急ごう。何か嫌な予感がする」
ボクの言葉に皆が頷くと、路地を走り出す。そこはまるで入り組んだ迷路のようだけど、途中斜めの道などはあったが何故か道はずっと一直線だった。それもまた不気味さと不穏な気配を感じる。
そしてその嫌な予感は的中した。
「おや?人払いの結界は張っていた筈なのですがね。これは思わぬ来客ですね」
「貴方は…」
「おっと!これはこれは失礼しました。まだ名前を名乗っていなかった。俺の名前はカルシフォン・メルム……西にある聖道協会にて、枢機卿を担っております。どうぞお見知りおきを」
そう言って優雅に一礼したメルムと名乗った男はニコリと笑みを浮かべる。
だがそんな笑みを向けられたミルは、内心で動揺と激しい警戒心を強めていた。
『ラディウスと同じ枢機卿…!なら強さは間違いなく確か…!なんでそんな人物がこんな所に…!』
四角形にかなりの広さを持つ土地に違和感を覚えつつ、ミルは素早く細剣を抜剣した。彼女の勘が告げている。奴は危険だと…!
「アキラはどこ…!」
「アキラ…?はて………ああ、“嫉妬“の事ですね。残念ながら彼はここにはいませんよ。その様子だと別の罠に掛かったようですね。残念です、以前の再戦といきたかったのですがね」
「っ…!?そんな筈は…!」
道は一本道だった。つまり道の終着は間違いなくここの筈。上にだって逃げられないのだから、そこは間違い無い筈。だけど目の前の男の言葉には嘘とは思えない。
「ですがそうですね……彼の関係者となると、ここで逃がす訳にはいかない。どうやらそちら側も戦うつもりのようですし、丁度いいですね」
そう言って、笑みを浮かべたままステッキを向けるメルム。それと同時にこちらも皆戦闘体勢へと入る。彼の背後には何人いるかも分からない聖道協会の聖職者達がいる。
『数は凡そ150と言った所……数で押されれば間違いなくじり貧になるっ…。決めるなら速攻…っ!』
ミルが細剣に冷気を纏い始めた。
─────その瞬間だった。
「随分と懐かしく良い香りがすると思って来てみれば……アハッ!久し振りだなぁ~、ルナちゃん、ソル君~…!」
この地域一帯に張り巡らされた結界。その結界を空から突破し、激しい砂煙と共に現れた謎の人物。そしてその砂煙がゆっくりと晴れ始めると、そこには……
「お前…ッ!」「嘘でしょ…!まだ心の準備が終わってないのに…!」
ルナとソルの声が少しだけ震えている。だがその目はしっかりと奴を見つめている。
「これはまた…大層なサプライズだね。まさか本命である“色欲“が俺の所にやって来てくれるだなんて…っ!」
そう興奮気味に笑みを浮かべたメルムは、ミル達から視線を切らして現れた者へとその全てを向ける。
それもその筈。この場に突如乱入してきたのは、“七つの大罪“の一角である“色欲“を冠する最上位悪魔・アスモデウスだったのだから。
「あちゃー、旨そうな匂いに釣られてやって来ちまったよ。随分と手の込んだ罠だな?聖道協会のクソ野郎ども」
「クソ野郎とは失礼な悪魔だ。ですが彼女達と俺たちは別件ですよ。さぁ…!そんなどうでもいい話は捨て置き、俺と戦って貰いましょうか…!」
好戦的な笑みを浮かべたまま、メルムはミル達に一切の視線を向けないままステッキから水魔法を放つ。
「チッ……面倒そうな奴だな。まさかと思って来てみたらこれだよ…ったく。まあいいさ、飯前の運動と行こうじゃねぇか…ッ!!」
アスモデウスは気ダル気にそう呟くと、迫る水魔法を足で空へと蹴り上げる。
「…!フフッ…!やはり“七つの大罪“というだけありますね。ですが残念でしたね、悪魔である貴方と俺では相性が悪い!!」
ミル達を完全に置き去りにして激闘を始めたメルム枢機卿とアスモデウス。突然の乱入と激闘に混乱状態でいると、突如ピンク色をしたプラズマがミルを狙った。
「ボケッとしてっと死んじまうぜぇ!テメェらが標的になってないだなんて思ってんじゃねぇぞぉ??」
瞳孔を小さくして笑うアスモデウスに軽い恐怖心を覚えた瞬間、アスモデウスを中心としたピンク色の大放電が辺り一面に無差別に広がる。
「くっ…![黒繭]…!」
咄嗟にローザが黒い繭でミル達を包み込む事で放電をしのぐ事に成功する。
だが今の放電がどれ程までに危険かは、深く抉れた地面と黒炭となった聖道協会の者を見れば分かるだろう…
「どのみちアスモデウスはボク達の目的であると同時に、この結界から脱出するにはあの男を倒す他無い…!皆、行くよ…!」
そう言うと、ミルは吹雪を纏いながら細剣を振りかざす。それに続いてローザとルナ、そしてシアンの魔法が続き、その後ろからはソルが狙撃銃を発砲する。
聖道協会とアスモデウス、そしてミル達による三つ巴の戦いが今、切って落とされた。
最後の方は難産だった。やりたい事が伝われば万々歳ですね…
作者が馬鹿だからね…仕方ないね。彼は言葉を知らないのよ…(マジ)




