295話:変な白髪の子
新なろう系主人公(令嬢)
寝台列車や特急列車は昔からミステリー小説では何度も登場する場所。だから私は“青星“に乗る前から何となく嫌な予感がしていたのだが、、
「た、大変ですっ!グリッズ伯爵様が消えてしまいましたっ!」
「何ですって!?」
共に乗車していたグリッズ伯爵が忽然と姿を消した。行動を共にしていたグリッズ伯爵のメイドも慌てふためく。
『やはり何かがおかしい……突然オルシャーク国の王が貴族を集めるパーティーを開かれるという事自体を怪しんでいたってのに…』
グリッズ伯爵が消える1週間前にもバラト男爵が姿を消した。これは何か裏がある。自分自身も立場上は令嬢の娘。しかも今回は父上の代わりにパーティーに参加する事になっている……私が狙われてもおかしくない。
「お嬢、どうしたってんだよ?顔が暗いぜ?」
「当然だろうコミィー。ティアル様も狙われるかも知れぬのだぞ。警戒して当然だ」
「だけどよぉ、そこは俺達がお嬢を守るんだし平気だろうよ」
「当然だ、バカが。それが私達の使命だろう」
「へぇいへい…ったく、相変わらずお堅いなぁ、ベルちゃんはよぉ…」
「…!コミィー、その名で呼ぶなと何度言えば分かるんだお前は…!」
私の護衛であるコミィーとベルは相変わらず仲が悪い。というかもはや仲がよくも見えてしまう。痴話喧嘩ってやつにしか見えない。
「貴方達、本当に仲がいいわね…」
「よくねぇよ!」「よくありません!」
「お、おう…」
やっぱり仲がいいんじゃないか…?
□
コミィーとベルの痴話喧嘩も終わり、私達は8号車の個室へと戻っていた。“青星“の後列車は貴族達も利用するとあって、快適な部屋となっている。というかここで暮らせる。
と、それは兎も角として、私はこの事件について考えていた。
「突然のオルシャークの王からの招待状、そして次々と姿を消していく貴族達……これは偶然なのかしら」
「確かに妙です。他国との友好あるとはいえ、オルシャーク王が50近い貴族を集めるなど不可解ですよ」
「反貴族派連中の仕業なのかねぇ~。それにしては狙う時期が完璧過ぎるし、証拠も残らねぇんじゃ対処のしようにも出来ねぇ。そもそも貴族様達をどうやって消したんのかさえわかんねぇんだからな」
ベルの言った通り、他国とかなり友好関係を築いているオルシャーク王が私達を消す理由が無い。そうなるとコミィーの言ったように、このパーティーに参加する為に動く貴族達を消す為に反貴族派が動いたのだろうか…。オルシャーク王と反貴族派が繋がっている……訳ないよね。
「う、うう………あー!ダメっ!私こういう事考えるの苦手なのよ!そもそも産まれてからミステリー系なんて金田一◯年くらいしか見てなかったんだから!!んなの分かるかっ!!」
「っ!!?お、お嬢…どうした?」
バンっ!と力強く叩いて立ち上がると、椅子にもたれてグラグラバランスを取っていたコミィーが後ろに倒れる。その表情は微妙な痛みと驚きを浮かべていて、何だか申し訳なくなる。
「ふぅ~…おっきい声出したらスッキリしたぁ。スッキリついでにトイレ行ってくるね」
「ティアル様…貴女様はアレイストア家のご令嬢様なのですからそのようは発言は…。それにティアル様は女性なのですよ?」
「あっ、ごめんごめんっ!」
手を合わせ、テヘペロフェイスで謝ってから私は部屋から出る。一応トイレは個室内にもあるのだが、情報収集も兼ねて列車内を歩きたい。そんな緩い感じで列車内を歩いていると、、
「48…!49…!っ…50!」
丁度4号車内に入った時だった。そこには廊下で壁倒立をしながら腕立て伏せ?をしている青年がいたのだ。
「……何やってるんですか」
「え?誰?」
思わず声が出てしまった。すると彼は辛そうな表情を浮かべ、そのまま腕立て伏せを続けながら視線を向ける。
「何でこんな所で筋トレしてるんですか…」
私は再度何でこんな所で筋トレしているのかを聞いた。何なんだこの白髪青年は…話してるのに腕立て伏せを続けてるし…絶対変な子じゃん。
「いやまぁ……体が鈍っちゃうなぁ~って…」
「変ですよ…」
何だその回答は…。体が鈍っちゃうからって普通列車中で、しかも廊下で筋トレするか?しかも何かこの子困惑顔してんじゃん!いやいや、何で私が不審者を見るような目線を送られなくちゃいけないのさ!変な事してるのは君だからねっ!?
「……あの…所で質問なのですが、8号車で起こった事件はご存知ですか?」
私は思わず溜め息を吐き、その後にこれも何かの縁として8号車で起こった事について聞いてみる。まあこんな脳筋みたいな白髪青年が知っているとは思えないが…意外にこういう変な子が情報を握っていたりする。多分!
「あー、なんか消えちゃたんだってな?まあよくある事だよ、どうせ誰かが解決してくれるからそう考える事じゃないけど」
「何か御存知なのですか?」
意外にも本当に何かの知っているようだ。今彼が言ったよくある事とはどういう意味だろうか。そして何で誰かが解決すると信じきっているのか…やっぱりこの子はどこか変だ。
「御存知っつーか何と言えばいいか……勿論手口はわかんないよ?でもその消えちゃった人?は何かの重要人物で、その上死んでるだろうな」
まさかだった。まさか彼がそんな言葉を言うとは思っても見なかった。せいぜい悲鳴を聞いたとか、怪しい奴を見ただとかそんなのだと思っていたのに……
『グリッズ伯爵がこの列車に乗っている事は内密にされていた筈……それなのに何で知っているの…?』
いくら8号車が高級思考の部屋ばかりだからと言って、彼の言う重要人物が乗っているとは限らない。それに…何故彼はグリッズ伯爵が死んだと思っているの…?
いやそれよりも……何故確定しているような目をしているの…?
「そう…ですか。貴重なご意見、ありがとうございました。では私はこれで」
「え?ああ…うん?」
目の前の彼が恐くなった。ここまでハッキリと情報を教えてくれた彼がグリッズ伯爵を殺したとは思えない……だけどその目からは確かな異変を感じた。
私はそこから逃げるように立ち去ると、彼は困惑した表情で返事をする。
『何なの彼は…。本当に同じ人間なんだよね…?』
私がこの世界に転生する前に、女神さんから授かったスキル、[悪意検知]には彼は反応しなかった。だから声を掛けたのに、もう1つのスキル、[感情眼]には複数の感情を────いや、複数の存在が検知出来た。
『私があの子を疑う度に、彼の中にいた存在からの敵意が上がっていった……もしあのまま彼を問い詰めていたら…』
どうなるかはわからない……だけどきっとろくな事にはならない。やめよう、この考えはよくない。何かを知っていたとしても、彼に近付くには危険が大き過ぎる。グリッズ伯爵には申し訳ないけど、この事件の解明より私は私の命と仲間の命を優先する。もう前世のように他人の為に身を粉になんかしない。
「ごめんっ!おまたせ!」
そう決め込んだ私は、そのまま8号車内にある部屋へと戻るのであった。
ティアル・アレイストア17歳
アレイストア家の長女であり、金髪ポニーテールの少女。前世での名は佐藤愛莉であり、38歳独身で過労死した女性転生者である。
父は伯爵であり、俗にいう伯爵家の令嬢である。また、女神様から授かったスキルは2つあり、それぞれ[悪意検知]と[感情眼]である。そして愛莉本人の願いと、女神様の好意もあって魔法の才能ありである。
既に彼女の物語は前半を終えており、婚約破棄なんかも解決済み。更にもっとイケメンの新婚約者がいる。相手は勿論公爵様です。




