301話:暴走列車
ブックマーク増えて喜んでたら遅刻……哀れ。
「バカな…!たかが貴族の令嬢なんかにこの俺が…!」
「バカはアンタの方よ。私を相手に魔法の勝負を仕掛けるなんて無謀過ぎるわ」
黒焦げた8号車の一室。そこには黒く軽装の男が2人と青と白のドレスを身に纏う金髪の少女がいた。
「仕掛けてくるとは思ってたけど、随分早かったわね。でも人数を増やし、1人の所を狙っても私には通じない。[拘束鎖]」
魔方陣から出現した鎖が男達を拘束する。これで安心だと思ったティアルだったが、突然男達は笑い出す。
「何がそんなにおかしいの?」
「いやぁ失礼。俺達を拘束した程度で安堵している君がおかしくて仕方なくてな」
「…どういう意味よ」
「俺達の情報は常に仲間に共有される。お前が俺達を拘束しても、すぐに他の目撃者を殺しに行っていた仲間がここにやって来て…─────…!?どういう事だ…!?全員やられている…だと…!?」
そう言った男は、何度も応答を問い掛けるが返事が無いのか段々と焦りの表情を浮かべていく。
「よく分からないけど、そのお仲間さんもみんな貴方達のようにやられてしまったようね」
「グッ…!こんな筈は…!!……こうなれば最後の手段だ…!」
「…?」
最後の手段、そう男が言うと、男が腕に付けていたリングが赤く光出すと、列車が大きく揺れる。
「な、なに…!?貴方…!一体何をしたの?!」
「我々の最後の手段…それはこの列車を暴走させ、オルシャーク国へと突撃させる…!この列車の乗客ごと全員あの世だ!」
「そんな…!」
「ああ、そうそう。今更列車を止めようとしても無駄だ。もうこの列車は止まらない…決してな!ふははははは!!」
「っ…!」
私はその部屋から飛び出し、列車の操縦席がある1号車へと急ぐ。前世でも今世運動をろくにしてこなかったせいか、息が切れるのが早い。
「きゃっ!」
「おっと…すまない、大丈夫か?…ってティアルじゃないか、どうした?そんなに急いで」
列車を繋ぐ部屋の扉を開けると、向かい側から現れた人物にぶつかり、私は尻餅を付く───前にその人物に引っ張られて倒れずにすむ。
そのぶつかった人物は特徴的な白髪の青年、アキラだった。
「列車が暴走をしたの!このままじゃこの列車はオルシャーク国に衝突しちゃう…!そうなれば私達の命も…!」
「…!マジかよ…!冗談じゃねぇぞ…!」
アキラはそう言って驚くと、肩に担いでいた黒い服を着た女性を床へと落とす。その姿は私を襲った者と同様の姿をしており、どうやら目撃者を殺しに向かったのは彼女のようだ。
『やっぱりアキラって何者…?いやそれよりも今は急がなきゃ…!』
そして私とアキラは共に1号車へと急ぐ。そして4号車に到着した所で、アキラは突然止まると、、
「悪い、ティアル!先に行っててくれ!心強い味方を呼んでくる」
それが誰かは分からないが、私は頷くと1号車へと急いだ。
□
「成る程、だから急に速くなったんだね」
「ああ、そういう事らしい…」
「何でよりによってもうすぐ到着って時に列車を暴走させるんだよ…!」
俺はローザの言葉通り彼女に報告し、ローザから皆に情報が伝わる。皆の中で特に頭のいいソルなら列車を止められると思ったが、彼でも無理らしい…
「動力部分を止める事は出来るかもしれない…。だが既に最高速度となっているこの列車の余力でオルシャーク国に到達する……そうなればこの列車は間違いなく駅で爆発するだろう…!」
全員で1号車へと向かう道中、ソルはそう静かにそう言った。ならばその余力を止める事が出来ればこの列車を止める事が出来る。だが下手に手を加えれば脱線し、更に大きな事故になる事も考えられる…
そう考えている間に1号車へと到着した俺達は、先に到着していたティアルに声を掛けて状況を聞く。
「ティアル、どういう状況だ?運転手は…」
「ダメ…!運転手は皆殺されてる……。それに操縦席も破壊されててブレーキを掛けられないの!多分ウイルスか何かを施されて加速してるんだと思う…!」
「分かった。ソル、出来るだけやってみてくれ!俺は列車を前方から止める方法を考える」
「分かった…!」
ソルは操縦席で機械をいじっては何かの配線を繋いでいくが、無知な俺にはそれが何をしているかは不明だ。
それは兎も角、俺は列車を止める方法を必死に考えていた。
「クソ…どうにかして止めないと…!」
「わ、私は風魔法で止められないか試してみるよ…!」
「あっ、私もやるよっ!2人でやれば効果も2倍だもんねっ!」
ティアルとルナは自身の得意な魔法を使って、なんとか風魔法で減速を試みる。姉弟揃って有能な事だ。
「ボク達にも何か出来ないかな…」
「出来るかどうかは2人次第だが……ミルは最終的に速度が落ちなかった時、氷を坂のように作って被害を最小限にしてほしい。そしてローザはあの黒い球体で脱線及び衝撃の吸収を頼みたい…!」
「ん…!任せて」「分かったわ」
ミルが作る氷は列車の脱線の理由になる可能性が高い。だから坂にして速度を殺しつつ、脱線しても被害を最小限に出来る最後にを託す。
そして同様にローザは邪剣の無い今のでも使えている黒い影のような球体を使って、脱線した際に列車の緩衝材となってもらう。
『俺にも何か…!何か出来ないのか…!?』
魔法はろくに使えず、自身が持つスキルと悪魔達のスキルを使用しても列車の速度を落とせるモノが無い。皆がどうにかして列車を止めようと頑張る中、俺だけが何も出来ずにただ突っ立ている事に悔しさを覚える。
『────…!そうだ、前のように悪魔の力を使って翼を生やせれば正面から止められるかもしれない…!皆、俺に翼を生やす事は可能か?!』
──可能、と言えば可能です。ですが……
『なんだ?何か問題があるのか?多少のリスクならいい、俺が耐えればいいだけの話だ…!』
ベリトとバルバトスは答えようとせず、見かねたラプが重い口調でそう告げる。その言葉から察するに、問題がある事は確かだった。
──アキラ、よく聞け。お前は確かに私達との適性が高い。だがあまり私達の力を酷使すれば、お前の体は持たない。最悪の場合、死が訪れるだろう。
『……もうなったとしても、このまま何もせずにいたら待っているのは死だ。どうせ死ぬかもしれないなら皆を助けたい』
──ほんっとアイボウ君は変わってると言うか変人って言うか……もっと自分都合で生きればいいのに…。まっ♪そこがアイボウ君らしくて好きなんだけどさ~
『フフッ…ありがとう』
俺の意思は曲がらない。例え死んだとしても、皆を救えればそれこそ俺が望んでいた英雄、ヒーローになれる。自己犠牲無くして憧れた主人公のようにはなれない。
「俺の全部をくれてやる……だからもっと俺に力を寄越せ…!」
──はいよ~
──ククッ…!いいだろう
──我が王の為に…!
その瞬間、全身に広がる激痛と自分が自分ではなくなく不快感が襲い掛かる。まるで全身の細胞という細胞が上書きされるかのような不快感と、自分の物じゃない強大な力が湧き出る。
「アキラ…その姿は……」
ミルの呆然とした声が静かに届く。
衣服を突き破り、背中から生える黒い翼。刺青のように顔を一部黒く染めるライン。通常以上に紅く光る瞳。そして獣のように生え揃う鋭く尖った歯。
その姿はまるで人間が考えてきた悪魔の姿だった。
簡単に、、
悪魔のスキル使用時:融合率30
悪魔側の意思でスキル使用時:融合率35
一部の悪魔のスキル酷使時:融合率45
悪魔の力を更に酷使した時(今回):融合率55
通常の人間なら悪魔との適性率は5~20であり、アキラのように体内で使役するのは自殺願望者で、力を大きく得る代わりに死亡率が高い。最悪体に宿す際に死亡する。なので使い魔のように使役するのが悪魔を使役する者の中では一般的。
融合率が50を越えた辺りから死ぬ確率が激しく高くなる。




