299話:心配事
列車から早く下ろしたい…(笑)
「っはー…!っっ…………!!」
「ふぅ……ん、いい感じに仕上がったね。今回の稽古でかなり動体視力と反応速度、反射神経が上がったんじゃないかな?」
場所は列車の上。そこでは膝をついて必死に酸素を吸おうとしているアキラと、少し汗を流すミルの姿があった。
稽古時間は短めの約2時間。だがその2時間の間には、かなりの激しい稽古が捩じ込まれていた。
「多分これで[反応速度]は取得したと思うよ。…本当は[終雪]残り2つの取得もしてもらいたいけど…ここじゃ厳しい」
ミルはそう言うと、息を荒くして動けないアキラの背後に迫る大木の枝を高速で切断する。
「ここじゃまともに空気も吸えないよね。ん、下…行こうか」
そして喋る事が出来ないアキラと共に、慎重になりながら列車の窓から侵入するのであった。
尚、行きより帰りの方が怖かったとアキラは語る。
□
「はい、お水だよ」
「あ、ありがとう…!」
ミルが売店から購入した水を手渡すと、アキラはグビグビと凄い勢いで水を飲んでいく。そして僅か数秒で水の入った容器は空となった。
「スッッッゴイ辛かった…!足場は滑るし風が強すぎて息がしにくいし、落ちたら即死するかもだし、ミルは手加減無いし…」
「ご、ごめん」
「あっはは!ごめんごめん、嘘だよ。厳しく稽古してくれてありがとな、ミル。俺にはあれくらいが丁度いいや」
「そう…?なら良かった」
そう言って笑いあっていると、廊下にソルとルナが出てきた。そして俺達に気が付くと、少し困ったような表情をしてこっちにやって来る。
「お前ら…まさか上で稽古してたんじゃないだろうな?」
「え?よくわかったな、その通りだよ」
「はぁ…やっぱりな」
額に手を当てて溜め息を吐いたソルと、少し困ったような表情のまま口を開くルナ。
「えーとねっ?なんだか上で凄い音がするから、乗客の中で魔物が上にいるんじゃないかって騒ぎになってるのよねっ…」
「んで今列車の職員が確認に行ってる。鉢合わせなくて良かったな」
ゲッ!マジかよ……騒音で迷惑を掛けてしまったようだ。い、いやぁ~バレなくて良かった。
「あれ?シアンは?確かソルと一緒だったよな?」
「ああ、シアンならローザの部屋にいるぞ。多分今ローザが寝かし付けてると……っと噂をすればだな」
そう話していると、丁度ローザが廊下へとやって来た。そして俺達に気が付くと、こっちに向かってくるのだが、俺にだけジト目を向けている。何故や。
「アキラね?さっきから上で騒がしくしているのは」
「…!し、知らないです!僕は何もしらない!!」
「嘘ね。ホント分かりやすい人」
「うぐっ…!」
ローザに問い詰められ、思わず嘘をついたが通じない。俺って嘘がそんなに下手か?いや、ローザが看破してくるんだよなぁ…
「…そうだ、アキラ。少し顔を貸しなさい。話がある」
「え?ああ…わかった。んじゃちょっと行ってくるわ」
先に列車の接合部がある部屋へと行ってしまったローザを追いかける為に、俺は皆にそう一言言ってからローザの後を追った。
□
「それでどうしたんだ?話って」
「……貴方、7号車で戦ったそうね?」
「へっ!?な、なんでローザが知ってるの!?」
接合部部屋に入って早々、ローザに7号車の事がバレた。ラプは俺の中にいるし、恐らく言ったのはシアンだな。全く…余計な心配を掛けさせてしまうから内緒って言ったのに…
「で、でも大丈夫だったよ?そりゃ強い相手だったけどさ、傷だって………あ、ほら!ここの打撲程度だし…!」
「…!貴方って人は…っ!」
俺は平気だという事を伝える為に、1ヶ所だけ強く受けた腕にある小さな打撲を見せると、ローザは形相を変えてすぐに俺の打撲へと[治癒]を施す。
「そ、そんなに血相変えて治す事無いだろうよ……こんなのほっとけば治るんだし、わざわざローザに治して貰わなくても…」
「~~っ!!バカ!何で貴方って人はいつもそうなの!?いつも皆に隠してばかりで…!もう少し私達に相談してよ!」
「ロ、ローザ…?どうしたんだよ、急に…」
突然そんな事を言い出したローザに、俺は困惑する。何故ローザが涙を流しているかも理解に苦しんだ。
「俺は何も…隠してるつもりは……。ただ皆に余計な心配を掛けさせなくないだけで…」
「そんなに私達じゃ信用ならない…?皆貴方の事を心配してるのよ…。いつも危険な場所に飛び込んで、いつも傷を作ってばかり……」
俺の服を弱々しく掴みながら、小さな声でそう言うローザ。何て声を掛ければいいのか、どうしてやるべきなのか…俺に分からず、ただ黙ってローザの話を聞く他無かった。
「危ない事を…しないでよ……。私はもうお父様のように急にいなくなるなんて嫌なのよ…。でもきっと貴方は今後も危ない事ばかりすんでしょうね…」
「………否定は…出来ない」
「……なら…これだけは約束してほしい。今後どんな小さな怪我でも、怪我を負ったら私に言って…?そして私には出来るだけ…隠し事をしないでほしい…」
「…わかった、約束する」
知らず知らずの内に、どうやら俺は皆に心配を掛けていたようだ。弱い俺は皆が活躍出来るよう頑張る。だがそのせいで傷を負って皆に心配を掛けさせてしまう。
『弱いってはやっぱり罪だな……どう転んでも皆に迷惑をかけてしまう…俺なんかの為に余計な心配を……』
「言質…取ったから」
「ローザには迷惑を掛けてしまうけど…うん、約束するよ」
「はぁ…貴方って人は…。迷惑だなんて思ってないわよ。それに皆だってそうよ。ミルもルナもソルもシアンだってそんな事思ってないわ」
「そういう…もんなのか?」
「そういうもんなのよ」
そういうもんなのか……難しいな。
あ、なんだかこういう本人は無自覚ってのは“なろう“味を感じるな。まあこの場合は俺の人間関係の乏しさにあるんだが…
「ありがとう、ローザ」
「何よ…急に」
「なんか今、俺の心がスッゴく暖かくなってる気がするんだ!これもローザのお陰だねっ!」
「べ、別に私は大した事をしてないわよ」
「いやいや、ローザがああやって言ってくれたからだよ。本当にありがとう」
「や、やめてよ…!私…そうやって褒められるの慣れてないんだから…っ」
「え?エルザさんってあんまりローザの事褒めてくれなかったのか?」
「そういうんじゃないわよ…!ただアキラに褒められるのが……その…」
なんだ、急にローザの奴モジモジし始めたぞオイ!可愛いな!やっぱ美少女っての存在だけであらゆる癒しを与える!日本にはいないならなぁ、この手のタイプの美少女は。
まあ異世界ってどういう訳かモブでも美女ばかりなんだけどな。
「それでぇ~?俺に褒められるとなんなんだよぉ~」
「う、うるさい!!もう知らない!」
フンッ!と鼻を鳴らして行ってしまったローザ。良かった、もう泣いてない。泣き顔っての悲しくなっちゃうもんな、っぱ笑顔が1番よ。
俺は照れているローザを茶化しながら、彼女の後に付いていった。
名前:天道明星
種族:人族
魔法:[火][小火][火球]
スキル:[剣技Ⅷ][体術Ⅶ][反射神経Ⅹ][投手Ⅵ][脚技Ⅸ][弓術Ⅷ][反応速度Ⅱ][悪魔放出][部位変化][精神干渉][人操糸][変則射撃][矢生成][気配遮断][一撃必射][完全記憶][世界関数]
加護[治癒の女神・リコスの祝福][大天使・ラミエルの愛]
現在のアキラのステイタスです。[反射神経]がⅩを迎えました。同時に[剣術]も1段階上がります。
残念ならがこの主人公には成長補正が無いので、過剰な成長は見られませんのでお覚悟を。
因みに今のアキラは悪魔の力抜きにしても、Bランク冒険者なら余裕で勝てる強さを持っています。と言ってもあまりピント来ないでしょうね(笑)まあ中の上と考えていただければと。




