293話:寝台列車・青星
寝台列車に乗りたい。
──間も無く、列車が発車致します。お乗り遅れにご注意下さい。
駅のホームにアナウンスが響き渡る。場所は精霊国シルフィール内にある駅であり、俺達一行は南行きの列車へと乗車した。
「なあ、ガルシェ帝国ってこの国からだとどれくらいなんだ?」
「そうね。ここからだと…大体3日くらいかしら?」
「ゲェ!?そんなに掛かるのかよ!?」
「ふふっ、知らなかったの?」
俺の反応が面白かったのか、ローザは口に手を当ててクスクスと微笑む。育ちの良さぁ…
「あ、だからこの列車って寝台列車なんだな」
今乗車しているこの列車は以前乗っていた列車とは違い、2階建ての列車になっている。金持ちの席とかかな?と思ったが、そういう事だったんだな。
「ええ、シルフィールはリゾートで有名な国でしょ?だからこの寝台列車・青星は同じリゾート国で有名なアルパパル森林共和国に繋がっているのよ」
「へぇ~そうなんだ、流石は旅行好きのローザ!詳しいな」
得意気に鼻を鳴らすローザを可愛いと思いつつ、俺は寝台列車って夜に出るんじゃないかと疑問に持つ。……あ、まさか…3日間ここに閉じ込められるのか…?ミステリー小説なら殺人事件が起こるヤツやん。まあ異世界でそれはほぼほぼ無いけども。
『てか……寝台列車・青星?それってまるで日本でもありそうな列車だな…』
そう思いつつ列車の中を歩き続けると、予約していたシート改めて部屋へと到着した。あ、やっぱりこういうカプセルホテルみたいな感じなのか。
「じゃあ、一旦荷物を置いたら展望室に行こ」
「あっ!賛成っ!私も気になってたんだよねっ!青星って超大人気の列車だから、予約が取れないって聞いてたしっ!」
ミルの提案に元気に答えたルナ。そんなに人気の列車なのか…そういえば日本でも寝台列車って予約取れないくらい人気って聞いた事あるしな。それはやっぱり世界が変わっても同じなんだな。
それは兎も角、俺らは1度荷物を置くためにそれぞれの部屋へと入る。
「はえ~…思ってたより広いんだな、意外だ」
部屋の中は意外にも広く、シングルのベッド並の広さがある。しかも窓がとてもデカい。今はホームの人から丸見えなので一旦カーテンを閉めると、益々秘密基地感が出て興奮する。男の子だからね、仕方無いね。
□
「アキラ、遅い」
「ったくアイツは…またプラプラ出歩いてるんじゃないだろうな…」
「んー…列車も発車してるし、流石に降りたって事は無い……よねっ?」
「どうかしらね。アキラはそういう事をするわ」
先に展望室へと集まっていたミル達は、中々やって来ないアキラの事を話していた。今までにしでかしてきた事もあり、信用が無いアキラだったが、扉が開かれるとアキラがシアンと手を繋いで展望室へとやって来た。
「遅いわよ」
「すまんすまん、ちょっと本を読むつもりが…」
「遅れた理由が本かよ。似合わねぇー…」
「うっせ!体力ヨワヨワイケメンが!」
「んなっ!お前…!貶すか誉めるかハッキリしろよ!…いややっぱ誉めんな!恥ずかしいだろうが!」
今後の事も考えて本を読んでりゃバカにしやがって…!イケメンだからって許されると思うなよ!?それにしても反応が可愛いじゃねぇか!許せる!!
「まあっ!アキ君も遂に勉学の道に目覚めたのっ!?」
「まぁね。久し振りに勉強したけど、楽しいわ。何より自分がドンドン強くなったり、頭が良くなったりするから達成感もあるしなっ!」
俺はルナに親指から小指へと順番に火を着けては消していくという少し難しい事を見せ付けるようにして話すと、ルナは自分の事のように喜んでくれる。
「その調子で魔力を酷使し続ければ、微量だけど魔力量も上がるから、しっかり継続してねっ!」
「もっちろん!」
ルナとの会話に1度区切りがついた所で、俺は青星の先頭車両である展望室から見られる景色に、俺は吐息を漏らす。
「凄いな…!森を走ってるみたいだ…!」
森の中に造られた高架を走る列車から見られる景色は最高だ。木々の高くより高い場所を列車が走っているので、広大な森林を堪能しつつ雄大な空の景色も楽しめる。最高だな。
「…!」
「えへへっ……」
鳥肌を立てながら景色を眺めていると、突然俺の手を誰かが握る。驚きつつも視線を向けると、そこにはミルがおり、少しだけ恥ずかしそうにして笑顔を浮かべていた。
何この天使……ホントに俺と同じ生き物なのか?いくら美人な精霊、シャルゼさんの娘だからってこれは反則過ぎるだろ…!俺の顔と作画が違うやん!
「あったかい…」
「そうだな」
凄く恥ずかしい筈なのに、何故だか心が休まる……不思議と手だけでなく心まで温かくなっていくのを感じた。
『誰かと手を繋ぐなんて…何十年ぶりだろう』
ルナからの暖かい視線と、呆れるようなソルとローザの視線。その他にも別の乗客からもチラホラ視線を感じるが、今は少しだけ、こうしていたい…そう思いながらミルの手を握った。
□
そしてその日の夜。列車でのディナーは意外にもステーキという豪華で美味しい物が出て、その後に出されたデザートはなんとプリンだった。以前のりんご飴の時も思ったが、やはり日本人が料理や知識を提供しているようだ。一体いつからこの世界には異世界人が来ているんだろうか…
「……おっ、見っけ。やっぱりそうだったか」
「…?どうしたのパパ」
「ううん、何でも無いよ。部屋に戻ろっか」
列車と列車を繋ぐ境目に、列車の名前が記入されている場所を見つけた。そこには予想通り日本の漢字で青星と書かれていた。やはりこの列車も日本人が知恵を出したようだ。電車オタクも異世界に来るんだなぁ…
そんな事を考えながら、俺とシアンは部屋へと戻った。
「ふんふんふん~♪」
「ふふん~ふんふふ~ん♪」
幼児用ブロックで何かを作って遊んでいるシアンと、本のページをパラパラと捲りながら左手から魔法を出す俺。シアンは昔から俺の近くにいたからか、鼻歌を俺と同じように歌っている。こうして見ると、本当に親子みたい…!って思ったのだが、皆からは兄弟にしか見えないと言われた。しかも歳がそんなに離れていない兄弟だと……。悲しいよ、俺は…
「…………っ」
長時間本を読み続けたせいか、少しだけ目が疲れてきた。なので1度本を閉じて、俺の中にいる悪魔達へと声を掛けた。
『なぁ、悪魔を召喚する為の生け贄って何か決まりってあるか?例えば人間じゃなきゃ無理だ、とか』
ここが大事なポイントだ。もし魔物による生け贄でもいいのなら、お金稼ぎも含めて魔物の魂はいくらでも提供するつもりだ。だがもし人間でなくてはならないのなら……傭兵となって戦地に行くしかない。それこそ【転スラ】のリムルのように、兵士達の魂を捧げるしかない。
──基本的に私達は雑食だ。人間だろうな魔物だろうが、悪魔だろうが好んで魂を貪る。だが私達にとって人間の魂というのはご馳走であり、人間の魂が10だとすると、魔物の魂は1程度の価値しかない。だがアキラの考えている事は可能だ。
「成る程な、んじゃ魔物を狩って狩って狩りまくればOKって事だな」
「僕もパパと一緒にまもの狩るーっ!」
無意識で声に出していたようで、シアンが反応してしまった。こんな純粋無垢な少年…いや幼児に汚い事はさせたくないな…
「あはは、ありがとうな、シアン。でもパパも昔と比べて強くなったから1人で平気だよ」
「む~…僕も戦えるのにぃ~…」
「ありがとなーっ!その気持ちだけでパパは嬉しいよっ!本当にありがとう、シアン」
拗ねているシアンがあまりに可愛く、俺は思わずシアンを抱き締めてしまった。ヤバい、これがネットに晒されたらショタ好きのニキネキから糾弾されてしまう…!
だがしかし!バレなきゃ犯罪じゃないんですよ…!そんな言葉もある。ここにはネット環境は無いし、カメラも無い。ガッハハ!勝ったな、シアン撫でまくろ。
「ふぁ~…」
「ん?もう流石に眠いか。ごめんな、付き合わせちゃって。もう寝よっか」
「うん、僕もう寝るぅ…」
シアンが大きなあくびをした所で、俺はそう言って部屋の電気を消した。3日間はこの列車の中で監禁……滞在だし、ゆっくり楽しもう。
そう決めた俺は、うとうととしているシアンの背中を擦りながら、ゆっくりと瞳を閉じた。
列車の名前は青星ですが当然日本に無い列車です。それっぽい名前を素人ながらもつけてみました。因みに、青星はシリウスの和名でもある。




