274話:アル・セルベリウス討伐戦 前編
ブックマークが嬉しい。
感想が来ましたが怖い&緊張(笑)
「ギィィィエエエエェェェェエッッッ!!」
「ああああああッ!!」
この世のモノとは思えない咆哮を上げたアル・セルベリウスに返すかのように、アキラもまた全力で喉を開いて叫びながら細剣片手に走り出す。
「[霧雪]ッ!!────[流氷]ッ!!」
アル・セルベリウスの背中から無数に展開された太い蔓を[霧雪]の高速突きで打ち殺し、そのまま蔓を[流氷]で流れるように切断。
『切断された場所が再生されるまで約10秒……予想以上に速い…!』
「ギィィイィィアアアアア!!!!」
「ッ!!」
相手の再生能力を確認しつつ、アル・セルベリウスの弱点と言われている花に向かって[氷月刃]を飛ばそうとしたが、奴は耳を塞ぎたくなるような絶叫と共に無数の蔓を地面に突き刺す。
事前に本を読んでいた事で、奴が何をしようとしているのか分かった俺は、後方へと高速でバク転しながら回避&距離を取る。
「攻撃速度も速く、その上あの蔓…攻撃手数がヤバイな…!」
だがその素早い攻撃と手数とは裏腹に、アル・セルベリウスはその場から動くことがない。ここに来る事を考えるに、動けないという訳ではない筈……向こうもまだこちらの様子を見ているって事か。
「獲物として見ていても、油断はしないって訳か……へっ、んな事してねえで掛かって来いってんだ。─────じゃなきゃ、後悔するぜ?」
地面に細剣を突き刺した俺は、事前に購入していたヒップバックから試験管に入った薬品数本取り出す。
それは可燃性の薬品であり、空気に触れた瞬間発火するという危険薬品。持って動くだけでも怖い物だが、これがこの戦いのキーアイテムとなってくれると考え用意していた。
「俺からのお熱いプレゼントだ。勿論受け取ってくれるなぁッ!!」
指の間に挟む事で、カッコよさを演出しつつ投げた合計6本の試験管。
アル・セルベリウスは警戒をしつつ、花に試験管が当たらぬように蔓で触れた瞬間、中に入っていた液体が付着すると同時に激しく燃え上がる。
「ギィィィィィイイィイイイ!!??」
6本の試験管に入る液体に触れた事で、爆発のような熱と炎がアル・セルベリウスを包み込む。奴は全身が蔓で包まれた危険規定植物にはまさに大ダメージの1撃。
だが当然これで終わるだなんて微塵も思っていない。何故ならこの世界はこんな薬品に頼らなくても、これより火力のある魔法があるからだ。
『花だ…!花さえ切れば奴が支配している竜との繋がりが切れる…!』
不気味な紅い花が本体だと言われているアル・セルベリウス。ならば真っ正面から奴をねじ伏せる必要はない。そこを狙えばいいのだ。
「ベリト!!俺の体を動かせ!多少ぶっ壊れる程度なら構わない!!」
──あっはは!たのしいたのしい戦いだぁ!しかもアイボウ君からのお願いっ!くぅ~!!サイコウだよぉ~!
ベリトの声と共に四肢にまとわりつく白い糸が俺の体を強制的に動かす。
自分では曲げられない角度に関節を曲げる事で、予想だにしない回避方法が取れるメリットがある。だが反面関節を外すような事をすれば、言うまでもなく全身に意識が飛ぶような痛みが永続的に続く。
だが何より、頭で思考しないで動けるのがこの[人操糸]のメリット。つまり、擬似的に2つの事を同時に出来るようになる。本来の用途とは違うとベリトは言っていたが、俺にはこの能力はこうして使うと輝くと考えている。
「─────おっしゃ!!詠唱完了!ベリト、合わせてくれよ!!」
──よぉ~しっ!ぼく頑張るから後で誉めてよね!
ベリトに体の操作を全て任せ、俺はその間に脳内で詠唱を終わらせる。前回のベリタスとの戦いの際のデメリットをこれでカバー。
だが今回[火球]は手からじゃない。何故なら奴には焼け石に水だからだ。ならばなんのために詠唱をしたのか、、
「サンキューベリト!!後は任せろ!───どらあああああッ!!」
ベリトから体の支配権を渡してもらい、俺は詠唱を終わらせた[火球]魔法を背中から放つ。
[火球]の威力によって加速し、アル・セルベリウスの花へと一気に接近する。ベタな展開ではあるが、それだけこの方法での加速は速いという事だ。
「お前にどんな危険な技があろうが、それを出させる前に終わらせればいいだけの話だ!!」
地面から次々と生える蔓を回避しつつ、無理なのは切るか、蹴る事で更に加速して花へと近付いていく。
「貰ったッ!!─────!!?」
完全に捉えた。そう思いその威力のままに細剣を振るったその時だった。
突如俺の体は後ろへと引っ張られ、受け身を取る事も出来ずに地面に転がる。
「ッ……なんで止めた!ベリト!」
──絶好のチャンス、だったんだけどねぇ……そう上手くいかせてくれないんなんてヒッドイよねぇ~…あんなの初見殺しじゃん。
──奴の花を見ろ、アキラ。あのまま突っ込んでいれば捕食されていたぞ。
俺の体を後ろへと引っ張ったのはベリトの[人操糸]だった。
そして『ちぇっ』と悔しがるベリトと、何故止めたのかを説明するバルバトス。俺は言われた通り、奴の花へともう1度視線を向けると奴の花はまるで食虫植物のように鋭い歯で閉じていた。
「あんなの本には…!くっ…!作戦変更だ!」
俺はヒップバックから煙幕を取り出し、そのまま煙に紛れて森へと入り、[気配遮断]を使用する。
□
「ギィィィィィイイィイイイッ!!」
獲物がいなくなった事で、怒るかのようにその大きな蔓で辺りの森を破壊するアル・セルベリウス。その間に森へと入り、[気配遮断]のスキルで完全に存在を断った俺は、ヒップバックを漁りながら次なる作戦を立てる。
「花が閉じるだなんて本には書かれていなかった…!くそ…!リサーチ不足だ…!」
そう呟きながらも、バックに入った物を漁る。先程の試験管に入った薬品は残り6本。煙幕が5に、回復ポーションが3本、そして魔力回復ポーションが3本。足には投げナイフが両足に計12本。基本装備の細剣が1本に、ソルから渡されたレールガンが2丁に替えのマガジンが4個。そして本に書かれていたアル・セルベリウスの弱点が記入されたお手製のメモ。
「軽量化の為に、あまり物資は持っていない……それならいっそ、ここから矢で花を狙撃すれば勝機はあるか…?」
──いや、やめておけ。アキラの魔力は矢を作るには少な過ぎる。そのリングに魔力は入っているが、それもやがて限界が来る。未だ[変則射撃]が完全に制御出来ないアキラでは奴に居場所を教えるだけだ。
──だからと言って、ぼくのスキルでは力にれないし……くぅー!こんな時もっとぼくに戦闘向きの力があれば!
「2人ともすまない…俺が弱いばかりに、本当に死ななければ奴から花を奪えそうにない。…いや、死んでも奴に勝てるかどうか…」
──ククッ…何を言っている、私はお前を認めたのだぞ?そんな弱気でどうする。
──そうそう、ぼくもアイボウ君に懸けてるんだゼ?そんな弱気な事言ってないでさ、作戦でも考えようよ!アイボウ君は1人じゃないんだからさっ?
「そう…だよな。うん…!よっしゃ!やってやる!!」
力強く頬を叩いたアキラは気合いを入れ直すと、気配を消しながらゆっくりと思考を開始した。
「前夜から始めた戦いだ、まだまだ時間はある…」
事前に考えていた作戦は複数ある。
例えば寄生体本体を全て燃やせばどうだとか、逆に栄養を吸い続けている寄生元である竜を破壊すればどうだとか……だが先程の戦いでの理解する。どれもこれも今の俺の強さではとても現実的じゃない。
『奴は植物だから疲れはない筈……だがあの花はまるで食虫植物のハエトリソウだ。ハエトリソウと同じなら、あの花を閉じるにはかなりの栄養がいる…筈だ』
本来アル・セルベリウスが竜に寄生する理由は、高い生命力を持つ種族だからだ。例え死のうが、死体から栄養を吸い続けられるのが最大の理由。
ならその竜から栄養が吸いとれなくなるまで攻撃し続ければどうだろうか。奴は蔓を複数展開する事も、10秒で終わる再生も出来なくなるのではないだろうか。
「生憎俺は痛いのも辛いのも我慢する事だけなら自信がある…!上等だよ…!化け物じみた能力祭りのAランク魔物だろうがぶっ殺してやる!」
不敵に笑いながら立ち上がったアキラは自身の左手首を[部位変化]によって上下に2枚の刃を展開し、そこに[人操糸]で弦を張る。それはベリタスとの戦いの際に披露した自分だけのオリジナル技。
「まだまだ夜は長い。俺と根比べしようぜ?────アル・セルベリウス!!宣戦布告だッ!!」
弓に5本の矢を重ねたアキラはそれをアル・セルベリウスへと向けて放つ。
そしてその矢は完全に気配を断っていた事で完全に不意打ちが決まり、5ヶ所から一気に炎上する。矢を放つ前に、矢じりには自身の魔法で火をつけている。これで防がれようが、効果は絶大だ。
「ギィィィィィイ…!!」
「さあて…!第2ラウンドの始まりだ!!」
なろう太郎こと、コウキ君にはアル・セルベリウスは相性抜群の相手です。
…まぁこの世界の“なろう“系主人公なら余裕で勝てる相手なんですがね。もう既にベリタス君は危険規定の魔物をかなり序盤の方で倒してますし。所謂噛ませみたいな魔物達です、危険規定は。
アキラ君には違うようですがね…




