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297話:メイドさんはアサシン

アサシンメイドへと接近した俺は、そのまま刃が生えた腕を振りかざす。だがメイドは後退し、そのまま壁を器用に蹴って俺の横腹へと蹴りを入れる。


「強ぇ…本業は違うってか…!」


「見れば見る程気味の悪い奴だ……人間に擬態した怪物め」


ミルを連想させる無表情でそう吐き捨てるメイド。だがミルとは違って本当に感情を抜け落ちているように感じる。まるで殺しに対しての罪悪感など感じていないかのように……


『チィ…!近接なら異世界でも負けるつもりは無かったが、人を殺す専門の動きは一味違うな…!』


両腕から生える鋭い刃で接近戦を仕掛けつつ、蹴技を仕掛けていく。だがこのメイドにはそれらが一切通じない。室内での戦闘に慣れすぎている…!


「ぐ…っ…!それなら!」


腕部だけの刃では勝てないと悟った俺は、[部位変化(ぶいへんか)]のスキルを酷使して、更に両踵へと追加する。

だがまだだ。まだこれだけで勝てるような相手じゃない。現に今彼女が両手に持つ短剣も危険極まりない。あの短剣から守る盾がいる…!


「ベリト…!お前の力、かなり使うぞッ…!」


──アイボウ君の戦いに貢献出来るのは嬉しいけどぉ~……あんまり無理はしないでよね?


「分かってるよ…![部位変化]!!」


ベリトの力を更に引き出して、肩から指先にかけて[部位変化]で被う。それは腕全てを刃に変えるのではなく、硬い鉄で表皮を被うイメージ……安定性に欠ける。だが初撃程度なら防げる。


「っ!なんとおぞましい…!」


「うるせぇ……よ………こうでも…しないと……お前には勝てないと…踏んだんだから……仕方ないだろう…」


化物を見るかのような視線を向けるメイドを睨みつつ、俺はそう強く言葉を返した。

だが途切れ途切れでカッコつかない。当然だ、今は全身に巡らせた[部位変化]を維持する事で頭が一杯なのだから。


「長く…は…………持たない。即攻で…決める…!」


体に熱が回っていくのを感じながら俺は狭い部屋の中を駆ける。あのメイドと俺は同じタイプの戦い方をする。その上で彼女の方が強い。技術じゃ勝てないのなら、ここは【Re:ゼロ】のスバルのように、気合いと根性、そして強い精神力で挑まなくてはいけない。


「っ…!無駄な事を…!」


「無駄かどうかを決めるのはお前じゃねぇ!!無駄な事なんてこの世には無ぇんだよッ!!」


両腕部から生えた鋭い刃で連撃を仕掛け、彼女が持つ2本の短剣とつばぜり合う。


『クソッ…!もう維持してられない…!』


残る時間は10秒も無い。それが解ければ俺は彼女の短剣によって喉を裂かれて絶命するだろう。間違いなく、このメイドはシアンも目撃者として消す筈だ。そんな事、絶対にさせない…!


「~~~っ…!!ぐぎぃ…!────オラッ!!」


「っ…!!?」


つばぜり合う彼女の腹部へ再度前蹴りを放つと彼女は壁へと背中を激突させ、腹部を押さえる。同じ場所に本気の蹴りが2発…この僅かな隙を俺は逃しはしない。


畳み掛けるように、右腕から生える刃で、彼女の喉目掛けて右へと大きく振り払う──────


「なっ…!!」


───ように見せ掛けたフェイント。

本命は右腕を大きく捻った事で付いた遠心力を利用した右回し踵蹴り。


「がはっ……!!」


流石はアサシン。咄嗟に2本の短剣でガードしようとしたが、全てを乗せた[部位変化]によって生成された刃には無意味。

結果右足の踵からアキレス腱のように生えた鋭い刃が彼女の体を左下から右上へと切り裂き、赤い血が大量に吹き出る。


「ゴホッ…!ゴホッ……!!この…!化物がっ!!」


瞳孔を小さくして鋭い睨みを効かせながら吐血したメイド。そのメイド服は彼女の出血により真っ赤に染まり、その姿はもはや男が憧れるメイドの姿ではなかった。


「私達の計画を邪魔するゴミめ…っ!こんな所で終わる訳には…っ…いかないんだ…!!」


壁に体重を預けながらゆっくりと立ち上がったメイドは、そうブツブツと呟きながら何かを唱え始めた。


「───────…!冗談じゃねぇぞ……こっちはもう立てないってのに…!」


世界関数(ラプラス)]の効果によって、俺は数秒先の映像を見た。その映像には詠唱を終えた彼女が、腕に付けられたリングから黒い穴を作り出す姿があった。そして俺はその穴へと吸い込まれていく……それはまるでブラックホールのように…


「私の計画を邪魔した罰だ…!!貴族どもと一緒にあの世に送ってやる…!!あははははは!!」


狂った目で、顔にまで赤い血を付着させて笑う彼女の表情はまさに狂気。そしてその笑い声と共に、彼女のリングから少しずつ黒い穴が出現し始めた。


「ッ…!![悪魔放出リリース・ディアボルス]ッ!!出てこい、ラプラス!」


「ハッ!仰せの通りに!」


俺の体から素早く飛び出た光は、すぐさま人の形となって、それは執事服を着た悪魔・ラプラスとなる。そしてラプラスは焦りの表情を浮かべたまま、俺を担ぎ上げると、すぐ側にいたシアンも同様に担ぎ上げてこの場からの撤退を図る。


「あははははっ!!無駄無駄!古代遺物(アーティファクト)の力から逃れられない!!」


だが上位悪魔であるラプラスの身体能力を持ってしても、完全に生成された黒いブラックホールによって少しずつ引きずり込まれていく。


「グッ…!せめて我が王と御子息様だけでも…!!」


「…!よせ!やめるんだラプラス!!」


ラプラスは自身を犠牲にして俺とシアンを救おうとするが、俺はそれを止める。だが状況は最悪。このままでは全員があのブラックホールに呑み込まれる。





「[引力操作(いんりょくそうさ)]!」


そんな絶望的な状況の中、透き通るような声が響き渡る。すると俺とシアン、そしてラプラスの体はブラックホールから遠ざけられていく。


「危機一髪って所ね。大丈夫?白髪の変な子とそのお仲間さん」


「君は…!」


俺達を救ってくれたのは綺麗な金髪を1本に纏めた少女。それはつい先程俺を不審者のように見ていた名も知らぬ少女だった。


「君は確か……グリッズ伯爵の所のメイドさん、だったよね?」


「……これはこれは…アレイストア家のお嬢様に覚えていただけるとは光栄ですね」


先程とは打って変わって笑みを浮かべるメイドは、スカートを指で摘まんで頭を下げる。バカにしているとしか思えぬその仕草に、緊張が走る。


「…その傷、どうしたの?凄い血だらけだけど」


「いえいえ、ティアル様がお気にする事はありませんよ。強いていうな…ティアル様が庇ったその怪物にやられた、と言った所ですね」


俺が与えた傷はなんて事無かったかのようにクスクスと笑みを浮かべて微笑むメイド。その言葉に一瞬ティアルと呼ばれた少女は俺に視線を向けると、再度メイドへと視線を向けた。


「そんな嘘、私に通ると思ってるわけ?」


「ああ……そうでしたね。貴女は“嘘が通じない女“でした」


上っ面な笑みを消し去ったメイドは、冷たい表情へと戻すと、小さく溜め息を吐いた。


「観念したのかしら?この惨状を見れば何となく分かる……貴女がグリッズ伯爵を殺したのね?」


「だったら…どうします?ふふっ」


「ここで貴女を捕まえるまでよ![拘束鎖(チェーン・ロック)]!」


魔方陣から飛び出した鉄色の鎖はメイドの体を硬く縛ると、そのまま具現化する。以前コウキも同じような技を使っていたな。


「残念ですが潮時、ですね……」


「なっ…!待ちなさい!」


最後に不敵な笑みを浮かべたメイド。すると彼女が腕に付けていたリングが光輝き、この場いる全員が思わず瞳を閉じる。そしてもう1度目を開くと、そこにはもうメイドの姿は無かった。


「逃げられちゃったか。はぁ……まあいいか、君達のピンチは救えたみたいだしね」


そう言ってニコっと笑みを浮かべた少女は、俺へと手を差し出した。


「私、ティアル・アレイストア。これでも一応伯爵令嬢なんだよ?よろしくね、白髪頭の変な子」


……は?んだコイツ…!2回も俺を変な白髪頭って呼びやがって…!!

俺は助けられた感謝の気持ちと、何だか馬鹿にされているような呼び名に怒りを覚え、何だかよく分からない感情になるのであった。

これで“なろう“系主人公って何人出たんだ?

魔法万能、剣術最強、全魔物使い、婚約破棄令嬢…4人か…(把握)

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