309話:紅い十字架
厨二タイトル…!
そして次の日から、本格的にアスモデウスの捜索が始まる。だが奴の強さと危険さはローザ以外の全員が知っている。
『それどころか“強欲“ともう1人の俺もまたアスモデウスを…“色欲“の力を狙っている…』
それに続いて気になるのが聖道協会の動きだ。奴らもまた悪魔の殲滅を目標としており、度々俺も襲われた事を考えるに、ここにやって来ている事も考えられる……
「どれ程までにアスモデウスの所在の噂は届いているのか……それによっては戦う事になる相手が増える」
ただでさえ今はマルバスの能力しか使えないというのに、更に戦闘が激化するのは避けたい所だ。
だがグチグチと言ってても仕方ない。列車での出来事は完全なるアクシデントだ。あそこで力を最大現使わなければ生きていたかも怪しい。
「とっ…警戒してはみたものの、成果は無しか」
地道な聞き込みは勿論、お金を使って情報屋から買ったりもしてみたが、全くそのような話は聞けなかった。次に向かった詰所でも、不可解な女性を狙った暴行殺人などは無かったか聞いたが、やはりそのような事は無かった。調べれば調べる程に、この話が嘘に思えてくる。
「おかしい……アイツの性格上、ここに俺達が来るまで1度も事件を起こしていないなんて…」
「ん……でも母様が嘘の情報をボク達に渡すとも思えない」
「ああ。だからこそ不可解だな」
俺達ソルを除いた4人は頭を悩ますと、それを真似てシアンも悩む素振りをする。可愛らしい事だが、どうしたものか…
「おーい!今あの人から聞いたんだが、最近この辺りで白いローブを着た聖職者の姿が度々目撃されるみたいだぞ」
「…!それは本当か!」
近くで聞き込みをしていたソルが戻ってくると、新しい情報を持ち帰る。ソルが聞き出した情報から考えるに、白いローブの聖職者達は恐らく聖道協会だと思われる。
『やはり来ていたか…!クソ…これは面倒な事になるぞ…っ』
どれくらいの規模でこの地にやって来ているんだろうか。以前の“嫉妬“の際は、数百は軽くいた。ならば今回も同じ数……いや前回奴らが失敗している事を考えるにそれよりも多くいる事を考えるのが吉か。最悪の場合、以前の倍いる事も考えないと。……ゴキブリ相手みたいな思考だな。
「聖道協会の動きも気になるが…一先ず捜索してみるよ」
「ん、お願い」
意識を集中させ、俺は左目の力を開放する。今は午前という事もあり、人が少ない。だから今なら魔力の流れも分かる。
「っ…!これは……」
「どうしたの?アキラ」
ローザがそう訪ねてくるが、俺は視界に映る事に夢中になって答えられない。そして少し間を開けてから、俺はローザ達へと視線を向けた。
「あっちに向かって…強い魔力を持つ者が通ってる。残留する魔力がまだ多い事から、まだそう時間は経ってない…」
「…!それはまさかアスモデウスか?」
「いや分からない……だけどそれと同等くらいだと思う…。どうする…行くか?」
「あの路地は貧困街ね…」
不安気にそう聞くが、皆の意思は決まっていた。そうだ、何を怖がっているんだ。俺にはこんなにも心強い仲間がいるじゃないか。
「よし…!じゃあ急ごう、足取りが分からなくなる前に…!」
俺達は謎の魔力の後を追って、貧困街へと向かった。
□
「なんだこの路地…っまるで迷路じゃないか…!」
魔力の流れを追って、路地を歩く俺達。だがその魔力の持ち主は、まるで俺達の追跡に気が付いたらかのようにどんどん入り組んだ道へと進み続ける。
「狭いし暗いし…!もういっその事、空から確認しながら向かった方が──────……皆…?」
そうボヤきながらゆっくりと振り返る。だが背後には誰もいない。
すぐ後ろを歩いていた皆の姿が消えた。
「っ…!?そんな…っ…なんで!?ついさっきまで後ろにいたのに…!?」
数秒前までは確かに後ろを歩いていた皆が突然消えた事に、俺は驚きを隠せない。
おかしい。あまりにおかしすぎる…!
「マルバスっ…これってどういう事だと思う…?」
──…人の気配が完全に消えている。私達が消えたんじゃない。アキラ、君が消えたんだ
「俺が消えた…?────っ!まさか結界か何かか…っ?だけど俺の目には結界の魔力なんか見えなかったぞ…!?」
慌てふためく俺は、元の道へと引き返す。だが同じような所にやって来る。まさかと思い、投げナイフで壁に傷をつけてから走ると、、
「やはりか……完全に閉じ込められてる。進めって事なのか…?」
強い魔力を反応が示す先。そこに何がいるかは分からない。だが俺にはもう、引き返す道すら無い。このままではどうしようもないので、最大限の警戒をしつつ歩きだした。
「空き地…?なんでこんな所にこんな大規模な土地があるんだ…?」
歩き続けると、貧困街方面に進む路地裏からは考えられない程の莫大な土地がそこにはあった。周りは建物によって大きな壁となっている。シアンの羽も無く、ベリト達の協力も得られない今は空を飛べない。
「いったいなんなんだ…?ここは…。気味が悪い…──────ッッガァッ!!?」
何百mとある土地を気味悪がりながら歩いていると、突然俺の腹部に大きな赤い杭のような物が突き刺さる。
「グッ…!あああああッ…!!!!」
口から血を垂らしながら杭を力尽くで引き抜こうとするが、微塵も抜ける気配を見せない赤い杭。そしてその杭はそのまま鈍い光を放つと、俺の手足は杭から出現した赤い鎖によって拘束される。そして縛られた俺は、そのまま宙に少しずつ浮かび上がる……と言うよりは吊り上げられていると言った方が正しい。そして俺は十字架に縛り付けられたかのうよに激痛と共に地上を見下ろす。
『一体どういう事なんだよ…っ!背後からの奇襲…!?そんな気配微塵も感じなかったぞ…!』
いやそれよりも腹に突き刺さった杭がヤバい…!出血共に内臓の損傷が激しすぎる…っ。意識を少しでも緩めた瞬間に俺は…死ぬ。間違いなく死ぬ。
──気を強く持つんだ…!私が君を死なせはしない!
マルバスの声が聞こえてくる。だけどもうダメだ。もう意識を保っていられない。燃えるように熱い腹と、重くなっていく瞼。俺はゆっくりと瞳を閉じようとした。
「おっと。ここで死なれては困りますよ。君は私の杖の素材となっていただくのだからね」
その声が聞こえた瞬間、脳を焼き切る程に激痛を放っていた腹部の痛みが消え去り、変わりに全身に広がり始めた多幸感。
「おや?随分と姿が変わったじゃないか。ほっほっ…さしずめ悪魔を宿した副作用と言った所かね?」
「おま…えは…!」
聞き覚えのある声と共に、何もない場所から突如姿を現したのは、聖道協会に所属するラディウス枢機卿であった。
「いやはや驚きましたよ。この国に仕掛けてある罠の1つにまさか“嫉妬“が釣れるとは……ホホッ、私もまだまだ運は残っていたようだ」
「ふざ…けるな…!俺は“嫉妬“なんていう名前じゃねぇっ!俺にはテンドウ・アキラっていう…名前があんだよ…!」
「ホホッ……これから死ぬ者の名前などどうでもいいですね」
冷たい表情を浮かべたまま笑止したラディウスが手を翳すと、俺を取り囲うように待機していた聖職者達が一斉に杖をこちらに向けて、翻訳不可能な言葉を口にし出す。
「ッ!!ガッ……ぁ…っ…!!」
「苦しいでしょう。辛いでしょう。この杭と鎖は貴方のような怪物の為用意した専用の拘束具。例え“七つの大罪“の一角を宿し、悪魔に対して異常な適性率を持つ貴方でも脱出は不可能です」
ギチギチと鈍い音と共に締め付ける力を強めていく赤い鎖。俺の体からは骨にヒビが入っていく音が耳に直接聴こえてくる。
「ほぉ…それだけのダメージを受けながらもそのような眼を私に向けますか。相変わらず異常な精神力ですね。どうやら締め付けが甘いらしい」
「─────ッ!!!!」
そう言い、もう1度手を上げたラディウス。すると更に赤い鎖の締め付けは上がり、俺のあばら骨がビギッ…という音と共に砕ける。その痛みと締めで、俺は声にならない悲鳴を上げた。
「おっといけない、これ以上は殺してしまう。その前に貴方にはやってもらう事がありますからねぇ、死なれては困りますよ。ホホッ」
そう言って笑みを浮かべるラディウス。するとラディウスの背後から3人の白いローブを着た者がやってくる。それぞれ1つ、真っ赤や箱を持っており、それをラディウスの命令でゆっくりと開く。
「な“に“を“……す“る“つ“も“り“だ“…!」
まともに喋る事の出来ない俺は、その異様な雰囲気を放つ3つの箱を凝視しながら掠れながら叫ぶ。
するとラディウスは小さく笑いながら、自身の髭を撫でながら口を開いた。
「先程も言ったでしょう?貴方には私の杖の素材となってもらうとね」
「そ“…ざ“い“……?─────ま“さ“か“お“前“…!!」
「漸く理解しましたか。ええ、考えの通りですよ。私はずっと前から貴方が欲しかった…!いえ、貴方の心臓が欲しかった!!貴方程の悪魔への適性率を持つ者が素材となった時…!私は更なる力を得て、世界に蔓延る悪を殲滅する事が出来る!!」
空に向かって大きく両手を広げたラディウス。そしてゆっくりと俺に視線を向ける。その視線は俺を舐め回すかのような不快感が全身を震え上がらせる。
「ですが……素材に出来るのは1度のみ。そこで考えたのです。ならば死ぬ前に、更に複数悪魔を宿しては?とね。他の者では失敗に終わりましたが、貴方ならきっと可能な筈!!…同時に3体の悪魔は体が持たずに死に果てるでしょうが……どうぞご安心を。死ぬ前に貴方の心臓は私が有意義に活用してみせますから」
そう言って一礼したラディウス。すると3つの箱から深緑、深青、鉄色の輝きを放つ光が俺の方へと向かってくる。
「や“め“ろ“…!────や“め“ろ“ぉ“ぉ“ぉ“ぉ“ッ“ッ“!!!!」
喉が張り裂けるような痛みと共に叫んだ声が虚しく広がる。だが俺に抵抗する事も、ヒロインのように誰かに助けられる事も無く、その3つの光は俺の体を突き破って体内へと侵入した。
「レライエ、グラシャラボラス、ハルパス……どの悪魔も凶暴でした。ホホッ…どんな力を宿した素材になるんでしょうねぇ!!」
電流が流れたように体を大きく痙攣させてもがき苦しむアキラを他所に、ラディウスは彼を見つめながら恍惚とした笑みを浮かべ、狂ったような笑みが響き渡った。
これでアキラを苦痛で表情を歪ませるのは何度目だろうか。……性癖なのかなぁ…。
おかしい…普通主人公って作者の自己投影の筈なんだけど…(一個人の感想です)




