270話:君の為に頑張る
最近1日おきになってる…ヤバイな…
「…!急がないと…っ」
目が覚めたらまたしても宿。確か俺は…ミルと3日間にも及ぶ稽古をしていたんだったな。
しかしこうして毎回ベッドスタートだと死に戻りしてるみたいで気が気じゃないな…
「ちょっと待ちなさい」
「おわっと…ローザか、どうした?」
いつも通り頭なろうにしながら着替えを終えた俺は、素早く次の目的を果たす為に部屋から出る。するとローザが外の廊下で待機していた。なにやら怒っているようにも見えるが…
「また危ない事をするんじゃないでしょうね?」
「あ…いや……」
「3日間もいなくなったと思った矢先、ミルに担がれて帰ってくるし……どれだけ私に心配を掛けさせれば気がすむのかしら?」
「言葉もありません…」
正論過ぎて何も言えねえ…!
だが俺に残された時間は後3日間。今さっきまで寝ていた為、既に時刻は夕刻。今からまた原生林に向かうのは危ないか…?
「───そもそも貴方は自分の命を粗末にし過ぎるのよ。……話聞いてるかしら?」
「あ、はい」
「兎に角、今日は外出禁止!いいわね?」
「…はーい」
「伸ばさない」
「はいっ!」
伸ばした返事を訂正させるって…ローザは母親かよ。なんか会話も母親と息子のやり取りみたいになってるし…そうなると俺が息子…?えぇ…(困惑)
□
「ソル、頼んでた魔道具って完成してるか?」
「あ、ああ…もうとっくに完成してる。ほら、お前の腕にもう着いてるだろ?」
「あっホントだ」
「もう1つ予備も作っといたから片方の腕に着けな」
ローザからの外出禁止令が出たので、ならばと室内で出来る事をする。与えられたこの1週間に休みなど存在しない。
「な、なぁ…聞いていいか?」
「んー?なんだー?」
ソルとルナを意識するような金と銀のブレスレットをウキウキしながら眺めていると、ソルは小さな声で語り掛けてくる。その表情はどこか怯えているような気がする。
「何で…ローザがいるんだ?」
「あー…」
扉の横に凭れながら此方をジト目で見ているローザ。そうか、ソルが怯えているのはアレが原因か。確かに怖いよね。
「監視だってさ。俺がまたどっかに行かないように」
「そうか。それならまぁ……仕方ないか」
おい
「ま、兎に角ブレスレットありがとうなっ!」
「いいさこれくらい。あ、そうそう、そのブレスレットに魔力を籠めないと意味無いから気を付けろよ?」
「おう!サンキューな!」
俺はソルにお礼を言いながら大金貨を投げると、ソルは慌てながらそれを受け取った。
…あ、落とした。
□
ソルの泊まる部屋から出た後、次に向かうのはルナの部屋だ。渡されたこのブレスレットにはまだ魔力が籠められていないから、膨大な魔力を持つルナに頼みに行くのだ。
「…ねぇ」
「ん?何?」
俺の後ろを付いて歩くローザが唐突に声を掛ける。静かに監視していると思ったのだがどうしたんだろう。
「何で…そんなに焦ってるの?いつもアキラは強くなろうとしているけど…ここ最近は特におかしいわ。ソルに魔道具まで頼んで…一体どうしたと言うの?」
「…別に?ほら、俺ってもう1人の俺に全部力を取られただろ?力だけならまだしも、心の強さまで持ってかれたからな……心機一転って言うかさ、自分を変えたいなって思っただけだよ」
「そう……なら…いいけど」
「あはは、何でローザがそんな悲しい顔すんだよ。別に悲しい話じゃなかっただろ?」
「そうだけど…!……貴方には無理をして欲しくないのよ…」
無理をして欲しくない、か…
ローザの言葉はとても嬉しいし暖かい。けど俺は無理をしてでもやらなければ皆に追い付けない。俺にはそれだけしかないのだから…
「ありがとうな、ローザ。その言葉だけで十分嬉しいよ」
悟られぬように笑いながらそう言ったものの、ローザの表情は未だに悲しげだ。
俺なんかでそんなに思い詰めるのはローザに悪い。早くこの一件を片付けて、もっともっと強くなってローザや皆を安心させられるようにしないと。
□
「あっ、来た来たっ!待ってたよぉ~!ソルが作った魔道具に魔力を注げばいいんでしょっ?まっかせてよ!」
「話が早くて助かるよ」
ローザとのやり取りの後、目的通りルナの泊まる部屋へと到着。そして入って早々ルナは俺の持つリングを手に取り、なにやら体操のような事を始めだした。
「んんんん~っ!」
「おー…なんか凄い?」
魔力が皆無に等しい俺にはよく分からないが、ルナからはなんかオーラ?的なのが漏れ出ている。その漏れてるオーラを上手く操作して、それをリングに入れていくルナ。なんか凄い…!
「はいっ!これでリングに私の魔力がたっぷりと入ったよ!これでアキラ君も魔法が使えるねっ!」
「ああ!ありがとう、ルナ。早速魔導書を読んで勉強してくるわ」
「そんな事しなくても私が直々に教えてあげるわよっ!」
お、それはありがたいな。魔力を注いで貰うだけでも悪いと思ってたから、これ以上ルナの手を煩わせる訳にはって思ってたんだが…うん、ここはルナの言葉に甘えるとしよう。
「いいえ、その必要は無いわ。私がアキラに教えるから」
え?
「あら、ローザが?」
「ええ。ルナは魔力を注いで疲れたでしょうから、私がアキラの面倒を見るわ」
面倒って…
「ふふっ、ならローザに任せちゃおうかな?」
「任せなさい。アキラの事はしっかり面倒を見るから」
□
「なぁ…酷いじゃないかローザ!」
宿の3階に作られたカフェにて魔導書と共に勉強をする俺はローザに物申す!
「あら、何か酷い事を言ったからしら?目を離すとすぐにいなくなる貴方の事よ?」
「ぐぬぬっ…!」
小さく鼻で笑ったローザは、さも当然だと言わんばかりにそう言った。
そう言われると確かに…面倒を見るってのあってるのかも……あっ、ぐうの音も出ないや…
「そんな事はどうでもいいわ。早く始めましょう」
「そんな事って……まあいいか。頼むぜ、ローザ」
「任せない。私が面倒を見る以上、アキラが魔法を使えるようにするわ」
そこから魔導書を教科書のようにしながら読み進め、分からない所はローザに質問する。それの繰り返しで魔導書を読み進めていく。
「指先に一定の火力で火を保つには、安定した魔力を注ぎ続ける…か。うーむ…書いてある事は単純なんだがなぁ…」
昔使っていた[火花]じゃ習得してもなんの意味も無いしな。折角ならそれよりも少しだけ難しい魔法を覚えたい。
「んー……ん?このリング…もしかして…」
リングの中央が回転する事に気が付いた俺は、もしやと思いいじくってみると、指から出る火の勢いが上がった。予想通り、どうやらこれは内蔵されている魔力の放出量を調節出来るようだ。
「すげぇなソル…こんな細かいギミックとか匠過ぎんだろ……いやはや感服だな」
「……ねぇ、アキラ」
「え?何?」
ソルが作った魔道具の作り具合に驚いていると、唐突にローザが声を掛けてきた。どうしたんだろうか、今さっきまで静かにコーヒー飲んでたのに。
「なんでそんなに頑張れるの?ハッキリ言って貴方には魔法の才能は無い……なのにどうしてそのまで頑張れるの?」
「なんだよ藪から棒に……んー、まあ確かに俺に才能が無いのは分かってるさ。でもさ、やっぱり憧れってのに背中を押されるんだよ。どうしても魔法を使えるようになりたいんだ。ガキの頃からの夢だったしさ」
それに火魔法が使えるようにならなければ、捕食竜アル・セリベリウスを倒すのは困難になる。
つまる所ローザの為に今頑張ってます!……なんて恥ずかしすぎて言えねぇよ。こういうのは男が黙って頑張るからいいんだよ。
「ふふっ、そう。なら頑張りなさい。私も応援してあげるから」
「おうよっ!ありがとな!」
応援してあげる、か。
なんかそういうのいいな……その言葉だけでも頑張れる気がしてくる。
「…ローザ」
「…?なによ、そんな真剣な顔して…」
「俺…頑張るからな」
「だから応援してるってば、頑張りなさい。ほら、手が止まってるわよ」
絶対にアル・セリベリウスを討伐し、ローザの為に花を持ち帰る。今まで以上に深く心に刻み込み、俺はローザに言われた通り魔法を再開する。
その後俺はローザの指導の元、カフェの営業時間が許す限り魔法の稽古を続けた。
──残された時間は後2日
仕事の都合上、明日投稿出来ない可能性大です……すいません、筆弱作者で…




