300話:本領発揮
「んくっ…!ググ…グ……っ…!」
「もう少し頑張ってっ!ここで諦めたらダメだよっ!」
場所は1号車にある展望室。そこで俺はルナに頼み込んで、魔法を見てもらっていた。
「も、もう限…界…!!─────たはっ…!」
「うーん、32秒かっ。うんっ、上々だと思うよっ!よくこの短期間でここまで仕上げたねっ!感心感心っ!」
15cm程の火出来たリングを横回転。そしてもう1つ同じ火のリングを縦回転させるという、ルナ曰く、中級レベルなのだそうだがこれが難しい。ただでさえ魔法の形状を変えて、更にそこから動かす。そしてこの練習で1番難しいのが縦と横に同時に動かすという事だ。つまり脳内で魔法の演算を2つ同時に行っているようなものだ。
「これでもまだ簡単な方なんだよなぁ……あー、自分の才能の無さが憎いよ。ルナは全魔法同時に扱えるんだよな?」
「うんっ、出来るよっ!」
ルナはそう得意気に言う、まるでお手玉のように器用に多種多様の魔法をポンポン投げては受け止める。彼女の何が凄いってそれら全部がノータイムで行っている事だ。
「今の俺にはルナは高過ぎる目標だよ…」
「あはっ!嬉しい事言ってくれるねっ!なら次はリングを外して、限界まで魔法を発動させてみよっかっ!」
「うへ~……」
「ほらほらっ!頑張って行こーうっ!」
その後、ルナにハードな練習をされたアキラは、魔力回復ポーションを5本飲んでお腹がたぽたぼになったそうだ。
因みにアキラはルナ監修の元、魔法の練習に勤しんだが、結果は相変わらず芽が出ずに終わった。
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「くっそ…!どうにかして魔法も使えるようにならないと…!」
いつまでも芽が出ない俺に、ルナを付き合わせては彼女が可哀想だ。だからある程度魔法を見てもらった後、俺は1人で魔法の練習をする。
だがやっぱりダメだ。数日、数ヶ月で習得できるよう物じゃ無いとは分かっていても、やはり中々成果が出ない事に苛立ちを覚える。
『皆は魔法…何か使える?』
──私は出来ない。私には矢があるからな。
──僕はねぇ~、やっぱり精神干渉系の魔法しか使えないかなぁ。
まあバルバトスは分かるとして、ベリトも魔法も同じくか。まあ精神干渉出来るだけでも凄いけどな。
『ラプは?何か出来る?』
──そうですね……風魔法なら少々可能です。恐れ多くもお教えいたしましょうか?我が王よ。
『…んや、いいよ。俺には火以外の適性が無いみたいだからさ。気持ちはスッゴく嬉しいけどね』
ラプの厚意は嬉しいが、残念ながら本当に俺は魔法の才能が無い。ただでさえ火系統の魔法もろくに使えないのに、他の属性にまで手を出したら器用貧乏になるべく未来が見える。でも俺の場合は不器用貧乏か……
「一歩一歩着実に……でも成長がもう少し無いとモチベーションが上がらな─────ッ…アブねぇ」
背後から僅かに感じた殺気。そのお陰で俺は頭を少し左へと動かす事で脳への攻撃を回避した。今のは……銃?だが音はしなかったぞ?
「相変わらず化物じみた反応速度ですね。気味の悪い…」
「そっちこそ相変わらず奇襲なんだな。まあアサシンっぽいけども」
俺を背後から狙ったのはあの時のメイドアサシンだった。まだ1日しか経っていないのに仕掛けてくるとは……まさか口封じか?もしや…ティアルの方はすでに殺られてしまったのか!?
「今回は随分と派手な事をするじゃないか。ここ、展望室だぞ?誰か人が来るかもしれないってのに」
「ならばその者もろとも殺してしまえばいい事」
「……成る程。アンタのその格好を見るに、本気で来るって訳か。…1つ質問なんだが…アンタ1人って事はないだろ?」
「さぁ…どうでしょうね」
黒い軽装なメイドアサシン。全身に武器でも仕込んでいそうな程ガチ装備だ。そしてこの攻撃は2度目。それも自分の顔が俺達にバレている。ならば口封じの為に、奴の組織も者が大勢襲ってくる可能性がある。
『ミル達が殺られるとは思ってないが…列車内だと不利だろうな』
だがそれさえも覆してしまうんだろうと小さく笑い、俺は腰に佩剣した細剣を抜剣する。ローザの言葉を聞いといて良かった。
「アンタも本気かもしれないが、生憎こっちも本気を出せる。それにここは広い……前のようにはいかない」
「ふふっ…それは楽しみですね」
表情を殺したまま不気味に笑みを浮かべた彼女は、こつぜんと姿を消す。それはまるで煙のように一瞬で……
『透明、高速移動……身体能力によるもの?いや否だ。魔法、またはスキルによるモノか』
攻撃は来ない。様子を見ているのだろうか?
時間をわざわざくれると言うのなら、ありがたく神経を研ぎ澄まさせて貰おう。
「…………っ。成る程」
瞳を閉じ、意識をこの展望室全体に広げる。僅かな音、呼吸音、空気の流れ。それらを全て感じる。奴の消えた方法は高速移動で確定だ。奴は目に終えぬ速度でこの部屋を動き回っている。
「なら話しは早い。[一撃必射]」
何度も使ってきた[部位変化]と[人操糸]を使い、1秒も掛からずに左腕を弓へと変化させた俺は、そのまま[矢生成]で矢を作り出し、必中の矢を放つ。
「─────そう来るのは読めてたよ」
「…!!───うぐ…っ…!!」
通常では考えられない軌道で曲がった矢。既に彼女を視認している為、あの紅い矢は奴に当たるまで追尾する。そして奴は俺が矢を放った瞬間を狙うというのも分かっていた。
だから左腕の刃状態の[部位変化]を解除とほぼ同時に表皮だけ刃へと変化させた俺は、背後からの彼女の攻撃を左腕で受け止める、そして右に持つ細剣で切り裂く。
「俺の事、弱いと思ってただろ。残念だったな。俺は仲間内じゃ弱いがお前のようなモブなら負けない。それこそプロのアサシンでもな」
「バカな…!そんな筈は…!!」
「今度は煙幕か」
一時姿を消すには大量の煙が展望室を包み込む。ただの煙幕ならいいが、これがもし毒物ならば危険だ。
「ラプ、お前の風魔法で俺の周りの煙を吹き飛ばせ」
──御意に
ラプの嬉しそうな返事と共に、俺の周りだけが風のバリアによって煙が無くなる。次はどんな手で来るのか分からない。だがさしずめ最初に奇襲を仕掛けた際に使用していた銃でも使うだろう。
「ベリト、俺の全身の表皮を刃に変えてくれ」
──あぁ~…成る程ね。オッケー♪
俺が[部位変化]を利用すれば一部分が限界。だが[人操糸]の時のように、ベリトに任せれば俺は何もしなくても[部位変化]を全身を纏う事が出来る。そしてその間にも俺は別の行動を取れる。
「…!撃ってきたか。だが遅いな」
毒の煙による消耗戦では勝てないと判断したのか、彼女は煙の中から音のしない銃を発砲する。それら全てが俺の体に当たるが、既にベリトが俺の体を[部位変化]で硬化させた後。通じない。
「────[氷月刃]!」
俺の周りにリング状の氷の刃を作り出し、その刃を全方向へと飛ばす。奴が的確に俺の体に銃弾を当てている事から、俺の場所は把握している。つまりそういった能力或いは道具があるという事。だが俺は分からない。なので奴に動いて貰う。
「………………そこか。[霧雪]!!」
「っ!!?ああぁあ…っ!!」
ラプが常に発動させている風のバリアの反応と、俺の聴力により彼女の居場所を特定。そしてその場所目掛けて連続の突きを放つ。細剣から感じた感触は、確かな手応えを感じる。
「そんな…!私の戦法が通じないなんて…あり得ない…!」
「残念だったな。俺はお前のような奴と戦う為に日々鍛えている。更に言えば一対一の対人戦なら負けるつもりはない」
「この…っ!化物が!!」
「…なんとでも言え」
煙に反応したのか、展望室の窓が開き、段々と消えていく煙。そしてその煙の中から姿を表したメイドアサシン。肩や横腹に刺し傷があり背中には紅い矢が突き刺さっている。無論全て急所は外してある。
「何でわざわざ急所は外した…!さっさと殺せばいいだろ!」
「…無理だ。今の俺に…殺しは出来ない。そもそも、どういった目的なのか、謎の道具はなんなのか、他に仲間がいるのか聞かないといけないからな」
最近漸く戦う覚悟を持てた俺だが、まだ殺しの覚悟は出来ていない。以前なら出来た筈の人を殺す事が、今は無性に怖くてしかたない。本当ならこうして戦っている事も怖くてしかたない。だからさっきのように強い言葉を言って自分を安心させている。
「あはははは!!甘いねぇ!クソが付く程甘いちゃんだよお前は!言うわけないだろうが!」
「だよな」
この手のタイプのアサシンは絶対に言わない。拷問や魔法によって情報を引き出される前に自害するタイプだ。異世界では割りと多い。
「……はぁ、一先ずティアル達に報告を──────何してんだ、バルバトス」
1度彼女を伸してから、ティアルへと報告と安全確認へ向かおうとした時だった。突如俺の胸から飛び出した紅い矢。慌ててそれを掴んだ俺は、その矢を放った張本人へと問いただす。
──何をしている、だと?アキラ、この者はアキラを2度も殺そうとした。そして何よりも…手負いのまま生かすのは獲物が苦しいだろう?
「狩人なりのプライドってやつか。だが悪いがそういう訳にはいかない。彼女を裁くのは…………ふッ!俺達じゃないんだよ。飲み込んでくれ」
──……分かった。今回は私が折れてやろう。
「ありがとう、バルバトス」
そして俺は気絶させた彼女を抱え、ティアルの元へと向かうのであった。
ア、アキラが俺つえええしてるだと…!?
アキラの強さは“なろう“で培った状況把握能力と能力の使用方法ですね。
尚、[世界関数]や[精神干渉]を使わないのはアキラの脳が対象しきれないからです。同時に使えないから魔法もクソカスって訳です。
[気配遮断]を使わなかったのは、アキラがまだ甘いからです(↑文矛盾)




