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296話:シアンの秘められた能力

シアンの能力開花と、肩身が狭いアキラ君のお話。

俺を怪しむ少女との会話を思い出しつつ、俺は展望室へとシアンを連れて向かっていた。折角あんなに眺めがいい場所があるんだ、見なければ損というもの。


「わぁ~!パパ、みてみて!すっごいよ!」


「こらー、走ると危ないぞー」


無邪気にはしゃぐシアンを微笑ましく見つめながら、俺は椅子に座る。今は他に乗客がいないからね、少しくらいなら走らせてもいいだろう。

そう思いながら、シアンを見つめている時だった。


「わぁ~い!」


「…!おぉ…そうだった、シアンって元は蝶だったな…すっかり忘れてたよ」


くるくるっと回転したシアンは背中に美しい羽を生やすと、展望室を優雅に飛び回る。その子供の容姿と幻想的な羽も相まって、シアンはまるで物語に出てくる妖精のようだった。


「そう言えばシアンはもうミラージュバタフライになれないのか?もうそのままの姿?」


「ううん、なろうと思えばなれるよっ!今すぐになろっか?」


「あー!?いい!!やめとけ!」


「…?そう?」


今あのサイズの蝶に戻ったら、この列車は間違いなく吹き飛ぶだろう。それくらい大きなシアン。ついでにサイズ調整は出来ないのかと聞くと、残念ながら不可能らしい。


「でもねっ!僕、パパの背中にならくっつけるよ!えいっ!」


「おお~!─────イデッ!!?」


そんな可愛らしい言葉と共に、俺の背中へと飛んでくっついたシアン。その次の瞬間、背中に走る激痛。ナイフでも突き刺されたのかと勘違いしてしまう程の激痛が背中にじんわりと広がった。


「イツツ……あれ?シアン!?シアン!!」


痛みが収まった所で、背中へと顔を向けると、そこにはシアンは居なかった。あるのはシアンが背中に生やしていた美しい羽のみ。


「まさか…寄生は出来るのか!?ウッソだろ…サイズ調整が出来ないって言うからもう2度と出来ないと思ってたのに…」


窓ガラスに反射する俺の姿には、シアンの羽はあれどシアンの姿が無い。まるで俺の背中から蝶の羽が生えているように見える。


──久し振りにパパと一緒になれたー!


「っ?!シアン……良かった、生きてた…」


完全に俺の中に取り込まれたとかだったらバッド過ぎるからヒヤヒヤしたよ……

安心した所で、昔にやっていた時と同じように空への浮遊を試みる。


「以前と変りない、か。むしろ前より動きやすくも感じるな」


俺が成長したからか、シアンが成長したからか……まあ後者だろうが、飛びやすい。その上以前は出来なかったシアンとの会話も可能な為、連携も取りやすくなっている。

手順で言うと、シアン→シアンが羽を生やす→俺の背中に飛び乗る→俺の背中にシアンの羽が生える、完成!


──僕ね!僕ねっ!前よりも大きくなったから、こんな事も出来るようになったんだよっ!えいっ!


脳に直接聴こえてくるシアンの声は、嬉しそうに弾みながらそう言うと背中の羽をシアンの意思で動かす。

すると、その羽から飛び散った鮮やかなシアン色の鱗粉が展望室に広がる。そしてそれは、、


「うわあああああ!!??」


俺と全く同じ容姿となった、、


「え!?えっ!!?どゆことどゆこと!?」


麟粉が人の形となって、まさかの俺と同じ姿になったのだ。しかもテンパる俺の動きと全く同じで、表情までリンクしている。まるで鏡にでも写ったかのように……


──えっへへ~!すごいでしょ!僕ねっ、羽に付いてる青い粉を飛ばすと、自分と同じモノを作れるんだよ!


「マジかよ……デコイみたいな感じか…?ただそこに偽者を作れるだけでも凄いってのに…動きまで俺と同じに出来るって……なにそれ強くね…?」


──へっへーん!僕の成長はそれだけじゃないんだよ!!それっ!


シアンが得意気にそう言うと、俺の姿となっていたデコイ明星は元の麟粉へと戻り、その鱗粉はそのまま真っ直ぐに俺の元へと向かってくる。


「……………?ここから何が起こるんだ…?」


特に何の変化も無い。バフでも掛けてくれたのかな?何となく蝶の鱗粉ってバフのイメージあるし(個人の感想)だけど特に変化は無さそうだが…


──えへへっ!窓を見てごらんよ!きっとパパ、ビックリしちゃうよっ!


「え?どういうい…み…………………は?」


いない。俺がいない。窓に映る筈の俺の姿が無かった。俺は思わず窓に近付き、そのまま自分の肌を慌てて触れる。大丈夫だ、ちゃんと感触はある。あるのに窓には俺の姿が無い。この怪奇現象の答えはと言うと……


「嘘だろ…?シアンお前……この麟粉で姿を消せるのか…!?」


──うんっ!強い奴から生き抜く為に身に付けたんだぁ~♪


強い奴から生き抜く為って……いやいや、シアンの方が絶対強いだろ、体格差的にさ……

てかマジかよシアン…デコイ作れるだけでも強いってのに、姿を完全に消せるとかチート臭いぞ……


『どうしよう……可愛い息子だと思ってたのに

…』


焦りを覚える強い能力を所持していたシアン。まずいのォ、こいつ、ワシより強くねー?

だけど思い返して見れば、シアンの親であるミラージュバタフライも初めて出会った際は姿を消していた。ミラージュバタフライという名の通り、自由に姿を消せるのが強味なのか。う~む…強い……俺より遥かに強いぞ…!


「シ、シアンさん……これからもどうか…!仲良くやっていきましょうね…!ねっ!?」


──うん?うんっ!勿論だよ、だってパパは僕のパパなんだから!


敵になったら間違いなく背中から刺してくるタイプだと震えた俺は、こんな可愛らしい子相手に媚を売るのであった…。哀れ。





誰か展望室にやってくる前に、早々に撤退した俺は、シアンの暖かい手を握りながら長い列車の廊下を歩く。


『う~む……まさかシアンまでチート並の能力を所持しているとはなぁ…』


ヤバい、ますます俺の肩身が狭くなったのを感じるぞ…!優しい聖人ばかりの皆の事だ、俺の事をお荷物だなんて思ってもいないだろうけど…思ってないよね?


「上級悪魔の能力を持ってるのにパーティーで最弱とかやべーぞ…。姿だけ“なろう“主人公でクソカスとかマジで笑えねぇ…」


前衛のミル、中衛のローザとソル。後衛のルナとシアン……ヤバいって!!俺のポジションがねぇ!!くぅ~~!!もう最前衛で自爆するしかねぇーっ!!


「ねぇ、パパ。どこまで行くの?もうお部屋過ぎちゃったよ?」


「え?うそ…」


頭の中でもパニクっていると、シアンが手を引いてそう言った。いつの間にか4号車を過ぎており、気付けはここは7号車だった。


「いかんな…余所見して歩くもんじゃないや。……にしても後続車両は豪華なんだな」


なんかファーストクラスみたいだ。乗った事無いから知らんけど。


「…!そうだ!なあシアン、折角こっちの方まで来たんだし、探検しようぜ!」


「探検…!うん!しようしよう!」


昔からホテルとか貸し別荘とか行ったら必ず探検してしまう俺は、やはり男の子という名の呪いに掛かっているようだ。

と、そんなバカな事を考えつつ、俺はシアンと共にお高そうな後続車両を探検していく。


「…!おっ、メイドさんだぁ」


列車の中を歩いていると、列車と列車を繋ぐ部屋でメイドさんを発見した。何気にローザの所で働いていた頃以来見ていないから何だ新鮮だ。


「………何か」


「あ、いえ……すいません…」


久々の異世界のメイドさんに、表情を緩ませていると、メイドさんは目線を鋭くして俺を睨み付けながらそう言った。

いかんいかん……容姿が整ってるからついジロジロ見てしまった。謝罪したものの、メイドさんの表情は変わらず、ずっとこちらを凝視している。


『な、なんだよ……そこまで怒らないでくれよ…あー、分かった。キモいからさっさとどっか行けってか?はいはい、言われなくても────!!』


溜め息を吐いて、さっさと立ち去ろうとした瞬間、視界にとある映像が映し出された。

その映像が映し出されてから僅か1秒も掛からず、メイドさんは突然高速で動き、俺の喉に向けて短剣を突き刺さる、、





「うぐっ…!……なんで…っ」


「あっぶな……」


───訳がない。

事前に映し出された映像には、俺の喉へと的確に突き刺すメイドさんの姿があった。そうなれば俺が取る行動は1つだけ。近付いてきたメイドさんの腹へと蹴りを放つ事だ。


「物騒な奴だ。そんなに俺が気持ち悪いかよ…。なんてな、んで?どういう了見だ?これは」


「………」


メイドさんは何も言わず、ただ黙って短剣を2本取り出し、まるでクナイでも持つかのように構える。どうやら俺を殺るつもりらしい。


「……シアン、下がってろ。危ないから」


「う、うん……でもパパは…」


「大丈夫、お前のパパは最強だぜ?」


ニコッと微笑みを浮かべて、シアンを落ち着かせる。まあ最強っての自称だけどな。

さてさて、どうしたもんか……列車内で戦う事になるなんて思っても見なかったから武器は持ってない。バルバトスの矢が放てる程ここの部屋は広くない……か。


「しょうがない、ここは[部位変化(ぶいへんか)]を使うとしよう」


対人戦で使うのは初だが、どうにかなるだろうか……ただの勘だが、あのメイドさんはアサシンのようだし、少し心配だ。


「……やはり、私の考えは間違っていなかった。貴様…人間じゃないな。貴様のような不安因子は排除させてもらう」


「ほんっと…異世界って暴力的だよな……命をなんだと思ってるんだか…」


腕部から鋭い刃を生やした俺は静かに構えながらそう溢す。ここからは“なろう“主人公のようないイキりも冗談も煽りと言えない。真剣な命のやり合いなのだから、本来はそれで正しいのだが……いつかは俺と戦いに余裕の持てる男になりたいものだ。


そう自身の弱さを感じつつ、俺は床を蹴って先制攻撃を仕掛けた。

アキラが腕部からよく生やす刃は、アマゾンズ的なアレと考えていてください。

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