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302話:列車を停止させよ

「はぁッ……はぁッ…!」


──落ち着けアキラ。ゆっくりと息を整えるんだ。私達の力を最大まで引き出している現状、少しでもシンクロがずれれば命の危険がある。


歪む視界と耳にまで聴こえてくる心拍音。レヴィやサタンの力を引き出した時以上に体の自由が効かない。

バルバトスの声がギリギリ聞こえては来るが、足にまで力が入らなくなった俺は膝をついて息を荒くする。


──まったまった!ほらっ、ゆぅ~くっり息を整えて?ね?大丈夫だから…!ここまで僕達の力を引き出せている今、アキラが死ぬ事は絶対に無い…!大丈夫だから…!ゆっくりと息を吸って…!


「はぁ……はぁ…………っ……はぁ…はぁ……」


──その調子です、我が王!そのままワタクシ達の存在を強く意識し、それを我が王が包み込むのです!


皆の声が鮮明に聞こえ始める。励ましの言葉もあり、段々と落ち着いてきた俺はゆっくりと息を吸う事が出来始めた。


「これで……皆の力を引き出せたんだよな…?凄い力だ…まるで無限に湧いてるみたいだ…」


手を閉じたり開いたりしながら、自分の変化に意識を向ける。こうしているだけでも身体能力が格段に上がった事が分かる。今なら何だって出来てしまいそうな程力が溢れ出る。


「アキラ…?大丈夫なんだよね…?また意識を奪われてたりとかは…」


「平気だ、ミル。ごめんな、心配掛けて」


「ううん、いいの。アキラが無事ならそれだけでボクは…」


ミルが安堵の表情を浮かべた所で、俺は窓へと歩み出す。ベリト、バルバトス、ラプラス、計3体の悪魔の力を完全に引き出せるようになった今、通常以上に悪魔達のスキルや魔法を引き出せる。


「シアン、お前も来てくれるか?」


「…!うんっ!僕もパパの役に立ってみせるよっ!」


不安そうな顔を浮かべていたシアンの頭を優しく撫でながら、俺はそう言った。シアンを寄生させて、羽を生やす事も可能だった。だが今回は列車を止める為の力がいる。だから空を飛べる者が2人いれば、それだけでも効率は上がる。


「ソル、皆!そっちは任せたぞ!」


「任せろ!お前もしくじって列車の下敷きなんかになるんじゃないぞ!」


「ははっ、当たり前だろ。よし、行くぞシアン!」


そして俺は、羽を生やし準備完了となったシアンと共に列車の窓から外へと飛び出した。





「パパ、これからどうするの?」


「今からこの列車を止める……その為に俺達は正面から押すんだ」


「え…?それで止まるのかなぁ…」


「……言うな」


だが暴走した列車は昔っから正面から受け止めるというのがある。手の平サイズのプロトロボットもリニアを止めたという話もあるくらいだ、イケる…筈だ。


「シアン、お前はその羽を使って風を起こしてくれ。その風の力で押し返すんだ。俺も…ラプ、お前の風魔法を借りるぞ」


「うん、分かった!」


俺とシアンは翼と羽を大きく動かし、列車の先頭へと急ぐ。力強く走行する列車は、今にも脱線してもおかしくない速度で暴走している。

ルナとティアルが列車の上で風魔法を逆向きに放って減速を試みるが、速度が落ちているようには見えない。


「やっぱりソルが列車の走行を止めないと厳しいか……これじゃあ後2、3時間で到着しちまう…!急ぐぞ、シアン!」


更に加速した俺達は列車を追い越し、先頭へと到着。そして俺とシアンは列車を受け止める。シアンは羽から出る竜巻のような突風を。そして俺はラプの風魔法で押し込んでいく。


「ぐ、ぐっ…!!止まらねぇ…!!」


「止まらないよぉー!!」


2人で同時に押し込んでも止まる気配を見せない列車。ここで少しでも減速させなければ、ソルがこの列車を止める前に到着する。


「絶対に止めないと…!!クソ…!!だァおらぁぁぁああああ!!!!」


アキラが力を込めながら叫ぶと、背中から漏れ出た火花がやがて炎と変わり、それはまるでジェット機のような力強い炎となる。


「熱っ!!ぃけど…!!負け…ねぇッ!![部位変化(ぶいへんか)]ッ!!」


両手と両足を重点的に硬化させた俺は、列車に両手を突き刺し、両足を地面に付けて踏ん張る。地面に引かれたレールの木が凄まじい音と共に剥がれ落ち、自身の足からも悲鳴が上がる。


「ギ…!ギギッ…!!グッ…!!」


「パパ!ダメだよ!死んじゃうよ!!」


シアンの悲鳴のような声が聞こえる。だけど俺がここで踏ん張らなければ駅にいる者も、列車に乗っている者も全員死ぬ。ここで踏ん張らなければいけないんだ。


「もっと…!もっとだァ!!更に火力を上げるんだ…!!」


リング内にある魔力も残り僅か。だが今更やめる訳にはいかない。少しでも減速させる。何がなんでも…!


「っ…!?列車の力が少し弱まった…?」


どれくらい時間が立ったんだろう。10分かはたまた1時間か……折れそうになった心に何度も渇を入れ、踏ん張っていると列車から伝わる力が弱まったのを感じた。


「アキラ君っ!ソルが列車の動力を切る事に成功したって!更にブレーキの方も試してみるから、もう少し粘ってくれってソルがっ!」


「…!了…解ッ…!!」


列車の上に立つルナの言葉を聞いた俺は、希望が見え始める。振り返って残りはどれくらいかも確認する余裕も無い。


「パ、パパ…!おっきな街が見えてきたよ…っ」


「…!!」


漸く希望が見え始めた所で、シアンの言葉を聞いて冷や汗が出る。街が見え始めたという事は、残りの1時間も掛からないという事。ましてや動力を切られても速度が全くと言っていい程落ちていないこの列車だ、後数十分と言った所だろう。


「ッ……もっとだ。もっと俺に力をくれ…!」


──これ以上はもうアイボウ君が持たないよぉ!!本来なら少しずつ慣らして危険なのにこれ以上なんて…!


「いいから…!もっとだ…!!お前らの魔力も寄越せ…!火力が…ッ…足らない…!」


──ワタクシの力、存分にお使い下さいませ!!


ラプの膨大な魔力が追加される。それと同時に心臓に走る激痛。────だからなんだ。


「火と風を…!混ぜて…更に火力を…ッ!!」


2つの属性を混ぜるイメージ。まだこの辺の魔法練習はしていない。が、やらねば止まらない。やらねば死ぬ。ならば答えは簡単だ。やるだけだ。


「ガ…!ぁぁぁぁぁああッッ!!!!止まりやがれェッ!!」


歪ならがも炎と風が混ざり合う。それは魔法に才がある者が見れば未熟で不完全な混合魔法。だがアキラにとってこの炎は、この列車を止められる可能性を秘めた希望の炎。


『体が焼けるように熱い……こんなに熱を感じたのはアル・セルベリウスの時の自爆以来だな。─────っ…!これは…』


炎に焼かれる痛みと苦痛に表情を歪めるアキラだったが、突如体がひんやりと心地い冷たさを感じる。そして僅かに視界に入ったのは、白い小さな粒。雪だった。


「…!ミル…!」


「ボクがアキラの体を冷やす。もう少し…もう少しだけ辛抱してね…」


ルナとティアルのように、列車の上に堂々と立っていたのはミルだった。ミルが放ってくれた優しい雪は、熱に帯びた俺の体を冷していく。


「バルバトス!俺の足から矢を生成してくれ!!」


──ククッ…成る程、船の錨変わりか?やってみよう。


バルバトスの言葉の後に、次々と俺の太腿から地面に向かって生える紅い矢。それは地面に突き刺さり、僅かに速度を現象させている気がした。だが太腿と接合されている為、その圧力に耐えきれず矢は次々と折れていく。そして折れたそばから新たな矢が太腿から生えていく。


「…!パパ、もう駅が見えてきたよ…!」


体に小さな竜巻を纏うシアンは時折後ろへと振り返り、確認する。もう時間は無い。これでダメならそこまでだ。だけど…!


「最後の最後まで諦めてなるものか…ッ!!」


俺は最後の力を振り絞り、更に炎と風を混合させていく。背中から吹き出る炎は黄色から緑色へと変色していた。


『…ッ!!街に入った…!クソッ!クソ!!』


建物が視界に僅かに映り込む。脳裏に過るのは“死“。やはり主人公でもない俺には、大勢の命を救うなんて事は夢のまた夢だったんだろうか……














「アキラがここまで頑張った事を…!無駄になんかさせない…!![天牢雪獄(てんろうせつごく)]っ!」


「何諦めた顔してるのかしら?まだ諦めるには早いわよ。[反発影コンテンション・シャドウ]!」


列車の上に待機していたミルとローザがそれぞれ剣を振るう。ミルが放った剣技は猛吹雪と共に一面を凍結させ、レールの先に緩やかな氷の壁を作る。そしてローザはそのレールから外れぬように、列車が通る場所へとオーロラのような黒い影で調整する。


「私達もアキラ君の頑張りに負けてられないねっ!行くよっ!シアンちゃん、ティアルちゃん!」


「「「[三重竜巻(トリオ・ハリケーン)]」」っ!」


そして更にそこからルナ、シアン、ティアルの3人による巨大な3つの竜巻が重なり合い、1つの大竜巻となって列車のスピードを落としていく。


「頼む…ッ!止まってくれ…!!」


もう体に力が入らない。魔力ももう無い。それでも俺は列車を押し込む事だけはやめなかった。願うのはただ列車が停止する事のみ。


氷の坂をゆっくりと登り始めた列車。それを駅へと被害を出さすように反発する影の壁。大竜巻による減速。そしてシステムをハッキングして動力を停止。最後に俺が真正面から受け止める。これら全てが重なり……


「……止まった…?」


列車は完全に停止した。

願い通り死亡者を出さず、街に被害を出さず、列車を完全停止させる事が出来た。これも全て皆がいたから出来た。俺1人じゃ絶対に出来なかった。それはチートがあったとしても変わらないと俺は確信している。


「良かった……………………本当に……良かった…」


そして俺は歪む視界と共に、ゆっくりと瞼を閉じてその場に倒れた。

ここから更に宿す悪魔が増えるし、戦いも当然激化するので、もしかしたら途中でアキラは死ぬやもしれん…

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