276話:約束の代償
遅刻した!
「最終日になりましたか…ふふ、彼はどうやって危険指定植物を倒すのでしょう」
太陽が上り、アキラとシャルゼが密かに約束していた時間は残り1日。今日中に討伐出来なければ、2人の間に交わした約束は全て無くなる。
『彼からは悪い瘴気は感じられない。それはつまり、現状彼は悪魔を宿していないという事……禁じられた“七つの大罪“の力無しで、どう勝つのか…見ものですね』
約束を交わしたシャルゼは、正直な所彼では勝てないと思っている。どう考えても手が届く魔物ではないからだ。
『だけどあの時…私に頭を下げた彼の瞳は、確かなモノを感じさせた。娘が好意を寄せている殿方というのを差し引いても……ふふっ、どうやら私は彼に興味があるらしい』
1人静かに微笑んだシャルゼは、再度書類へと目を通そうとしたそんな時だった。
部屋の扉が開かれ、城を守る警備兵の隊長がやって来た。
「失礼します、シャルゼ様。テンダキ・メイセイ様がお見みになりました」
「…!すぐにお通ししてください」
「畏まりました」
テンダキ・メイセイとは、この国で彼が名乗っている偽名だ。本名は世界中から名を知られている為、そう隠している。同名というだけで、敵意を向ける者も少なからずいるからだ。
そして警備隊長が出ていってから暫くすると、ローブを深く被った人物が部屋へと入室してくる。以前とは随分と服装が違うが、彼がテンドウ・アキラだ。
「随分と早いですね。もしや倒せないとふんで条件を変えに来ましたか?」
「………」
クスクスと笑いながら、少しからかうようにそう言うと、彼は反応を示さずに腰に着けているバックを漁り始める。
そして、、
「…!!それは…アル・セルベリウスの花…!まさか本当に1人で倒したと言うのですか!?」
彼がバックから出したのは紛れもない本物のアル・セルベリウスの紅い花。
まさか本当に彼はこの1週間、それも1日残して倒したというのか…!?たった1人で?種族間では弱いとされる人間族が…?
「いったいどうやって…!」
「……約束は果たした。今度はシャルゼさん、貴女の番です」
彼はそれだけ言うと、私の前にアル・セルベリウスの花を置いて部屋から出ていこうとする。
「待ってください、アキラさん。どうやって倒したのか…それは後々聞くとしましょう。ですが今は……そのローブを脱いでもらえませんか?」
「………何故です?」
「取らなければこの話は無効としますよ」
「…………」
私の言葉に長い沈黙を続けたアキラさんは、小さく吐息を吐くと、言われた通りローブを脱いだ。
「…っ!」
「これで満足ですか?」
ローブを脱いだアキラさんは、視線を下に向けながらそう小さく呟く。
まず目に入ったのは痛々しく赤く腫れた顔。所々黄色い水膨れもあり、それは言うまでもなく火傷だった。それもまだ新しく出来たばかりの……
「いったい…何があったと言うんですか…!」
「……弱さと討伐の代償、ですかね。弱い俺には自分の全身を薪にして特攻するしか方法がありませんでしたから…」
「そんな方法でっ…!貴方という人は怖くないのですか!?全身を炎で焼かれる苦痛、死んでもおかしくない状況に恐怖はないのですかっ!?」
「怖くないと言えば嘘になります。でも…絶対にローザを助けるって決めたので。そう簡単には折れませんよ」
バカだ。この人はバカだ。
見方によっては狂ってるとも取れるその言葉。そしてあの瞳、彼は本気でそう思っている。何がそこまで彼を動かすのかは分からない。
「……もし、アキラさんのその火傷と、ローザさんの傷…どちらかしか倒せないと私が言ったらどうします?」
「ははっ、愚問ですね。即決でローザに決まってるじゃないですか」
なんて事ない、当たり前だと言わんばかりの笑みでそう言い切った彼は、最後に私に頭を下げると、、
「精霊族の秘薬の件…頼みましたよ、シャルゼさん」
そう言って彼は部屋から退出した。
「頭のおかしい人と言ってしまえばそれまでですが、とても不思議な人…自然と彼の事が気になってしまう…」
彼は自分の事よりも、他人の為に命を張る。しかと当然だと言わんばかりに。
元より本気で彼にアル・セルベリウスを倒させるつもりは無かったというの……完敗だ、私は彼を見くびっていたようだ。
「彼のあの瞳に笑顔と明るさ……ミルにとっては彼と接する何もかもが初めての事だったんでしょうね」
幼い頃から剣を握っていたミル。当然接する者もそういった人物ばかりになるし、同年代と遊ぶ事は愚か、話す事さえしなかった。
そんなミルの前に現れたまったく知らない人種…。ミルがここにやって来た日、何故あんなに可愛らしい笑みを浮かべていたのか理解する。全部彼だ、彼の仕業だ。きっとアキラさんがミルの手を引いてくれたんだろう。
「……そりゃ好きになっちゃうよなぁ~!はぁ…」
椅子に深く凭れ掛かったシャルゼは、顔に手を当てて溜め息を吐くと、天井を見つめて静かに決心した。
「よしっ、可愛い娘の為だ!お母さん頑張っちゃうよ!」
ぞいっ!とやる気を満たしたシャルゼ。
「フリードを説得して、アキラさん……いいえ、アキラくんを婿入りさせないとねっ!」
そんな爆弾発言じみた事を呟いたシャルゼは、改めて残った仕事を片付ける為に精を出すのだった。
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アキラが突如いなくなってから1日が経った。何度か同じようにいなくなった事はあったが、その度に何かしら危ない目に合うか、変な所に足を突っ込んで帰ってくるアキラ。
「もう…!どこに行ったのよ…!」
ミル、ルナ、ソル、そしてローザはそれぞれ別々に別れて精霊国シルフィールを捜索したがやはり見つからないアキラに、ローザはイライラを募らせていた。
そんなイライラを抑えつつ、アキラがいそうは場所を探すローザは、もしやと思いミルの母のいる城にある巨大書庫へ出向いていた。
が、結果は空振り。ますますローザの怒りを募らせるだけであった。
「やはりアキラにはキツいお説教が必要みたいね…!」
巨大書庫から出たローザは、城の長い廊下を歩きながらそうブツブツと呟く。
『いったい…何があったと言うんですか…!』
そんな時だった。
大きな扉の前を通り過ぎようとした時、部屋の中から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「確かシャルゼさんの声…よね?何かあったのかしら?」
少しの休憩がてら、壁に寄り掛かりながら聞き耳を立てるローザ。
すると中からアキラの声が聞こえてくる。
『……弱さと討伐の代償、ですかね。弱い俺には自分の全身を薪にして特攻するしか方法がありませんでしたから…』
何故アキラがここに?
予想以上に近くにいたアキラに、ローザは溜め息を吐きながら静かにその場に待機した。部屋から出てきた瞬間即連行出来るようにだ。
『そんな方法でっ…!貴方という人は怖くないのですか!?全身を炎で焼かれる苦痛、死んでもおかしくない状況に恐怖はないのですかっ!?』
『怖くないと言えば嘘になります。でも…絶対にローザを助けるって決めたので。そう簡単には折れませんよ』
「え…?」
何で私の名前が出てくるのか理解が出来ないローザは声に出して驚く。
途中から聞いた為、いまいち話の内容が掴めないローザはもう少し聞き耳を立てる事にした。
『……もし、アキラさんのその火傷と、ローザさんの傷…どちらかしか治せないと私が言ったらどうします?』
ここで段々と理解してきたローザは、自身の腕に出来た傷をドレスの上から優しく撫でる。
まさかアキラはシャルゼさんと何か約束をしたのだろうか……その過程でアキラは怪我をした…?
『ははっ、愚問ですね。即決でローザに決まってるじゃないですか』
何故?まだ理解しきれていないものの、ローザが必死に思考しているとアキラは少し笑いながらそんな気恥ずかしい事を言った。
「バカっ…!」
まだ話の中心では分からないものの、アキラは自分の怪我より私の傷を優先させた。
本当にバカな人だ。
だけど、なんでだろう…
「少しだけ…ほんの少しだけ嬉しい……」
柄にもない言葉が出たローザは、首を横に何度も振ってその言葉を取り消すかのようにする。
『精霊族エレメントの秘薬の件…頼みましたよ、シャルゼさん』
「…!やっぱり……アキラはその為に…っ」
どうやら話は精霊族の秘薬を貰えるかどうかの話だったようで、アキラとシャルゼさんは何かの賭けをしていたんだろう。
だけどその過程で怪我をした……それもシャルゼさんが大声を上げるくらいの…
「本当にバカなんだからっ…」
罪悪感と幸福感が心の中で混ざり合う。
ローザはポツリとそう言葉を溢すと、ほんの少しだけ口角を上げて胸へと手を当てる。
「…!」
よく分からない感情に困っていると、扉に向かって中から足音が聞こえてくる。
別に隠れる理由なんてないが、無意識にローザは柱の影へと隠れてしまった。
それは緩んでいる表情を見られたくないのか、はたまた別の理由か……これは本人でも分からない。
ちゃっかり生きてるアキラ君。
※気絶したアキラを、ベリトの[人操糸]で池へと連れていった後に冷却されました。
ホンマお前悪魔達に感謝しろよぉ?




