281話:ゾーン
「神剣絶技・弍の型![須佐之男命]!!」
荒れ狂う暴風かのようにベリタスから放たれた蒼い色をした巨大な竜巻。足に力を込めなければ引きずり込まれてしまう程に強力な風と、辺りの物を容赦なく切断していく暴風の刃が暴れまわる。
「なんちゅー威力…!化け物かよ!…いや“なろう“の主人公達は皆化け物だったな…」
その圧倒的な実力差にそんな言葉を漏らしつつも、俺は竜巻に続くかのように氷の刃を飛ばす。ベリタスの放った竜巻の斬撃で出来た大きな傷を的確に狙った為、今まで以上のダメージを与える事に成功する。
「にしても硬ってぇ…!ベリタスのあんなバカげた斬撃の嵐でも与えられるダメージが僅かとかインフレが過ぎるだろ…!」
だが現段階ではベリタスの攻撃は全てあの怪獣に通用しており、この場いる者全員がベリタスの攻撃によって出来た傷を狙って更なる追い討ちを掛ける事でダメージを稼いでいる。
だから誰かがフラグを立てるような事さえ言わなければこの戦いは案外簡単に終わる可能性が「行けるぜ!!このまま行くぞ!!」……はい、今言った奴詰んだな。
「ギヤァァァァアスッッ!!!!」
「うわああああ!!」
段々と弱ってきた怪獣にトドメでも刺そうとしたのか、4人の屈強な男達がでしゃばる。
まあ詳しく説明するまでもなく、あの4人組は怪獣が放つ熱風によって吹き飛ばされる。あーあ、あの熱風は火傷するぞ。
てかここは某狩猟ゲームじゃないんだから4人で無闇に突っ込んじゃダメだろ。と、異世界人に言っても仕方ない事だ。
「様子がおかしい…!全員アルバナから距離を取るんだ!」
冒険者達へと指揮しているおじさんがそう言うと、冒険者達は一目散にアルバナと呼ばれた怪獣から距離を取る。
俺達一行と兵士達もまた、アルバナの様子が変化した事で一旦距離を取りつつ警戒を怠らない。
「さて…どういった形で変わるのかな?」
俺は攻撃を止めたアルバナを観察しつつ、あの怪獣が変わる形態を予想する。翼が生えるのか、はたまた別の生き物へと変わるのか……異世界では地球の生物としての常識が全く言っていい程通用しないから気が気じゃない。
「ギイィィ─────ゴオオオオオッッ!!!!」
全身の鱗の隙間を蒼く発行させたアルバナは、空に向けて大きな蒼いレーザーを放つと、全身を覆っていた黒い鱗が全て弾け飛ぶ。
鱗1枚1枚が鋭く大きな刃のようであり、全方向に無差別はかなり殺意を感じる構造だ。
「あっぶねぇ…!……うわ、あれが第2形態かよ…ッ!」
間一髪の所で鱗の刃を回避した俺は、改めてアルバナへと視線を向けると、全身に鳥肌が立つ。
全身の鱗が剥がれた事で、防御力は愕然と落ちただろう。だがその反面、アルバナの全身に血管のように流れる蒼い溶岩が凄まじい熱を放つ。その熱はここが“氷のエリア“だと忘れてしまう程に、太陽の下で熱しられているように感じる。
「ヤバい…!なんだこの熱…!これは死ぬ温度だぞ…!?」
頭がクラクラしてくる。足元もフラフラ。それに思考力も落ちてきている。ヤバい、これはマジでヤバいやつだぞ…!
「ひょ…[氷冠]ッ…!」
正気を保っていられる内に、俺は細剣を振るって氷の塊を生み出す。その生み出した氷の塊さえも、僅か数十秒もしない内に溶けていく。
「ヤバ………………意識、が………っ」
足に力が入らず、後ろへと引っ張られるかのように倒れてしまう。
「アキラ…!くっ……ここは不味い…!」
だがミルは俺を右肩で受け止め、そして慣れた手付きでそのまま俺を担ぎ上げた。
もう何度これをミルにされただろうか。本当ミルみたいな細い体のどこに筋肉隠してるんだろう……内臓か?
□
「助かった……ありがとうミル」
「ん…アキラか無事でよかった」
そう言ってニコっと笑みを浮かべるミル。凄いよな、彼女。ついさっきまで俺を担いでアルバナの熱が届かない距離まで移動したばかりなんだぜ?マジミルって超人だわ。
「ルナとローザは大丈夫だろうか……いまだアルバナがいた場所から爆音が聞こえているからベリタスが抑えてるんだろうが…」
ルナやローザは勿論、他の兵士達や冒険者達も心配だ。異世界ってのはモブにとことん厳しいからな、どうか生きている事を俺には願うしか出来ない。
「どうしよう……あのアルバナの呼ばれてた魔物、ボク達とトコトン相性が悪い…」
「だな…」
第1形態の鱗による絶対防御は俺達の剣術を殺し、次の第2形態では意識を奪うレベルの放熱により、俺とミルが得意とする[終雪]全般の能力を殺された。
「あれじゃとても近付けない…」
「俺の弓ならもしかしたら通用するかもだが……もう魔力が無い…」
障壁を破壊されてから、なんとか抑える事に夢中になっていた俺はリングの魔力を大量に消費して[一撃必射]を放っていた。その為、もうリングは勿論、体内の魔力もろくに残ってはいなかった。
ならばどうする…無茶でも魔力回復ポーションを飲み続けるか…?
「アキラ…?何を……」
「無茶かもしれない…無謀かもしれない……だけどやっぱりこのまま何もしないのは絶対に嫌なんだ…!」
そう言いながら近くにある武器屋へと入った俺は、貨幣を店に置いて矢を樽ごと外へと運ぶ。
そして矢を無造作に掴み、左腕を弓へと変化させて狙いを定める。
「集中しろ……[一撃必射]…[変則射撃]……────貫けッ…!」
放たれた1本の矢が、街の建物を回避してアルバナがいる方向へと進んでいく。
街にある矢は[生成矢]で造られた矢よりも脆く弱い。
ならば数で勝負する。
──正気か、アキラよ。その数の矢を全て[一撃必射]で撃ち抜くつもりか?いくらなんでもそれは不可能だ。それにアキラの精神面でもよろしくない。やめておくんだ。
「俺は正気だよ、バルバトス…………無茶でもなんでもやるんだよ…!俺は諦めが悪い男でね!このままベリタスだけにいい所を譲るつもりなんかないんだよッ!!」
バルバトスの制止も聞かず、俺は樽に入った矢を次々と[一撃必射]と[変則射撃]の平行で放ち続ける。
「…………」
極度の集中状態に入ったからだろうか。周りの音が聞こえない。そして段々と周りの景色が白に染まっていく。見えているのはアルバナがいる方面だけ……
『心臓がうるせぇ…』
自身の心拍音を聞きながら、集中を切らす事なく確実に矢を放つ。何度も、何度も……
『あ…?……なんだこれ…』
やがて完全に眼には何も映らなくなる。何も見えない、何も感じない……
だけど………見える。
アイツの……アルバナの姿がくっきりと見える……まるでサーモグラフィーや暗視スコープかのようだ。
『あ…れ……?なんだ…………?アルバナがふらついている…?────いやこれは……俺がふらついているのか…?』
なんだ…この嫌な感じは……本能的に感じる。これは死ぬ。死んでしまう。
ヤバい。早く集中を解かないと…………あれ…?どうやって集中を解くんだっけ…?
「────!!」
「ッ!!?」
頬に痛みが走った。
それと同時に白かった視界に色が戻る。
「アキラ…!?まだ意識が戻らないの…?くっ…ならもう1回…!」
「え?」
バチンッ!!
「イッッテェェ!!」
「あ…戻った…良かった……」
最初の痛みはミルによるものだったらしい……しかもまだ俺が意識が戻ってないと思ったのか、2発目のビンタをされてしまった……
だけどそのお陰で俺は意識を取り戻せた。
「ありがとう……ミル。マジでヤバかった…」
「目や鼻、耳から血を出したから心配した……意識が戻って本当に良かった…!」
マジかと思い触れてみると、ミルの言った通り目や鼻などから血を微量ながら出ている。
それすらも分からなかった…
──馬鹿者が…!過度に私の能力を使用し過ぎだ!いくら悪魔に耐性があろうと、使用し続ければアキラの精神を蝕むのだぞ!
『ごめん、バルバトス……焦りすぎてたよ…あはは…ほんっと昔から変わらない悪い癖だよ…』
心で乾いた笑いをしつつ、矢が入っていた樽を見るとそこにはもう矢が1本も無かった。
どうやら極度の集中化で矢を全て放ちきったようだ。
「これで向こうで少しは役に立てたかな……」
「ん、立てたよ。こんなに身を削ったんだもん…きっとね」
「あはは、なら良かったかな」
ミルに支えられながら空を見上げて小さく笑ったアキラ。主人公のようた凄い活躍ではなかったが、自分らしく出来たのではないかと少しだけ複雑な笑みで笑う。
「おーい!アキラ!!」
「ん…?ソル?」
血で汚れた顔を拭いていると、向こうからソルが手を振りながら走ってくるのが見えた。ここからでも分かるくらい汚れており、頬などは黒い汚れがある。
「待たせた!ほら、完成したぞ!僕の今までの作品で最高傑作と誇れる自慢の魔道具だ!」
得意気にそう言いながら、ソルは背中に背負っていた大きな黒い物体を地面に置いた。
その黒い物体はまるで銃……いやスナイパーライフルのようだ。だが現代にあるような物ではなく、近未来の武器のような形状をしている。
「レールガンの仕組みを応用しつつ、火力を上げた超遠距離用銃だ。僕の考えではあの魔物の鱗さえも容易く貫通するだろう」
「凄い…!凄いよソル!」
「こんな短時間でそんな物を造るなんて……」
サイバー感のあるスナイパーライフルに興奮している俺とは違い、ミルは冷静にこの短時間でこの銃を造り上げたソルに驚く。
「名前は!?名前はなんて言うんだ!?」
「え…ああ…名前か、決めてなかったな。…ならコイツの名前は“ペネトレイト“だ」
「おお…!横文字だ!意味分かんないけどッ!」
よく分からない単語だが、まあ意味はあるんだろう、ソルの事だし。
そして俺はソルが造った近未来型スナイパーライフル・通称ペネトレイトを構える。
「狙撃銃なんか撃った事無いが……ソルの思い、無駄にはしないぜ!」
そして俺はトリガーを引き、耳の痛む爆発音と共に銃弾を発射した。
その弾丸は蒼いプラズマの残留を残し、アルバナがいる方向へと突き進んだ。




